転職エージェントを利用しようと思っている方の中には、「きちんと支援してもらえるか心配……」と不安になっている人も多いのではないでしょうか。転職エージェントの担当者に関して検索してみると、「悪い担当者」や「使えない担当者」などのネガティブなワードがたくさん出てきます。
しかし、そのような中でも「キャリアアドバイザーからの支援が手厚い人」と「キャリアドバイザーからの支援が後回しにされがちな人」といった差が発生しているのもまた現実です。
この差はなぜ起きるのでしょうか。そして、境界線は一体どこにあるのでしょうか。
そこで本記事では、現役のキャリアアドバイザーの視点から、
- 積極的に支援したくなる人の特徴
- 支援を後回しにしてしまいがちな人の特徴
について、それぞれ詳しく解説していきます。
キャリアアドバイザーも完璧ではない
なぜ支援が厚い人と後回しにされがちな人が生じてしまうのかを解説する前に、キャリアアドバイザーの仕事の実態をご紹介します。キャリアアドバイザーは転職エージェントを利用する際、転職活動の支援をしてくれる「転職のプロ」と言われてます。
キャリアアドバイザーと言うと、多くの方のイメージとしては「求職者と面談し、その人にあった求人を紹介したり、応募書類の書き方を教えてくれたり、待遇の交渉をしてくれる人」でしょうか。
ところが、実際のキャリアアドバイザーの仕事は求職者への対応だけに留まりません。
キャリアアドバイザーの仕事の一例をあげると、
- 企業への営業活動、企業からの問い合わせ対応
- 求職者用の求人票作成、転職サイトへの求人掲載
- 新規面談希望者への日程調整
- 面談を行う前の新規面談希望者の資料の読み込み、求人票のピックアップ
- 企業研究
- 社内での打ち合わせ、会議、研修
など、大手転職エージェント以外の企業ではキャリアアドバイザーが求職者への対応以外にも多くの業務を行っている場合がほとんどです。日中は求職者への対応でほとんどの時間を使ってしまうため、その他の業務は営業時間が終わった後に対応しているキャリアアドバイザーも多くいます。
「転職のプロ」と言われてはいても、キャリアアドバイザーも一人の会社員。限りある時間の中で業務が立て込んだとき、目の前にある仕事と後からどんどん追加される仕事を目の前にして、人はどのような手段を取ると思いますか。多くの方は「業務に優先順位をつける」はずです。
それと同じように、キャリアアドバイザーも本来はよくないこととわかっていながらも、自分に割り振られた求職者に優先順位をつけて転職支援を行なっているのです。
こういった裏事情がある中で、実際にキャリアアドバイザーが支援を後回しにしてしまいがちな人と優先的に動いてくれる人にはどのような違いがあるのでしょうか? 著者や知り合いのキャリアアドバイザーが実際に出会った求職者の実例つきで詳しく解説していきます。
キャリアアドバイザーが支援を後回しにしてしまいがちな人の特徴4選
キャリアアドバイザーがついつい転職支援を後回しにしてしまったり、手薄になりがちな求職者の主な特徴は次の4つです。
- 完全に受け身になっている人
- 「なんでも教えてくれる」「なんでもやってくれる」と思っている人
- 現実を受け入れられない人
- 時間にルーズな人
それぞれ実例つきで解説していきます。
支援したくない人①:完全に受身になっている人
実例:
キャリアアドバイザー(以下CA)「では、今回のご転職ではどのようなことを叶えられたいですか?」
求職者A「……それは例えばどんなことですかね?」
CA「そうですね、A様のご年代ですと、多いのは”上流工程に携われる環境に身を置きたい”とか”自分のチームを作りたいから実力次第でポジションを与えてくれる環境に行きたい”などですね。今回のご転職で絶対に叶えたいことはございますか?」
求職者A「まぁやりたいことも叶えたいことも人並みにありますが、でもだいたい叶わないもんじゃないですか。この年齢になって”あれやりたい”とか”こうなりたい”とか言うのってどうかと」
CA「なるほど……でもA様は転職のご意思がとても固くていらっしゃいますが、今回はどのような企業にご転職されたいと考えていらっしゃいますか?」
求職者A「今の自分にふさわしいポジションと仕事を与えてくれる会社ですかね」
CA「……なるほどですね……では、応募は母数多めに積極的にして、書類選考が通過した中からご希望に合う企業を探されてはいかがでしょうか?」
求職者A「いや、労力は使いたくないんで、面接に行けそうな中から良さそうな求人があれば紹介してください」
CA「……承知いたしました……(自分からは動かなそうな人だな……)」
