働き方改革も大きく進み、今や「労働生産性向上」という言葉があちらこちらからも聞こえてくるようになりました。実際に労働生産性を向上させようと考えてもどこから手をつければよいのか分からないという方はいらっしゃいませんか?
今回は筆者が体験した事例を交えながら、労働生産性向上のために個人が心がける5つのこと、組織が心がける3つのことについて紹介をしていこうと思います。ぜひこの記事を読んで、あなた個人だけではなく、組織も労働生産性向上を目指してみてください。
生産性の低い会議
以前、諸事情である会社の会議に参加したことがあります。
その会議は全体的に、営業マネージャーがワーッと生産性向上の重要性を説く会議で、ワーワーと部下たちに訴えていました。
「現在の時代は残業したら労基署にさされるんだ!」
「だから生産性を上げなきゃダメなんだ!」
「これは時代の流れなんだ!」
う~む…これで本当に部下は動くのだろうか…とその声を聞きながら、私はひとりで唸っていました。どこか現場の責任にしてしまっていますし、具体性は無いし、そもそもこの会議、営業マネージャーが遅刻してきたことで20分遅れでスタートしています。
「な…なんて生産性の低い会議なんだ…」
その会社の皆さんには申し訳ありませんが、もはや落語のような状況でした。
この話を読んで笑える人は、きっと幸せです。実際、世の中にはこんな落語のような現場が数多く存在しているのです。
ゾウのような会社に
これはあくまで例えですが、私が接している会社の傾向だけで考えますと、日や週単位で会社の成果(売上等)を追っている会社は、なかなか生産性が上がりにくい傾向を感じます。従業員たちも生産性向上に対してモチベーションが高いとは言い難いです。もちろん全てではありませんが、義務だから仕方なく生産性向上に取り組んでいる、というスタンスをよく目にします。
かたや10年以上先の大きな視点で会社の成果を考えながら、現時点まで逆算して生産性向上を目指している会社は、なんだかんだ言って徐々に実現し始めているように思います。従業員たちもモチベーションが高く、自らいろいろと考え、世の中に発信しながら取り組んでいるようです。
この関係性は、どこか体内時計や睡眠の話に似ているな、とよく思います。ゾウの体内時計とネズミの体内時計がまるで違うことをご存知でしょうか? ゾウは心臓がドクッと鳴る時間が3秒、しかしハツカネズミは1分間に600回とか700回。おおよそ0.1秒と言われています。だからゾウはゆとりを持って、のっしのっしと歩き、ネズミはとんでもなく早く走り回ります。
しかし、睡眠を見ると、実はゾウの方が眠っている時間が短く、ネズミの方が長いそうです。ネズミはかなり非生産的に動き回っていて、結果的に疲れやすいと感じられます。
これを会社に置き換えると、目の前の利益と目の前だけの生産性向上に追われるよりも、視野を大きくしながらのっしのっしと成果を求めている方が、結局は生産性が向上すると言えます。会社がせいぜい3年後あたりまでしか見ていないとなると、その会社の生産性向上はなかなか実現が難しいのかもしれません。そのような会社は残業も常駐化していることでしょう。しかし残業を減らして生産性を上げる方法ももちろん存在します。それは「残業を減らして生産性上げることは魔法でしかないというあなたに伝えたい、すぐにできる7つのこと」で紹介をしているので、ぜひ参考にしてください。
生産性向上を実現するために心がけること
生産性向上を実現するために心がけるためには、明らかに会社全体で取り組むべきです。しかし会社に勤めているとしたら、そうも言っていられない場面も多いでしょう。
そこでイメージしやすい生産性向上のために心がけることを、個人で5つ、組織で3つだけ並べてみます。
生産性向上のために個人で心がけること
1. 自らコントロールする意識を持つ
これは「自ら」という点がポイントです。
スマホ依存になる人は、寝る直前までスマホを触っていたり、起きてすぐにスマホを触ったりします。これは完全に自分がスマホに支配されています。
