リレーインタビュー連載『私の仕事が変わった瞬間』。 本連載では、ユニークな事業に取り組む方々へのインタビューを通して、「日本の働き方事情がこれからどう変わっていくのか」を探っていきます。
本連載第6回目のお相手は、相原陵介さん。慶応義塾大学卒業後、LINE株式会社に入社。2019年4月に同社を退職し、現在は、ライバーを支援する事務所である「CooPromotion」の代表として働く。その傍ら、動画エンタメに特化したWEBメディア「Obaroke Press」の運営や期間限定でのタピオカイベントなど、流行をキャッチアップしながら様々な活動に取り組まれています。
今回は、そんな相原さんの「仕事や働き方」に対する価値観をインタビューしてきました。
相原 陵介さん(プロフィール)
1995年、品川生まれ。
慶応義塾大学卒業後、2018年の4月に新卒としてLINE株式会社に入社。LINEスタンプや公式アカウントを企業のプロモーションに活用する法人向けのソリューション提案を1年間担当する。その後、2019年4月にLINE株式会社を退職。現在は、個人事業主として、自らの経験をもとにライブ配信者を支援する事務所「Coo Promotion」を運営。
新卒でLINEに就職した理由と企業選びの軸
――さっそくですが、なぜLINE株式会社に就職しようと思ったのでしょうか?
就活をはじめた当時は、漠然とIT関連の企業に就職したいと考えていました。正直、自分が学生の頃は「自分は何が好きで、どんな業界に進みたいのか」が分からなかったんです。
そんななかで今はやりの「IT」という軸さえおさえておけば、「IT×X(何か)」というかたちでつながりを広げていけるんじゃないかなと思っていました。そのためIT関連の企業に絞って自分が行きたい会社を探していました。
あとは、「自分が裁量をもって仕事を進められる仕事」かつ「一定の社会的影響力をもった会社」という軸で会社を選んでいました。
今では、大手といわれるLINEも2017~2018年頃は、LINE PayやLINE MUSICといった今となっては大きなサービスなども立ち上げ初期のフェーズでした。そうすると、就活をしている僕からすると、いい意味で幅がきかせやすいというか、LINEのサービス自体も横派生していくフェーズだったので、自分の興味に応じて様々な仕事が経験できるかもしれないと考え、次第にLINEへの就職を目指すようになりました。
新卒で入社したLINEを、1年で退職した理由
――その後、LINEに就職し1年で退職されたとお聞きしていますが、それはなぜだったのでしょうか?
LINEを辞めようと思ったきっかけは、会社に対して感じていたギャップです。僕は、入社したときから「自分がやりたい領域や業界がみつかったときには、そこに携われる部署に異動したい」と考えていて、会社を選ぶ際も「異動の柔軟さ」も重視して見ていました。
僕がLINEに入って1年ほど経った頃に、ちょうど「電子決済」の動きが強まっていて、その時期に、LINEは「LINEPay」に力を入れていました。せっかくLINEにいるなら、自分もLINEPayのサービスに関わりたいと考えていて、むしろ当時は、「いまこのフェーズでLINEにいてLINEPayをやっていないなんて理解できない」くらいのスタンスだったかもしれません。
それくらいLINEPayへの想いが溢れていたので、人事に「LINEPayの部署に行きたいです。」と打診してみたのですが、残念ながら希望は通りませんでした。
そのとき、LINEは思っていたよりも「大企業体質」だったいうことに気づいて、そこで会社にたいして自分の想いとのギャップを感じるようになりましたね。
結局LINEPayには行けず、悶々としていたのですが、あるとき、ふと「このタイミングでLINEPayに行けないなら、いま自分がLINEにいる意味ってあまりないな」と思って、そこから独立への意思が固まっていきました。
そこからは早かったですね。その後、2019年の4月にLINEを退職し、個人事業主としての活動を開始しました。
LINEネームがなくなったとき、自分には何ができるんだろう
――大手の「ネームバリュー」や「待遇の良さ」に後ろ髪を引かれて、辞めるに辞められない人も多いような気がするのですが、なぜ相原さんはLINEを辞めることを即決できたのでしょうか?
