ハーレーダビッドソン“ジャパン”に見る、ブランドの育成方法

ハーレーといえば、大型バイクの王様です。知らない人はいないでしょう。大きく迫力のある鉄の塊たる車体。アメリカを強く感じるカラーリング。特徴的なV型エンジンが奏でる魅力的な音。バイクそのものがブランドとして成立しているといっても過言ではありません。もはや大型のかっこいいバイク=ハーレー、という図式ができあがっています。

しかし、日本においてハーレーは順風満帆の成長を遂げてきたかといえば、そうではありません。足元の国内二輪市場を見れば、ずっと右肩下がりを続けています。そんな中にあって大型二輪、いやもっと言えば二輪市場において確固たる地位を築いているハーレー。その復活の軌跡を追うことで、ハーレーダビッドソン“ジャパン”のブランド戦略を紐解いていきます。

実は青色吐息であったハーレーダビッドソンジャパン

実は、日本国内の二輪市場においてかつてハーレーはジリ貧の時期がありました。1980年代前期、日本の二輪市場は活況を呈しており、国内における出荷台数はなんと300万台を上回っていました。ところが、です。その当時のハーレーは、国内における出荷台数は1000台を切るレベル。市場シェアで見れば、わずか0.03%。対抗するホンダ、カワサキ、ヤマハといった国内企業とは比較しようにもできないレベルで差が開いていました。

国内のバイクは壊れにくく、利便性に富んでいる。一方のハーレーは「壊れてこそハーレー」とされ、品質面でも疑問符がつけられるような状態だったのです。

もっとも、1980年代のピーク時から二輪市場は右肩下がり。2000年代になると年間の国内出荷台数は70万台を割り込むレベルになってしまいます。ここには、四輪へのシフトであったり、鉄道網や公共交通機関の整備であったりなどの社会環境の変化がありました。そのなかにあって、ハーレーは着実に出荷台数を伸ばし、なんと年間1万4000台レベルにまでなっています。驚くべきは市場シェアで、751CCの大型バイク市場でみれば、なんと33%。3台に1台がハーレーなのです。輸入大型バイク市場でみても65%とダントツの数値です。

いつのまにか「バイクを買うならいつかはハーレー」という状況になっているのです。

加えて驚くべきは、その価格です。通常、中型・大型のバイクは価格で見ると100万円を超えれば「高額」に分類されます。しかし、ハーレーは最低排気量883CC、平均価格は200万円。高いのに売れているのです。排気量で見れば、大型免許を所持していないと乗れないわけですから、免許を取得して購入に踏み切る人もいる。逆境もなんのその。ハーレーの魅力が購入障壁を上回って購買に走らせているという実態があるのです。

比較しない。競争しないことを突き詰める

では、右肩下がりを続ける国内二輪市場においてハーレーはいかにして成功をおさめたか?

ここにはハーレーの国内販売を取り仕切るハーレーダビッドソン ジャパン(以下、ハーレージャパン)の巧みな戦略があったことが伺えます。

まずなされたことは、徹底的な環境と自社の分析でした。黎明期当時のハーレージャパンは顧客分析ということができるような環境ではなかったとされます。例えば、整理整頓がなされていない販売網しかなく、どのような顧客が自社のバイク、あるいはパーツを買ったかなどもわからないといった具合に。かたや競争相手は、ホンダ、カワサキなどの巨大企業。他社との比較がマーケティングにおける前提だとすれば、そもそも前提を欠いているがゆえにマーケティングが成立しないという状態だったのです。

そこでハーレージャパンはあえて「逆張り」に舵を切ります。すなわち、自社の歴史や文化、伝統を生かして顧客を魅了していく手法です。いわば差別化ではなく「独自化」でした。巨大企業相手に、挑まずに自分たちがなすべきことをなし、自分たちが大切にすべき顧客をより喜ばせることに心を砕いたのでした。

ハーレーとは何か?見えてきた実用よりも趣味ユース

そもそもバイクの存在価値はどこにあるでしょうか?昭和の経済発展期においては有効な輸送手段として活躍しました。それこそ蕎麦屋や寿司屋の出前配達のように。あるいは後部にリヤカーを接続して大量の荷物を輸送したりと。

一方のハーレーはというと、輸送手段としては大きすぎる。しかも燃費も悪いし、価格も高い。結局のところ輸送手段としては優位性の面で劣るのです。

今でこそ二輪の購入者は趣味で買う人が多いと言えますが、それにはじめて国内市場で明確に気づき、マーケティングに落とし込んだのがハーレージャパンです。顧客への綿密な分析を通じて、ハーレーの購入目的は趣味であったり、購入者の楽しみであったりであることを明確にしたのです。そして、ハーレーの持つ商品特性を「LOOK」「SOUND」「FEEL」の3つだと理解するに至りました。

LOOKはもちろん車両の見た目。他社にないアメリカを強く感じるデザインです。SOUNDはエンジン音。ハーレーの特徴であるV型エンジンが奏でる力強い音です。FEELは、またがったときにエンジンから感じるバイブレーション。そして疾走するときの安定感や重量感。何よりもハーレーにまたがっているという高揚感。先述の輸送手段としての優位性は完全に捨象されています。要は、すべては楽しみのために存在するバイクなのだと明確化しました。

楽しみを感じてもらうための価値をどこに見出すか?

