パフォーマンスマネジメントという言葉をご存知でしょうか?
聞き慣れない方も多いかもしれませんが、近年、人材マネジメントにおいて注目されている手法です。
今回はパフォーマンスマネジメントとはどのようなものなのか、活用のメリットや導入のポイントについて解説します。すでに導入している企業の活用事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
パフォーマンスマネジメントとは
パフォーマンスマネジメントとは、従業員のパフォーマンスを向上させるため、個々の資質に応じたアドバイスや目標設定を行い、能力やモチベーションを引き出していくマネジメント手法です。
従来の上司が部下を評価するという形式ではなく、上司と部下の対話を重視し、コーチングによって部下をサポートしながら目標達成に導きます。定期的に上司と部下のコミュニケーションの場があるので、良好な関係が築きやすく、組織のパフォーマンス向上にも役立ちます。
目標管理制度(MBO)との違い
多くの企業において人事マネジメントとして用いられている目標管理制度(MBO)と、パフォーマンスマネジメントの違いはどのようなところにあるのでしょうか。
まず挙げられるのは、サイクルの長さの違いです。
目標管理制度(MBO)は「目標・行動・結果・評価」を、半年や1年の長期サイクルで行います。
一方、パフォーマンスマネジメントでは、1ヶ月や3ヶ月、時には数週間など、短いサイクルでフィードバックを行うため、スピード感のある人事評価が可能です。
また、目標管理制度(MBO)は策定した目標を基準に、半年や1年の行動や結果について、企業内で設けた基準に沿って、上司が部下を評価します。
パフォーマンスマネジメントではコーチングが主体となり、リアルタイムにフィードバックを行うことで、部下の育成やモチベーション向上につなげていきます。
最新のパフォーマンスマネジメント
最新のパフォーマンスマネジメントの中で注目を集めている手法に、「ノーレイティング(No rating)」があります。No ratingとは「評価をしない」、つまり目標管理制度(MBO)のように評価基準を設けて評価やランク付けを行なわない人事です。
その時の現状にあわせた目標を設定し、その目標に対して上司から部下にリアルタイムでフィードバックを行い、対話を重ねながらコーチングを行います。上司からのフィードバックをもらうことで、部下のモチベーションやスキルが向上し、目標達成につながります。
上司と部下のコミュニケーションが深まると信頼関係も構築され、企業へのエンゲージメントも高まります。
パフォーマンスマネジメントを活用するメリット・重要性
リモートワークの普及など、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する昨今は、人材マネジメントも、柔軟に取り組むことが求められます。短いサイクルで取り組むパフォーマンスマネジメントは、柔軟に対応するうえでとても効果を発揮します。
パフォーマンスマネジメントでは、上司と部下のコミュニケーション機会を増やしたり、スピーディにフィードバックをしたりして、部下の成長につなげます。
状況に応じた目標を設定し、上司からのフィードバックを繰り返すことで、部下の成長度合いや課題を確認し合い、時には目標の再設定を行うなどの軌道修正も可能です。
状況に合わせて随時目標の軌道修正を行えることは、部下の成長やパフォーマンス向上のみならず、企業にスピード感をもたらします。
世の中の情勢や変化に柔軟に対応できる企業体制は、現代社会における企業経営にとても重要な要素となります。
パフォーマンスマネジメントは、企業と従業員、双方にメリットのある手法といえるでしょう。
パフォーマンスマネジメント導入のポイント・コツ
日本の多くの企業では目標管理制度(MBO)を導入していますが、現代の仕事環境の中で、パフォーマンスマネジメントへの転換を検討している企業も多いようです。
では、実際にパフォーマンスマネジメントを導入する際には、どのような点に気をつけたらよいでしょう。ここからは、パフォーマンスマネジメントを導入する際のポイントやコツについて解説します。
パフォーマンスマネジメントの目的や意味を共有する
まずは、パフォーマンスマネジメントを導入する目的や意味を、社内で共有することが重要です。会社が何を目指し、どのような背景で導入をするのかを社員にしっかりと伝え、理解を求めましょう。
中には、従来の評価制度からの変更に不安を感じる社員もいるでしょう。社員の不安にも耳を傾けたうえで、丁寧に説明を行い、理解を得られるように努めます。
適切な目標設定を行う
目標設定は、上司が一方的に部下に伝えるのではなく、部下と十分に話し合い適切な目標を設定します。この時に、上司は部下の適性やスキルをよく理解し、モチベーションや能力が高められるように導く役割があります。
上司に対してはコーチングなどの研修を実施することも、パフォーマンスマネジメントを導入するには重要です。事前に部下の持っている能力や、これまでのパフォーマンスの把握などの準備をして部下と向き合い、部下が自分の考えや希望を話しやすいような雰囲気作りを心がけると、適切な目標設定が行えます。
1on1を行いチーム内のコミュニケーションを積極的にとる
上司と部下が1対1で行うミーティング「1on1」を積極的に行い、部下一人一人とのコミュニケーションを構築することは、パフォーマンスマネジメントには欠かせません。
