「広報」といえば、女性に圧倒的な人気の職種の1つ。有名なファッション雑誌では、読者モデルで登場するキラキラと美しい女性が広報やPRの仕事していることも多く、華やかで輝かしいキャリアウーマン的な印象を持たれている方も多いかもしれません。実際、企業の広報職というのは人数が限られていることもあり、どんなに志望してもなかなか簡単には就くことが難しいポジション。その競争率の高さからも、手の届かない存在というイメージもありますが、経験・未経験問わず、異動や転職の際には多くの女性が志す傾向があるといえます。
私は会社員時代に8年以上もの長い期間、広報部門にいましたが、社内でも大変な人気で「広報に異動したい」といった女性社員の希望者が後を絶ちませんでした。一方で、私が所属していた広報の組織を思い出していると、楽しかった思い出ばかりではありません。むしろ人間関係はドロドロになりがちで「早く広報から異動したい」とよく思ったものでした。広報は他社の広報との連携もそれなりにありますが、やはりどこの会社も人間関係含めて色々とあり、組織自体健全ではない面も多く見受けられた気がします。
そこで今回は、外から見るととても華やかな広報を、実体験から感じる魅力、合わせて苦悩などもご紹介したいと思います。
広報の仕事って実際どんなことするの?
社外広報
広報といって思い描く仕事とはどのようなものでしょうか?雑誌やテレビなどで描かれる広報は、マスメディアの取材に対応したり、記者発表会を担当したり、さらにはニュースリリースを発表したりするようなイメージが強いかと思います。このような対マスコミにコミュニケーションを取る仕事をメインで行うのは、細かく分類すると「社外広報」というポジションになります。毎朝、新聞やテレビ、インターネットに自社の名前が出ている記事がないかなどの露出チェックをしたり、その露出状況を定点観測して、今後の広報プランを練ったり、自社のニュースをまとめてリリースとして発信したりするのが大きな業務の流れになります。日々、マスコミから自社に関する問い合わせに答えたりするのも社外広報の仕事です。会社によってはPR(Public Relations)と表現するところもありますが、まさにパブリックリレーションズという言葉通り、社外と連携して自社の有益な情報を発信していくのがミッションになります。
社内広報
一方、社内広報というポジションもあります。そこまで大きい会社でなければ、社外も社内も同一人物が担当することも多いですが、数千人規模の会社になると、社外広報と社内広報と担当者が分かれることもあります。それでも3000〜5000人の会社で社内広報、社外広報それぞれ担当者が1〜2名くらいずつ。それぐらい広報部門は小規模です。社内広報は、文字通り対象が社外ではなく社内で、社内に情報発信を行います。定番の仕事といえば社内誌・イントラの運営などでしょうか。最近ではインナーブランディングといって、社内の文化醸成に力を入れる企業も増え、注目度も以前よりは高まってきているように思います。
ブランディング
他にも、社外広報と近しい役割になるのがブランディングといったポジションです。自社ブランドを作り、維持するのがミッションで、具体的にはコーポレートサイトの管理や、自社のロゴの使い方の社内チェックを行ったりします。自社ブランドだけでなく、自社で新たにサービスができたりするとそのサービスと自社ブランドの関係性、会社のブランドを毀損するものでないかなどの確認も行なっていきます。ブランディングからさらに広げると、広告やプロモーションといった仕事を広報部門で行うこともあります。自社のCMやチラシ、ポスター、会社案内、その他、ノベルティなどを担当します。このような広告やプロモーションは、大きい会社になると広報とは分けた組織となることも多いですが、中小程度の規模だと、同じ組織または同じ人物が担当することも少なくありません。
社外広報と広告は世の中に自社をアピールするという意味では同じですが、両者の違いでよく言われることは、有料か無料かの違い。社外広報はあくまで報道なので無料で自社を紹介してもらえるもの。一方で、広告やプロモーションは何百万、何千万(CMなどだと何億)もの投資をして自社を露出させるものだということです。社外広報は報道(無料)であるがゆえに自社の有益な情報を自社でコントロールしきれない部分がありますが、広告などは訴求したいものを存分にアピールすることができます。
秘書
