転職活動をしている方、転職を検討されている方の中には「転職エージェント」を利用している、検討している方も多いのではないでしょうか。
以前より転職エージェントの利用のハードルが低くなってきたとはいえ、実際に転職エージェントを利用した方からは
「希望の条件と違う求人を紹介される……」
「応募や面接など、とにかく強引にやらせようとする……」
「最初は頻繁に連絡をくれたのに、いつのまにかフェードアウトされた……」
といった声が多く上がっています。
せっかく時間を割いて転職エージェントを利用しているのに、なぜこのような残念な結果になってしまうのでしょうか。それは、転職エージェントのサービスを利用する側が「転職エージェントは転職のプロだから任せていれば大丈夫だろう」と考え、キャリアアドバイザーに転職活動の主導権を渡してしまっているからです。
では、どうすれば転職エージェントを利用して納得度の高い転職を実現できるのでしょうか。
今回はこういった疑問を解決するために、現役のキャリアアドバイザーである著者が
- 転職エージェントの実態
- 転職エージェントを徹底的に使いこなす”正しい”方法
について詳しく解説していきます。
あなたは転職エージェントに “使われている”かもしれない
転職エージェントを効果的かつ徹底的に使いこなすには、まずは転職エージェントの実態を知るところからはじめましょう。
転職エージェントを使っても「いい転職」ができるとは限らない
以前は「転職エージェントから紹介される人材は、転職サイト経由の人材より優秀で即戦力である」ことが当たり前でした。転職サイトに求人を掲載するより転職エージェントから紹介される人を雇用するのは高い費用が必要だったからです。そのため、転職エージェントに登録ができるのも即戦力となりえる経歴を持っている人に限られていました。
ところが現在、人手不足による空前の売り手市場に加え、転職エージェントのサービスを展開する企業も増えています。かつては大手転職エージェントに登録を断られた層(転職活動が長引くと判断された人たち)を支援してくことで徐々に知名度を上げる会社も出てきたことから、大手転職エージェントも登録の要件を大幅に緩和していきました。しかし、複数の転職エージェントに登録して活動する求職者が増えていき、結果として「なんとしてでも自社で内定を決める!」と息を巻いて必死になるキャリアアドバイザーがあちこちで現れるようになっていったのです。
それでは、なぜキャリアアドバイザーは「なんとしてでも自社で内定を決める!」と必死になるのでしょうか。
転職エージェントの宣伝広告と実態
テレビCMや街中で見かける大手転職エージェントの宣伝を見ていると、どこの転職エージェントも軒並み「転職支援実績No.1」や「業界最大数の求人数」、「日本最大の紹介実績」「業界専任のキャリアアドバイザーによる充実したサポート」などの華々しいうたい文句が並んでいます。
もちろんどの転職エージェントも優れたサービスを展開していますが、基本的に企業はエージェントに採用支援を依頼する場合、一通りの転職エージェントで求人を出していることが多いです。なぜなら、求人を出すだけなら企業側の費用はいっさい発生しないからです。
一部の特殊な転職エージェントを除いては、エージェントが紹介をした人が入社をした日に費用が発生する仕組みのため、「管理が面倒なので1社にしかお願いしない」という企業でもなければ、応募の母数を最大限に増やすため複数の転職エージェントに求人を出すのです。よって、本当にその転職エージェントが「転職支援実績No.1」なのか、「日本最大の紹介実績」があるのかは、誰にもわかりませんし、確証もありません。
業界最大手グループの転職エージェントだと、ある一社の紹介決定数(=入社させた求職者の人数)が先月はA社だったとわかれば、ライバルのB社はシェアを奪おうと「今月はA社への推薦を積極的に行っていきましょう!」と躍起になります。
それにより、
- 本人の希望には合わないが、ひとまず求人を紹介し
- 「まずはたくさん応募していきましょう!」と促し
- 選考が進めば言葉巧みにその企業への入社の意欲を高めていき
- 内定が出れば「〇日以内に決めないと内定が取り消しになってしまう」などの言葉で強引に決定させる
といった悪質な担当者を生み出してしまうのです。
求職者を企業に入社させることで利益を出すビジネスモデルにより、何も知らない求職者がとばっちりを受けてしまいかねないのです。
では、どうすれば転職エージェントの餌食にならずに済むのでしょうか。
転職エージェントを利用する前に知っておきたい”落とし穴”
転職エージェントは「面倒な手続きを代行してくれる」や「年収交渉をしてくれる」、「面接対策をしてくれる」などの利用するメリットがたくさんあるので、転職活動をする時は積極的に利用していきたいサービスです。
しかし、「転職のプロ」と言われている転職エージェントも企業の利益を作るビジネスである以上、メリットのみならずデメリットにも目を向け、心構えをしていくことが大切です。
転職エージェントの利用を検討するときは、次の点をしっかりと理解しましょう。
- 転職エージェントは転職活動者向けの営業職である
- 営業職なので、当然「売上目標」が存在し、その結果によって人事評価が行われる
- 売上は「候補者を企業に入社させる」ことで発生するため、担当者の都合でミスマッチの求人を推されることがある
- エージェントが企業から受け取る成果報酬は「年収の35%」など割合で算出されるため、複数の内定が出ている場合は年収の高い内定を薦められることがある
- 必ずしも担当のキャリアアドバイザーが経験豊富とは限らない。むしろ経験の浅いキャリアアドバイザーもたくさん存在する(大手になるほど契約社員や業務委託などの非正規雇用のキャリアアドバイザーの割合が増える)
人生を左右する自分の転職を、転職エージェントに都合のいいように使われてはたまりませんよね。そうならないためにも、転職エージェントを徹底的に使い倒す方法を実践していきましょう!
