世界一の経済大国であるアメリカ。アメリカといえば、人権や平等といった話題に敏感な国というイメージもあるでしょう。しかし、そのアメリカが先進国の中で最も遅れている分野があります。それが産休・育休制度の遅れです。今回はアメリカの産休・育休事情についてお話していきます。
アメリカは産後無給
まずはじめに、産休・育休について、アメリカが連邦として定めている制度をご紹介します。
実は、アメリカが産休・育休制度で定められているのは、「出産または養子を迎えるにあたり、12週間までは休業しても雇用を保証する」ことのみです。言い換えれば、「休むことを認めるが給与は与えません、そして企業はその期間、その休暇を申請した従業員を解雇してはならない」という法に過ぎません。
産後に休暇を申請しても無給であるのは、OECD(経済協力開発機構)に加入している国で見ても、アメリカのみです。 参考までに、北欧のフィンランドでは、出産した母親は最長3年間の有給休暇を取得する権利があります。同じく北欧のノルウェーでは、最大91週間、イギリスでは39週間、アメリカのお隣カナダ北部は、1年間の有給休暇の権利があります。こう見ると、アメリカの制度がいかに遅れているかが分かると思います。
なぜアメリカの制度はこれほど遅れているのか?
子どもを持つことは、生物学的にも、経済的成長のためにも、私たちの社会において必要条件です。国レベルで見ても、経済成長を続けるためには、子どもの減少というのは非常に痛手です。しかし、子ども一人を育て上げるにも膨大なお金がかかるのはご存知の通りです。だからこそ、国の援助が必要になると考えることもできます。
国の経済のためにも、子どもの存在が必要であると認識しているアメリカ以外の富裕国は、子どもの養育のためにも、このような家庭を援助することに高い関心を持っています。しかし、なぜアメリカは積極的に、出産・育児の援助をしようとしないのでしょうか。
アメリカでは国ではなく企業がやるべき保障と考えられている
先ほど、「休むことを認めるが給与は与えません、そして企業はその期間、その休暇を申請した従業員を解雇してはならない」というアメリカの産休時の政策をご紹介しました。このような賃金政策は、「政府ではなく、雇用者にとってメリットの高い政策である」と批判されているのも事実です。一方で、そのような雇用者への保障は企業がするものであるという考え方も存在します。しかし、雇用主にそれを求めたところで、実際、中小企業の40%以上がそれを提供していないことが統計で明らかになっています(2016年調べ)。
さすがに、連邦の制度があまりにひどいため、州レベルで制度の整備を進めているところもあります。整備が進むのは良い反面、整備に前向きな州とそうでない州の間で格差が広がりつつあるのです。
このような、企業や州の政策の現状を考えれば、やはり連邦の政府がしっかりと産休・育休の政策を整える必要があるでしょう。
アカデミー賞アン・ハサウェイの悲痛な叫び
2017年の「国際女性デー」での会合で、アカデミー助演女優賞の受賞者で国連親善大使でもあるアン・ハサウェイは、ニューヨークの国連本部でスピーチを行ない、アメリカの産休・育休制度の改善を訴えました。一人の子どもがおり、ワーキングマザーでもある彼女は、こんな言葉を口にしました。
「アメリカの母親の4人に1人は、休んでいる経済的余力がないために、出産後2週間で仕事に復帰しています。この事実を聞いて、私は胸が痛くてたまらなくなりました」
それほどの割合で、2週間で職場復帰している女性がいることは、大きな問題ではないでしょうか。日本では、厚生労働省の取り決めにより、出産の翌日から8週間は、就業することができません(ただし、産後6週間経過後、医師が認めた場合は、請求することにより就業することができます)。このことからもわかるように、日本では少なくとも、出産で酷使した体には6週間の休息が必要であると考えられています。他にも、特に産後の肥立ちを重んじる韓国では、通常1ヶ月から3ヶ月ほど、なるべく安静に過ごすことが必要だととされており、出産後のママたちが利用できる、手厚いケアサポートが多数あるのです。
父親の存在も尊重されるべき
アン・ハサウェイはさらにこうも訴えました。
「産休制度に限らず、性別をベースにした政策というのは見かけが良いだけの鳥かごだ。……こうした政策は、女性は職場にとって不便な存在だという見方を生む。男性は、限られた生き方にがんじがらめにされているように感じるだろう」
「女性を解放するためには、男性を解放しなければならない。……父親を軽視して母親に過剰な負荷をかけることを、どうして続けていかなければならないのか」
実は、アメリカの大企業では寛大な制度を設ける動きも増えてきており、なかでは父親に有給の育休を認めるところもあります。しかし、そのような制度があるのにもかかわらず、「職場のポジションが奪われるため、取得したくない」と考える男性が、36%いることが、ある調査で明らかになりました。このことからも、まだまだアメリカは、産休・育休制度の充実には程遠いことがわかります。
これは日本でも足りないこと
しかし、男性の育休の取りづらさは日本でも言えることです。日本では、国の法によって定められた「育児休業」と、企業が定めている「育児休暇」に区別されています。厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は5.14%にとどまりました。取得しない理由で多くあげられたのは「業務が繁忙で人手が不足していた」「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」といった理由です。一方、女性の取得率が8~9割を推移していることを考えると、やはり、アン・ハサウェイの言う通り、父親の存在が軽視されていると言えます。男性の育児休業の取得率を上げるには、もう意識改革では足りません。国が積極的に育児休業の取得を義務化していく必要があります。
まとめ
アメリカでは、連邦の法律で、男性も女性も有給の育休が認められていません。しかし、子育てはどうしても女性の側に負担がかかってしまいます。この負担を少しでも解消するためにも、女性だけでなく、男性にも育休の取得を義務化することが重要です。