仕事においても似たようなことが起こります。タスクに支配されていたり、上司に支配されていては、生産性向上はなかなか生まれません。
大切なことは自らの意志によるコントロールです。タスク管理の記事等でコントロールについては書いたことがありますが、とにかく時間も仕事もプライベートも、タスクに管理されるのではなく、自らの意志でコントロールすることが大切です。
2. 気が乗らないタスクは早く終わらせる
気が乗らないタスクを放置すると、手を付ける頃にはもっと気が乗っていません。結局、仕事全体がズルズルズルズル~と後ろ倒しになっていき、とても生産性が悪くなります。2:8の法則で言うと、貴方が満足できるタスクは全体の2割かもしれません。しかし、その2割で貴方の成果の8割を構築できると言えます。
まずは2割のタスクに集中できる状況を作りましょう。そのためには、気が乗らないタスクは早く終わらせるべきです。
例えが良いのかわかりませんが、筆者はもともと求人広告の制作もしていました。求人広告とはいえ、当時はクリエイティブを競うコンテストがあり、なんとか賞を受賞したいと考えていました。そこで周囲のよく受賞する先輩方を見てみると、彼らは先に気が乗らないタスク、例えば「職種」「給与」「待遇」等の求人データを先に打ち込んでいました。気が乗らないタスクをとっとと終わらせ、完全に集中できる状況を整えてから、クリエイティブに関わる「キャッチコピー」等に時間をかけていたのです。
もちろん私も真似をし始め、結果、賞を受賞するに至りました。
3. 気分も重視して良い
仕事の優先順位をつけたり、タスク管理をすると、どうしても機械のように動かなくてはいけないと錯覚を起こします。けれどそんなことはありません。人間は感情を持っていて、気分は仕事の出来に大きく左右しますから、そこまできっちりとすることもないのです。
O-リングのテストの話をよく聞くと思います。親指と人差し指で「O」の形の輪を作り、力を入れます。その親指と人差し指に他人が指を引っ掛け、親指と人差し指を離そうとする、あのテストです。不思議と、輪を作っている人がポジティブな言葉を発すると、指に力が入りなかなか輪が取れませんが、ネガティブな言葉を発するとアレっという間に輪が取れます。
精神論にはしたくありませんが、気分よく仕事をすること、ポジティブに仕事をすることで、パフォーマンスはかなり上がります。他人に迷惑がかからないなら、ある程度気分を重視してタスクの順番を変えたりしても問題が無く、むしろパフォーマンスが上がり、生産性が高まることがよくあります。
もちろん服装も気分によって選びますよね? 生産性向上には服装も関わっているようである服装をすると生産性向上するらしいとのことです。詳しく知りたい方は「生産性を高めるためには、どのような服装で仕事をすればいいのか?」で紹介をしているので、ぜひ一読してみてください。
4. ムダな時間を持つ
筆者は12年前まで喫煙者でした。煙草をやめたときに、一番に感じたのは「仕事のリズムが作りづらくなった」ということでした。
1時間に1本吸っていましたから、仕事のリズムは「55分働いたら5分休憩」というリズムで進行しており、その55分はゴールに向かって集中し、5分で喫煙仲間と無駄話をして頭をリセットしていました。結果、意外と生産性は高まっていました。(体には悪いですが…)
5分と言わず、もう少し大きな視点で見ても無駄は大切です。これは行きつけの整体師さんがおっしゃっていたのですが、人は1日に30分、真っ白な壁を見つめて何も考えずにするくらいの無駄が無いとガス欠になる、とのことです。本当かどうかはわかりませんが、要するに完全な無駄(無というべきでしょうか)が無いと、生産性(生産力と言うべきでしょうか)は低くなっていく、ということです。
いまどきの企業のオフィスを訪ねると、エントランスがとても広かったり、とてもオシャレなオブジェがあったりします。あれも考えようによっては無駄です。しかしその無駄が、従業員のモチベーションになり、取引先の信頼になり、ブランディングになっている。絶対的に必要な無駄、なわけです。
