情報の蓄積だけではダメ。ナレッジ・マネジメントを成功させるには?

ナレッジ・マネジメント、という言葉をご存知でしょうか?「知っている、すでに過去のマネジメント概念じゃないだろうか?」と思う人もいると思います。確かにこの言葉、2001年前後から使われるようになりました。そして「ナレッジ=知識」を「マネジメント=管理」するということから、社内システムを構築することが流行しました。時はインターネットが一般化しはじめたころ。こぞって社内に存在する「情報」のデータベース化、集積化が行われたのです。
しかし、そのうちどの程度のシステムが本当に有用なものとして今も存続しているでしょうか?例えば、レディメイド型のグループウェアを社内に導入したものの、今は「業務連絡用掲示板」としてしか機能していなかったり、そもそもグループウェアを見ないベテラン層がいたり。活用しきれず困っている企業はひとつやふたつではないはずです。
まだレディメイド型なら良いですが、スクラッチ開発で社内システムを開発し、結局は使っていない、ということであれば目も当てられません。
こうした失敗パターンにはまることなく、有効なナレッジ・マネジメントを行うには、どのような注意点があるのでしょうか? 今回は実例を交えつつ、レポートしていきます。

ナレッジは「情報」ではなく「ノウハウ」と心得る


そもそも、こうした失敗パターンに共通している過ちは、ナレッジを「情報」と捉えている点です。ナレッジとは「情報」ではなく、「ノウハウ」と考えるべきなのです。
情報を管理するのではなく、ノウハウを管理する。もっと具体的に言えば、社内の各部署が持ったノウハウを結集して、それを有効的に活用するための取り組みです。このように考えれば、単純な情報のデータベース化ではナレッジ・マネジメントとは言えないことがわかります。定義づけが根本から違うのですから。

では、情報とノウハウはどのように違うのでしょうか? なんとなくイメージできるものの、その境界が曖昧に思う人もいるかもしれません。簡単な例を挙げましょう。例えば、洋服屋さんを思い浮かべてください。洋服屋さんにおける情報とは、「その年の流行色、流行素材」や、「同業他店舗の価格帯」です。一方のノウハウは、「情報を踏まえて来店客に商品を買ってもらうためのPR方法」です。流行素材や流行色を取り入れて、そのお店独自のコーディネートの服を販売員が着用し、来店客に提案する。あるいは、同業他店舗の価格を引き合いに出しつつ、そのお店の商品がいかに高価な素材を使っているのに同じ値段におさえているかをアピールするなど。このように情報とノウハウは切り分けられます。

別の例を考えてみましょう。例えば、社内のグループウェア上に営業マンたちが作ったさまざまなPR用のパワーポイント資料を格納しているとしましょう。このパワーポイント資料だけでは「情報」止まりです。しかし、これらの資料をどのような顧客に対して、どんなタイミングで使用するか。どこを強調するかなど、提案方法まで社内で共有を図ることができれば、それは「ノウハウ」となります。より優れたケースとして、営業マンのPR資料に対して、技術部門がチェックを行い、「こういったPR方法はスペック上の誤解をまねく」と指摘したり、「そのPRをしたいならこんな技術的バックデータがあるよ」とアドバイスをしたりできれば、ノウハウはさらに研ぎ澄まされることになります。

マネジメントの結果、呼び起こされる波及効果こそゴールと考える

ここまでまとめたように、ノウハウとは情報を活用することです。その結果、波及効果を呼び起こすことこそがゴールなのです。PR資料を集積してブラッシュアップし、さらに有効な販促活動を展開するように。
冒頭で示したように、ナレッジという言葉から脊椎反射で社内システムを構築してしまうことは過ちであることがおわかりいただけたかと思います。
しかし、ナレッジ・マネジメントとはノウハウを活用して売上の拡大や技術革新といった企業にとって重要な効果を生み出させる活動だとわかったところで、それがどのような方策によって達成されるのか?それこそが問題になります。

暗黙知を形式知に

まず重要なことは、ノウハウは企業内の各所に点在しています。営業部門には売り方のノウハウ。技術部門には製品の試験方法についてのノウハウ。財務部門には会計上のノウハウ。挙げればキリがありません。やっかいなことに、これらのノウハウは誰もが確認し、理解できる状況にないことが多い。要はある人の頭の中だけに存在するケースが多い「暗黙知」です。これがどのように社内に広まっていくのでしょうか? 多くの場合、暗黙知は徒弟制度のように先輩から後輩、上司から部下へと伝えられていきます。他部署からの影響を受けることなく、その部署のなかだけで。
最悪のケースは、こうした徒弟制度のような暗黙知の伝承が行われていくと、社内のタテワリ化がすすみ、ナレッジ・マネジメントの達成からどんどん遠ざかってしまうことです。
となれば、暗黙知を形式知化することが大事になります。

