もし隣のだれかが「うつ病」になったら~先輩・同僚・部下のためにできること~

2015年に従業員数50人以上の企業でストレスチェックが義務化されました。近年「うつ」や「メンタルヘルス」などに関する話題はますます注目を集めています。そんななか、社会人が備えるべき職場内のリスクは、自分自身のことだけではありません。

先輩や同僚、部下など、ともに働く仲間がうつになったらどうすればよいのでしょうか。今回は身近な誰かがうつになったときの対処法を考えていきたいと思います。

厚生労働省の心の健康と病気に関するWebサイト「みんなのメンタルヘルス」には、「周囲の人が気づきやすい変化」がまとめられています。今回の記事は、その内容をもとに、職場で考えられるうつ病のシグナルとその対処法について考えていきたいと思います。

珍しいことではない仕事のうつ

うつ病患者の数が100万人を超えるといわれる日本。その原因はさまざまですが、仕事が原因でうつ病を発症する人も珍しくありません。

2019年6月、厚生労働省は仕事が原因でうつ病などの精神疾患にかかり、労災申請された数が2018年の1年間で1820件だったと発表しました。この数は1983年度の統計調査開始以降最多で、昨今は6年連続で増加している状態だといいます。

このような状況のなか、多くの社会人にとって「うつ」は自分だけが注意すればいい問題ではなくなりました。もしも、隣のデスクで仕事をしている同僚や、チームをまとめるリーダーが明日から突然来なくなったらどうしますか。

そしてその原因がうつだったとしたら、あなたは何を考えますか。メンタルヘルスの話題で「自分は大丈夫と思っている人ほど危ない」という忠告をよく耳にすると思います。もし「自分は大丈夫」と思うのであれば、周囲の人のうつに対して備えるべきです。

なぜなら、そのことが結果的に自分自身にとっても備えになるからです。まずは客観的な視点でうつに対する理解を深め、周囲の人と自分に何らかの異変が起こったときに、対処できるようにしましょう。

私たちは専門家ではありませんが、職場の仲間が精神的な理由で会社を辞めたり、通院しなければならなくなくなったりする前に、できることがあるはずです。

参考:「社会復帰に新展開! 最新のうつ病治療」「心の病で労災申請、18年度最多更新 厚労省発表

うつになりかけている人の見つけ方

うつやメンタルヘルスの異常はできるだけ早い段階で、改善に向けたアクションを起こす必要があります。そして、本人に早い段階で働きかけるために、周囲の人ができるのは「気づく」ということです。

<周囲の人が気づきやすい変化一例>

  • 服装が乱れてきた

→クールビズでもないのに急にネクタイをしなくなった。
→最近よれよれの服を着ていることが目立つようになった。
→髪が社会人にふさわしい見た目に整えられていない日が続いている。

  • 感情の変化が激しくなった

→あまり声を荒げることのなかった人が、部下を怒鳴りつけるようになった。
→会議などの場で率先して発言する人が、気の抜けた表情を見せることが多くなった。
→仕事のミスを指摘されたことに対して過度に落ち込み、何日も引きずるようになった。

  • 遅刻や休みが増えた

→具体的な理由を説明せずに遅刻をするようになった。
→余裕をもって出勤するタイプだった人が、毎日定刻ギリギリに出勤するようになった。
→当日朝に急な連絡で休みを取ることが増えた。

  • ミスやもの忘れが多い

→仕事中にぼーっとした様子がしばしば見られ、集中できていない印象を受ける。
→指示されたことや引き受けた仕事の存在そのものを忘れる。
→ケアレスミスが増え、周囲が注意することが増えた。

上記のような状態の人が職場にいたら、異変に気づいたその時に、声をかけてあげてください。体調を気遣う内容でも、最近ちゃんと休めているかを確認するものでも構いません。そこから本人が何かを語るのであれば、その内容を聞いてあげましょう。

うつや精神的な疲れは、本人では気づきにくいものです。まずは周囲がシグナルに気づき、声をかけてあげることで、本人は自分の状態を周囲に語りやすくなります。その対話のなかで抱え込んでいるストレスが軽減されることもあります。

一方で、本人は自分の状態を客観的に把握できていない場合もあります。その際は、話を聞いた周囲の人間が業務を軽減してあげたり、出勤日や勤務時間の調整をしてあげたりするのがいいでしょう。

もしそういった仕事上でのサポートが難しい場合は、ストレスの解消方法や息抜きの仕方を教えてあげることも有効です。

周囲の人ができるのはきっかけを与えてあげること

気分が落ちている人の話を聞いてあげることは、その場では本人に良い効果をもたらしますが、長期的に見ると良い解決策とはいえません。なぜなら、話を聞いてあげることで一時的にストレスが解消されても、時間が経てばストレスはまた蓄積されるからです。

また、話を聞く側にとっても、気分が落ちている人の話を繰り返し聞くことは負担になります。相手のためによかれと思ってしていることが、かえって自分のストレスになってしまっては意味がありません。重要なのは、本人の力でストレスから解放される方法を探すことです。

とはいえ、本人はそういった方法をうまく見つけられないために、ストレスをため込んでしまっています。そんな相手に「ストレスをためないようにしたほうがいい」と声をかけてもあまり意味はないでしょう。

周囲の人ができるのは、その人にあったストレスの解消法や息抜きの方法を見つけるために、きっかけを与えてあげることです。そして、生活の中にストレス解消の機会を組み込む方法を一緒に探してあげてください。たとえば、それは次のようなものです。

  • 仕事の昼休みに、無理やりにでも会社の外でランチを食べる機会を作る。
  • 週に1回は仕事が終わっていなくても定時で退勤させる。
  • できていないことではなく、できたことの一覧表を作るようすすめる。
  • 昔の趣味の話を根掘り葉掘り聞いて、再開をすすめる。一緒に準備を整える。
  • 休みの日に一緒に遠出する。
  • 気分転換や快眠などのツボを一緒に調べて、やってみる。

参考:「転職活動に疲れたら……。ストレスタイプ別、手軽にできるストレス解消法13選」等

相手との関係性にもよりますが、習慣化できることを進めるところがポイントです。習慣化できる方法であれば、本人にとっても周囲にとっても、無理のないかたちで仕事のストレスとうまく付き合っていくことができます。

はじめは周囲の誰かがきっかけを与えてあげることで、本人は「どうにもならない」「変わらない」と感じている生活や、仕事のかたちを変えられる気づきになるはずです。一度有効な方法と出会うことができれば、本人は段々と生活のスタイルを変えていけるでしょう。

まとめ

近年さまざまな場所で目にする機会が増えている、うつやメンタルヘルスについての問題。多くの人と関わる社会人にとって、自分自身がなってしまうリスクよりも、周囲の誰かがなってしまうリスクのほうが大きいのかもしれません。

周囲の仲間が日々仕事をしている様子を見ていて、違和感に気づいたときには声をかけてあげてください。私たちは専門家ではないからこそ、声をかけ合って、互いにサポートすることが大切です。

うつにはきっかけや原因があるのと同様、快復するにもきっかけが必要です。隣にいる誰かにうつの兆しが見えたら、あなたが回復のきっかけを作ってあげてください。


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