人間は一人では何もできない〜『「任せ方」の教科書』から学ぶチームの在り方

60歳でライフネット生命保険を創業した出口治明氏の著書『部下を持ったら必ず読む 「任せ方」の教科書 「プレーイング・マネージャー」になってはいけない』(角川書店)は、世の中の部下を持つビジネスマンであれば必読と言っても良いでしょう。
柔らかい語り口から紡ぎ出される言葉の一つひとつは、シンプルであるが故に読者の心に訴えかけてくる魅力に溢れています。

私たちがチームを作る理由


世の中の仕事の多くは、チームで計画・実行されます。ただ、チームで働くことが当たり前になりすぎているために「そもそもなぜ私たちはチームで働くのか」突き詰めて考えている人は少ないのではないでしょうか。ここではそのことについて少し言及します。

人の能力も時間も有限だから

まず最初の理由はシンプルです。
それは私たちの能力と時間は有限だからです。一人で世の中のすべての分野に熟練することは叶いませんし、当然それらを成し遂げるための十分な時間もありません。ですので、もし成し遂げたいことがあるのであれば、チームで動くというのが合理的な選択となります。要するに、能力と時間のパイを増やすということになります。

多様性を持つことで社会の変化に対応できる

著者は日本の高度経済成長期を、言われたことを黙々とやるだけで十分な成果を上げることができた時代と表現しています。
しかし、現在の私たちが置かれている日本社会では状況が異なります。これからはめまぐるしく変化する世の中に素早く適応していくことが求められます。そのためには、組織が性別や年齢、国籍を超えて多様性を持つ必要があると著者は言います。そのため私たちは自分とは異なる人たちとチームを組むのです。

「長所」を生かし、「短所」を補う

著者は苦手なことを必ずしも克服しなくてもいいと述べています。
自分が苦手なものは、チームの他の人に補ってもらえばいいのです。その代わり、自分の得意なことに集中することで、チームの生産性を高めることに貢献します。

日本の企業は、人材の「尖った」部分を削って丸くする文化があると筆者は指摘しています。確かに角を丸めることで組み合わせやすくはなりますが、全体の面積は小さくなり同質化が進みます。そうではなくて、人材の「尖った」部分を残して全体の面積を維持したまま、それらを上手く組み合わせていくことで組織は多様性を持ち、強くなるのです。

「名選手、名監督にあらず」

日本の企業では、現場で優れた成果を上げたプレイヤーをチームを管理するマネージャーに抜擢する傾向があります。
しかしプレイヤーとしての能力とマネージャーとしての能力では、求められるものがまったく違います。そのため筆者は「意思決定」と「業務執行」を分離することの重要さを強調しています。

それでは優れたリーダーになる条件とは一体何でしょうか?それは、

  1. 強い思い
  2. 共感力
  3. 統率力

を持つことです。

この世界をどのようなものとして理解し、どこを変えたいと思い、そのために自分にできること(自分のやりたいこと)は何か

上記は引用ですが、優れたリーダーはこれらのことに対する志を持ち合わせている必要があります。そして、その強い思いを協力して欲しい人に伝えて共感を引き出す能力も重要です。さらには、苦しい状況に置かれた時でもメンバーを最後まで引っ張っていけるような統率力が優れたリーダーには求められます。

部下に「任せる」秘訣

筆者いわく、上司が部下の仕事を一つひとつ丁寧に見ようとしたら、上司の管理能力は部下2~3人が限界です。そのため多くの部下を持つのであれば、部下を信頼して「任せる」ことが必要になります。しかし「任せる」を「丸投げ」と誤解してしまう人も少なくないでしょう。ここでは部下に仕事を「任せる」秘訣を紹介します。

権限の範囲を明確に「的確な指示」を与える

まず最初に上司は部下に仕事を任せる時は、部下の持つ権限を明確にして伝えなくてはなりません。例えば、「50万円以下の予算」だったら相談せずに自分で決めていいなど、具体的なルールを設けることが有効です。そして一度権限を与えたら、上司といえどもその権限を覆すようなことは避けましょう。

次に部下に任せる時は「的確な指示」を与えるように心がけます。的確とは、

  1. 期限
  2. 優先順位
  3. 目的・背景
  4. レベル

を少なくともはっきりさせる必要があります。1つ目の「期限」は仕事をいつまでに終わらせればよいかを伝えるということです。上司は、タイムリミットまでただ待つのではなく、期限内に進捗を確認することを意識すると良いでしょう。2つ目の「優先順位」は、例えば部下がA・B・Cの仕事を抱えていている時に、Bが一番でCが二番でAが三番目に重要、というように優先度を示してあげるということです。こうすることで限られた時間内において得られる結果を最大にすることができます。

3つ目の「目的・背景」は、上司が部下に特定の仕事を任せるに至った経緯を説明するということです。これらを部下が理解していると仕事の目的を達成するために、部下が創意工夫できるようになり結果として生産性が上がります。4つ目の「レベル」は、どの程度の質を求めて仕事を任せているかを共有するということです。例えば、スピーチにそのまま使う原稿の完成品を求めているのか、自分で後から手を加えるための下書きを求めているかによって、部下の仕事への関わり方が違ってきます。