暗黙知と形式知については、「プロジェクト成功のために必要な「暗黙知」と「形式知」」で詳しく紹介をしているのでぜひ参考にしてください。

形式知化のために、システムの活用はアリ

社内に点在し、整理整頓がなされていない数々の情報。これらを整理整頓したうえで、適切に共有を図る。その意味では、冒頭に示したような社内システムの導入というのは解決策になりうると言えます。
例えば、不正会計問題から瀕死の状態になり、不死鳥のように復活した日本航空株式会社(以下、JAL)。不正会計にいきつくまで、採算が悪化した主たる原因の一つに情報伝達の遅さがあった。というのもエアラインにとって、座席をいくらで売るか、どのように空席を埋めていくかという「イールドコントロール」は生命線とも言えるもの。これは、チケットの市況をすばやく確認し、販売していくことこそが要とも言える。そこにおいて情報伝達の遅さは致命的な弱点でした。

具体的にはどのような状況だったのか。破綻前のJALでは、例えば羽田=伊丹、成田=JFKといった「個別の路線」単位で収支を把握していなかった。成田=ニューヨーク(JFKやニューアークなど)といった「路線ネットワーク全体」で収支を把握していたのだ。個別の路線について、収支状況が悪化していたとしても全体の把握までに数日間もの時間を要し、それに対しての手当ても遅れるという悪循環でした。インターネットでのチケット手配が当たり前になって、時間を追って座席が埋まったり空いたりする現在、この情報把握の遅さでは収支が悪化するのは当然でした。

そこで、JALは社内システムを刷新。社内イントラネットで表示されるメニューを従来の3分の1まで圧縮。加えて、インターフェイス上でも工夫を施しました。例えば、個別の部門ごとに目標を表示する部分を設け、それが達成されていればその旨を、反対に達成していなければその旨を表示した。こうすることで、社内の人間が目標意識を持って(多くの場合は収支を意識して)スピーディに業務に当たれるようになったのです。また、当然情報収集からイントラネット上への反映というワークフロー部分も改め、情報の伝達速度も向上を図りました。

こうした取り組みは、他国のエアラインに比べてJALには特に強く求められるものだったと言えます。というのも、他国のエアラインの場合、ひとつの拠点空港(ハブ空港)から世界の各都市へと放射線状に路線を張り巡らせる「ハブアンドスポーク」というネットワークが形成されています。この場合、拠点を中心に路線の運行状況や収支状況を把握すれば事足ります。しかし、JALの場合は明確な拠点空港がありません。羽田も成田も伊丹も重要な空港です。それぞれから国内外のさまざまな地域にネットワークを張り巡らせています。複雑怪奇なネットワークだからこそ、より情報は正確かつスピーディに把握する必要があったのです。その一助としてシステムの改善がなされたのでした。
その結果、イールドコントロールにおけるワークフローがかなり改善されたという経緯があります。

ナレッジ・マネジメントを成功させようとした場合、単純に情報を蓄積すればよいというわけではありません。蓄積した情報を整理整頓して、必要な情報にアクセスしやすい環境を整える「活用法」こそが成功のカギとなるのです。

情報の活用し、ノウハウに高める。そのために「社内の壁を取り払う」

さて、システム化による情報の共有はナレッジ・マネジメントを成功させるためのサポート役になることはわかりました。しかしながら、それこそが成功の秘訣、というわけではないことはこれまでまとめてきました。成功の秘訣は、情報を活用しノウハウとして企業における業績拡大やイノベーションと結びつける「仕組みや取り組み」にこそあります。
そこで、好例として挙げられるのが本田技研工業(以下、ホンダ)の「ワイガヤ」です。
ホンダ社屋は、一風変わったレイアウトがなされています。ひとつのフロアーに、部門の異なる部署が点在し、その中心には打ち合わせを行えるような大きめのテーブルが配置されています。部署間に壁は設けられていません。
例えば、商品企画のスタッフが企画立案で気になることがあれば、営業部門や技術部門の人間にすぐに声を掛け、小さなミーティングがテーブルで開催されます。文字通り、ワイワイガヤガヤと。

集団VS個性ではない。個性を尊重し、化学反応を

ホンダのワイガヤには暗黙のルールのようなものがあります。簡単に言えば、「個性を尊重する」ということです。ワイガヤに参加する人間は、必ず自らの考えをその場で躊躇なく発します。反対にそれ以外の参加者は、頭ごなしに否定するのではなく、その考えを受け止めます。そのうえで、自らの経験や知識を踏まえて「個性をもったアドバイス」や「個性をもった別の考え」を発します。これらの化学反応によって、新たなイノベーションにつなげていくのです。

自らの意見をまとめ、それをプレゼンテーションして集団を納得させる「集団VS個性」という図式ではなく、「個性を尊重し、化学反応を誘発させる」というスタイルなのです。
さらに言えば、このワイガヤに参加する人間は、年齢や立場、役職や部署といったものが異なる方が好ましいという考えがあります。違う考えが集まることで、より化学反応が起こりやすくなるのは自明の理です。大切なのはさまざまな違いを乗り越えて発言、発信できる「積極性」違いを受け止める「許容性」なのです。

