ビジネスをする上で、人間関係は非常に重要です。心理学者のアルバート・ウィガム博士の「1年以内に失業した労働者を対象にした調査」によると、全体のうち「90%」が人間関係を理由に失業したといいます。すべての人々は、人生に成功と幸福を求めています。そして、成功と幸福を得ることは、他の人とどんな関係を築くかに大きく左右されます。
今回ご紹介する『人望が集まる人の考え方』(レス・ギブリン 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊)は、1956年にアメリカで出版され「人間関係のバイブル」として半世紀にわたり読み継がれてきた名著です。著者であるレス・ギブリン氏によると「よい人間関係」とは、自分が求めているものを手に入れるのと引き換えに、相手が求めているものを与えていることです。彼は、大勢の人が人間関係で悩んでいるのは、「人間の習性」をよく理解していないからだと指摘します。
本書で伝えたいことは、人間の習性を踏まえ、実用的なノウハウを磨くことで、人々は自分の求めるものを得ることができる、ということです。
人間の習性を理解してコミュニケーションしよう
よい人間関係を築くためには、「人間の習性」を理解しなくてはなりません。本書では、人間の習性を次の4つにまとめています。
- すべての人は程度の差こそあれ自分本位である
- すべての人は自分に最も強い関心を抱いている
- すべての人は自分が重要だと感じたがっている
- すべての人は他人に認められたいと思っている
これら4つの習性を一言で述べるなら、人々は「自尊心」を満たしたいと考えているということです。自尊心への欲求は、空腹の飢餓に似ています。人々が飢餓におちいり、本能的に食べ物を欲している時は、他人のことに配慮する余裕はありません。それと同じように、自尊心が満たされていないと、他人のニーズに応えたいという気持ちは決して湧いてきません。つまり、人間関係においては他人の自尊心を満たすことが、何よりも重要です。正論を振りかざすよりも、自尊心を与えることの方が、効果は大きいです。
著者によると、どこの誰でも人間関係を育むための資産を持っており、それらを認識する必要があります。人間関係を育むための資産とは、
- 他人の価値を認める力を持っている
- 他人が自分を好きになるのを手伝う力を持っている
- 他人を受け入れて大切に扱う力を持っている
の3つです。これら3つの資産は、いくら活用してもなくなることはありません。そのため、周りの人に対して見返りを求めずに気前よく与えましょう。結果として、後になり何倍にもなって返ってくるというのはよくある話です。
周りの人を味方につけ、友好関係を築くには?
世の中のほとんどの仕事は、一人だけでおこなうことはできず、他人と協力する必要があります。よって、周りの人と良好な人間関係を築くことが、仕事の成果にも大きく影響を与えます。著者は、周りを巻き込んで惹きつけるために重要なことを3つにまとめました。
① 相手を受け入れる
相手を受け入れるとは、他人の「自分らしさ」や「あるがままの姿」をそのまま肯定することをいいます。人はしばしば他人のあら探しに夢中になり、批判すべき点を探すことで自尊心を
高めようとしてしまいます。当然、このような態度は人間関係にとってマイナスです。あなたが、相手を受け入れることによって、相手は「自分が価値のある人間だ」という気持ちを抱くことになり、あなたに親しみを感じてくれます。
② 相手を認める
人間はみな、「承認欲求」を持っています。言い換えれば、他人から認められたいという気持ちです。人間関係においては、相手の承認欲求を満たすことが肝心です。そのためには、相手の長所を見つけて、言葉にしましょう。それによって、相手はもっと認められたいという気持ちになり、良好な態度をとってくれます。長所を見つける時のポイントは、なるべく目立たない長所に注目することです。
③ 相手を尊重する
相手を尊重するということは、「相手の価値」を高く評価するということです。決して、ぞんざいな扱いをしてはいけません。逆に、特別扱いをしてあげると良いでしょう。例えば、あなたがチームのリーダーだとしたら、メンバーに対して一対一で話しかけることで、メンバーはきちんと自分の価値を認めてくれているという気持ちを抱きやすくなります。
人間関係をハックする対話の心得
あなたはチームのメンバーとの間に壁を感じていませんか?もし答えがYESなら、「対話」の仕方を考え直す必要があります。経営コンサルタントのハリー・シモンズ氏の25年間にわたる研究によると、ビジネスにおいては仕事をする能力と同じくらい「話す能力」が成功に大きな役割を果たすとしています。著者は、対話においては心がけるべき5つのことを説明しています。
① 会話の入り口は、考えすぎない
いざ、チームのメンバーとコミュニケーションをとろうとしても、話しかけるきっかけがつかめないという方が多いかもしれません。そのような人は、くだらないことやありきたりなことを話してはならないという固定観念を持っているのではないでしょうか?しかし、どんなに有益な会話であっても、入り口は些細なことからというケースも多いです。考えすぎないことが大事です。
② 相手に話をさせることが大事
