リレーインタビュー連載『私の仕事が変わった瞬間』。 本連載では、ユニークな事業に取り組む方々へのインタビューを通して、「日本の働き方事情がこれからどう変わっていくのか」を探っていきます。学生や若手社会人の皆さんにとって、将来のキャリアについて考えるヒントになれば、という思いで執筆しています。
本連載第2回目のお相手は、クラウドファンディングサービス「MotionGallery」代表の大高 健志さん。「MotionGallery」はアートや映画、音楽などクリエイティブな作品に特化したクラウドファンディングのプラットフォームで、2011年の設立以来、累計2,500件以上のプロジェクトを成功に導いてきました。しかしサービス開始当時の2011年、日本でクラウドファンディングは現在ほどメジャーではなく、「MotionGallery」のようなWebサービスの前例もなかったと言います。そんな中、大高さんはどのように事業を広げ、クラウドファンディングを確立させてきたのでしょうか。
大高 健志さん
1983年、東京都生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティング会社に入社。戦略コンサルタントとして主に通信・メディア業界にて、事業戦略立案、新規事業立ち上げ等のプロジェクトに携わる。
その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年に日本での先駆けとしてクラウドファンディングプラットフォーム「MotionGallery」を設立。以来15億円を超えるプロジェクトの資金調達~実現をサポート。
2017年には、だれでも自分の映画館をつくることができるマイクロシアタープラットフォーム「popcorn」を起業した。
日本映画業界の”商業映画主義”への挑戦
大高さんが代表を務める「MotionGallery」は、映画や音楽などのクリエイティブな活動を支援するクラウドファンディングプラットフォームです。
仕組みとしては、クリエイターが達成したいプロジェクト案をサイト上にアップして出資金を募り、そのプロジェクトやアイディアに共感した人が資金を提供する、というもの。映画などの芸術系のプロジェクトを「制作前のアイディアで資金を募る」という画期的なサービスですが、2011年以来20万人以上の支援者、30億円以上のファンドを集めています。 実は、昨年国内で大ヒットを収めた上田慎一郎監督の映画『カメラを止めるな!』も、作品の資金の半分は本サイトのクラウドファンディングで集められたそう。大高さん曰く、年々少しずつ、事業が広がってきているそうです。
クラウドファンディング MotionGallery:https://motion-gallery.net/
「MotionGallery」で扱うプロジェクトは出版・アート・映画などのクリエイティブな企画に限定されていますが、それは本サービスが「文化の振興・育成」を主目的においているからです。
ハリウッドをはじめもともと映画業界では、「映画の商業性」を重視する風潮があります。そもそも、産業としての「映画」は撮影の初期投資が必要なうえに、公開するまでヒットするかどうかわかりません。ビジネスとしては、赤字になるリスクを抱えている産業なのです。そのため、大衆受けのしそうな、興行見込みが高そうな映画は資金を調達しやすい一方で、そうでない映画は予算を確保するのが難しいという事情があります。たとえ運よく映画を製作できたとしても、成績が赤字であれば次の作品を作ることは難しくなります。
この「商業映画」重視の風潮に警鐘を鳴らし、より作家性の高い芸術映画を生み出しやすい環境を作るために生まれたのが、「MotionGallery」です。大高さんがそんな映画業界の事情を知ったのは、東京藝大大学院に在学中の時だったといいます。
大学院で映画製作を勉強する中で、商業的な作品であれば企画の段階で資金調達がしやすいのに対し、「作るモチベーション」の方に重きを置く、作家性のある映画ではお金を集めるのが難しいということを知りました。
ですが投資や融資などのビジネス前提でのお金の集め方をアートに持ち込むと、お金の集まるものが「正しい」かのように感じられてしまい、違和感があって。僕は、映画や音楽などの表現活動の物差しは金銭的な価値ではなく、社会にとっての多様で新しい資産になるかどうかだと思ったんです。
このような背景で、しっかりと文化を育てていき、表現活動に対してチャレンジングな環境を作る手段として、クラウドファンディングという形式がいいんじゃないかなと思ったのが「MotionGallery」の始まりです。
クラウドファンディングのメリットの1つは、「売上金額が最初にわかる」というところです。日本では作った映画がヒットしなかったら、その責任を監督やプロデューサー個人の借金というカタチで背負わなくてはいけない。「失敗したら終わり」という感じなんです。でもクラウドファンディングであれば、応援してもらって集まった金額が「売り上げの金額」になります。なので100万円集まったら100万円で作ればいいし、300万円なら300万円で作ればいい。