ナレッジ・マネジメントにおいて、もっとも弊害になるのは部署間の壁。もっと言えば、「違いを嫌う姿勢」です。その部門だけの考え、意見に固執して他部署に存在する情報を獲得し、活用することができなくなることです。これを人同士の付き合い方に落とし込み、乗り越えようという取り組みが伝統的に行われているという実例です。様々なアイデアをモビリティとして結実させるホンダというスタイルと照らし合わせれば、なるほど納得する取り組みと言えます。

ワイガヤを広めるコクヨ

こうしたオフィスづくりから、ワイガヤ。言い換えればナレッジ・マネジメントの実践を考えているのがコクヨ株式会社(以下、コクヨ)です。コクヨは文具メーカーとして知られていますが、業態のひとつとしてオフィスの設計やリニューアルも行っています。

そこで作り出されるオフィスでは、ワイガヤを誘発できるように中央にミーティングスペースを配置し、人の導線を考慮して部署間の交流が活発化するようなレイアウトをした例がいくつも見受けられます。
ワイガヤを行うために、実は「場」というものが重要だと考えられています。会議室のように閉鎖的な環境では自由な意見が出づらくなります。ワイガヤの真骨頂は、まずは雑談から入り、リラックスした空気の中で、積極的に意見を発信していくことが求められるからです。それゆえ、コクヨのオフィスづくりではワイガヤを誘発させようとする場合、広々とした吹き抜けを設けられたホール部分にミーティングスペースが配されたりします。
ワイガヤを介した他部署からの情報獲得、そしてノウハウ化という部分にナレッジ・マネジメントの好循環を生み出すきっかけがあると考えているからこそ、「場」という一つの要素にフォーカスして具体策を講じているのではないでしょうか。

実際のオフィスではなく、仮想空間での知識交流も

実際のオフィス空間ではなく、仮想空間、つまり社内システム上でワイガヤ的交流を生み出そうという例もあります。それが富士ゼロックス株式会社(以下、富士ゼロックス)です。
富士ゼロックスと聞くと、プリンターや複合機のメーカーというイメージを持つ方が多いかもしれません。しかしながら、富士ゼロックスをはじめとする印刷複合機を手がけるメーカーは一様に「複合機を軸にしたソリューションを企業に提供する」という流れに舵を切っています。というのも、印刷複合機の市場は需要の頭打ち、そしてパイの奪い合いという環境になっているためです。パイの奪い合いに勝ち、新たな価値を顧客にもたらすためにも複合機とは異なるなにかを提供しなければならないのです。

そのために、イノベーションは必要不可欠といえる要素。そこで富士ゼロックスは、培ってきたソリューションの力を社内に向けても活用して、よりイノベーションを起こしやすい環境を構築しています。
まず、同社が有する数千を超える特許情報や技術情報を情報の保管庫として活用するシステムに保管。これに対して、社内の人間が簡単にアクセスしやすい環境を整えました。

もっとも、これだけであれば、格納されている内容は情報に過ぎません。富士ゼロックスが異なるのは、この情報を活用する上で、「全員設計」というフィロソフィーを持って、部署間の動きに落とし込んでいることです。
全員設計とは、なにかの開発を行う場合に、それに関わる全スタッフが意見や改善策を出し合うという思想です。その際に、先に触れた情報の倉庫を活用し、過去のデータを洗い出して意見に役立てます。改善策や意見では、開発に関わる疑問点やボトルネックになりそうなところを徹底的に洗い出すため、結果として開発期間の短縮化、あるいは仕様変更の低減を図れることになります。もっとも、この洗い出し作業では、さまざまな意見が出るわけですから、当然取り組むべき情報について優先順位がつけられることは言うまでもありません。この一連の流れをミーティングや社内システム上のやり取りで行っていく仕組みを持っているのです。

ナレッジ・マネジメントを成功させるルーティーン

このように事例を通じて考えると、ナレッジ・マネジメントは、単純に社内の「情報」を集積・蓄積するだけでは達成できないことがわかります。
それは、ナレッジ・マネジメントを成功させるための第一段階に過ぎません。そこから、情報を活用し、部署間の壁を超えてアイデアを出し合い、イノベーションや業績向上の「取り組み」に昇華させる。そのワークフローこそが重要になります。そのために、システムを活用し、部署間の連携でさまざまなルールを設けることが成功のための秘訣といえます。
こうした一連の流れがよどみなく実行されることで、晴れてナレッジ・マネジメントが成功することになります。

ナレッジマネジメントをもっと簡単にできるツールの紹介は「社内の情報共有でお困りの方へ 社内のナレッジを蓄積・共有できる無料ツールを5つ比較してみた!」にて行っています。ナレッジマネジメントにお困りの方はぜひ参考にしてみて下さい。

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