現在、書店に行くと「会社を辞めて独立する」ことに関する本が増えたな、と感じます。
その背景には、日本企業の終身雇用や年功序列のシステムが崩れつつあることが一因でしょう。独立して仕事をする人のことをフリーランスと呼ぶことはみなさんもご存知だと思います。しかし、フリーランスという働き方の実態や個人事業主と呼ばれる人たちとの違いについて、正確に理解している方はあまり多くはないのではないでしょうか? 本記事では、フリーランスならびに個人事業主に関して、解説していきます。
そもそも、フリーランスとは?
フリーランスの定義
フリーランスは、「企業や団体、組織に属することなく、求められる技術・能力を契約に応じて自由に提供する個人」のことを指します。ただ、フリーランスの明確な定義は存在しないため、誰でも自由にフリーランスを名乗ることができます。
フリーランス人気の背景
日本におけるフリーランスの人気は高まりつつあります。ランサーズ株式会社による全国の20-69歳男女(3,096人)を対象にした「フリーランスの実態2018年版」によると、フリーランスの労働力人口比率は2015年調査の「14%」から「17%」に増加しました。なぜ、フリーランスになる人が増えているのか? 3つの要因を考えました。
自分の好きなスタイルで働ける
フリーランスは、自分の働き方を自由に決めることができます。会社員のように、通勤や残業、会議にストレスを感じる必要はありません。働く時間や場所も自分で決めることができるため、一番生産性が高くなるように仕事スタイルを設計することができます。これはフリーランスになる大きな魅力の一つだといえるでしょう。
実力に応じた収入を得られる
フリーランスは良くも悪くも実力勝負です。収入は、自分の技術と能力に応じて決まります。昨今の日本企業における給与は、伸び悩んでいます。そのため、自分の実力に見合った収入を得るために、フリーランスになることを決意した人も少なくないはずです。
一般の雇用形態で働けない人たちの選択肢
日本社会には、一般の雇用形態で働くことが難しい人が大勢います。例えば、子育て中の男女や定年退職した高齢者、病気や疾患を持つ障害者などが考えられます。フリーランスは、顧客に求められた水準の成果を出すことができるのなら、各々の事情に応じて働けます。一般の雇用形態が難しくても、働いてお金を稼ぐことができる選択肢を時代が求めているのかもしれません。
フリーランスを保護する法律はあるのか?
フリーランスは、企業と雇用契約を結んでいないため、「労働基準法」の適用外です。つまり、
- 労働時間
- 最低賃金
- 休日
- 有給休暇
- 労働災害補償
などは、「自己責任」となるので注意が必要です。
ただし資本金が1,000万円を超える事業者との取引では、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」により、フリーランスが「下請事業者」となるとされています。すると、
- 口約束:「契約書」を交わさない発注
- 受領拒否:発注した成果物を受け取らない
- 支払遅延:納品後60日以内に代金を支払わない
ことが禁じられるようです。しかし、下請法がフリーランスに必ず適応されるかどうかは専門家に相談することをお勧めします。
多くのフリーランスが活躍する職業
ここでは、フリーランスとして活躍する人が多い職業について紹介します。
ライター
ライターは、メディアから依頼され、記事の執筆をします。ライターの中にも、コピーライターやブックライター、ルポライターなどさまざまな区分があり、求められる資質は異なります。ライターは、これから紹介するプログラマやイラストレーターに比べると、専門性が必ずしも必要とされないので、フリーランスとして活躍する入り口は広いといえます。
イラストレーター
イラストレーターは、書籍や雑誌、Webサイトを彩るイラストを描く職業です。基本的には、企業からの依頼によりイラストを作成します。人気のあるイラストレーターは、展示会の開催や作品集の発表をすることもあります。そのため、イラストレーターと一口にいってもさまざまなステータスの人たちがいます。
ブログラマ/SE(システムエンジニア)