このように最初から売り上げが見えていれば、その範囲内で作れば赤字にならないですし、映画を作り続けやすいと思ったんです。
またクラウドファンディングではお金以上のものが得られる、と感じているクリエイターの人たちも多いです。
自分の作っている作品を見てくれる人がいる、誰に対して作っているのかが明確になるという点で、制作時の心の支えになりますし、お金を出してくれる人とのコミュニケーションを図れることで温もりを感じられることも、クラウドファンディングのいいところの一つだと思います。
大高さんが「MotionGallery」を通じて実現したいことの一つが、芸術作品を継続的に作れるような環境を提供することだといいます。ここに気づいたきっかけは、藝大在学中のフランスへの交換留学でした。現地の映画関係者と話す中で、フランスと日本での製作環境の違いに気づき、衝撃を受けたといいます。
フランスの映画プロデューサー領域にいる人々と卒業後の話をしていた時に、卒業した後どうするのかっていう展開が日本側と大分視点が違ったんです。僕らは学校を卒業してから、自分の企画で映画を制作出来るようになるまで、下手したら10年以上掛かってしまうかもしれない。でもフランスの学生たちは、卒業してから時間を置かずに映画を撮れる環境にあるとの事でした。しかも3作品は作れることが見えていると。
世界では、1人の作家がその作家性を評価されるためには、3作品以上制作していて初めて評価されるという事を聞いたことがあります。1本の作品だけではわからない部分があるので、「作り続ける」というのが重要なんですね。フランスの映画監督たちはもともと「作り続ける」というのを前提に作品を撮っていますけど、僕らはできない。環境が違うという前提のまま戦い続けるのは違うよなと思って、「作り続けられる環境」を重視するようになりました。
応援側の「共感」をどうやって引き出すのか?
この「MotionGallery」が掲げているキャッチコピーが、「クリエイティブは、あなたの共感で動き出す」という言葉です。 しかし、映画やアートのクラウドファンディングでは、作品が完成する以前の、企画案の段階で製作資金を募らなければなりません。支援側は、映画を見る前に製作資金を出す必要があり、(もちろんリターンはあるものの)起業などで利用されるクラウドファンディングとは少し毛色が違うともいえます。このような状況の中、クリエイターたちはどのようにして支援側からの「共感」を引き出しているのでしょうか。
クラウドファンディングではまだ完成していない作品に対してお金を出すというものなので、一般消費財を買うのとは違います。アイディアに対して「いいね!」って思うところと、実際に「お金を出す」ところの隔たりが大きいんですよ。
例えば、薄く広い内容をそれっぽくサイトに載せても、それは「面白いね」という段階で終わっちゃって、「お金を出そう」って段階までいかないんです。それよりも、そのテーマやメッセージに関して自分ごとになっている人が、「この人マジでわかってる!」と共感してはじめて、お金を出す段階に行く。言い換えれば、作品に対する共感の「深さ」が重要なんです。例えば、その訴えるメッセージが仮に100人にしか深く届かなくても、「この監督やこのコンセプトだったら、1万円出してでも作ってほしい!」と思うくらいの深い感情を与えるものであれば、そこがコアとなって熱量が広がっていきむしろ大きくお金が集まってくるんですね。
だから「共感してもらいやすいもの」を書くのではなくて、「共感なんかしてもらえないだろうけど、俺はこれがしたい」というのをわかりやすく、嘘がなく、研ぎ澄まして書くっていうことが大事。まず自分を一番応援してくれる人たちに届けるっていうのを忘れず、また自分が届けたいことをぶらさずに熱量をもって伝えていくっていうのが一番重要だと思います。
スマホに映画が配信される時代に求められる、映画館の意義とは
これまで「MotionGallery」を通して芸術作品の制作支援をしてきた大高さんが、2017年から始めたのが「映画を届ける」事業。日本仕事百貨のナカムラケンタさんと大高さんが共同代表を務める「popcorn」は、映画の小規模な上映会の開催を支援するサービスです。「popcorn」にアップされている映画であれば上映するための権利承諾は不要で、入場者数に応じて上映料がかかる仕組みなので、運営側のコストも最小限で済むようになっています。
マイクロシアタープラットフォーム popcorn:https://popcorn.theater/ (現在リニューアルのためサイト停止中:2020年夏頃再開予定とのことです。)
Netflixなどの動画ストリーミングサービスが広く普及している今日、映画は自宅にいながら手軽に楽しめるものになりました。しかし大高さんは、オンデマンドで動画コンテンツを楽しめる時代にあっても、映画館は必要な存在であり、果たす役割は大きいと言います。
