企業としての競争力を高めるためには、優秀な人材を引き付けていくことが大切です。この企業で働き続けたいとメンバーが思える組織には何が必要なのでしょうか。メンバーのエンゲージメントを高めるために、欧米や国内の企業が行っているさまざまな事例も紹介します。自社らしい人事施策や戦略立案の際の参考にしていただけたら幸いです。
Googleが見出した成功チームの共通点
チームワークを成功に導くために必要な要素は何でしょうか? 個々のメンバーの能力、あるいは協調性などが挙げられるかもしれません。Googleは、自社の生産性を向上させるために労働改革プロジェクトを実施し、その中で、成功するチームが持っている共通点を突き止めました。チームメンバーが最大の能力を発揮しながら働くその環境はどんなものだったのか、Googleの分析による5つの視点をご紹介しましょう。
生産性の高いチームの5つの共通点
生産性が高く望ましい成果を上げているチームには、以下のような要素がありました。
1.心理的安全性
成功するチームの絶対的な共通項として強調されたのが「心理的安全性」です。心理的安全性とは、心理学用語のひとつで、ありのままの自分を曝(さら)け出せる安心感のことを言います。周りに対して、叱られたくない、無視されたくない、馬鹿と思われたくない、邪魔者扱いされたくないという不安を持ってしまうチームでは、心理的安全性を保つことができません。メンバーは、それらを回避することにもエネルギーを消費してしまうようになります。心理的安全性を持てる環境にあれば、そのエネルギーは仕事やチームのことに使っていけるのですから、生産性が上がることも理にかなっています。
2.相互の信頼性
個々のメンバーが納期や品質を守って仕事をやり遂げようとする意欲や能力を持っているだけでなく、一緒に仕事をするチームメンバーもそのような意欲や能力を持っているのだという信頼があることが重要になります。
3.明確な役割、計画、目標の共有
プロジェクトは明確に役割分担がされています。全体の目標や計画、さらに個々のチームメンバーの目標や計画も共有され、共通の認識が保たれていることが大切です。
4.仕事の意義を理解し合っている
チーム全体で仕事を行なっている際にも、各自のメンバーが自分の仕事に対して個人レベルで意義を感じられていることが重要です。また、他のメンバーが持っている意義を尊重し、相互理解を進めることも大切になります。
5.仕事のインパクトを信じている
メンバーの一人ひとりが、その仕事には良い影響力があると信じていて、自分たちの仕事が社会貢献につながるものだと確信して取り組めていることが重要です。
以上が成功するチームに共通する要素になります。それでは、これらの要素を実現していくためにはどのような施策を行えばよいのでしょうか?
チーム強化のための戦略・施策事例
どの企業も、社員に自社で有意義に働き続けて欲しいと思っています。社員の定着は経営戦略的にも重要な要素です。そのため、世界中の企業が、独自にさまざまな施策や改革を行なうようになっています。ここで、そのような事例をご紹介していきましょう。Googleが突き止めた成功チームの要素の項目と重なる部分が感じられることでしょう。
学習資金援助を行なうスターバックス
アメリカのスターバックスは、従業員が学士号を取ることに必要な資金の一部を援助しています。アリゾナ大学との提携により、40種類以上の学科が準備されオンラインでの受講が可能となっています。週20時間以上勤務している従業員が対象となっています。自社で働きながら新たに身に付ける知識で、社内でのキャリアアップや昇進を目指してほしいという願いから採用されている制度です。日本のスターバックス社でも通信教育の受講補助は実施されています。
1on1ミーティングの先駆けYahooジャパン
Yahooジャパンは、人事戦略のとしていち早く1on1ミーティングを取り入れた企業です。上司と部下の毎週1回、30分間ミーティングは、相互理解と部下の成長促進に成功しています。上司と部下とのコミュニケーションが活性化されることで相互認識が正確になり、評価の納得度を高める効果があります。1on1ミーティングではコーチングの手法も必要とされるため、メンバーは自分が言いたいことが言えるというだけでなく、気付きが促される効果も部下の発言意欲を高めるでしょう。理解してくれる上司がいる安心感もエンゲージメントにつながっていくのではないでしょうか。
信頼して任せる方針で成功した小松製作所
小松製作所は、自社の従業員エンゲージメント向上のためにマネージャー層の能力強化に取り組みました。研修やワークショップの中で管理職に意識強化が求められる内容は5つ。信頼を得る、モチベーションの上げ方、変化への対応、チームワークの取り方、権限委譲の重要性。部下が日々接し、一番影響力の大きい上司たちの意識改革によって社員のエンゲージメントを向上させた事例です。