貴方が自分のタスクに無駄な時間を入れてなかったら、ぜひ入れることを始めてください。
5. 本質を見抜く癖をつける
生産性を高めるのに最も大切なことは、「本質を見抜く癖をつける」これに限るのではないでしょうか。
物事や、いま自分が手掛けている仕事の本質を見つける。自分にとって大切なものを見極める。先程、2:8の法則と書きましたが、結果的に2:8だった、ではなく、自ら2を見つけにいく。2を見つけたら、そこにパワーを注力をして、成果を高める。結果、生産性が高まっている。という考え方です。
SNSの時代において、無意識のうちに自分が価値観ごと流されていたり、本質を見誤ったり、自分にとって大切なものを見失ったりしがちです。便利なはずのビジネスSNSも、使い方を間違えると、そんな危険性があったりします。
自ら本質を見抜く癖は、貴方の人生にとっても大切な癖なのです。
生産性向上のために組織で心がけること
従業員が「フロー体験」できる環境に近づけるという考えが大切と言えます。フロー体験とは、自分の心理的エネルギーが対象物に完全に向かうことで成功しているときの精神状態です。
なんだか難しく書いてしまいましたが、スポーツをしていた人はゾーンという言葉で知っているのではないでしょうか。試合中に夢中になり、気が付いたら素晴らしいパフォーマンスをしていた、あのときの感覚です。
1. 従業員の精神的安全性を確保する
フロー体験には「創造的空間配置」や「活動の場のデザイン」が必要と言いますから、オフィス環境は、なるべくシンプルに、無駄なものは置かないデザインが好ましいと言えます。
自由に発想できて、自由に発言しても許される空間。全員がフラットな位置で話し合いができる空間。思い付いたことをすぐに書き留められる空間、等々が考えられます。
オフィスにデザイン性があると、発想力と共にモチベーションも上がりやすく、大変有効です。さらに座りっぱなしではなく、何かと適度に動きやすい環境が良いでしょう。
上司を含む人間関係という面では、先述したような上司が一方的に大声で話し、それに対して誰も反対意見が言えない、という環境は安全性が確保されていません。
上司にも自由に意見を言えて、それを受け止められる空気。だからこそ認め合い、高めあい、笑いあえる空気。そして、それぞれの方法論を否定しない空気が大切です。
最低でも、従業員のミスばかりに目を向けて、いつ怒られるのかとビクビクするような環境や、上司同士が内緒話ばかりしている環境からは、残念ながら生産性の向上はまず生まれません。
2. スター選手を創らない
生産性が高いと言われる従業員、パフォーマンスがいいと言われる従業員がいると経営者は喜びます。が、そんなスター選手の生産性を高めるために、実は周囲が生産性を低めている例はかなりあります。
それよりも全員が大切な存在であるという考えからスタートした方が、よほど心理的エネルギーは発揮されやすい環境になります。生産性向上に対して、意外と重要なポイントです。
3. 社会的感受性を尊重する
海外の有名な研究で、成功するチームは「社会的感受性」が高かった、という結果が出たそうです。これは日本人特有の空気を読むということとは違います。
相手の感情を感じられることで、相手の話を余裕を持って聞くことができ、相手と与え合いながら、本質的な議論ができるという意味でとても大切になるのです。
社会的感受性を尊重する、理解する、そんな環境づくりが大切です。
労働生産性向上のために個人が心がける5つのこと、組織が心がける3つのことについてのまとめ
いかがでしたでしょうか?
生産性向上については、いろいろな方法が世の中に提示されています。しかしながらどれが正解というわけではなく、根底にしっかりとした考え方が無いと、いつまで経っても実現はしないでしょう。ぜひ個人、組織にあった労働生産性向上の方法を参考にしてみてください。