世の中には、自分の話をすることが大好きな人が多いです。しかし、あなたが「よい人間関係」を築きたいのなら、相手の話に耳をかたむけましょう。時折、相手の話に頷きながら質問をすることも大事です。あなたが相手に関心があることが伝わるからです。相手を中心に会話をしつつ、もし求められれば自分の話をします。ただ、話が長くなりすぎないように気をつけることが大事です。
③ 相手につねに賛同する
対話をする時は、相手につねに賛同しましょう。相手につねに賛同することで、親近感を覚えてもらうことができます。相手の会話の中に、自分との共通点が見つかれば、それを相手に伝えます。ただ、時には相手に反対をしなければいけない場面もあります。そのような時にも、賛同できる点を見出すことで、妥協しやすくなります。
④ 悩みや不満を口に出すことは控える
悩みや不満を口に出すことは控えましょう。いつもネガティブな言動をする人は、他人から好意を得ることが難しいのは明らかです。悩みを聞いて欲しいのなら、相談に乗ってくれる友人やカウンセラーなど、相手を選ぶのが賢明です。どうしてもネガティブな気持ちを口に出したい場合は、紙に悩みや不満を書き出すという方法もあります。
⑤ 相手をからかわない
相手をからかうことには、慎重になるべきです。自分としては、それが面白いと思ってしているかもしれませんが、相手の自尊心を傷つけることになります。よほど親しい間柄であれば許される場合もあるでしょう。しかし、極力からかうような言動は避けましょう。
みんなから協力を引き出して結果を出す
チームとして成果をあげたい時は、メンバーから協力を引き出すことが重要になります。著者は、相手から協力を引き出す時には、3つ押さえるべき点があると述べています。
① 相手にアドバイスを求める
人間は、自分の「知恵」を活用したいと思っています。経営に対する提案が許されていない労働者は、提案が奨励されている労働者ほど熱心に働きません。大事なことは、相手に命令するのではなく、アドバイスを求めることです。
一流の経営者は自分一人ですべてのアイデアを生み出す天才ではなく、従業員からアイデアを引き出し、それをもとに最終決定をおこない、実行に写す能力を持つ人物である
アドバイスを求めることによって、自分が信頼されていると感じ、親近感を抱かせることができます。気をつけるべき点は、同情や承認、賞賛のためではなく「純粋に知恵を借りる」気持ちでアドバイスを求めることです。もし同情や承認、賞賛のためにアドバイスをもらうフリをしているのであれば、それは相手に見透かされ好感を得ることはできません。
相手をほめることを忘れない
「ほめる」ことは、自尊心を高めて協力を引き出すために非常に効果的な方法です。あなたは、相手の求めるもの(ほめられること)を与えることで、自分の求めているもの(協力)を得ることができます。「相手をほめるところが見つからない」という人もいるかもしれません。しかし、本当に小さなことでも構わないのです。些細なことも見逃さずほめることが重要です。
「感謝の気持ちを伝えること」も、ほめることと同じです。著者によると、「ありがとう」を伝える時には6つのルールがあるといいます。
- 心をこめて言う
- 口ごもらずに、はっきりと言う
- 相手の名前を言う
- 相手の顔を見る
- 相手に感謝する努力をする
- 相手が思いもよらないときに感謝する
このように、感謝にもきちんと押さえるべき点があります。
もしある人が何かを持っていて、それを与えれば与えるほど、手元にますますたくさんそれが残るとしたら、あなたは奇跡だと思わないか?
まさにこれが、あなたが相手をほめて感謝して、幸福を与えることによって起こることです。要するに、他人に幸福を与えれば与えるほど、自分の幸福感も高まるということです。
相手に注意をする時を気をつける
ビジネスをしていたら、メンバーに注意を与える場面も少なくないでしょう。しかし、注意する時には気をつけましょう。注意の仕方によっては、メンバーのモチベーションを低下させてしまうからです。前提として、注意を求めることの目的を考えます。それは、相手を向上させることです。筆者は、相手に注意する時には次の7つのルールにしたがうべきと論じています。
- 一対一で注意を与える → 人前で相手に恥をかかせない
- ほめ言葉で前置きをする → 相手を頭ごなしにしからない
- 相手の行為に注意を与える → 相手の人格を攻撃しない
- 正しい方法を教える → 具体的な方法を丁寧に指導する
- 要求ではなく依頼をする → 協力したいという気持ちにさせる
- 注意は1回にとどめる → しつこくならないように気をつける
- 友好的に話を終える → 最後に励まして相手を勇気づける
これら7つのルールを念頭において注意をすれば、相手に嫌な思いを抱かせることなく、相手を向上させ、成果をあげることができます。
まとめ:人望が集まる人の考え方
昨今、オンラインでのコミュニケーションの普及によって、人間関係はどんどん複雑になっています。では、本書で述べた方法はもはや通用しないのでしょうか?私はそうは思いません。なぜなら、本書の考えは「人間の習性」に対する洞察に基づいているからです。確かに、人間関係は難しくなってきていますが、人間の習性という原理・原則は変化するものではありません。そのため、本書の内容は色あせることなく、人々に示唆を与え続けるでしょう。人間関係に問題を感じている方は、ぜひ一読してみてください。