上記は著者が実際に面談をした求職者とのやり取りです。求職者Aさんは「非公開求人がたくさんあるなら、自分に最適な求人があるだろう。だからすぐに決まるはず」「確実に採用される企業か面接に進める企業でなければ応募したくない」という姿勢を最後まで崩しませんでした。
転職で叶えたいこともわからず、どのような仕事をしていきたいかもわからないため、これでは転職支援のしようもありません。それでも1度だけ面接の機会に恵まれましたが、結果は不採用。企業の採用担当者による不採用の理由は「質問しても常に受身で、結局何がしたいのがまったくわからなかった。」というものでした。
キャリアアドバイザーも求職者が受身のままでは面接に進んだとしても結果は見えているので、積極的に活動している求職者に比べるとサポートが手薄になりがちです。
支援したくない人②:「なんでも教えてくれる」「なんでもやってくれる」と思っている人
実例:
CA「今回は具体的にどのようなご相談をされたいですか?」
求職者B「自分の適職がわからないので教えてほしいです」
CA「それでは今なにか気になっている職種はありますか?」
求職者B「そもそも世の中にどういう仕事があるのかがわかりません……」
CA「では、興味のある業界はありますか? 例えばITとか、広告、エンタメ系とか」
求職者B「そういうのわからないので教えてもらえます?」
CA「……わかりました……(本当に転職する気があるのかなぁ)」
上記は著者が担当した求職者との、面談開始直後の実際のやりとりです。これはほんの一例ですが、キャリアアドバイザーを「なんでもやってくれる人」と思っている求職者も残念ながら少なくありません。
このタイプに対しては「転職するのは私ではないのに……」というのがキャリアアドバイザーの本音。
また、何でも人任せにしてしまう意識は面接の場でも伝わりやすいようです。「支援したくない人①:完全に受け身になっている人」と同様、面接官には良い印象を与えられないので、内定獲得までに長い時間を必要としてしまいます。
内定獲得までの時間が長ければ長いほどキャリアアドバイザーには負担になるため、このようなタイプの求職者は敬遠しがちになってしまうのです。
支援したくない人③:現実を受け入れられない人
転職市場の活況で「売り手市場だからすぐに転職できるだろう」という思いと、「転職エージェントを利用すれば今より良い条件の会社に転職できるだろう」という思いから、転職の現実を受け入れられないケースがあります。
著者の同僚のキャリアアドバイザーが実際に面談をした、銀行にお勤めの女性の実例を紹介します。
実例:
CA「では、今回のご転職ではどのようなことを叶えられたいですか?」
求職者C「職種は事務職の正社員で考えていて、お給料は今より欲しいです。お休みの条件は最低限今と同じで」
CA「C様の今の月収は事務職の平均月収より高めですので、まず全体的に求人の母数が少ないです。C様がご経験されている銀行の業務と一般企業の事務職では業務がまったく異なりますから、未経験と見る企業も少なくありません。IT業界やベンチャー企業を広めに見ていただけるといいと思います」
求職者C「……IT系とかベンチャー企業ってちょっと……安定してないイメージがあるので避けたいです」
CA「そうですか……。では、雇用形態は正社員に限定せず、契約社員まで広く見ていただけそうですか? 事務職は契約社員の募集が圧倒的に多いので……」
求職者C「契約社員とかありえないです。正社員で限定してください」
CA「……ちなみにですが、残業時間はどのくらいまで許容範囲でしょうか?」
求職者C「今もほとんど残業がないので、残業があるとつらいです」
CA「なるほど……。C様の条件をまとめますと、安定しているイメージの業界の事務職で今より月収が高く、正社員で残業時間はほとんどなし、ということでよろしいでしょうか。そうなりますと、例えば賞与がない代わりに月収が高めという企業もありますが、いかがでしょうか?」
求職者C「賞与は年2回、絶対欲しいです。今もありますから」
CA「お気持ちは痛いほどわかりますが、100%完璧な求人はありません。事務職は基本的に経験者採用ですし、残業ありを前提としている企業がほとんどです。平均年収は300万円を下回りますし、これに賞与が入った場合は月収は20万円前後になる計算になります。ですから、C様が今回転職で絶対に叶えたいことに優先順位をつけていただいて」
求職者C「紹介できる求人がないってことですか?」
CA「ないとは言えないですが限りなく少ないと思います。今はなくても待てば出てくることもあります。でも競争倍率はかなり高くなるでしょうね。事務職は本当に人気ですから……」
求職者C「じゃあ求人が出るまで待ちます」
CA「……」
