「正社員はもういい」といった派遣スタッフが、もう1度正社員になったわけ

ある女性が新卒で勤務することになったのは、残業月80時間を超える職場でした。彼女は過酷な環境で5年半勤めたのちに働く意欲を失い、「正社員はもういい」といって退職を決意。その後、無理のない働き方を求めて派遣スタッフとして別の会社に就職しました。

しかし、新しい勤務先で1年を待たずに正社員登用の打診を受け、承諾することに。彼女はなぜ、再び正社員になることを承諾したのでしょうか。今回は大学時代の後輩についてのエピソードをもとに、人がくじける職場・人が活躍する職場について考えてみたいと思います。

賞賛も承認も得られない仕事

私の後輩が社会に出て始めに経験することになったのは、大学事務でした。就職活動をする中で、産学連携を推進する私立大学の運営に関わってみたいと考えるようになり応募。彼女の出身校ではありませんでしたが、スムーズに選考が進み、採用となったのでした。

就職活動をしているとき、彼女の中には「大学事務は一般的な事務職と同じように働きやすいもの」「学生の学びを支援するやりがいのあるもの」というイメージがあったといいます。そして彼女は勤務してみて、初めてその仕事の実態を知ることになりました。

彼女が配属されたのは、教務課でした。日々の仕事で扱うのは、学生の単位認定・留年・卒業といった人生に関わるような場面で必要な情報ばかり。業務は制約が細かくシステム化できない部分が多かったため、人の手で地道に進めるほかなく、ミスは一切許されないというものでした。

大学内の事務所でおこなわれる仕事は正確であることが当たり前で、だれからも賞賛されることはありません。また、正社員というだけで自分より社歴の長いパートスタッフのミスの責任をかぶって、窓口で教授から30分間怒鳴られ続けたこともありました。

入社1年目のその出来事によって、正社員で働くことに大きな責任が伴うことを実感したそうです。加えて、勤務時間は仕事を始める前にイメージしていたものとまったく異なるものでした。

毎日仕事に忙殺され、学期末・年度末には深夜2、3時に職場からタクシーに乗ることも珍しくないほど。それなのに、周囲の友人や社会の認識は「大学事務はラクで給料の高いよい仕事」というものでした。

確かに給料は高かったものの、相応の責任と想像以上の稼働時間を伴っていました。仕事の実態と周囲の認識のギャップに、大きなストレスを感じていたといいます。

「学生を支援するやりがいは確かにありました。でも、自分のがんばりがだれかに認められ、褒められたことはほとんどなかったです。いつも責任の所在ばかりを問われていたように思います」という彼女。

がんばりがだれにも認められず賞賛されない場所では、人はくじけてしまう。彼女の話はそんなことを考えさせられるものでした。

年収が半分以下になってもいいと思うように

就職して5年がたったころ、彼女はプライベートの場面で、周囲の人への接し方が変わったことに気づいたといいます。「人に厳しくなったと自覚してしまったんです。他人にも完璧を求めて、プライベートでも言質を取るようないい方をするようになりました」と、彼女は振り返ります。

人に優しくできない。人のミスを許せない。人の悪いところばかりが目につく。そんな自分に気づき、それほどまでに追い詰められていることを意識し始めました。そんな自分を嫌だと感じるようになり、転職を決意したのです。

胸の奥にあったのは「正社員はもういい」という思いだったといいます。「責任から解放され、余裕のある自分に戻りたかった」と、彼女は当時の思いを吐露しました。結果として彼女は、正社員ではなく派遣スタッフとして働く道を選びます

年収は大幅に減少し、半分以下になることを覚悟したうえでの決断でした。正社員の仕事に転職して、再び想像していなかったような激務を負わされるくらいなら年収が半分になってもいいと思うまでに、正社員が担う責任に恐怖心を抱いていたのです。

「どんなにお金があっても休みがあっても、それを使える心の余裕がなければ意味がない」と、彼女はいいます。また、入社後に初めて大学事務のハードさを知ったからこそ、求人広告に書かれている甘い言葉を信じるつもりはありませんでした。

「働きやすい正社員」といっても、パートスタッフや派遣スタッフのいる職場では、正社員ではない立場のほうが働きやすさの面で優先されるのは当然のこと。彼女の中には「正社員=矢面に立ち、責任を負うもの」という脅迫観念のようなイメージが根づいていました。

だからこそ、そもそも正社員ではない働き方になれば、自分は変われるはずだと考えたそうです。転職時にはそうするほか手段はないと思うほど、追い詰められていたといいます。

