社会や会社の中で「生産性をあげなければ」という漠然とした危機感が広がりつつあります。それでも、一向に改善の兆しが現れないという悪いサイクルが続いているようにも思われます。 本稿では、日本経済が元気だった頃に盛んに行われていたTQC活動のことを取り上げます。
TQC活動とは
TQCとはTotal Quality Controlの略で、「製品の品質を管理するためには、製造部門だけに任せていては効果が限定されるので、営業・設計・技術・製造・資材・財務・人事など全部門にわたり、さらに経営者を始め管理職や担当者までの全員が、密接な連携のもとに品質管理を効果的に実施していく」活動のことを指します。
TQCは、アメリカのA.ファイゲンバウムが提唱した言葉です。 TQCという概念は、アメリカから輸入されましたが、日本的経営に順応するにつれて、日本的TQC(以下、TQC)と呼ばれる手法へと変容していき、類稀なる成果を残しました。ここで、その成果を残したTQC活動と日本の歴史を簡単にご紹介します。
80年代の日本経済が元気だった頃の仕組みを振り返る
80年代の日本経済というと、「バブル景気」という言葉で当時の好景気ぶりを振り返られることがしばしばあります。この当時の日本経済好調の理由は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉を紐解いていくと分かります。
そもそも何故、日本は世界から「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されたのでしょうか。これには日本的経営と品質管理、そして当時の世界情勢が大きく関わっています。 日本企業は1950年代後半から品質管理、すなわちTQC活動を取り組み始めます。
貿易の自由化と資本の自由化に伴い国内外の市場で競争が始まり、日本の各企業は市場での競争優位性を模索し始めたのでした。この頃から一部の企業は「品質」に注目し、TQC活動に力を入れ始めていきます。
そして、国内企業の中でTQC活動による成功を収めた企業が出てくると、各社がそれを模倣し始め、日本企業のほとんどが品質管理を徹底していくことになります。 こうした流れがあり、日本製品が世界でも有数の品質の高さを誇るようになってきた1979年、第二次石油危機が発生します。 欧米では石油危機によるコスト増と人件費増によって、国内でインフレーションを起こし、大多数の企業の業績が低迷することとなります。
当然、日本も石油危機の影響を受けましたが、第一次石油危機の経験と日本的経営によって、大きなインフレーションを起こすことがありませんでした。 その結果、各国が低迷している中、高品質な製品を安価で提供し続けることができ、日本製品が世界を席巻したのです。 こうして日本は日本的経営とTQC活動による品質の徹底により、ものづくり大国、生産立国として、経済大国へと成り上がっていきます。 そんな日本を見て、世界は日本を見習って日本的経営とTQC活動を取り入れていくことになります。
TQCの10個の項目
また、1987年に開催された「第44回日科技連品質管理シンポジウム」において、TQCの特徴は以下の10項目に集約されています。
- 経営者主導における全部門,全員参加のQC活動
- 経営における品質優先の徹底
- 方針の展開とその管理
- QCの診断とその活用
- 企画・開発から販売・サービスに至る品質保証活動
- QCサークル活動
- QCの教育・訓練
- QC手法の開発・活用
- 製造業から他の業種への拡大
- QCの全国的推進
TQCでは、経営者による方針管理が重要視されています。トップダウンの指示・計画に基づいて、PDCAサイクルを回すことで、継続的に品質管理の改善を行なうことができるからです。このことをデミングサイクルとも呼びます。
≫「PDCAサイクルが仕事の基本、うまくPDCAを回すコツ」についてはこちら
以上が、TQCの概要と特徴です。 この手法が日本製品の高い品質を生み出し、国際的競争力を向上させました。しかし、TQCは完全な手法ではありません。次に、TQCに打って変わる手法であるTQMについて述べていきます。
TQC から発展した、TQM活動とは
バブル崩壊後には、TQCのさまざまな弊害が目立ちはじめ、その代わりにTQM(Total Quality Management)活動が浸透し始めました。TQMは日本語で総合的品質管理と呼ばれ、TQCと似ていますが、TQCを元にさらに発展させ、品質管理への活動を経営戦略にまで押し上げたものになります。TQMは製造業だけでなくさまざまな業態に適応できるよう考えられており、例えばサービス業などにも適用、効果を上げています。
現在では、現場レベルでの品質管理を中心としていたTQCから、総合的なマネジメントとしてのTQMが採用されています。現代社会において、単純に品質が良い、価格が安いというだけでは、差別化要因になりません。いかに顧客から必要とされる品質や付加価値を生み出すか、という点が非常に重要となっています。そのため、戦略・企画・設計・技術・製造・販売・サービスなど、すべての部門が、品質や価値のことを知り、品質や付加価値を生み出していくことが差別化要因の鍵となります。TQMを用いることで、全社的に品質と価値を追求することが可能なのです。 次に、TQMの特徴を3つ述べていきます。
