世の中の「完璧主義」に対する風当たりが強くなっています。一見、完璧主義であることは、美徳のように思えます。一般的に、日本人は完璧主義者が多いといわれています。戦後日本を支えてきたのも、トヨタ自動車や日立製作所をはじめとする製造業の完璧を求める気質だったはずです。しかし、時代は変わりました。今の時代、完璧主義であることが不利になる局面が増えてきています。この記事では、完璧主義の問題点と、完璧に仕上げる前に試しにやってみる「プロトタイプ思考」について解説します。
今日から「完璧主義」とはおさらばしよう
ここでは、「完璧主義」がこれからの時代どんどん通用しなくなっていくことについて述べます。
仕事における「完璧主義」が抱える問題点とは??
「完璧主義」でいると、仕事において問題が生じてしまうことがあります。どういうことでしょうか? 3つの論点に分けて解説します。
〆切ギリギリに大幅修正も
完璧主義者は、100点を求めて行動します。そのため、納期までに成果物のクオリティを出来る限り高めようとします。ただし、求められるのは、70点で十分という場合もあります。レベルよりもスピードを求められているときに、このやり方はあわず、時には仕事が遅い人というレッテルを貼られることも⋯⋯?
完璧主義者の特徴のひとつとして、「初動が遅い」という問題も指摘されています。。取り掛かりは早いのですが、彼らは、実際に作業を始める前に完璧な準備を行うことを重視します。例えば、大量の資料を読み込んだり、綿密な計画表を作成する、などです。それ故に、実際に求められる初動が遅れてしまうこともしばしばあります。
完璧主義の人は、納期が1週間後と決まっていたら、途中で一旦、未完成品を見せてアドバイスを仰いだり、上司に方向性を確認したりすることは稀です。すると、どうなるか。完成した成果物が、求められている方向性であれば問題ありませんが、ズレているときは、大幅に修正しなくてはならない状況に陥ることもあります。。
成果を安定して残しにくい傾向がある
完璧主義者は、成果を安定して残しにくい傾向があります。そもそも物事をすべて完璧にこなそうとするため、優先順位をつけることが苦手な人も多いです。そして、優先順位をつけずにあらゆる仕事に全力投球していると必ずガソリン切れになってしまいます。その結果、継続的に仕事で成果をあげることが難しくなってしまいます。。
完璧主義であることは、身体や精神の健康にも大きな害をもたらします。彼らは、ストイック故に仕事を完璧にするために時間外労働を慢性化させることもあります。さらに、完璧主義者は不安や焦燥を感じやすく、他人の評価も気にしやすいので、ストレスを溜め込みやすいと言われています。カーティン大学の上級研究員であるSarah Egan氏のリポートによると、”It’s something that cuts across everything, in terms of psychological problems(完璧主義は心理的問題という点であらゆることに関わるものである) ”と指摘しています。
意外かもしれないですが、完璧主義者は仕事を投げ出しやすいといわれています。理由は、彼らの多くが「成功か失敗か」のどちらかしかないという価値観を持つ傾向があるからです。そのため、途中で予想外の出来事が起こるなどして、仕事を成功させることが難しくなると、一気にヤル気を失い、仕事を投げ出してしまうことも。。
人と協働することが苦手
完璧主義者は、人と協働することが得意ではないということもいわれています。。一番の理由は、他人にも完璧を求めるからです。自分の思うように他人も動いてくれるものだと思っているため、協調性に欠けた態度をとってしまうこともよくあります。そうすると、他人と協働することが難しくなります。
これからの時代「完璧主義」では生き残れない
これからの時代は「完璧主義」という鎧を脱がないと生き残れないと言われています。現在は、「①スピード」「②信頼」「③他者との協働」が重要な意味を持つ時代だからです。
① スピード
インターネットの普及によってビジネスを取り巻く環境の変化のスピードが飛躍的に高まっていることが背景にあります。要するに、完成度も大事ですが、スピードはもっと大事ということです。より早くローンチして、作ってから修正していけばいいという考え方が主流になっているからです。ひとつの仕事の完成度を上げるため多くの時間をかける完璧主義者は、時代にそぐわない存在になりつつあります。
② 信頼
「信頼」は、昨今とても大きなテーマとなっています。キングコング西野亮廣さんの著書『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』(幻冬舎、2017)では、「お金」を稼ぐ時代から「信頼」を稼ぐ時代へと変化してきていると書かれています。これは、近年のクラウドファンディングの興盛をみていればよくわかります。信頼は、継続性あるいは一貫性と結びつきの強い概念です。成果にムラがある完璧主義者は、信頼を得にくい可能性があります。
③ 他者との協働
一つの企業や個人が内に引きこもり黙々と製品やサービスを開発する時代は終焉を迎えつつあります。それよりも、異なる者同士の強みと強みを掛け算(コラボレーション)して、今までにはないようなイノベーションを生み出す時代になりつつあるのではないでしょうか。これは、SNSでつながった人同士が新しく事業を始めるという「個人」の世界でも同じことがいえます。完璧主義者であっても、これから他者と協働して成果を残すことを求められていく場面は増えていくでしょう。
「プロトタイプ思考」で突き抜けよう!
