チームづくりにおける「常識」は「誤解」だった!?『THE TEAM 5つの法則』(麻野耕司)が解き明かすチームの真実とは?

私たちはなぜ「チーム」を作るのか? 答えは単純。1人ではできないことをチームならできるからです。今回ご紹介する『THE TEAM 5つの法則』(麻野耕司 著、幻冬舎 刊)には、チームの定義がしっかりと書かれています。チームの定義は、「共通の目的を持った2人以上のメンバーがいる集団」。つまりビジネスだけではなく、学生の部活動やママ友の女子会なども、チームと呼べます。そのため、『THE TEAM 5つの法則』の構成は誰にとってもわかりやすいように工夫されています。
では、本文に移りましょう。

『THE TEAM 5つの法則』の要約

  • 偉大なチームは、リーダーの情熱や能力ではなく、5つの法則によって誕生する
  • チームづくりに絶対解はない。「状況」に応じて最適解があるだけ
  • チームづくりは、誰にとっても学ぶべきもの。今の社会には不可欠な知恵

『THE TEAM 5つの法則』はこんな人におすすめ

  • 精神論ではなく「理論的」かつ「体系的」にチーム管理を学びたい人
  • チームメンバーとのコミュニケーションに問題を抱えている人
  • チーム管理にまつわる「誤解」を解き正しい理解を得たい人

チームづくりに関する5つの「誤解」を正す

今日の社会は優れた「チーム」を求めています。しかし、私たちがチームづくりを学ぶ機会は豊富にあるでしょうか?答えは、NOでしょう。それにより、チームづくり関する誤解が世の中に広まっています。本章は、チームづくりに関する5つの誤解を『THE TEAM 5つの法則』から抜粋してまとめることにより、誤解を正すことを目的とします。

誤解① “目標を確実に達成するのが良いチームだ”

目標を確実に達成するのが良いチームだ

一見、「どこが問題なの?」と思いますよね。事実、目標を「確実に達成」することは、重要なことです。しかしその前にもっと大事なことがあります。目標を「適切に設定」することです。

私たちの成果は、目標に対する意識に左右されます。また、目標が間違っていたら成果を達成する意味はありません。そのため、目標を「適切に設定」することがチームの生命線なのです。

『THE TEAM 5つの法則』では、3つの目標を設定します。

  1. 意義目標:実現すべき目的
  2. 成果目標:達成すべき成果
  3. 行動目標:実行すべき行動

最も重要なことは、1つ目の「意義目標」です。意義目標がなく「成果目標」や「行動目標」に基づいて行動すると、数値や作業の奴隷になる危険性があります。

誤解② “チームづくりには絶対解がある”

チームづくりには絶対解がある

結論から述べます。

チームづくりにあるのは「絶対解」ではなく「最適解」です。要するに、ケースバイケースです。『THE TEAM 5つの法則』では、チームの状況に2つの軸を設けることでチームを4つのタイプに分類します。

2つの軸とは、「環境の変化(Y軸)」と「人材の連携(X軸)」です。Y軸の環境の変化は、状況がどんどん変化するのか、それともほとんど変化しないのか、ということです。X軸の人材の連携は、メンバー間の関わりが多いのか、少ないのか、ということです。

『THE TEAM 5つの法則』ではスポーツを例に解説しています。例えば、サッカーは環境の変化も早く(+Y)、メンバー間の関わりが多い(+X)ので、マトリックスの右上の象限に位置します。

大事なことは、4つのタイプのうちどれに該当するのかにより、正しい答えが異なることです。よく、「メンバーは多様性がある方が良い」と世間では思われていますが、環境が変化せず(-Y)人材の関わりが少ない(-X)では、多様性は必要ではありません。

誤解③ “チームのコミュニケーションは多ければ多いほど良い”

チームのコミュニケーションは多ければ多いほど良い

一般的にチームのメンバー同士で活発にコミュニケーションがあることは、ポジティブに考えられるでしょう。しかし、『THE TEAM 5つの法則』によると、活発なコミュニケーションは必ずしも良いことばかりではないとされています。

前提として、メンバー同士のコミュニケーションはコスト(費用)でもありますよね。そのため、コストに見合うリターン(成果)が得られなければ、コミュニケーションは控えるべきということができます。さらに、2つの論点からコミュニケーションを考えていきます。