TQMの特徴その1「3つの対象」
TQMでは、企業の最小単位である「ひと=個人」、事業レベルの「しごと=業務プロセス」、それらを束ねる「しくみ=組織・システム」を対象にすることで、個人と組織が相乗効果を発揮し、全体的な体質改善に寄与することができます。
TQMの特徴その2「3つの視点」
TQMでは、「顧客志向」「人間性尊重」「利益確保」という3つの視点から物事を判断します。この考え方は、TQCの弊害を補うようになっており、全社的な意識改善・動機付けを行なうことができます。
TQMの特徴その3「3つの特性」
TQMは、「科学的アプローチ」「プロセス重視」「組織的アプローチ」という特性を持っています。統計学手法に基づく方法論、課題解決フレームワークの導入、組織の最適化を行なうためのシステムなど、さまざまなツールを持っています。
日本企業にいまもっとも求められていることは、企業価値の向上でしょう。 すなわち、自社の中に品質や価値の面で、どのような「強み」を持つことができるかが重要だということです。日本企業には、それぞれの特色があり、「強み」を抱えている企業も多くあります。 しかし、新興国が発展していくなかで、その「強み」がいつまでも続くとは限りません。 それはコストだけの話だけではなく、技術力・企画力・販売力といった要素においてもです。 この危機に対処するために必要な考え方は、企業は1つの「強み」に頼るのではなく、企業内のバリューチェーンにおいて、いくつもの「強み」を持ち、それを累積することで、企業全体の価値を強化することです。TQMは、個人・プロセス・組織がそれぞれ科学的・組織的アプローチをすることで、その達成に貢献するような考え方です。日本が今後も品質において世界のトップレベルを保つためにも、TQMについて深く理解して、正しく実践していくことが求められています。
品質管理はどのようにして行なわれるのか
品質管理の重要性は、上記で述べたとおりですが、いったいどのように行なわれるのでしょうか。 その品質管理の最小単位が、小集団活動です。小集団活動は、従業員の経営参加の方法の一つであり、企業内で少数の従業員が集まったグループを結成し、そのグループ単位で共同活動を行なうことを目的として運営するものです。
職場では、作業員がトップダウンで与えられたタスクを、機械や工具を使って、こなすことで目標に対して生産活動を進めることになります。しかし、管理者は、現場の隅々まで知り尽くしているわけではありません。実際に現場で仕事をしている作業員にしか気づかない問題点や課題は多く存在します。そのため、そのような課題や問題点を解決するために、作業員からアイディアを募り、改善していくことを業務プロセスの中に組み込むのです。それらを行う単位とその活動を称して、小集団活動と呼びます。 小集団活動には3つの条件があります。
1.「Face to Face コミュニケーション」
企業の連絡手段は、電話・メール・チャットなど、さまざまな方法がありますが、顔と顔を合わすコミュニケーションがもっとも確かであると言われています。これは、お互いの態度や表情からも、意思の疎通ができるからです。また、形式ばったお堅いコミュニケーションよりも、フランクなコミュニケーションを志向した方が、積極的に意見を言いやすくなります。
2.「目標を共有する」
目標を共有して一致団結する方が、高い効率を達成することができます。目的共有によって人間関係を潤滑にし、連帯感を醸成することができます。そのため、小集団はある一定の期間に限られたモノであっても、目標を掲げると良いでしょう。
3.「相互理解を深める」
相手の視点に立ってコミュニケーションをとることができなければ、小集団として成果を出すことは難しくなってしまいます。小集団のメンバーは、お互いを理解し合い、認める必要があります。 小集団活動は、現場で働く作業員が職場の課題、問題点をテーマに上げ、全員の創意工夫でそれらを解決していくことを目的としています。このような活動は、単調になりがちな単純作業を創造性のある仕事に変化させ、品質と生産性を向上させることに大きく寄与します。 単なる課題・問題解決だけではなく、個人の能力の向上、活力のある職場づくりにも役立つため、数多くの企業が、よりよい日常業務の達成を目的として、小集団活動を導入しています。 これは、日本の高い品質レベルを世界に示すことになった要因の一つであり、現在進行形で行なわれている品質管理のための取り組みです。今後も注視し続ける必要があるでしょう。
「TQCあるいはTQM活動について」のまとめ
80年代のジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれた要因について言及、日本の競争力向上に大きく寄与してきた日本的TQCについて概要を説明しました。しかし、バブル経済崩壊後、グローバル化とシステム化の波にTQCは対応することができず、日本は失われた20年を迎えることとなります。
そんなTQCに変わり、現在では新たにTQMという手法が注目され今日においても企業で導入されています。そして最後に、品質管理を作業員グループで行なう小集団活動についても、概要を説明しました。 品質管理は企業価値の向上にとって非常に重大なトピックであり、今後も白熱した議論が展開されていくでしょう。