そして、意外にとても関連の深い役員秘書、社長室などの仕事が広報と兼務されることもあります。例えば、中小規模の会社だと、社長または経営層=ブランドであり、経営戦略であったりするので、社長秘書兼広報として、自社ブランドの発信を担当するようなこともあります。ちなみに、大手でも広報は社長などの役員陣との距離はかなり近いのが共通点です。経営のすぐ近くで、社内外へのコミュニケーション担当として情報を発信したりする役割が広報にはあります。
広報の苦悩
ここまで広報の中でもさまざまな役割についてご紹介しましたが、分かりやすく表面的な部分だけお伝えすると、やはり華やかさが目立つ印象があるかもしれません。しかしどの仕事も華やかな部分は全体の1割程度で(もっと少ないかもしれません)、その裏にある通常の業務はひたすら雑務、調整の連続です。役員や社員間の調整、苦情の受け付け、社外からもマスコミの記者からの厳しい質問の処理…。そんな対応に追われている事がほとんどです。例えば、社外広報であれば、役員から「こんな記事が出てるけど、何をチェックしてるのか」と言われ(報道なのでチェックしきれない部分があることなど役員はお構いなしで責めます)、社内広報であれば、社員から「社内へのアナウンスが遅すぎる」と怒られ、広告であれば社内外から「あんなCMダサい」などと言われることもあります。
広報の仕事には正解がなく、文句を言おうと思えばいくらでも言えるので、社内外関わらず、よく標的になるのです。そんな時は自分自身の意志と責任しか味方はいません。毅然と対応していくにはしていくのですが、心はボロボロになることも…。また、「広報は正解がない」=「数値的に実績が示しにくい」仕事でもあるので、評価もされにくい面もあります。雑巾のように(気持ち的に)縁の下で頑張っても頑張っても、広報のおかげと言われることはほとんどなく、極端な話、「1円も稼がないのに(広告ならお金ばかり使って)何してるの?」などといったことを言われることだってあります。想像以上に地味な業務である上に、各所から文句を言われることはあっても評価されないということで、広報の仕事をモチベーション高く続けるのはなかなか難しい面もあります。さらに、どの会社も広報は女性がかなり多い組織になりがちで、人間関係がドロドロとしてしまうことも多く、精神的に病んでしまい、辞めてたり、異動したりすることも多いです。
それでも魅力的な広報
ここまで書くと、とにかく辛い仕事ということを強調してしまっているようですが、広報にはもちろん魅力はあります。華やかさといったイメージとは違うかもしれませんが、私が広報を経験してよかったと思うのは、いろんな意味で “優秀な人”と接点を持つことが多かったことです。自社の役員もそうですが、広報にいると自社の優秀な社員と接点を持つ機会が多いです。社外でも、マスコミの方や広告代理店の方など、とても“優秀な人”たちと仕事をする場面が多く、それがゆえに日々、学ぶことが多かったのはとても感謝していることです。とにかく学ぶ機会には恵まれていました。中でも、役員の近くにいることで、経営について間近で学べたのはとても良い経験でした。
そして、上記のような苦悩があったおかげで鍛えられることも多かったです。特に広報は間違いが許されない仕事なので、スピード感とともに正確さ、緻密さには気をつけなければならないのですが、もともといい加減さがある性格の私はだいぶ苦手な領域が鍛えられました。
さらに、前述の通り広報は人数に限りあるポジションのため、市場にも経験者が営業職ほどに多くいません。なので、転職でも広報経験者はニーズが高く、キャリアの可能性が広がると言えます。
加えて、女性が多いということもあって、比較的働き方に柔軟さが許される仕事だと思います。私も10年ほど前から時短勤務および週1日の在宅勤務をさせてもらっていました。ワーキングマザーになっても、仕事が続けられたのは、広報という仕事をしていたからかもしれません。
まとめ
ここまで広報のことを書いてみましたが、そもそも広報ってどんなルートでなる事が多いかご存知でしょうか。広報はあまり新卒で配属になるという部門ではなく、多くは営業を数年経験してから同社の広報に異動するというのが多いと思います。また大手では経験者が優遇される転職市場で、未経験で広報を目指すのはなかなか難易度が高いですが、中小やベンチャーなどは役員秘書と兼務で広報業務を任せたいといったニーズは一定ありますので、いつか広報やってみたいという未経験の方にはおすすめです。精神的にはかなりきついことも多いですが、それ以上に「自社のブランド」を背負って立つという責任感を持って臨む仕事になりますので、かなりやりがいはあります。さまざまな経験を積めることは間違いありませんし、キャリアを積む上では大きなチャンスともなりますので、ぜひトライしてみてはいかがでしょうか?