3パターンの「任せ方」がある

上司が部下に仕事を任せる時、大きく分けて3つのパターンがあると筆者は述べています。

  1. 権限の範囲内で、好きなようにやらせる
  2. 仕事の一部分・パーツを任せる
  3. 上司の仕事を代行させる

まず初めに、権限の範囲を示して自由にやらせる方法があります。その権限の範囲内に収まっていれば部下の好きなようにしていいとする任せ方です。次に、仕事の部分を任せる方法です。例えば、プレゼンの資料を最終的に作るのは上司の仕事で、資料の図表に使うデータの収集を部下に任せるといったやり方があります。最後の方法は、上司の仕事を部下に代わりに行なってもらうことです。筆者によれば、この方法は部下が一段上の景色から視野を広げるのにうってつけだと言います。

このように3パターンの「任せ方」がありますが、重要なことは部下に仕事を任せる時には「責任」も同時に与えるということです。筆者は「責任」がある仕事を任すことが部下の成長に繋がると述べています。ただし、最終的には、部下の仕事のいかなる責任も上司が負うという姿勢を忘れてはなりません。

部下を動かす3つの方法とは?

筆者は「必死に仕事に打ち込む」ことは、自発的であるべきだと論じています。これはつまり、精神論の押し付けや過度な圧力によって、部下を強制的に向かわせることの危険性を指摘しています。では、部下のやる気を自発的に引き出すためにはどうすれば良いのでしょう?この本では3つの方法が紹介されています。

  1. 上司を好きにさせる
  2. 圧倒的な能力の違いを見せる
  3. 必死に働いている姿を見せる

1つ目の方法は「部下に愛される上司」になることです。もし部下に好かれることができたら、その部下は上司のために一生懸命働いてくれるでしょう。しかしこの方法は恋愛と同じように本能的なものに依存しているため、方法としてはラクができる反面、確率が低い方法だといえるでしょう。

2つ目の方法は、上司の圧倒的力量を見せつけることです。上司の能力が部下の能力をはるかに上回っていた場合、人間的には好きでなくても尊敬されるということはあり得ます。ただこの本の前提となっているように、上司も部下も人間の能力はそんなに大差がないため、難しい方法です。

3つ目が、一番現実的な方法です。それは、必死に働いている姿を部下に見せることです。部下は、上司がこんなに真剣に仕事に取り組んでいるのであれば、自分もしっかりしなくてはならないという意識から、仕事へのやる気を出してくれる可能性が高いでしょう。注意点としては、忙しいふりはすぐに見破られるので、本当に必死に仕事に打ち込まなければならないというところです。

部下を忙しくさせるのは上司の愛情

部下にあまりにも多くの仕事と責任を与えすぎてはいけませんが、適切に仕事を与えて部下を忙しくさせることは重要です。「忙しいのは嫌」と思う方もいるかもしれませんが、忙しくてやる仕事がある環境と、暇でやる仕事がない環境を比べたら、人間は前者の方がましである場合が多いと本書では指摘されています。人間は退屈に耐えることができないのです。

仕事を「任される」側のメリット

部下に仕事を任せる上司のメリットはわかりやすいですが、仕事を任される側の部下のメリットも考えてみましょう。それらは次のようなことです。

  1. 存在価値が認められ、やる気が出る
  2. 成長する(視野が広がる)
  3. 責任感が身につく

部下は仕事を任されることで上司に「信頼」してもらえていると感じて承認欲求が満たされ、結果としてモチベーションが向上します。そして多くの仕事をこなしていくうちに知らず知らずに、自分の能力が向上して成長している自分に気がつくでしょう。どんなに些細な仕事にも責任はついて回ります。それらの責任を果たしていくうちに、自分が上のポストにいくなら絶対に必要な責任感も身につけることができます。

部下が「鉄」か「瓦」か見極めて育てる

本書によると、部下に仕事を任せるに当たって、部下が「鉄タイプ」か「瓦タイプ」か見定める必要があると言います。
前者のタイプは、負荷をかけて叩いて育てる。後者のタイプは、時間をかけてじっくり育てる。これらのタイプの違いを理解していないと、部下に正しく仕事を「任せる」ことができません。部下のタイプを見極めるために、しっかりとコミュニケーションをする必要があります。

まとめ:出口流、仕事の「任せ方」

ここまで部下を持った上司が仕事を「任せる」時に覚えておきたいことを本書の内容を紹介しながら説明してきました。しかし、優れたリーダーとして認知されている著者の出口氏をもってしてもまだまだ知らないことが多いと本書で述べています。そのため「人」「本」「旅」からいろいろなことを得て、世の中に対する洞察力を深める必要性が説かれています。リーダーには生涯学び続ける姿勢も大切なのかもしれません。

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