TeamHackersをお読みの皆さん、こんにちは。イタリアで起業したトラベルデザイナー兼農家の「ゆりえ」です。前回の記事では、経験ゼロから仕事を作り出すことについてお話ししました。
参考記事:コネなし仕事なし経験なしから仕事を作る
夢の国であったオーストラリアから脱出し、
- 翻訳でノマド生活
- 大人のギャップイヤー
- イタリア移住
- 海外起業
と次々と仕事を変えて、自分のライフスタイルに合わせてカメレオンのように変えていった4年間。たった4年、されど4年。さまざまなことを学び、悩み、考え、決断しました。
「仕事が見つからなければクリエイティブに作るものであって、探すものではない」という価値観を教えてくれたイタリア。仕事は求人サイトや求人会社を通して探すものだと思っていた私の30年間の考えを覆すものでした。
イタリア人がなぜこのような考え方に至ったのか、その背景に理由はあるのか?「仕事は作るもの」と言われてからの4年間で私なりに感じたことを今回は書いていきたいと思います。
イタリアでの就職と生活について
イタリアでの就職。それはとても難関だと言われています。皆さんご存知の通り、イタリアの経済はとても不安定で、「ユーロ経済の火薬庫」と呼ばれるほど。EU圏でドイツ、フランスに次ぐ第3位と言われていますが、実際住んでみるとそこまで生活水準は高くありません。
去年のイタリア総選挙でポピュリスト政党が台頭してから、経済状況がさらに悪化しました。少子高齢化や一代の政権が短いなど、なぜか日本の問題と似ているなと感じる点もあります。
若者の失業率
イタリアの失業率は2019年で約10%前後。5、6年前の25%越えの頃よりは低くなりました。日本の完全失業率は、2.5%とイタリアと比較してもとても低いことがわかります。
こう見ただけでは、そこまで高くないように見えるイタリアの失業率。ただし、イタリアの若者の失業率は40%を超えています。15歳から24歳の、特にネオ・ラウレアーティと呼ばれる新卒が一番苦戦しています。
医療学部に在籍中で今年卒業予定の友人も、経験がないということで新卒の受け入れ先病院がなく、現在の医師が退職していくことを待つしかないという状況。ただし実際のところは、医師が不足しているため、ルーマニアやアルバニアの他EU諸国から医師がイタリアに入ってきているという事実があります。
生活水準
イタリアの生活水準はあまり高くはありません。平均は月1500ユーロ(2019年5月19日現在で約18万4300円)。これは農業従事者や自営業、医者や弁護士などをすべてまとめたものではありますが、他のEU諸国と比べるととても低いようです。イタリアでは月2000ユーロの給料があれば、とても良い仕事と言われています。
イタリアの南北問題は有名ですが、南イタリアの平均月給は、実際のところ1000から1200ユーロほどだと思われます。平均より300ユーロも低いですが、南イタリアの生活は北よりもはるかに安いこともあり、近年ついに南北が逆転し、南の方が住みやすいのではないか、と北から南に引っ越してくる人が増えてきました。
ミラノなどの北の都市では、シェアルームを借りるだけでも月600から800ユーロと高額ですが、南イタリアの私が住んでいる比較的大きな街でさえ、月300ユーロで3LDKの部屋を借りることができます。
イタリアの起業率
このように、イタリアの経済そして就職難は世界中で認知されていることですが、実は起業率、スタートアップ率もとても高いことをご存知ですか?
ここ数年ではついにスタートアップビザも配給しはじめ、外国人であってもイタリアに投資をしながら住むことも可能になりました。
なぜ経済が不安定なのに、起業する人が増えたのでしょうか?