いくら転職市場が売り手市場とはいえ、企業側も「人手不足だから誰でもいい」というわけではありません。ましてや採用時に高額な費用がかかる転職エージェントですから、企業側としては即戦力を採用したいのが本音です。そして売り手市場だからいって優秀な人材を獲得したいがために企業が採用条件を緩和しているわけでもありません。
転職の現実を受け入れられないまま転職活動をしても、納得度の高い転職が叶う可能性はかなり低いといえます。その結果が見えているため、キャリアアドバイザーも積極的に支援することに消極的になってしまいがちなのです。
キャリアアドバイザーが積極的に支援したくなる人の特徴4選
キャリアアドバイザーが身を乗り出して積極的に転職支援をしたくなる求職者の特徴は、次の4つです。
- 素直な人
- 自己開示をしてくれる人
- ネガティブな意見も聞き入れられる人
- キャリアアドバイザーと対話してくれる人
支援したい人①:素直な人で自己開示をしてくれる人
支援しやすいという意味合いもありますが、思ったことをなんでもストレートに表に出してくれる求職者に対しては、キャリアアドバイザーは安心感を持てるので積極的に支援したくなります。というのも、求職者が転職活動をしやすい環境を作るためには、キャリアアドバイザーが求職者の感覚をつかむことが必要だからです。
キャリアアドバイザーが何かを話しても適当な相槌しか返ってこなかったとしたら、示した方向性が求職者にとっていいのか悪いのかがわかりません。求職者が積極的に自分のことを教えてくれないと、キャリアアドバイザーはその人の想いや志向、適正などがわからないため、求人紹介でもミスマッチが生じてしまう可能性があります。結果的に求職者に適した活動環境を作れず、最適な支援ができなくなってしまうのは求職者にとってあまりにももったいないことです。
また、意中の企業の採用担当者に対して求職者を熱く語れるのは担当のキャリアアドバイザーしかいないということを考えても、自己開示をすることは求職者、キャリアアドバイザー、企業のいずれにとってもプラスの方向に働いてくれるのです。
もし、これから転職エージェントに登録しようと思っている方や現在転職活動の真っ最中という方は、思ったことや感じたことをぜひキャリアアドバイザーに直球で伝えてみてください。
支援したい人②:ネガティブな意見も聞き入れられる人
転職エージェントの宣伝広告には耳障りの良いことばかりが書かれていますが、実際は良いことばかりではありません。そのため、面談の場で転職の現実をお伝えしなければならないことも多いのです。
ですが、その現実をきちんと受け止めた上でこれからのキャリアを考えていこうとする求職者には、持てる限りの力で惜しみなく支援していきたい、ぜひ良い企業を紹介して幸せな転職をしてもらいたい! と思っているキャリアアドバイザーは少なくありません。
実際に話を聞いた20名ほどの現役キャリアアドバイザーからは、ほとんど同じような内容で回答をいただきました。
それだけに「支援したくない人③:現実を受け入れられない人」で紹介したタイプの求職者が、いかに多いのかがご理解いただけるかと思います。
支援したい人③:キャリアアドバイザーと対話してくれる人
「支援したい人①:素直な人で自己開示をしてくれる人」にも通じるところですが、対話をしてくれる求職者へは積極的に支援をしていこうと思うキャリアアドバイザーは多いです。
転職支援は基本的に1対1の二人三脚。お互いに相手を信頼していなければ「良い転職」はできません。ただの転職なら誰にでもできるかもしれませんが、本人の想いやキャリアの考え方、適性、やりがい、待遇への希望などを考慮した最適な転職は、果たして適当に活動して叶うものでしょうか?
著者は年間1000名ほどの求職者の面談や転職支援を経験し、求職者にとって最適な転職にはお互いへの信頼が必要不可欠なのだと痛いほど実感してきました。
では、短い時間でお互いを信頼するためにはどうすればいいのか? それは「対話」につきます。対話をすることでお互いの人となりを理解し、人生の選択を託し託される関係性を築いていけるのだと思います。
まとめ
今回は現役のキャリアアドバイザー視点で、積極的に支援したくなる人と支援を後回しにしてしまいがちな人をご紹介してきました。
日々の転職支援や同僚や知り合いのキャリアアドバイザーへのインタビューを通じ、積極的に支援したくなる人と支援を後回しにしてしまいがちな人の境界線は、
「”転職”を自分事ととらえているか」
ではないかと感じています。
物事に熱中している人を応援したくなってしまう、それと似た心理が働いているようにも思えます。もし、転職エージェントに熱烈に転職支援をしてもらいたい!と思われる方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。