TeamHackersをお読みの皆さん、こんにちは。ニュージーランドで働くプログラマの「はっしー」です。
前回の記事では、ニュージーランド留学に向けて行った準備と英語学習についてお話しました。
参考記事:社畜男はニュージーランドを目指した。きっかけとそのためした行動
大学留学に必要な英語スコアを獲得した僕は、クライストチャーチ郊外にあるリンカーン大学で1年間ソフトウェア工学を学ぶことになります。
日本を離れたときの年齢は28歳。30歳を手前にして大企業を辞め、人生二度目の大学生生活。新たな土地での生活を始める期待と不安を胸に、僕はクライストチャーチ国際空港に降り立ちました。外経験がほとんどないとはいえそれなりに英語は勉強したわけですし、自分の語学力には少なからず自信がありました。
しかしその自信は、早々に打ち砕かれることになります。ニュージーランドでの学生生活は、僕が思っている以上に厳しいものでした。
今回は、
- ニュージーランドで直面した英語の壁
- 授業で好成績を取るために何をしたか
- 社会人から大学に再入学するメリット
についてお話していきます。
自信を喪失したニュージーランド英語の洗礼
空港の到着ゲートを抜けてすぐのところに、僕を学生寮まで送り届けるため、大学の手配したタクシードライバーが待ってくれていました。
身長175cmほど、ずんぐりした体型に半袖短パン。赤みがかった肌にりっぱなアゴヒゲと腕毛とスネ毛をたくわえた中年男性。このドライバーの英語がとんでもなくきついニュージーランド訛りだったんです。
空港の駐車場から出ようとするとき、彼は車を停めて僕にこう言いました。
「アーイパーイへーァ!」
……は?えっと、今なんて言ったんですかね……戸惑っていると、ドライバーは車を降りて精算機に向かって行きます。
ああああ!「I pay here」だ!!!
えっ、こんなにわかんないものなの!?!? 僕は思わず頭を抱えてしまいました。
なんでも、ニュージーランド英語は日本語で言うところの東北弁みたいな位置づけらしく、ネイティブの英語話者でもときどき聞き取れないことがあるほどだそうです。具体的な特徴をあげると、
- とにかく早口
- 声が低い
- 喉の奥でモゴモゴとしゃべる
- 「エイ」が「アイ」になるなど、発音の変化が多い
などで、はっきり言って日本人が中学高校で習ってきた英語とは聞こえ方がまったく異なります。その後もニュージーランド英語の聞き取りにくさはついて回ります。
特に、ロボットプログラミングの担当だった男性講師と、一緒にグループワークを行なった同級生の英語は群を抜いて聞き取りづらく、卒業するまで彼らの英語の1割も理解することはできませんでした……
なおニュージーランド英語についての悩みを在住20年のイラン人男性に打ち明けたところ、「みんなそんなもんだよ。僕はニュージーランド英語がわかるようになるまで10年かかったからね」と言われたので、卒業までに苦手意識を克服するのはあきらめました。
好成績のポイントは「自分の土俵で戦うこと」
とにかく最初から最後まで英語には悩まされっぱなしの留学生活でしたが、最終的には満足いく成果も出すことができました。マーケティングの授業では、課題のひとつであったエッセイ(小論文)で、受講者120人中5位という好成績を取れたんです。
「企業の商品の付加価値」について具体例を挙げよという課題だったんですが、自分がよく知っているかつ講師がよく知らない分野をテーマにするのが良かろうと踏み、僕の地元名古屋のトヨタ自動車を取り上げました。
かつ、羽生善治名人(当時)を起用して行なわれた「トヨタ車を駒に見立てて将棋対局するイベント」を例に上げ、車をただの乗り物ではなく、動かして楽しいアイテムであると訴求する戦略について書いたんですね。これが教授の興味をひいたようで、最高であるExcellentの評価につながったんです。
またシステム要件定義(アプリの設計)の授業では、成績優秀者としてスポンサー企業から奨学金をいただくこともできました。具体的な採点基準は教えてもらえませんでしたが、ミーティングをうまく仕切っていた態度や、最終的な設計の美しさなどが評価されたのかな? と勝手に想像しています。
英語力にハンデがある中でもそれなりの結果が出せたのは、自分の土俵で戦うことを意識したからだと思います。ニュージーランドではなく日本の企業をテーマにしてエッセイを書く。ミーティングでも自分でボールを投げて相手に返させる。そうすることで、自分からコミュニケーションの主導権を取りにいけるんですよ。
はっきり言って、僕の英語力はいまでもさほど高くありません。ニュージーランド英語はいまだに苦手ですし、特に訛りのキツイ人の言葉はさっぱり理解できないことが多いです。それでも「今日はうまく英語が使えたな」と思えるのは、やはり相手を自分の土俵に引き込んで話ができたときですね。
相手に英語で話しかけられるとついついリスニングの試験のクセが出て、ひたすら聞き上手になってしまいがち。英会話はキャッチボールですから、こちらから引っ張っていくつもりで前に出ていくのが大切です。
……などと偉そうに言ってますが、僕もまだまだうまくできない場面の方が多いので、毎日のしごとの中で実践・練習を繰り返しております。
社会人からの大学再入学は、楽しい!
アラサーになってからむかえた、人生2度目の大学生生活。いろいろと難しい場面もありましたが、無事1年で単位を取り終え、卒業することができました。
学生に戻った1年間を振り返ると、一言で言ってめちゃくちゃ楽しかったです。
社会人を経験してからふたたび大学に戻ると、若い頃には気づかなかった学びがたくさん見つかるんですよね。
まず、10代の頃に比べて学ぶ目的が明確になります。
どの学部に入って何を学ぶかなんて、正直高校生くらいの年齢じゃはっきりわからないじゃないですか。僕も「社会の授業が好き!」っていう単純な理由で文学部日本史学研究室へ進学、あっさりと挫折してサークル活動にうつつを抜かす4年間を過ごしたのですよ。
ところが、二度目の大学生活はわけが違う。プログラマとしての技術を磨くために学問的素養を身につけるっていう目的があるから、行動がブレません。課題を一心不乱にこなし、ときには先生の部屋まで質問に行っちゃったりします。
さらに、人生経験豊富な分、学ぶ速度も速くなる。RPGに例えるなら「強くてニューゲーム」の状態ですよ。
僕はNZの大学でITを勉強していましたが、授業の内容が自分の実務経験と結びつき、すんなりと理解できることが何度もありました。
たとえばこれがMBAなどビジネス系の学問であれば、一度も社会で働いたことのないまま勉強するのと、10年間実際に働いてから勉強するのでは、理解度がまったく違ってくるでしょう。
最後にもうひとつ、年齢の離れた友達ができるのも楽しいです。特にニュージーランドはお互いの年の差をほとんど気にしない文化なので、僕よりずっと若い友達が何人もできました。彼らと一緒にビールを飲んだりゲームに興じたりしていると、こちらまで若くなるような気がします。
残念ながら、いまの日本では社会人が大学へ再入学する道は非常に限られています。現役高校生たちに混じって入試を受けるのは大変な負担ですし、大学院の社会人枠もまだまだ少ないです。
ですが、腰を据えて学びに取り組む経験は必ず大きな財産を残してくれます。学費と英語力さえあれば入学できる海外の学校を狙うのも選択肢のひとつ。
社会人から再度大学に入る人が、日本でももっと増えてくれたらいいのになぁと思います。
次回は、ニュージーランドでの就活がはじまります。しかしそこには、予想以上に厳しい戦いが待っていたのでした。