「コーチ」の由来から考える、コーチングの本質とは?

AIの導入などによりビジネス環境が変化し、人や組織の在り方が大きく変わりつつあります。それに伴い仕事に対する価値観が多様化し、これまでのマネジメント手法では通用しない時代となりました。このような状況の中で、リーダーに求められているのが「コーチング」のスキルです。過去の経験や実績に頼らず、一人ひとりに合わせた人材育成をしたい、働き方が多様化する中でも生産性を高めていきたいなどと考えているリーダーにとって、参考になるマネジメント手法です。

シリーズ初回となる今回は、「コーチ」という言葉の由来から考える、コーチングの本質について解説します。

コーチングとは?


コーチングの「コーチCoach)」という言葉は、1500年代から使われています。その語源は「馬車」です。馬車の役割は、それに乗る人が望む目的地まで送り届けることです。その後意味が転じて、コーチは教育やスポーツなどさまざまな分野で、個人や組織の目標達成をサポートする存在として認識されるようになっていきました。

そして現在、ビジネスの分野では、組織のリーダーなどに求められるマネジメントスキルとして注目されています。クライアント(個人・組織)が達成したいことや、実現したいゴールなどを共有し、クライアントと対話を重ねながら目標達成を実現させるのです。

馬車に乗った人が行き先をオーダーするように、コーチングでは、クライアントがゴールを提示します。そのためコーチングでは、目標を達成させるための答えは、クライアントの中にあると考えます。コーチはクライアントとのコミュニケーションによって、クライアントが望むゴールを正確に把握することで、同じ目線でゴールを目指すのです。

しかしながら、クライアントが語るゴールは明確であるとは限りません。たとえ明確な言葉でゴールが提示されたとしても、クライアントがそのゴールを心から望んでいるとは限らないのです。そのためコーチは、クライアントの本音を引き出しながら、真意を探る必要があります。

表面上の言葉を受け取ってしまうと成果は得られない

クライアントの表面上の言葉を受け取ってサポートしても、クライアントが本当に求めている成果を上げることはできません。

ある会社の営業部の部長とその部下の会話を例に、そのことについて考えてみましょう。

コーチを部長である上司A、クライアントをその部下Bと仮定します。上司Aは、部下Bがやりがいを感じながら仕事をすること、かつ、営業部の目標達成に貢献してもらえるようにと、毎月1回面談をしています。

新年度最初の面談で、上司Aは部下Bに、今年の目標を聞きました。

【新年度最初の面談例1】

上司A: 今年でBさんは三年目だね。今年はどんな目標を達成したい?
部下B: そうですね……。今年も自分に振り分けられる目標額を達成できるように、頑張りたいです。
上司A: そうだね! 今年はさらに目標額が増えているからね。どんなことをしたら目標を達成できそう?
部下B: ————。新規顧客の開拓ですかね……。
上司A: 確かに、新規顧客の開拓は必要だね! どんなふうに開拓していこうか?

このように会話は展開し、新規顧客の開拓方法をいくつか考えて面談は終了しました。

ところが、1カ月経っても2カ月経っても、部下Bの新規顧客の開拓は行われず、上司Aと一緒に考えた方法も実施されないままでした。そこで、上司Aは3カ月後の面談で、部下Bに新規顧客開拓の進捗状況を尋ねてみました。

【3カ月後の面談例】

上司A: 前回の面談で、今年の営業目標を達成するために新規顧客の開拓方法について一緒に考えたけど、その後実施できている?
部下B: あ……、いいえ……、すみません……。
上司A: 進んでいないんだね……。Bさんは最初の面談で、今年は営業目標の達成がゴールだと言っていたよね。そのために一緒に新規顧客の開拓方法を考えたのに、どうして進んでいないのかな?
部下B: ————。部長、すみません……。実を言うと、新規顧客の獲得が得意ではないので、気が進まなくて……。それよりも現在の顧客を大切にして、リピートを増やせないかと最近、考えていまして……。
上司A: そんなことを考えていたんだね……。

なぜこの例のように、ゴールに対して3カ月の停滞状態を生み出してしまったのでしょうか。その原因は、最初の面談で、上司Aが部下Bの表面上の言葉を受け取って話を進めてしまったことにあります。

言葉に熱量を感じるか、感情がこもっているかを確認


冒頭で述べたように、コーチとは、ゴールまでクライアントを連れていく存在です。しかし、先に挙げた例のように、クライアントが自ら語ったゴールではあっても、心から望んでいたことではなかったために、ゴールへ向けて進まないことが往々にしてあります。

ですからコーチは五感をフルに活用し、クライアントが本当にそのゴールを望んでいるのかを、毎回ていねいに確認しなければなりません。

クライアントが語った言葉と感情は伴っているでしょうか。もしクライアントが本当に望んでいるのなら、語る言葉に熱量を感じることができるでしょう。疲れている様子だったり、言葉に気持ちがこもっていなかったりしたら、それは真意ではないと考えるべきです。

では、先の上司Aと部下Bの最初の面談は、どのように展開したらよかったのでしょうか。
例えば、以下のように展開していたら、部下Bの真意を引き出せたはずです。

【新年度最初の面談例2】

上司A: 今年でBさんは三年目だね。今年はどんな目標を達成したい?
部下B: そうですね……。今年も自分に振り分けられる目標額が達成できるように、頑張りたいです。
上司A: そうか。その目標を達成したら、Bさんはどんなふうになれそうかな?
部下B: ————。どんなふうに、ですか?
上司A: そう。その目標を達成すると、Bさんはもっと成長すると思うよ。どんな人に成長し、どんなキャリアを築いていきたいかな?
部下B: そうですね……。私はお客様にとても恵まれていると思っています。ですから、お客様にもっと貢献できるように成長したいです。
上司A: そうなんだね! 「このお客様にもっと貢献できるようになりたい」というお客様はいるかな?
部下B: ○○様や××様は特によくしてもらっているので、よりよいサービスや、新しい枠組みの提案ができたらいいなと思っています。

このように、クライアントが望んでいるものを明確にするために、さまざまな角度から問いかけ、そこにクライアントの感情がこもっているかを確かめていくことが、クライアントが望むゴールを設定するために重要なのです。

「コーチ」の由来から考える、コーチングの本質とは? のまとめ

今回紹介した例からも分かるように、コーチングでは、クライアントとの対話と、目標達成までのプロセスが重要となります。コーチがクライアントに指示をしたり先導したりするのではなく、クライアントの本音を引き出し、クライアント自身が主体的に行動するように促すことが、コーチングの成果を得るためのカギとなります。

組織のリーダーは、一人ひとりのモチベーションや能力を引き出すことで、組織力を高めることができます。コーチングは、そのために有効なマネジメント手法なのです。

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