ある女性が普通の会社の正社員という働き方から、複数社から業務委託を受ける形態へと働き方を切り替えました。正社員と業務委託での働き方には大きな違いがあるなかで、なぜ彼女はそのような選択をできたのでしょうか。
これまでのキャリア、決断の理由、そして現在の働き方についてお話を伺いました。
1. やりたいことを見失った新卒時代と、目標にできる人との出会い
「実は、私は就職活動をしなかったのです。」と話をしてくれた彼女。まずはじめに、学生時代や社会人になったばかりの頃の状況についてお伺いしました。
1-1 もともとの志望はスタイリスト
彼女は、もともとファッション専門学校に通い、スタイリストになることを目指していたと言います。しかし、入学後にスタイリストのキャリアステップの実情を知ったのでした。
その道筋は、とにもかくにも上京し、有名スタイリストに師事して無給で修行を積むというもの。生活費を稼がずに東京で暮らす余裕などもちろんなく、スタイリストの道は断念。学校卒業時にはやりたいことを見失っていて、就職活動をすることができませんでした。
その後彼女は学校があった関西から地元に戻り、自身のキャリアを考え直す時間をもったといいます。そして、その時に感じたのは「なにかをしたい」という思いよりも、「このままではいけない」という焦りだったのです。
地元は彼女にとって居心地が良い場所でしたが、あまりにも刺激のない環境でした。学校卒業から半年後、彼女は関西に戻り、アパレルショップでアルバイトを始めます。
1-2 転機となる出会い
アパレルショップで働き始めた彼女を待っていたのは、仕事に厳しいある1人の正社員スタッフでした。彼女は、厳しくも自分のためになる指導を真剣にしてくれる先輩を見て「自分も正社員になってみたい」という思いを抱くようになったと言います。
そして、彼女が正社員に登用される頃には、先輩は店長になっていました。その姿を見て、店長というポジションを目指すようになりました。
その後、彼女は大阪心斎橋にある日本最大級のフロア規模を持ち、売上高を計上する店舗に異動することに。副店長を任され、店舗の売上頭であるレディースフロアのフロアリーダーとして、30人のメンバーをまとめることになりました。
その店舗は全体で80人を超えるスタッフが在籍し、平日でも1日300万円以上を売り上げるなど、会社の中で大きな存在感を放っていました。その店舗で「自分が会社の1番の売上を支えている」というプレッシャーと自負を抱いて仕事に打ち込んだと言います。
その後、大阪で新店舗の立ち上げを任され、彼女は目標としていた店長に。ますます仕事に没頭し、活躍するはずでした。
2. 1社目で感じた「人事」という役割への不信感と、2社目で得た学びと倒産
店長となった彼女を待っていたのは上司であるマネージャーと、本部人事部との衝突でした。
2-1 踏みにじられた部下の希望
新店舗立ち上げ時、目標としていた店長のポジションを任されることになった彼女は、抜擢された際に異動前の店舗から、あるスタッフを同行させていました。そのスタッフは自分と同じようにアルバイトからスタートし、正社員登用を希望しているスタッフでした。
彼女はスタッフ数が多くはない新店舗であれば、正社員希望のスタッフがキャリアアップできる可能性が高まると考えていたのです。そして、間もなくそのチャンスはやってきました。
しかし、正社員登用試験当日、試験官がドタキャン。十分な説明がないまま、正社員登用の話はなかったことになったのです。のちに、そのドタキャンがプライベートな理由によるものだということがわかり、彼女は試験官と本社人事部に猛抗議をおこないました。
しかし、本社人事部は試験官を担うはずだったマネージャーの言い分を支持。正社員登用試験の再実施はしないという結論を出したのでした。1人のスタッフの人生を狂わせるような判断をした上司と本社人事部に対して、彼女は退職願を叩きつけたと言います。
2-2 新たな場所、新たな経験
アパレルショップの店長を辞めた彼女は、前職の人事の対応がどうしても許せず、「人事を変える」という使命を抱いていました。そして「日本にはリーダーが足りない」という求人広告の文言に胸をうたれ、ある人材系のベンチャー企業に転職しました。