転職エージェントを徹底的に使い倒す正しい方法
ここからは、転職エージェントを徹底的に使い倒す方法を
- 転職活動をする前
- 転職活動をしているとき
- 内定が出たあと
の3つの段階に分けて詳しく説明していきます。
【①転職活動をする前】
現状把握と情報収集のために転職エージェントを利用する
求職者のお話を伺っていると、「転職エージェントを利用する=必ず転職しなくてはいけない」と思っていらっしゃる方が非常に多いことに驚かされます。
しかし、転職エージェントに登録したからといって必ずしも転職をしなくても良く、むしろ「転職するべきか否か」を総合的かつ慎重に判断するための手段のひとつとして利用するのでも問題ありません。
多くの方はキャリアアドバイザーとの初回の面談を通して転職活動をするかどうかを判断されていますが、そこで転職エージェントの利用をやめてしまうのはとてももったいないです。
「いいところがあればすぐにでも転職したい」と伝えておき、もう少し踏み込んで活用してみましょう。
自分のキャリアの棚卸を手伝ってもらう
転職活動をする前に自分のことを把握・理解しておきましょう。
どんな会社でどのような仕事をしていたのか、担当した仕事で頑張ったことや困難を乗り越えたこと、パソコンなどのスキルや資格など、思いつけるものはすべてリストアップし、それらをどのようにして職務経歴書に落とし込めばいいか担当者に相談してみてください。
業界、職種、企業の研究を手伝ってもらう
自分が経験した以外の業界や職種のことは、知らないことのほうが多いものです。転職エージェントは日頃から多くの業界や職種の採用にかかわっているため、情報量はピカイチです。興味のある業界や職種について担当者に根掘り葉掘り質問してみましょう。
業界最大手や気になる企業の詳細についても、ネットで公開されていない情報を掴んでいる場合があります。
転職するにせよ、しないにせよ、社会にどのような企業があるのかはある程度掴んでおくと実際に転職活動をしようと思った時に役に立つでしょう。
企業が面接で重視していることや知りたいと思っていることを学ぶ
今すぐの転職は考えていなくても、実際に応募したり面接を受けてみるのも良い方法です。求人票からのイメージと実際に面接を受けたときのイメージがどのくらい違うのかがよくわかりますし、回数を重ねると「企業が求職者の何を知りたいのか?」が見えてきます。
企業が求職者の何を知りたいのかがわかれば事前にしっかりと対策ができますし、面接で過剰な緊張もしなくなるかもしれません。
また、企業の採用担当者との対話を通じて働きたい会社ややりたい仕事がより明確になることもあるので、面接を経験することはとてもお勧めです。
転職エージェントを利用し、1~2年に1度キャリアの棚卸や転職に関する情報をブラシュアップしよう
仮に転職をしなくても、いつでも転職できるように定期的に転職エージェントを活用してキャリアの棚卸や情報のブラッシュアップをしておくと良いでしょう。
常に自分の状態を把握することで、転職活動のみならず自身のキャリアをベストな状態に保ことができます。
【②転職活動をしている時】
積極的に支援をしたい対象であると思わせる
さきほどもご説明したとおり、転職エージェントは求職者を企業に入社させることで利益を得ています。そのため、担当のキャリアアドバイザーに「この求職者は転職意欲が高く、いいご縁があればうちで決めてくれる可能性がある!」と思わせることがポイントです。
「求職者の転職意欲が高い」とは、簡単に言うと「やる気が高い」ということ。つまり、担当者にやる気を見せればいいのです。
具体例をいくつか挙げていきます。
担当者とのコミュニケーションは頻繁におこなう
求人を紹介してもらったら質問する、推薦文を必ず確認する、面接のフィードバックはとことん深堀する、要望や意見を伝えるなど。
担当者から連絡がない限り沈黙していると「やる気がないのかも」「転職への意欲が低くなってきているのかも」と思われてしまいます。
ミスマッチと感じる求人については「なぜこの企業を紹介してくれたのか?」と質問する
ミスマッチをミスマッチのまま放置してしまうと、さらにミスマッチな企業を紹介され続けてしまいます。そうならないためにも「なぜこの企業を紹介されたんだろう?」と疑問を思ったらすぐに質問し、ミスマッチを解消しておきましょう。
