2019年4月に大企業を皮切りとして「働き方改革関連法」が施行されました。業務の生産性、効率性を求め、あらゆる制度やツールを導入して、なんとか「改革」を試みる組織も多いことでしょう。その結果、多少なりとも家族との時間や育児の時間、さらには自分の時間が増えたと感じる人がいる一方で、特に変わらないと感じる人もいるかもしれません。
仕事の時間が減る、つまり「何かの時間が減る」「何かの時間を減らす」ということは、逆に「ほかの時間が増える」「ほかの時間を増やす」、ということとも捉えられます。
今までは仕事の時間を「減らす」ことに集中しがちでしたが、今回は仕事時間以外の「増えた時間」、つまり「余暇」や「余白」の時間である「休み」や「休み方」に注目して、これからの働き方を考えていきたいと思います。
フィンランドの労働環境と働き方
私が在住するフィンランドでは、一般的なビジネスアワーは午前8時〜午後4時まで。企業で働く人々には、週休2日制、夏季休暇4週間、冬季休暇2週間、未就学および就学児童がいる家庭はこれに加えて秋休み1週間、スキー休暇1週間などの年次休暇があります。
時間外勤務については、マネジメント層や経営層は仕事を自宅に持ち帰って行う場合もありますが、基本的にフィンランド社会において「残業」という概念および言葉はありません。
その反面、業種や職種によって在宅勤務を基本としたり、推奨したりしている企業が多いようです。あわせてカフェやコワーキングスペースにおけるWi-Fi環境をはじめ、労働環境が整備され、充実しています。
日本も最近ではこのような労働環境が整ってきています。フィンランド社会で労働環境が整備されているのは、「働き方」よりも「休み方」に重きがおかれている背景があります。人生における労働時間の割合は、ざっくりいって3分の1ぐらいでしょうか。残りはすべて余暇と捉えられています。
それはなぜでしょうか。仕事をしなくても収入のサポートやキャリアアップができる社会制度(セーフティーネット)などが整備されていることもありますが、それ以上にやはりフィンランド人自身が「休みを取ること」を大切だと考えているからだと思います。
日本の働き方はここが大変
対して日本人はどうでしょうか?
日本のカレンダー上では、土日祝日を合わせると120日前後の休みがありますが、すべての企業がカレンダー通りに休んでいるわけではありません。厚生労働省による「平成30年就労条件総合調査」では、労働者1人当たりの平均年間休日数は113.7日となっており、完全週休2日制を採用している企業の割合は46.7%と半数以下になっています。
また、平成30年にエクスペディア・ジャパンが実施した「世界19ヶ国有給休暇・国際比較調査2018」によると、3年連続で日本の有給休暇取得率は50%、有給取得日数は10日と、いずれも19ヵ国中最下位となっています。
同調査によると、休みが不足していると感じている人の割合が、10~40代は6割以上なのに対し、50代以上などの上司世代は4割にとどまっています。上司が有給休暇取得に協力的である割合も日本は43%と19ヶ国中最下位で、長期休暇を取得する割合は2割と最下位です。
つまり、日本では若年層ほど「休暇を取得したい割合」が高いものの、50代以上の上司世代が「休みを欲しない」傾向にあるため、休むことに罪悪感を持ち「仕事を休みにくい労働環境」が確立されているといえるかもしれません。
また、休暇中も日本人は携帯電話などで仕事関連の連絡に備えている人が多いです。日常の雑務を長期休暇中に持ち帰る人も多く、「休みも休まない」傾向が諸外国に比べて高いのは間違いないでしょう。
フィンランド流の休み方とは?
それでは、フィンランド人の「休み方」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。フィンランドの伝統文化とともに年間、週間単位でそれぞれみていきたいと思います。
フィンランド流・年間の休み方
まずフィンランドの年間祝日(旗日)ですが、たったの10日ほどです。その中にはカトリック教関連の祝日が多いため、移動祝日はその年によって変わります。日本より祝日数が少なく、先述の長期休暇などに集中して休みを取る人が多いようです。
その長期休暇のうち最も長い夏季休暇には、クリスマスと同じく年中行事の中でも重要な行事とされている「夏至祭」「Juhannus(ユハンヌス)」という祝日があります。ヨーロッパのキリスト教国において、洗礼者ヨハネの誕生日とされている6月24日を祭日としています。
1954年以前はこの日をユハンヌスとしていましたが、それ以降は6月20日〜26日の間の土曜日に設定されているのです。
一般的に夏季休暇は、「Mökki(モッキ)」と呼ばれるコテージに滞在して休暇を楽しみます。
日本の感覚からすると「コテージ・別荘」というと、なんとなく高級なイメージがありますが、フィンランドでは、海や湖の近くに自分たちの手でコテージを作ります。
そこで、長期休暇中に家族や知人友人と一緒に過ごしたり、大事なお客を招いてサウナでもてなしたりと、普段の生活とはまったく別のことをして過ごします。もちろん、ひたすら読書、サウナと海を行き来して心身を癒す、森の散歩で森林浴を楽しむなど、自分のためだけの時間をゆったり過ごすことも忘れません。
夏季休暇が終わると「パソコンのパスワード忘れちゃった」とか「タイピングがどうも遅くなって」などという言葉がオフィスで飛び交うことも。そのような発言をする人は、夏季休暇を思う存分満喫した証拠。これが夏季休暇後のオフィスの風景だそうです。
ちなみに学生たちも普段は毎日宿題に追われていますが、この4週間の休暇にはゼロ。学業のことをすっかり忘れて、家族旅行や世界放浪のひとり旅、サマージョブ(夏季休暇のみのパートタイム)など、それぞれの時間を過ごしています。
休暇はしっかり仕事から離れ、プライベートの時間を満喫するのがフィンランド流なのです。
フィンランド流・1週間の休み方
次に1週間単位でみてみましょう。
フィンランドの伝統文化として、木曜日は「豆スープの日」といわれています。豆スープの歴史は、カトリック教時代の断食日が金曜日であったため、その前日の木曜日に栄養価の高い豆を食べて断食を乗り越える、といういい伝えが根づいてきたようです。
しかし、共働きの家庭が多い現代では、「1週間のうちの1日は手抜き、または毎週決まったメニューを食べる」という意味で「木曜日は豆スープ」という習慣が浸透しているようです。つまり、木曜日は仕事が終わったら食事を簡単に済ませて「休む」という家族が多いのです。
年単位でも週単位でも、休む時間をきちんと確保するのが自然なことになっているのですね。
まとめ
このように、フィンランドと日本とでは、休み方に対する意識が対極にあるといっても過言ではありません。休みづらい環境下で当然のように働いている日本人と、休むことが当然となっているフィンランド人とでは幸福度にも大きな差があります。
平成31年3月に国連が発表した国別幸福度ランキングで2年連続1位となったフィンランドに対し、日本は156ヶ国中58位。特に「社会の自由度」や「他者への寛容さ」で低迷していることから、社会の仕組みそのものと大きな隔たりがあると考えられます。
日本で本当の「働き方改革」を実現するためには、休むことを悪とする、狭量すぎる社会の仕組み改善が第一の課題なのかもしれません。