近年、地方でリノベーションのムーブメントがあって、「移住してカフェを作る」みたいな動きが増えていますよね。「popcorn」は、そういったカフェで上映してもらうのが狙いです。だから、東京というよりは地方の、満員でも30人くらいの規模感の場所を想定しています。普段映画を見に行かないけど、地方で回るものがないから行けないという人たちが映画を見に行ける場所を作っていこう、という感じで生まれたものですね。
Netflix等の動画ストリーミングサービスと明確に違うのは、僕ら「popcorn」は上映会というインフラであること。基本的にはミニシアターと同じ位置づけなんですが、ミニシアターは地方だと特に運営が大変。それを存続させる仕組みとして「popcorn」があります。オルタナティブな仕組みで映画の上映を定期的に行うことができれば、ミニシアター的なものが地方でも生き抜いていくよね、という話なんです。
オンデマンドで動画を見れるサービスはこれからもっと広がっていくと思いますけど、すぐ停止・再生ボタンが押せる環境では、暗いドキュメンタリーなんかは見られにくいと思うんです。それと比べて、映画館はある種「閉じ込められた空間」です。人が周りにいて、「もう入っちゃったから出れないし、見るしかない」という軟禁状態だから集中力が保たれる部分もあると思います。
そういう風に「映画を見る」っていうモチベーションを作っていかないと、作家的な映画ってみんなに見られなくなっちゃうんです。そのきっかけは何でもよくて、例えば「友達に上映会誘われたから」「映画はつまんなさそうだけど、そのあと皆で飲むから行ってみよう」みたいな理由で上映会に来る人もきっといると思います。僕はそういう「みんなで見る」とか、「誰かが企画をする」っていうところに、映画の多様性といいますか、新しい作家が生まれる土壌としての活動があるのかなと思っています。
そんな大高さんが現在構想中のイベントが、「映画の全国一斉上映会」。全国で同じ時間に同じ作品を見て、上映後にネットで会場をつなぎ意見交換をする、というものです。 読者の皆さんの中にも、「映画を見た後に、映画評価サイトで同じ作品を見た人のレビューを見る」という人も少なくないでしょう。この一斉上映会でも、遠隔地にあってもリアルタイムで感想を交換し合うことを想定しています。大高さんは、この映画を見た後意見交換ができるコミュニティづくりこそ映画文化の醸成につながるといいます。
僕は、つまらない作品というのは基本的にはなくて、つまらないと感じるのは解釈の問題だと思っています。たとえ自分がつまらないと感じた映画でも、周りが意外と褒めててその話を面白く感じたら、新たな「気づき」になると思うんです。でも正直、つまらないと思ったことを「つまらない」と言い合えるだけで、映画を見た価値があるとも思っています(笑)。おそらく、みんな一人で帰らなきゃいけないから、つまらないものを見たくないだけなんじゃないかと。
単純に「一斉上映会」という言葉の響きだけでもお祭り感があるので、「よく分からないけど行ってみるか」というモチベーションで来てもらえたらうれしいです。
これからの働き方はもっと自由になる
2020年の東京オリンピックを控えている日本ですが、東京都でも新しいワークスタイルを推進する「スムーズビズ」という施策が打ち出されるなど、新しい働き方についての関心が高まってきています。大高さんに今後の日本の働き方の展望を伺ってみたところ、「場所」が今後の働き方のカギになるというお答えを頂きました。
これからは、どんどん場所に縛られない働き方になっていくと思います。リモートワークが広がっていくと思うので、みんなバラバラの場所で仕事をしつつ、通信手段などで自分の働き方を効率化させていくんじゃないですかね。1つの場所でみんなで集まって決まったオペレーションをする、というのはどんどん減っていくと思います。
もっと突発的なモノや、データなどに表れていないものを見つけていくようなことが仕事になってくると、意外と「街に出る」みたいなことが重要になってくると思います。例えば東京だけに社員が集まってデータを見ているというより、大阪・兵庫・金沢・青森など社員が各地にばらけて、現地の体感をコミュニケーションで伝えることで、新しいアイデアやビジネスが生まれるというような気がしています。
若い世代へのメッセージ
近年、新卒一括採用制などのルールが廃止されつつあり、大学1・2年生から就活を始め大手企業の内定を獲得する学生も増えてきました。このように、若いうちから自分のキャリアプランを描き、学生のうちからビジネス関連のスキルアップを目指している人も最近ではよく見かけるようになりました。大高さんご自身も、早稲田大学を卒業したのち、外資コンサルに入社し、東京藝大大学院に進学、フランスでの交換留学を経て起業、というさまざまな経験を積んでいらっしゃいます。最後に、そのような志の高い若い世代に向けてのアドバイスを伺いました。
アドバイスとしては、利害関係がなさそうな、面白いコミュニティに顔出していくのは重要なのかなと思います。「ビジネスで成功するためには」という感じではなくて、もう少し意識低い感じの、ただ趣味で集まっているだけに見えるコミュニティとか。そういった場所では、ある種「利害関係のない」知り合いができるので、もしかしたらそれが起点で転職につながったりとか、新しい業界に興味を持ったり、複業の話もできるかもしれないですよね。