僕自身、実はそんなに人生に対して大きな成功を求めていないんです。「生きていければいいや」くらいの感覚で生きています。だから、いまLINEを辞めて上手くいかなくなったとしても「またどこかに再就職すればいいや」くらいの気持ちで決断しました。
さらにいうと、「会社を辞められるタイミングっていましかないな」って思ったんです。30歳、40歳になって、家族ができて、子育てもするとなると、会社を辞めるリスクもどんどん高くなります。
おそらく、僕は家族ができると会社を辞められない人間なので、自分の身ひとつで辞められるいまのタイミングで行動してみるのも、人生経験としてはありかなと思いました。
あとは、自分の力で挑戦したいという想いもあって。これまでLINEという会社のネームバリューを借りて、大手企業への提案営業をしてきたのですが、LINEの後ろ盾がなくなったときに「果たして自分には何ができるんだろう」って思っていて、それを試してみたかったというのもあります。
独立後、ライブ配信の道へ
――今は独立されて、どういったお仕事をされているのでしょうか?
いくつかあるのですがメインは、ライブ配信関連の事業です。実はLINEを退職した後、2019年5月から「17Live」というライブ配信アプリでライバーとして配信を始めました。
ライブ配信は、ライバー(配信者)に対して、彼らの活動を応援したいリスナー(ライブ視聴者)と呼ばれる人たちが「投げ銭」というシステムにより、ライバーが継続的に活動ができるよう支援するという仕組みで成り立っています。
僕に関しては、ライブ配信を始めて、わりと順調に人気も出てきて、2019年9月ごろに17Liveで開催されていたあるイベントに参加しました。そのイベントで上位に入ることができて、渋谷の田園都市線の入り口にあるポスターに掲載させて頂いたこともあります。
いまは、ライバーとしての自分の実績や経験を活かして、ライバーを支援する「Coo Promotion」という事務所を立ち上げ、そこで代表をしています。
ライバー同士がつながる場所を作りたい
――なぜ、ライバーの事務所を立ち上げられたのでしょうか?
自分もライブ配信をしているのでよくわかるんですけど、ライバーって実はかなり「孤独」なんです(笑)。
そもそもライブ配信のためには、「Wi-Fi環境」と「充電環境」が必須なので、ほとんどのライバーさんは屋内で1人で配信しています。それがライバーの孤立問題につながっています。僕自身、そこに課題を感じていたので、自分がライバー同士をつなぐコミュニティを用意することで、ライブ配信市場全体をもっと盛り上げられるんじゃないかなと思い、事務所を立ち上げました。
――既に他のライバー事務所もあったかと思うのですが、なぜご自身で事務所の立ち上げを決意されたのでしょうか?
これは、僕の経験則なのですが、ライバーにはライバーにしかわからない悩みがあると思っています。実は、既存のライバー事務所の多くは、芸能事務所として活動しつつ、その一部としてライバーを抱えているケースが多いんです。
芸能とライブ配信の世界って、似たようで少し違っている部分もあるので、ライバーの悩みに対してクリティカルな回答を返せる事務所が少なかったんです。そこで、ライブ配信者である僕自身がライバー事務所を立ち上げることで、より本質的なサポートができるのではないかなと考えました。
いまは、ライブ配信初心者の人に向けて、イベントの選定や配信の相談などのサポートをメインに行なっています。
「ライブ配信」×「広告」で市場拡大に挑戦したい
――今後、ライブ配信関連でチャレンジしていきたいことはありますか?