楽しみを具体的に感じてもらい、ハーレーという車体(モノ)を購入してもらうために「コト」を売るという姿勢にたどり着きます。現在、マーケティングの世界で一般化している「モノを売るためにコトを売る」。そのパイオニアがハーレージャパンとも言えるのです。具体的にハーレーが展開する楽しみは次のように細分化されます。

どこをとっても、二輪で着目されがちな「速さ」であったり「レース性」であったりは見当たりません。首尾一貫して「楽しさ」や「趣味性」に軸足があることが伺えます。

楽しみを具現化する具体策は?

さきにまとめた「楽しみ」を顧客に感じてもらい、ブランド価値を向上させるためにハーレージャパンが展開した具体策が特徴的です。ここでは大きく2つを紹介したいと思います。

ひとつは巨大イベントの開催。もうひとつは販売店を“ハーレーワールド”にすることです。

巨大イベントの開催

ハーレーには「ハーレー・オーナーズ・グループ(HOG)」という組織があります。全世界で100万人以上、日本でも3万人を超えるハーレー公認の組織です。国内では、正規販売店にひもづく形態でチャプターという支部がおかれ、オーナーはその支部に参加する形式になっています。

そしてオーナーたちはハーレージャパンが企画するイベントに参加することで、ハーレーの世界観を存分に味わうことができるのです。

そのイベントたるやバイクのメーカーが企画するものとしては驚くような盛大さです。例えば、ブルースカイヘブンというものがあります。これは富士スピードウェイで開催されるもので、メジャーなアーティストを招待しライブを開催するなど凝った内容です。2018年にはオリジナルラブやスチャダラパーなどが招待されました。しかも、オリジナルラブのメンバーはハーレーのオーナー。きちんとブランドと接点を持つアーティストであることがオーナーの納得感をくすぐるのです。ブルースカイヘブンでは、チャプターフラッグというそれぞれの支部が用意する旗を掲げ、チャプターごとにレーシングコースを疾走します。あのハーレーサウンドを響かせながら。当然、オーナーの高揚感は高まります。そのほかにも、日本各地でハーレーフェスティバルが開催されています。

こうしたイベントを通じて、出会う楽しみや競う楽しみ、愛でる楽しみなどを実現しているのです。

「ハーレーワールド」の販売店戦略

すこし想像してみてください。四輪メーカーのディーラーショールームのイメージを。特に海外メーカーのそれは、それぞれのブランドカラーでまとめられ、その車を所有することの楽しみを体感できるような空間になっているはずです。日本のメーカーでも、例えばマツダやレクサスなどは、店舗の設計において共通化を行い、展示する車種もブランドカラーで統一するなどの配慮をしています。

一方の二輪メーカーはどうでしょうか。そもそも二輪においてディーラー店舗というのは実は少ないということが思い起こされるのではないでしょうか。ホンダの二輪店舗のイメージがすぐに湧くでしょうか?答えはノーのはずです。

しかし、ハーレーは異なります。正規販売店では、ハーレージャパンの設定する基準や要望をクリアした内容になっています。例えば店舗の色使いであったり、衣料品などバイク以外の品揃えをしっかり整えるなど細部に至るまで、ハーレーワールドが徹底されています。その品質維持においては、ハーレージャパンの社員が抜き打ちで訪問して改善提案をするなど地道な取り組みがなされています。こうした正規販売店におけるブランドイメージの統一を図ることで、売上の向上を実現しています。二輪の販売店が年間平均で4500万円(従業員は3人程度が平均)であるのに対して、ハーレーの全販売店の平均値は約5億5000万円(従業員は10人弱)。従業員一人あたりの年間売上高で見れば、二輪販売店の平均が1500万円に対してハーレーは5500万円ほど。実に3倍以上です。顧客にブランドイメージを浸透させ、満足感を与えられる空間を提供することがいかに売上高につながるかがよくわかる事例です。

まとめ

ハーレーは、はじめから日本市場で受け入れられたわけではありませんでした。むしろ弱者だったのです。そんな状況にあって、差別化というよりは独自化という手法を採用しました。まず、自分たちの製品の良さは何かを再確認したのです。そして、「良さを感じ取ってもらうために、顧客満足を高めるために、自分たちができることはなにか?」をつきつめました。結果として、バイクの販売だけではなくイベントの開催なども真剣に行うほどに。独自化の果てにこそ、ブランドの価値を向上させ、純粋化できるのだということを教えてくれる事例です。

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