論点①:ルールづくりによりコストを下げる

みなさんの職場にも、ルールがあると思います。もし、ルールがなければ新しい人が入るたびにメンバーは同じことを繰り返し伝えなくてはなりません。ルールは、定型化できるコストを削減する役割を果たします。注意すべきは、ルールの粒度や分量の正解は前章で述べた4つのチームタイプに左右されるということです。

論点②:相互理解と心理的安全

コミュニケーションを考えるときに知っておくべきことは、コミュニケーションの成否に大きく影響を与える2つの要素です。順番に見ていきましょう。要素①:相互理解

1つ目の要素は、「相互理解」です。相手に理解されたいならまず相手を理解する、という考え方です。『THE TEAM 5つの法則』によると、相手を理解するために相手が4つの特徴のうちどれに当てはまるのか知る必要があるといいます。

  1. アタックタイプ(達成支配型欲求)
  2. レシーブタイプ(貢献調停型欲求)
  3. シンキングタイプ(論理探求型欲求)
  4. フィーリングタイプ(審美創造型欲求)

上記4つのタイプについては、以下の記事でも説明してあります。結果を出す組織を作るために『すべての組織は変えられる』からリーダーがすべきことを学ぼう

TeamHackers〜自分らしい働き方、実現メディア

現在の企業において「ヒト」とそれによって構成される「組織」の果たす役割はどんどん重要になってきています。その背景には、「…

要素②:心理的安全

2つ目の要素は、「心理的安全」です。チームメンバーは、心理的安全を守るために心を開いてくれないことがあります。心理的安全を脅かす4つの不安があります。

  1. 「無知」だと思われる不安
  2. 「無能」だと思われる不安
  3. 「邪魔」だと思われる不安
  4. 「批判的」だと思われる不安

上記4つの不安を解消して、メンバーの心理的安全を守りましょう。

誤解④ “みんなで話し合って決めるのが良いチームだ”

みんなで話し合って決めるのが良いチームだ

民主主義国家の日本における教育では、みんなが話し合って物事を決めることを大切にします。しかし、ビジネスにおいてこれは正しいのか?近年、世の中はものすごい早さで変化しています。そのため、すぐに決断しないと機を逸してしまう局面が必ず出てきます。一つ一つみんなで話し合うことは大切ですが、綺麗事だけでは解決できないのが常です。

『THE TEAM 5つの法則』では、意思決定の方法を2つ(正確には3つ)に分けて、特徴を解説しています。

独裁(ワンマン)

1つ目の意思決定の方法は、「独裁(ワンマン)」です。最終的な決断は、一人の手に委ねられます。独裁は、環境の変化が激しい昨今において重要な役割を果たします。決断のスピードが早いことが独裁の最大の魅力だからです。

独裁には、「早さ」だけではなく「強さ」も求められます。一度決めたことは必ずやりぬくために、リーダーシップをフル活用することになります。勿論、メンバーのモチベーションを高めるための工夫も重要です。

合議(多数決含む)

2つ目の意思決定の方法は、「合議(多数決含む)」です。みんなで話し合って決める方法ですね。きちんとメンバーの意見を汲み取り議論をするので、メンバーは納得感を持ちやすいです。合議の問題点は、意思決定にいたるまでのスピードの遅さです。これは、今日のビジネスにおいては致命傷になるかもしれません。

合議を進める時に陥りやすい間違いは、選択肢の比較から議論を始めることです。これではいつまでたっても決断できません。そのため、次の4ステップの方法をとると良いでしょう。

  1. 候補の選択基準を決める
  2. 選択基準に優先順位をつける
  3. 選択基準を満たす候補を複数出す
  4. 選択基準の優先順位を考え決める

誤解⑤ “プロはモチベーションに左右されない”

プロはモチベーションに左右されない

良く聞くフレーズです。ですが、『THE TEAM 5つの法則』は全否定しています。人間の行動は必ず、モチベーション(動機づけ)に基づくという立場です。では、モチベーションに影響を与える要素とは何でしょうか?4つの「P」を考えていきます。

  1. Philosophy(理念・方針)
  2. Profession(活動・成長)
  3. People(人材・風土)
  4. Privilege(待遇・特権)

1つ目は、Philosophy(理念・方針)です。メンバーはPhilosophyに共感すればするほど、モチベーションが湧いてきます。2つ目は、Profession(活動・成長)です。日々の働きから得る充実感ですね。3つ目は、People(人材・風土)です。「誰と働くか?」に焦点を当てます。4つ目は、Privilege(待遇・特権)です。Privilegeによりヤル気が出るかどうかは個人差があります。