ここまで、「完璧主義」が批判されている理由がわかったと思います。これを解決するために筆者が推奨したいのが「プロトタイプ思考」です。プロトタイプ思考の説明から、それを習慣化するためのコツを紹介します。
「プロトタイプ思考」とは何か?
筆者の「プロトタイプ思考」の定義は、「試作品(プロトタイプ)をすばやく作り、他者を巻き込んだPDCAサイクルをデッドライン(期限)まで回し続け改良を重ねることで、アウトプット(成果物)の質を限界まで高める考え方」です。
「プロトタイプ思考」を仕事に用いれば、大きな成果を出すことが可能です。前述した完璧主義が抱える問題点の多くを解決することができるからです。
「プロトタイプ思考」を習慣にするためには?
ここでは、どのようにプロトタイプ思考を活用すればいいのか、解説していきます。
チャンクダウンとベイビーステップ
ここでは、「チャンクダウン」と「ベイビーステップ」という考え方を紹介します。
チャンクダウンとは、仕事を細かく分割することです。こうすることで、今やるべきことがどれかを具体的に認識することができます。
ベイビーステップとは、仕事を少しずつ一歩一歩進めるつもりで始めることです。
チャンクダウンとベイビーステップを組み込むことによって、完璧主義者の弱点であった初動の遅さを解決することができます。また、仕事に取り組むハードルを下げることで、継続的に仕事を続けることができます。
完成度30%のプロトタイプ(試作品)をすばやく仕上げる
完璧主義者は、完成度が100%になるまで自分の仕事を人に見せたがりませんが、そうすると前述したようにさまざまな問題が生じます。そこで、完成度は30%でいいのでプロトタイプ(試作品)をすばやく仕上げ、人に見せることを意識しましょう。すると、方向性のズレを確かめることができるため、その後の作業を自信を持って進めることができるのです。完成度は、30%→50%→80%と、徐々にあげていけばまったく問題ありません。
他者の力を借りる
完璧主義者は、誰にも頼らずに黙々と作業をすることが多いですが、プロトタイプ思考では積極的に他者を巻き込んでいく考え方を支持します。それをする時に、たたき台となるプロトタイプがあると、それをベースに議論をすることができるので、有益なフィードバックをもらいやすいのです。また、他者とコミュニケーションの姿勢を見せることで、あなたの周りに人が集まってくるようになります。それは、仕事の成果を超えた財産となるでしょう。
まとめ:これからの時代に求められる「プロトタイプ思考」
この記事を読んで、「自分は完璧主義だったかもしれない⋯⋯」と思った人は、黄色信号です。記事でも述べたように、完璧主義はこれからの時代、通用しなくなってきます。しかし、まだ十分間に合います。完璧主義と自覚のある人は、記事で紹介した「プロトタイプ思考」を身につけましょう。そうすることで、仕事でも大きな成果を出すことができるでしょう。