僕の場合は、今は、土曜日の朝集まって美味しい朝食を提供してくれるお店めがけてランニングするコミュニティに参加しています。また会社員だったときには、サバイバルゲームをする集まりに騙されて連れていかれたことがありました。でも、集まっているメンバーは業種がバラバラだけど同年代という人たちが多くて、いろいろな話ができて面白かったです。仕事のために集まっているわけじゃないんですけど、ある種仕事に役立つ話とかあって、聞いてて面白いんですよ。目的がビジネスに寄っていないほうが、意外と得られるものが多いんじゃないかなと思いますね。意識的に近視眼的には直接利益が得られなさそうな時間を作っていくこと、これが大事だと思います。
そして、そういった時間を長期的に価値有るものにしていくためには「アート」が大事だと思います。なぜかというと、映画とかアートを通して、自分の考えを相対化することができるからです。自分の感性や頭の良さを信じないということはとても重要なことで、映画とかアートって究極的にはそれを提示させられる、気づかされることが多いんですよ。
例えば、現代アートは「きっとこういう論理で作っているんだろうな」って考えて鑑賞するような方法もあります。「きれいだね」というより、「どうして作ってるのか」とか「なんで評価されてるのか」っていう思考ゲームに参戦して考えることにも1つの価値があると思うんです。でも、自分の考えって大体間違ってるんです(笑)。 この「100%自分の考えが間違っていた」という経験は、日常生活ではあまり味わえない、数少ない機会なんです。
そういう経験を繰り返して、自分の考えを客観視していって、自分を常に相対化させる。すると、他人の考えを聞いて「本当にこれ正しいのかな?」と考えることができますし、「自分のいまのアイデンティティと関係なく、自分の好きなモノを考える」っていう相対化ができるようになっていくんです。それがないと、ある意味宗教のようにのめりこんでしまったり、「自分が入ってしまったからにはそこのコミュニティを評価しないと…」という思考にはまってしまうと思います。
あと本は、しっかり読んでほしい。人に会って人の話を聞いたりすると、何かを得ている感じはあっても、実際は何も得ていないことも多い。「中身のない言葉」に踊らされないことが大切です。本は「ほんとにそうなの?」と時間をかけて向き合うことができますし、そこで練度を上げていくと自分に必要なものが見えてきたりするんじゃないかなという気はします。おすすめの本は、岡本太郎『今日の芸術』。若い人に読んでもらいたい一冊です。
インタビューを終えて
「日本はすでに、決められたレールに乗るだけでは生きていけない時代になりつつある」と言われています。誰かが決めた「正解」のモデルをなぞるのではなく、自分の中で物差しを作り、自分の頭で考えられることが求められているのです。なぜなら指示された内容だけを言われたとおりにこなすビジネスマンは、データ処理が得意なAIにいずれ仕事が奪われてしまうからです。
この記事を執筆している私自身、いち就活生として自分の将来の方向性にとても悩んでいます。これまで高校や家で教えられてきて、ある種の「正解」だと思ってきた「いい大学に入って大きな企業に入る」ことは、大学生になってはじめて本質的なことではないと実感しました。『これからの時代を生き抜くためには、他人との差別化が図れる「強み」や独自性が必要だ』『就活はじぶんを「商品」として売り出すマーケティングだ』--このような言葉を聞くたびに、受験のために教科書の知識を頭に詰め込んできた私は「空っぽ」なのかもしれないと考え、悩んでしまうことも少なくありません。
このように将来の方向性を見失っている学生の私に対して、大高さんから次のようなアドバイスをいただきました。
-焦って選択肢を狭める必要はない。好きなものに正直に生きるといいよ。
大高さん自身、東京藝大の大学院に入る前は外資系コンサルに勤めていたものの、入社時点では大学院進学を決めていたわけではなかったそうです。大高さんは多忙なコンサルに勤めていましたが、意識的に「ビジネスに関係のない」コミュニティに入って視野を広げ、本やアートを通して自らのアイデアを「相対化」することを続けてきました。私は、そのような生き方が、現在の大高さんの「好きな映画やアートへの情熱を忘れず、冷静に市場を見極めてビジネスを行なう」というビジネスに対する向き合い方につながったのだと思いました。
正解の無い時代だからこそ自分の考えに固執するのではなく、多様な考えを知り吟味しながら、より確固な自分なりの「答え」を作り上げていく--その多様な考えを知る一つの手段として、芸術性の高い映画作品やアート、本があるのだと思います。商業主義を追求するだけでは見えてこない、新たな時代を生き抜くための「本質」を、このインタビューを通して理解することができたように感じます。 「