1on1は比較的短いスパンで、週に1回や月に1回などとあらかじめ日程を設定しておき、目標設定や進行状況、問題点、フィードバックなどを行います。1on1を重ねることで、部下は問題点や悩みなどを相談しやすくなり、上司はそれに対して的確なアドバイスを行えるなど、上司と部下の信頼関係が深まります。
1on1のミーティング内容は、必ず記録をとっておきましょう。記録をとるためにツールを活用することも一つの方法です。
1on1ミーティングについてはこちらの記事でも解説しています。参考にしてください。
【関連記事】
▶︎1on1ミーティングとは?注目される理由や進め方について解説
▶︎1on1とは? 必要とされている理由・実施の流れやコツを紹介
チェックとフィードバックを迅速に行う
部下が取り組んだ内容に対して、チェックとフィードバックを迅速に行うことも、パフォーマンスマネジメントでは重要なポイントです。
取り組んだ内容が記憶に残っているうちに、上司からのチェックやフィードバックがあると、飲み込みや軌道修正がしやすく、スキルアップ効果が高くなります。上司も、より現状に即したフィードバックができるため、フィードバックの内容に対して、部下が疑問に感じることが少なくなるでしょう。
継続して行う
パフォーマンスマネジメントは、継続して行うことで効果を発揮します。1on1のように定期的に日程を決めて、実践していきましょう。
日々の業務を進める中では、急なミーティングが入ったり顧客からの訪問依頼があったりなど、決めた日時で行えない場合も生じるでしょう。その場合でも、必ず日程を再度設定して、確実に行うようにします。
ヒアリングやコーチングのスキルの学習機会を作る
パフォーマンスマネジメントでは、上司のヒアリングやコーチングのスキルが重要となります。上司のスキル向上のためには、研修会を実施したり関連本を読んだりなど、積極的に学習機会を作るとよいでしょう。
部下とのコミュニケーションは、単に会話をすればいいというものではありません。
上司がスキルを身につけていなければ、適切なパフォーマンスマネジメントが行えず、部下のモチベーションを下げる結果となってしまう場合もあります。
パフォーマンスマネジメントを学ぶためのおすすめ本として、「パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学(著者:島宗理)」があります。物語形式でパフォーマンスマネジメントについて解説してあり、現状と付け合わせて読むことができるでしょう。
パフォーマンスマネジメントの事例
すでにパフォーマンスマネジメントを実践している企業では、どのような効果を得ているでしょうか。3社の事例を紹介します。
アドビ株式会社
アドビ株式会社では、「チェックイン」という新しい人事制度を2012年より導入しています。3ヶ月に一度、マネージャーと部下が以下の3つのフレームワークに沿ってミーティングを行うものです。
・Expectations(マネージャーから部下への期待についてのすり合わせ)
・Feedeback(マネージャーと部下が、双方から行う)
・Development(能力開発のためにどのようなことをすべきかアドバイス)
ミーティングにより短期的な課題や目標を設定することで、情勢の変化に対応することができるなど、成果をあげています。
また、年に一度、マネージャーが部下とのコミュニケーションを振り返り、人事評価と報酬について検討する「リワード・チェックイン」を行っています。報酬については部下と話し合ったうえで決めているので、部下は納得感があり、モチベーション向上や離職率の低下につながっています。
スターバックスコーヒージャパン株式会社
従業員の約8割がアルバイトのスターバックスコーヒージャパン株式会社では、アルバイトと社員の区別なく全従業員をパートナーと呼び、4ヶ月に一度ミーティングを実施しています。
サービスマニュアルがなくパートナー一人一人に行動を任せている同社では、エンゲージメントの高さが店舗運営に大きく影響します。そのため、マネージャーにはパートナーが備えている能力を最大限引き出し、高いパフォーマンスを発揮できるような人材育成が求められます。
ミーティングでは、「Why you‘re here?(あなたが“ここにいる理由”を教えてください)」という問いを大切にして、目標設定を行っています。パートナーの個性を大切に個人の目標を設定し、コミュニケーションを重ねていくことが、モチベーションの向上につながっています。
株式会社三栄建築設計
株式会社三栄建築設計では、今まで5段階評価で人事評価をしていましたが、これを廃止して、3ヶ月に1回上司と部下が面談を行い育成をする制度を導入しました。
評価を目的とした面談から、コーチングやサポート・育成を目的とした面談にシフトすることで、面談の質が向上し、上司と部下それぞれのパフォーマンス向上につながりました。
社員のエンゲージメントも向上し、安定した会社経営を行っています。
まとめ
社会情勢変化が激しい現代において、多くの企業で行われていた従来の評価制度が、状況に合わなくなってきていると感じている方も多いでしょう。
企業が生き残っていくためには、スピード感、綿密なコミュニケーション、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上などが求められます。
パフォーマンスマネジメントを取り入れることで、これらが獲得しやすくなります。
本稿を参考に、ぜひ実践してみてください。