イタリアは中小企業、また自営業がとても多い国です。それは街を歩くだけでもすぐに理解できることで、大型のスーパーではなく八百屋さんや魚屋さんが存在し、車検などもディーラーに持っていくのではなくて、大抵はメカニック、電気技師と別々の専門技師に対応してもらいます。このような職業はすべて自営業、または中小企業です。
このような背景になった理由は、戦後、「独立した企業経営者であるということに価値がある」という価値観を、イタリア政府が人々に定着させたためにあります。自営業や中小企業への税優遇をはじめ、法改正を施しました。実際、いまでも私のような若者が自営業として起業する場合、税には大きな優遇措置があり、35歳以下には銀行からの融資や政府からの補助金制度がたくさん用意されています。
イタリア人のビジネスマインド
この4年間、私はイタリアに住みながら、イタリア人のビジネスマインドを観察してきました。「こんなサービスがあったらな」と思ってサーチをかけると、大抵すぐに見つかるほど、個人のニーズにあった企業がたくさんあります。
これは私が見つけたイタリアらしい新サービスです。
1.文房具屋さんの例
最近驚いたことはある文房具屋さんのサービス。近年イタリアも、様々な分野がデジタル化をはじめ、高齢者の自営業の方はメールの送信などに困っているそうです。スマホなど使っている人はほぼおらず、パソコンなんて夢のまた夢。
ただし仕事をする上でどうしてもパソコンでメールを送ったりしなければならない。そんな時に私の街にあるこの文房具屋さんは、少子高齢化とデジタル化に目をつけて「メール送信サービス」をはじめました。代理でメールを書いて送信、受診したらクライアントに電話して教えてくれるというサービスです。
私たち若者からしたら、「え、そんなサービス使えるの?」「ニーズなんてないでしょ?」と思うかと思います。そう思って、文房具屋さんのオーナーに聞いてみたら、「今ではこれが当店の一番人気商品さ!」とのこと。サービスは月払い。さらには代理メール送信店を作り、今私の街だけでも3店舗に増えました。
これぞイタリアの典型的なビジネスマインドだと思います。これは売れる、ニーズがあると思った瞬間に、考える間もなくビジネスを作ってしまうのです。まるでビジネスプランは、ビジネスを立ち上げてから考える、くらいのスピードで。ビジネスチャンスがあったら逃さない、そんなアンテナを常に張っているような人ばかりです。
これがイタリア人の会話好きにも表れています。たくさん話し、たくさんの人と出会うことで、ビジネスチャンスも人脈も増えていきます。イタリア人が話好き、そして必ずどんな職に就いているか自己紹介で聞くのにはこんな理由があるかと思います。
2.まずはやってみる精神
文房具屋さんの例でも言いましたが、何よりもまず始めてみる、という精神がイタリアにはあります。間違えてでもとりあえず試してみるのです。
「下手な鉄砲も数打てば当たる」と言うように、イタリア人も失敗を繰り返し、勉強し、そして起業で成功します。でも失敗するには、やはりまずは一歩踏み出してやってみなければなりません。
私自身は起業に対して、はっきり言うとチキンでした。税の優遇はあるとしても、30%以上ととても高く自営業で果たしてやっていけるのか。ほぼ初めての経験でクライアントを取れるのか。色々悩みましたが、とりあえずやってみる、という一歩を踏み出し、1年目は失敗の連続、2年目はなんとなく思っていたビジネスプランに近づいてきた気がします。
起業後も、友人からは料理が上手だからケータリング事業始めた方がいい、レストランを始めた方がいい、ヨガティーチャーの資格あるなら教えた方がいい、と様々なビジネスのアイディアをいただきました。どれも今は時間がなくてできないものですが、私がイタリア人のビジネスマインドに従っていたならもうきっとどれもビジネスとして成功していた気がしてなりません。
終わりに
イタリア人は楽観的であまり働かない、南イタリア人はダラダラしているというステレオタイプがありますが、それは全く違います。イタリア人は人生を思う存分楽しみながら、しっかりと公私を使い分けているだけなのです。
仕事がないから嘆くのではなく、自分で作り出す。小さな子供がいる親が家から離れられないのでリモートで仕事を探す、のではなく、ホームレストランなどにして家で好きな時間に、ライフスタイルに合わせて仕事を作るというように。
自分でもできそう!と思ってしまうほど、起業へのハードルが低いのです。
イタリア人のビジネスマインドには、私が述べたこと以外にもたくさん学ぶことがあります。日本と比較してこんなに低所得であっても、イタリア人はどの人も笑顔でジェラートを食べながら道で会話して、バカンスで海外に行く、美味しいものを思う存分食べる幸せそうなイメージがありますね。
ビジネスマインドだけでなく、ライフスタイルからも学ぶことがたくさんありそうです。
次回は、「できないをできるにする」、スキルなしから海外でビジネスチャンスを見つける方法についてお話しします。