自分は、どの「P」がモチベーションとして大きいのか?を考えてみるのも良いでしょう。

チームの落とし穴に気をつけよう

社会的手抜き(自分1人くらい)

社会的手抜きは、「自分1人くらいやらなくても大丈夫だろう」という人間の心理のことをいいます。フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンによると、集団が大きくなるほど1人あたりのパフォーマンスが低下するようです。

社会的手抜きを避けるための方法は、チームメンバーの当事者意識を高めることです。当事者意識を生み出すために、次の3つの要素に注目します。

  1. 人数
  2. 責任
  3. 参画感

1つ目の「人数」は単純にメンバー数が少ないほど当事者意識が高まるということです。2つ目の「責任」は、責任の所在を明確にすることが重要です。3つ目の「参画感」は、意思決定にメンバーを巻き込むことで、高めることができます。

社会的権威(あの人が言っているから)

社会的権威は、「あの人が言ってるから間違いないだろう」と権威(地位や経験)の行動に良く考えずに従ってしまう心理をいいます。社会的権威を避けるためには、メンバー一人一人がチームづくりにおいて自分の考えを持つことが必要です。

同調バイアス(みんなが言っているから)

同調バイアスは、ラーメン屋に行列があると自分もつい列に加わってしまうような、他の人の行動や言動によって、自分の思考が干渉をうけてしまう心理をいいます。同調バイアスを避けるためには、チームの「雰囲気」を意識的にマネジメントすることが大事です。『THE TEAM 5つの法則』では、チームの「雰囲気」を変えるために2つの方法を紹介しています。

方法①:スポットライト
スポットライトは、模範とすべきチームメンバーの態度に文字通り光を当てることによって、チームの雰囲気をコントロールします。

方法②:インフルエンサー
インフルエンサーは、チームにおける影響力の大きいメンバーに個別に働きかけることで、チームの雰囲気をコントロールします。

参照点バイアス(あの人よりやっているから)

参照点バイアスは、他のチームメンバーを基準にして態度を決めることをいいます。例えば、Aさんが60の働きをしているのを見たら、Bさんも60の働きをすればいいだろうと、考えてしまうことです。参照点バイアスを避けるためには、チームに明確な基準を設けることが必要です。これによって、チーム全体のパフォーマンスを管理することができます。

筆者(師田)による考察

『THE TEAM 5つの法則』の最大の特徴を一つあげるなら、読者のターゲットの範囲を広くしていることです。これが何故かと考えると、著者が『THE TEAM 5つの法則』を作る意義として、日本に存在するあらゆるチームと呼ぶべき集団の持つ力を底上げしたいという強い思いがあったからだといいます。きっと、それと同時に「このままじゃ日本はダメだ…」という危機感を感じているのではないでしょうか。

チームの持つ力は大きいです。幸福と不幸を決める一つの要素としてチームがあると思います。筆者(師田)もさまざまなチームで働いてきました。しかし、チームをもっと良いものにしたいと考え、行動している人と会うことは稀です。もし、みなさんが『THE TEAM 5つの法則』を明日チームメンバーに配ったら…と考えると少しワクワクしますね。

いい加減、「気合」や「根性」でチームを語ることは止めませんか。『THE TEAM 5つの法則』が、チームについて科学的に分析する方法のきっかけとなり、これからどんどん議論が進んでいけば良いと思います。『THE TEAM 5つの法則』の文章は、簡潔かつ平易ですので本をあまり読まない人にとってもわかりやすいでしょう。

まとめ:『THE TEAM 5つの法則』

『THE TEAM 5つの法則』は、新進気鋭の編集者として人気の箕輪厚介さんが担当したとあり話題です。著者の麻野耕司さん(株式会社リンクアンドモチベーション取締役)は、以前「すべての組織は変えられる〜好調な企業はなぜ『ヒト』に投資するのか〜」(PHP研究所)の記事を当サイトでも公開しており、「ヒト」「チーム」「組織」のトピックでは第一人者と呼べる存在です。お二方の尽力によって、チームに関する議論が精神論や経験則から抜け出し歩を進めることができたのではないでしょうか。

以上、第2回「心を動かす書評」の連載では『THE TEAM 5つの法則』を取り上げました。次回の連載まで少々お待ちください。

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