人材会社という立場であれば、多くの企業の人事と関わることができ、その意識を変えていけると考えたのです。そして、そこで彼女を待っていたのは初めての営業職と、新卒30人の育成でした。
特に新卒の受け入れ・育成については、内定後のフォロー体制から入社後の研修制度まで一貫して彼女が構築し、担当しました。それは前職で多くのスタッフを育成していた経験を買われてのことでした。
本来の役割が企業への営業活動と、新卒学生のコーディネートだった彼女にとってはまったくのイレギュラーだったそうです。しかし、新卒社員のフォロー・研修・面談・活躍支援に携わった経験は、振り返ると彼女にとって非常に価値のあるものになったのでした。
また、志を持つ若手社会人と多くの話をし、多くの刺激ともらったと言います。そして彼女はこの時期に、「自分には学生や周囲に自分の能力を示す武器がない」と感じ、国家資格であるキャリアコンサルタントの資格を取得したのでした。
その後、彼女にとって2社目だったベンチャー企業は倒産。彼女はまた自分のキャリアを考えなければならなくなったのです。
3. 業務委託へのチャレンジ、業務委託の実際
彼女が所属していた会社が倒産したという話は、すぐさま担当クライアントに広まることとなりました。そして寄せられた、「ウチにこないか」という話。しかし、依然として彼女の胸の奥には「人事を変える」という使命があったのです。
3-1 かつての仲間からの言葉
いくつかの企業から声がかかるなか、彼女はひとつの会社の人事になることに納得できていませんでした。ひとつの企業に属してしまえば、その組織を変えることはできても、「人事を変える」ということはできないと考えていたからです。
選択に悩む彼女は、一足先に倒産した会社を抜け出し、別の会社で活躍していたかつての仲間に相談しました。すると相手は「やりたいことは、全部やればいい」と答えたそうです。
彼女は思いもよらない新しい発想に驚きました。一方で、その方法なら継続して複数の企業と関わり、内側から「人事を変える」ということができるのではないかと考えるようになったと言います。そして最終的に、複数の企業と業務委託契約を結ぶことを決意したのです。
3-2 業務委託として5社の人事をかけ持ちする日々
現在、彼女が業務委託契約を結んでいる企業の数は5社。毎週すべての契約先の仕事があるわけではなく、ある1週間のスケジュールは下記のようなものだそうです。
- 月曜/A社
- 火曜/AM(B社)→PM(C社)
- 水曜/自宅勤務
- 木曜/AM(B社)→PM(人事系セミナー ※勤務外)
- 金曜/C社
- 土曜/D社イベント補助
- 日曜/休み
各企業とは、多いところで月12日前後の出勤、少ないところで月1日の出勤というかたちで契約を結んでいて、自由度高く働けているという業務委託の仕事。さまざまな組織と関わり、仕事に取り組める環境に「性に合っていた」と話してくれました。
業務委託として請け負っているのはいずれも人事系業務で、特に新卒採用・新人育成が専門領域だといいます。今後は自分が対応できる業務をパッケージ化し、ワンストップで企業を支援できる体制を整える計画だということです。
クライアントから寄せられるさまざまなニーズに対して、自分のいろいろな知識・経験を活かし、仕事に取り組めることが今は楽しいという彼女。多くの企業から必要とされるやりがいを感じながらも、次なるキャリアを見据えているようでした。
まとめ
過去の経験から「人事を変える」という使命を持つ彼女は、これからさらに自分の存在感を示し、各種メディアにも出ていきたいと言います。業務委託として働き始めて3か月。これからさまざまなアクションを起こしていく考えがあると語ってくれました。
業務委託という働き方はまだまだ社会に広がり始めたばかりで、複数の企業に出勤というかたちをとっている彼女の勤務スタイルは珍しいものでしょう。リモートワークや通勤回避という考えが広まる昨今ですが、オフィスに来てくれる人材を求める企業のニーズは必ずあるはずです。
業務委託という雇用形態でありながら、各クライアントと直接のつながりを築いて、活躍の場を広げている彼女の新しい働き方に、今後も注目したいと思います。