この質問の効果は絶大で、そのあとに紹介される企業のミスマッチ感が薄れるのはもちろんのこと、担当者に「真剣に転職活動してるからこそ質問されたのかもしれない」と思わせられる可能性が高くなります。
丁寧な対応で好感度を上げる
担当のキャリアアドバイザーは感情を持った人間ですので、丁寧な対応を心がけるだけでも好感度があがります。そして好感度の高い求職者には不思議と注力したくなるものです。
ビジネスライクな対応ならともかく、コミュニケーションを取る気がまったくなさそうな印象のメールは少なからず担当者にダメージを与えていますので、担当者のやる気を削ぐ可能性を生んでしまいます。
メールや電話は丁寧に対応するのが吉。担当者にやる気を見せることはとても大切なことです。しかし、その担当者に自分の転職活動のすべてを任せるのではなく、
- 合わない、相性が悪いと感じたら、勇気をもって担当者を変えてもらう
- 複数のエージェントを利用する
など、「その担当者がすべて」という状態を作らないようにしましょう。
そして、複数の視点を持つことと同時に、「必ず自分が転職活動の主導権を持つ」ことを強く意識してください。主導権が転職エージェントに渡った瞬間にあなたの転職は、担当のキャリアアドバイザーにいいように使われてしまうかもしれません。
自分の人生を変えるかもしれない転職活動に対して、主体的であることを心がけることが大切です。
【③内定が出たあと】
後悔しない選択をするために転職エージェントを活用する
企業から内定が出たあと、担当者に急かされ、焦って納得感のない決断をしないように事前に予防線を張っておきましょう。
評価ポイントと期待されているポイントを必ずもらう
担当者には「何を評価されたのか」「入社後にどのような活躍を期待されているのか」を必ず確認しましょう。この段階でミスマッチが生じてしまうと、入社後に「こんなはずではなかった」と思うようなことが起こる可能性があります。
また、とにかく「この会社に決めます」の一言を引き出すためにしつこく回答を迫ったり、強引に決めようとしてくるキャリアアドバイザーも残念ながらいます。自分できちんと決断できるよう、判断の材料はしっかりと揃えておきましょう。
内定を承諾する条件を伝えておく
次は、担当者に内定を承諾する条件を予め伝えておくことです。うまく言いくるめて決めさせようとする担当者へのけん制になりますし、軸をぶらさず判断するための自分への言い聞かせにもなります。
「あなたのところで決めたい」と伝えておく
どこから紹介された企業で決めるかという段階に入ってきたら、担当者にはぜひこう伝えてください。
「できれば一生懸命サポートしてくれたあなたのところで決めたいと思っています」
なんとか決めさせようと強引になっている担当者を、少しだけ落ち着かせる魔法の言葉です。担当者は「他社が紹介した企業に決められたらすべて水の泡」と思っているので、「あなたのところで決めたいと思ってるよ」と伝えて安心させましょう。
それでも中には「3日以内に決めないと次点の候補者に内定が移ってしまう」などと言って決断を迫ろうとするキャリアアドバイザーがいますが、あまり鵜呑みにしないようにしてください。
企業は通常業務の時間を割いて採用活動を行っています。書類選考をし、何度も面接をし、自社にマッチする人材かを慎重に検討して出した内定は、「私たちはあなたに来てもらいたい」「あなたと一緒に働きたい」という企業の意思表示なのです。
「決断に数か月かかります」などではない限り、相談すれば待っていただける企業は多いので安心してください。
まとめ
転職エージェントを徹底的に使い倒す方法をいくつかご紹介してきましたが、すべてにおいて共通しているのは「求職者が主導権を持つ」ことです。
会社を変える、仕事内容を変えるというのは、自分の将来を大きく変える人生の分岐点。
その人生の分岐点を転職エージェントに任せっきりし、それで果たして納得感や満足度の高い転職を実現できるのでしょうか?
人生100年時代に突入し、もはや会社が用意したレールを歩く会社員人生ではなく、自分でキャリアを選択・構築していく時代になってきています。
後悔の少ない転職を実現させるために、他人任せではなく自分で手綱を操っていくことが求められているのです。
その一歩として、本記事を参考にして転職エージェントに”使われる”のではなく、”使いこなせる”人になってみるのはいかがでしょうか。