プログラマは、企業からの要望に応じてハードウェアやソフトウェアの挙動を制御するプログラム(コード)を書くことを仕事としています。よく似たイメージをもたれるSE(システムエンジニア)が「要件定義/システム設計/開発・実装/テスト/運用・保守」すべての工程をカバーすることに対して、プログラマは「開発・実装」に特化していると一般的にはいわれています。
フリーランスと個人事業主の違い
ここまで、フリーランスについて述べてきました。では、フリーランスと個人事業主と呼ばれる人たちの違いとはなんでしょうか?両者の違いを、税務と保険に分けて解説します。
税務に関して
開業届の提出
まず1つ目の違いは、税務署に「開業届」を提出しているかどうかです。開業届を出さずに事業をしているなら、フリーランス(個人事業主ではない)。開業届を出して事業をしているなら、個人事業主となります。つまり、フリーランスで事業を始めた人は、開業届を提出していなければ個人事業主ではありません。
確定申告の区分
次に2つ目の違いは、確定申告の区分が異なることです。開業届を出さずに事業をしているフリーランスは、白色申告をすることになります。一方、個人事業主は、税務署に「青色申告承認申請書」を提出すると、青色申告をすることができます。白色申告に比べて青色申告は、事業の儲けから最大65万円の控除が可能になるため、節税になります。
保険に関して
健康保険の違い
公務員や会社員(とその家族)が、「社会保険(社保)」に加入することに対して、個人事業主(とその家族)は、「国民健康保険(国保)」に加入します。社保は家族の人数が増えても、保険料は変わりません。一方、国保は家族の人数によって保険料が変わります。国保と社保の医療費はどちらも3割負担ですが、社保は事業主が保険料を半額負担してくれるため、全額自己負担の国保に比べて優位です。
年金の違い
個人事業主が加入する年金は、20歳以上60歳未満のすべての国民が必ず参加する「国民年金」のみです。一方、公務員や会社員は、国民年金に加えて「厚生年金」にも参加するため、国民年金に加えて厚生年金も受給することができます。そのため両者を比較すると、個人事業主がもらえる年金の金額は少なく、きちんと老後のための資金を貯めておくことも大事です。
個人事業主になるメリット
節税効果
前述したように個人事業主は、税務署に「青色申告承認申請書」を提出することにより、青色申告(最大65万円の控除)をすることができるため、白色申告に比べて節税効果があります。
ここで、個人事業主の払う税金について少し解説をしておきます。
個人事業主の支払う税は、
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
の3つがあります。
3つの税金を加算した合計税率は、15%(年間所得額195万円以下)〜最大55%(年間所得額1,800万円超)まで変動します。法人の払う合計税率が最大39.5%(年間所得額800万円超)であることを考えると、年間所得額が少ないのなら個人事業主の方が節税できます。
「屋号」を持つことができる
個人事業主は、開業届の所定欄に「屋号」を書き込むことで、自分だけの屋号を持つことができます。ただ、屋号を持つことは必須ではありません。そのため、実名を用いて事業をすることも可能です。しかし、個人的には屋号を持つことをお勧めします。理由は2つあります。
1つ目の理由は、屋号を持つと新しく自分の看板を掲げてて商売を始めるような高揚と覚悟を得ることができ、モチベーションが上がるからです。例えば、領収書を受け取る時に宛名に自分の屋号を書き込む時など、嬉しさがこみ上げてきます。
2つ目の理由は、屋号があることで取引相手からの信用を高めることができるからです。みなさんは、「個人名のみ」と「屋号 + 個人名」の口座名義では、どちらの方が信頼感を得ることができるでしょうか。多くの人が、「屋号 + 個人名」の口座名義と考えるのではないでしょうか。
しかし前提として、屋号の名称がいまひとつだと屋号を持つ意味も薄れてしまいます。屋号は慎重に決めると良いでしょう。
個人事業主になるなら揃えておきたいもの
固定電話番号
現在、個人が固定電話を持つことはどんどん少なくなってきています。なぜなら、スマホの番号で十分事足りるからです。しかし、個人事業主として事業をするならば、スマホの番号ではなく固定電話の番号の方が、取引相手から良い印象を得やすいでしょう。