新しい職場で彼女を待っていたのは

正社員を避け、派遣スタッフになることを選んだ彼女が新しく就いたのは、貿易事務の仕事でした。大学で専攻していた英語を使うことができ、世界とのつながりを感じられる仕事だといいます。

始めに派遣スタッフになってよかったと実感できたのは、定時が近くなると、職場の人が「そろそろ時間だよ」と声をかけてくれること。正社員だったときのように、時間の制限なく仕事が終わるまでやり続けることがなくなり、安心して働くことができるようになりました。

また、困っている営業メンバーのために各方面に連絡してなんとか調整したときには、「〇〇さんのおかげで助かったよ」といわれて初めて仕事で賞賛された実感を得ることができました。

彼女にとっては帰りの時間を気遣ってもらえることも、だれかのための行動を感謝されることも、新鮮で心からうれしいと思えるやりとりだったのです。新しい仕事が楽しく思えた彼女は、残業をしない限られた時間で同じチームの仲間や会社に貢献できるように一生懸命働きました。

そして、勤務開始から10カ月目、配属先の上司から「正社員になりませんか」と声をかけられたのでした。聞けば、派遣元も直接雇用への切り替えを認めてくれているといいます。正社員をやめて1年弱。思いもよらぬ打診でしたが、実は予兆はあったのです。

たとえば、入社後に仕事を教えてくれた先輩は「ずっと一緒に働いてほしい。何なら私から上司にいうから」と言って、実際に自分の知らないところで提案してくれていたそうです。

他部署のスタッフからは「こんな丁寧な対応をしてくれたのはあなたが初めて。どうして派遣なの? 直属の上司はだれだっけ」といわれたことも。自分が休みに入る前のミーティングで、担当案件の進捗状況をまとめた資料を作り、対応方法を伝えたときに返ってきた言葉でした。

そして、上司からの正社員への打診。彼女自身が驚いたのは、自分の中に恐怖心や嫌な気持ちがなかったことです。過去に苦しんだ正社員という働き方でしたが、直接雇用となって末永く働いてほしいといわれたことがうれしかったといいます。

働く楽しさを教えてくれた会社で、いつも優しい声をかけてくれる仲間となら、大丈夫だと思えたのでした。

人が活躍する職場の条件

人は多くの場合、生活に必要なお金を稼ぐために仕事をしています。しかし、お金のためだけに仕事をしているわけでもありません。今回、正社員から派遣スタッフとなり、再び正社員になった彼女の話を聞いて、そのことを実感できました。

だれもがだれかと関わり、だれかと認め合って、賞賛し合いたいという思いを胸の内に秘めています。そして、そのようなコミュニケーションはお金にも時間にも代えがたい、仕事をするうえでかけがえのないものなのです

正社員となった彼女は、派遣スタッフとして働いていたときのように、毎日残業なしで帰ることはできなくなったといいます。しかし、大学で働いていたときのようなストレスはないとのこと。それは、職場で自分のがんばりが賞賛される機会があるからだと話してくれました。

「今の仕事にはがんばる意味を感じられる」という彼女は、プライベートで周囲の人に自分の仕事をポジティブに語れるようになったそうです。そして最後に、「転職してよかったと思っています」と、笑顔を見せてくれました。

どんな仕事でも忙しい日、大変な時期はあります。それでも、仲間同士で賞賛し合い、認め合うことができれば、人はその場所で活躍できるのです

まとめ

最後に、今回の内容を振り返りたいと思います。

仕事には責任やストレスが伴うもの。だからこそ、だれかからの賞賛が必要です。だれからもがんばりを認めてもらえない場所では、人の心はくじけてしまいます。賞賛も承認も得られない仕事を続けることが難しいのは、当然のことです。

仕事をするうえで、報酬はとても重要です。しかし、その報酬を手放してでも、自分自身を守らなければならないときがあります。激務によるストレスで自分らしさを失ってしまうくらいなら、好きな自分でいることを優先してもよいのです。

人が仕事で活躍するためにはだれかと認め合って、賞賛する機会が必要です。よいコミュニケーションが行き交う場所でなら、ポジティブな気持ちで仕事をがんばることができるでしょう。あなたが今いる職場はどうですか? そのコミュニケーションがあるなら大切にしてください。

もし、あなたの職場が今回話を聞かせてくれた女性がいた職場のような環境なら、あなたから賞賛・承認の声かけを始めてもよいのです。それはきっと、周囲にとってもあなた自身にとっても、価値のある変化を生み出すでしょう。

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