充実の福利厚生で惹きつけるサイバーエージェント
IT大手のサイバーエージェントの福利厚生の充実度が高いことも話題になりました。社員からの要望を取り入れるユニークな制度が多いことも特徴です。オフィス内にカフェを設置、働くママを支援するマカロンパッケージ制度は、女性特有の不調のためのエフ休暇、不妊治療を応援する妊活休暇や妊活コンシェル、子供の急な看護に対応するキッズ在宅、子供の記念日のためのキッズデイ休暇、認可外保育園補助、おちか区ランチやママ報など盛りだくさんの制度メニューがあります。
働きやすい環境づくりに取り組むGoogle
Googleのオフィス内には、無料で利用できるカフェやジム、パワーナップ用の睡眠用ポッドも導入されています。洗車やオイル交換、ドライクリーニング、美容室、食材販売まで業者委託での提供を行なっています。また、社員が死亡した場合に遺族に給与の半額を10年間にわたって支払う制度もあります。質の高い仕事を社員に求めつつも、しっかり環境や制度の提供が行われているのです。
クレドの配信で組織力を上げるジョンソンエンドジョンソン
クレドという言葉をご存知でしょうか。ジョンソンエンドジョンソンが世界に先駆けて発信を始めた、企業に属する社員の行動指針についての宣言です。分かりやすい言葉と具体的な行動の中に込められる企業の在り方は、正社員だけでなく企業に関わるすべてのスタッフに浸透しやすい内容です。たとえ入社間もない社員でも、そのクレドに書かれた内容を基に、社の一員としての自律性の高い行動ができます。現在では、企業理念や社是に加えて、クレドを作成する企業も増えてきています。
チームで15時退社を目指すスタートトゥデイ
「チームで」その日の目標が達成できれば15時に退社ができるという制度を導入しているのがスタートトゥデイ。6時間勤務制度を取り入れているのです。この制度が導入されてから、社員の集中度も上がり生産性の比率は好調に伸びているようです。15時に終わったら、退社後は何をしよう?と考えることに社員の意識がシフトしているとのこと。仕事ばかりに偏らず、ワークライフバランスをうまく取っていくトレーニングにもつながるのではないでしょうか。もちろん、終われない場合には、「チーム皆で」残業してやり終えるというルールもキーポイントです。
自社にはどんな施策が必要かを問う
社員の「ここで働き続けたい!」という思いを引き出すためにできるさまざまな事例を紹介しました。しかし、同じ施策を取り入れたからといって、同じような効果が得られるとは限らないところが、組織としてのエンゲージメント向上の難しいところです。経営陣や人事は、自社にとっての有効な策をどのように見極めていくべきでしょうか。
人材の保持という本質を考える
自社で働き続け、成長を遂げてくれる人材を確保するためには、従業員エンゲージメントを高める必要があります。従業員エンゲージメントを向上させることが、組織力を上げて、企業を成長させていくためにはどうしても必要になるという認識が高まってきました。
そのためには、社員の働く環境をさまざまな側面から理解していく必要があります。たとえば、ストレスの基になっているもの、コミュニケーションを阻害しているもの、コミュニケーション促進する手段、モチベーションを喚起や維持につながるものなどがあります。見えてくる問題や課題は組織ごとに、チームごとに異なってきます。
現状理解のための調査を行う
自社の現状を理解することが先決です。エンゲージメントに関する情報を集めるための調査も有効策のひとつ。いくつかの質問を用意して、アンケートやインタビューを実施している企業も少なくありません。アンケートでの調査の場合、できるだけ多くの社員に回答してもらうこと、できるだけ率直な回答をしてもらうことが課題となるでしょう。
アンケート実施の際のポイントとしては、質問の数を少なくすることです。質問の数が多いとまず、回答意欲が失せます。回答したとしてもあまり深く考えずに適当に答えてしまいます。また、質問の数が多いと回答を処理する手間が増えます。アンケートは回答を受けて終わりではなく、適切な対策で対応していくことも大切なことなのです。アンケートはシンプルに質問を少なくして、アンケート実施回数を増やすほうが回答率も回答の質も上がります。
調査結果を自社に合わせて反映する
問題や課題、それらに対してどんなことが有効な解決策になるかは組織ごとに異なってくるでしょう。見えてくる問題や課題に対して、単なる施策というよりも、経営や人事の戦略と認識することも大切です。企業や人事が先陣を切って取り組みを実施していかなければなりません。
まとめ
Googleが導き出した成功するチームの要件の中でも心理的安全性は、最も重要とされています。良いチームでは、メンバーの一人ひとりが自分らしく仕事に打ち込める環境があります。メンバーの個性や裁量に任せるのではなく、組織ぐるみで創り上げていくことが必要といえるでしょう。