しかし、ほとんど使わないのに固定電話を新しく持つことは躊躇いますよね。そこで、お勧めするのが「03plus(ゼロサンプラス)」というサービスです。
「03plus」を利用すると、初期費用や月額料金はかかるものの、固定電話番号を持つことができます。固定電話番号は、スマホアプリと連動しているため、固定電話番号にかかってきた電話をスマホでとることが可能です。利用料は、高くないので検討の余地は十分にあります。
独自ドメイン
個人事業主になったら、独自ドメインを取得しましょう。お名前.comのようなサービスを用いると簡単に取得できます。独自ドメインの利用用途は、2つあります。メールアドレスとWebサイトです。「hogehoge.com」という独自ドメインを取得したと仮定して解説していきます。
利用用途①:メールアドレス
メールアドレスをGmailやYahoo!メールのような無料サービスで作成すると”@”より先が「gmail.com」や「yahoo.co.jp」のようになってしまいます。これは、ビジネス利用にはあまり適していません。そこで、独自ドメインを利用したメールアドレスを作りましょう。すると、「○○@hogehoge.com」のように、”@”より先を独自ドメインにすることができます。これによって、ビジネス向けのメールアドレスを作ることが可能になります。
利用用途②:Webサイト
個人事業主になったら必ず用意しておきたいのが、Webサイト(ホームページ)です。ウェブサイトには、自己紹介や事業説明、お問い合わせフォームなどを用意しておくと、ウェブサイト経由で仕事の依頼が来ることもあります。
ビジネスで利用するほとんどのWebサイトには、URLに独自ドメインを使います。具体的には、「http://hogehoge.com」のような形式です。ウェブサイトを運用するには、サーバーも必要になりますので、独自ドメインの取得と共にサーバーをどうするかについても考えておきましょう。
名刺
個人事業主を始めるなら、ビジネス用の名刺が必要になります。名刺は、数千円から作成することができるので、作っておいて損はありません。内容は、
- 屋号/肩書き/名前
- 電話/メール/URL/住所
- SNSアカウント
などを含めると良いのではないでしょうか? また、さまざまな場面で適切に情報を伝えるために、名刺を複数用意することも効果的です。
印鑑
印鑑は、インターネットの普及などにより昔より使われる局面が減ってきましたが、まだまだビジネスの世界においては重要な意味を持ちます。個人事業主が持つことを検討してもいい印鑑をまとめました。
- 認印:書類を確認・承認した時
- 実印(要印鑑登録):重要な契約を交わす時
- 屋号印:重要な契約を交わす時
- 銀行印(個人):金融機関で個人名義の口座を作る時
- 銀行印(屋号):金融機関で屋号名義の口座を作る時
- 角印:契約書/見積書/請求書などの内容を証明する時
- 住所印:住所/屋号/代表者名などを効率的に押す時
これらすべてを集める必要はありませんが、状況に応じて適切な印鑑を選ぶことができたら、取引相手の信頼を強めることができるでしょう。
会計ソフト
個人事業主の青色申告は、複式簿記の方式で帳簿を作成する必要があります。会計ソフトを使わず自力で必要な書類を作成するとなると、かなりの労力が必要になります。そのため、会計ソフトを利用することが効率的です。
会計ソフトは、過去を遡るとインストール型が主流でしたが、ここ最近ではクラウド型の会計ソフトが主流になっています。具体的には、freee (フリー)やマネーフォワードなどが人気があるようです。コツコツと会計ソフトを用いて日々の収支を記録しておけば、確定申告に必要な書類を自動的に作成することができます。
まとめ
ここまで、「フリーランスを始めて個人事業主になろうと思ったら知っておくべきこと」をまとめました。
フリーランスと個人事業主の違いや個人事業主になるメリット、個人事業主になった時の準備について理解を深めることができたのではないでしょうか? もし、個人事業主に興味がある方は、本記事を参考にしていただければ幸いです。