「ライブ配信」×「広告」にはチャレンジしてみたいですね。具体的には、企業とコラボして、ライバーに投げ銭以外の収益源を作るということをしたいです。
すごく現実的な話をすると、ライブ配信って「投げ銭」を多くいただけないとライバーは配信を続けることが出来ないんですよね。自分の時間の多くを費やしていますから。
でも、ライバーが配信を続けられなくて本当に困るのは、実は彼らを応援しているリスナーなんです。熱烈なリスナーは自分が応援しているライバーが有名になったり、イベントに勝ったりすることを望んでいます。そのため、もしライバーが生活に困っていたら、リスナーは自分の生活を圧迫してまで、ライバーの生活を支援するといったことも起きるかもしれない。
そうなると生活が圧迫されたリスナーは、ギフトを贈れるお金がなくなって応援を辞めてしまう。そうなると、市場が小さくなりライバーも減っていく。こうした「負の連鎖」が生じかねません。
こうした状況を避けつつ、ライブ配信市場を大きくしていくためにも、リスナーもお金をかけずに、ライバーも配信を続けられる世界をつくりたいなって思っています。
そのための方法として考えているのが「ライブ配信」×「広告」のモデルです。ライブ配信に可能性を感じている企業の方と一緒にタッグを組んで、面白い未来を作っていけるといいなと思っています。
働くうえで大切にしている「価値観」
――今回の取材のテーマは、「働くということ」についてです。相原さんが、普段お仕事をするうえで大切にされていることはありますか?
そうですね「大切にしていること」とは少しズレるかもしれないのですが、いままで誰も考えついたことがないことをやっている瞬間はすごく楽しいです。
例えば、2019年の夏に2週間限定でタピオカ屋をやったのですが、そのときの経験は、いまも鮮明に覚えています。当時は、単純にタピオカブームにのっかって、「夏×タピオカ」で何か事業をしたいなくらいのノリだったのですが、企画を考えているときに「これ、ライブ配信と掛け合わせたらどうなるんだろう?」とアイデアが浮かんできて、最終的に「ライブ配信ができるタピオカ屋」をやってみることに決めました。
先ほどお話ししたように、これまで多くのライバーは、家で1人でライブ配信をすることがほとんどだったんです。その理由が、外出先だとWi-Fiと充電の環境が十分にないこと。だから、今回のタピオカ屋では、Wi-Fiと充電環境も完備して「ライバーであれば誰でも配信可能です」という状態にしてお店をオープンしました。そうしたら、ターゲットにしていたライバーだけでなく、そのリスナーの方々もお店に足を運んでくださり、大いに盛り上がりましたね。
「新しい集客のかたち」というと大げさかもしれませんが、「ライブ配信×タピオカ」という今まで考えついたことがない企画を実現することができて楽しかったです。今後もそういうことにどんどんチャレンジしていきたいなと思っています。
――ご自身のなかで、仕事をする際の「価値観」や「軸」みたいなものはありますか?
仕事をする際に大事にしている価値観は「やれることは何でもやる」ということです。とくにLINEを辞めてから、その想いは強くなりました。
LINEにいたときは、「売上につながるか」や「会社のためになるか」を軸にしていたので、仕事を取捨選択することもあったんです。しかし、いまは全て自分でやるしかないので、仕事を取捨選択せず、やれることは全部自分でやっています。
――LINEを辞めてから、大きく価値観に変化があったのですね。
そうですね。
独立してからは、ゼロイチを経験することが多くて。LINEにいたときは、「いまあるものの売上をいかに最大化するか」みたいなことがメインだったので、今やっているようなことはほとんど経験してきませんでした。
でもいまは、何をするにも自分ひとりでやらないといけないので、何かをはじめるときは、自然とゼロイチを経験することになる。
これにはメリットがあって、最初からすべて自分でやっていると、何か一つ問題が起きたときにすぐに原因を発見して、すばやく解決できたりします。この能力は、独立してから身につけることが出来たので良かったと思っています。
かっこいい生き方を捨て、泥臭く、やりたいことをやっていく
――相原さんはライブ配信事業をはじめ様々な活動に挑戦されていますが、ご自身の「やりたいこと」というのは、いったいどこから見つけてくるのでしょうか?
それは多分、なんでもいいから「自分でゼロからやってみる」という経験をすると、どういう感覚なのかよくわかると思います。本当に簡単なことからで良いです。
僕がやっているライブ配信だってスマホ1つでできるし、YouTubeだってGoogleアカウントをもっていれば簡単に始められるし、TikTokだってそう。それがお金になるかどうかは、最初のうちはあまり考える必要はなくて、とりあえずやってみることが大事だと思います。
実際にやってみると、それが自分のやりたいことかどうかは意外とすぐに分かります。最初は乗り気じゃなかったことでも、やってみたら意外と面白かったなんてこともよくあります。
例えば、僕も自分がライバーになるとは、これっぽっちも思っていませんでした。もともと表現者側というよりは、事業をつくる側で考えていたので。でも、独立してから仕事を探しているときに、簡単に始められるからと思って、とりあえずライブ配信をはじめてみたら「意外と楽しいじゃん」って思いました。自分のやりたいことは、そうやって見つかっていくんだと思います。
――とはいっても、多くの人はどうしても自分の「理想」を追い求めてしまいますよね。。
僕も大学生くらいの頃は「かっこいい生き方」をしたかったんです。いい大学を出て、いい企業に入って、シニアマネージャーになって、30代で年収1,000~2,000万円みたいな(笑)
でも、「いかに自分の作業を効率化するか」みたいなことをずっと追いかける必要があるなって思ったんです。でも、立ち止まってよく考えてみると、これが果たして自分が追い求めていた「スマートに生きる」の答えなのかな?といった疑問が浮かんできたりして、そんなことをLINEを辞める前に延々と考えていました。
社会に出て、1つ気づいたことがあります。それは「隣の芝はいつだって青く見える」ということです。大手企業のマネージャーや部長とかって、会社の外からみるとスマート見えるんですけど、会社の中から見ると「従業員の1人」でしかない。この事実をどう捉えるかは人それぞれだと思うんですけど、一企業のマネージャーや部長は、僕にとっての「なりたい像」ではありませんでした。そう思ったときに、独立を決意して、もっと泥臭く、やりたいことをやっていこうと考えるようになりました。
多くの学生さんもかつての僕と同じように「かっこよく生きなきゃいけない」と心のどこかで思っていると思うんです。だけど、「そんなことないよ」って伝えたい。
たとえば、YouTuber。彼らは、いまでこそかっこよく見えるけれど、YouTubeが流行る前は、世の中からみれば「邪魔な存在」として見られていました。だけど、いまや「子どものなりたい職業ランキング1位」で、世の中の「憧れの存在」になっているわけです。いまとなっては、YouTuberが誰かとっての「スマートな生き方」なんですよね。
でもそれは、自分たちがやりたいことを、楽しくやってきた結果、気づいたらそうなっていただけで。だから、いま現状に不満がある人たちは、自分の興味があること、心が動くものが何なのかを考えて、「自分でゼロからチャレンジしてみる」ということをやっていけばいいんじゃないかなって思います。
終わりに
私自身、就職した当時は、同世代で活躍している人や大手企業に入社した友人のSNSの投稿を見て、「自分も彼らみたいかっこよく生きたいな」と思うことがよくありました。しかし、相原さんへのインタビューを通して、自分に見えている「かっこいい生き方」は、自分にとっての正解ではないかもしれないということに気づきました。
そして、みんなが「いいねボタン」を押している道を進むのではなく、自分が良いと信じる道をがむしゃらに進んでいくことの大切さに気づくことができました。
いつだって、隣の芝は青く見える。でも、見えている芝のほとんどは、Instagramのストーリーと同様に彼らの「最高の瞬間」を切り取ったものでしかないのです。そんな幻想に惑わされて、劣等感を感じているくらいだったら、やりたいことを全力でやろうと思えるようになりました。
本記事が、読者の皆様が一歩踏み出すきっかけなれば幸いです。
Interview / 大山 陸
Writing & Photography / 越野 樹