「創業メンバーや企画室の立ち上げメンバーが辞めていくなあ」「職場の仲良しクラブ感になんとなく違和感がある」といったことを感じたことはありませんか? 自分に何かできることはないかと改善のために行動をしてみても、予想もしなかった職場の力学に巻き込まれて、人間関係がますますこじれてしまうこともあるでしょう。
そこで、今回はこちらの書籍をご紹介します。
『天才を殺す凡人〜職場の人間関係に悩む、すべての人へ』 北野唯我 著、日本経済新聞出版社刊
この本は、職場で何かにチャレンジしようとしている人にぜひ読んでみてほしい一冊です。
私がこの本に興味を持った理由
プロジェクトメンバーのモチベーションを保つため、仕事に対するスタイルや志向性を4つのグループに分けるということについての記事を以前書きました。
この記事では、Webサービス開発などの場で利用しやすいように、メンバーのスキルとプロジェクトのフェーズを組み合わせたグループ分けを試みました。
ところが先日、知人から「自分には占いのようだ。誰がそのスキルを持っているか見分け方を知りたい」と言われ、私はさらに納得感のある見分け方を模索していました。
そんな折、ふらっと立ち寄った書店でこの本を見かけ、ビビッときたのです。
『天才を殺す凡人』の概要
この本は、「才能」に焦点を当て、才能を活かす方法を段階的に解き明かしています。
この本の中では、才能を「ビジネスの世界で必要な3つ」に定義しています。
よりシンプルに伝えるための工夫として「職種とフェーズ」という概念を用いています。その3つを「創造性」「再現性」「共感性」と定義しています。さらに、その才能を使いこなすプレーヤーについて次のようにラベリングしています。
・創造性を使いこなすプレーヤー「天才」
・再現性を使いこなすプレーヤー「秀才」
・共感性を使いこなすプレーヤー「凡人」
実際のビジネスの場でどのように使い、どう活かせばいいかをわかりやすく伝えるために、この本では「ストーリー形式」が採用されています。凡人の主人公が、殺されかけようとしている(排斥されようとしている)天才の力になれないかと四苦八苦する姿が描かれています。
Webサービスなどのシステム開発現場にあてはめる
「天才」「秀才」「凡人」はどういった背景で定義されているのでしょうか。著者のプロフィールを見てみると、そこには経営コンサルティングファームの文脈があるようです。
ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、執行役員。2019年1月から子会社の代表取締役、ヴォーカーズの戦略顧問も兼務。
引用元:北野唯我のブログ ― プロフィール
http://yuiga-k.hatenablog.com/about
たとえば、「Webサービスなどのシステム開発現場」でこの本を活用する場合、各々のチームメンバーに「天才」「秀才」「凡人」をあてはめてみましょう。「あの人は天才タイプだな」といったことを頭の中でシミュレーションしてみると面白いです。
また、もう少し職種にフォーカスしてみるのもいいかもしれません。たとえば、イケイケのベンチャー企業ならこうです。
・創造性=社長とスーパーエンジニア
・再現性=マネージャー
・共感性=マーケティング担当と作業担当エンジニア
もしあなたがシステムインテグレーター(SIer)のエンジニアなら、こういうふうに置き換えるのもおすすめです。
・創造性=発注元事業会社
・再現性=ITコンサルタントや元請けSIer
・共感性=2次請け以降のSIer
私自身の取扱説明書ができあがった
この本を通して、私は「自分自身がどういうときに人を助けたくなるか」「どうすればモチベーション高く仕事ができるか」といったことを知ることができました。
以下は、凡人(共感性)タイプの主人公が、主人公を導く存在である関西弁の犬に対し「秀才(再現性)タイプの同期に助けを求める方法」について質問した答えの一文です。
「そしてそんな彼らに助けを求める最強の質問が『あなたならどうしますか?』と自ら教えを請い、その方法を愚直にやってみることや。これができへん凡人がホンマに多いんやけどな」
(p.123「最強の実行者」を巻き込む方法)
この文を読みながら、私は「わかる!」と思わず声を発していました。
凡人が秀才を動かすためには、秀才のアドバイスを一度素直にやってみるのがもっとも効果的なのです。
私自身はITコンサルタントやプロジェクトマネージャーという役割を担っています。おそらく秀才(再現性)タイプに属すると思いますが、確かにこの問いかけは私自身にとって間違いなく最強の質問であると感じます。
これまでの私を振り返ってみても、以下のようなやり取りがあった場合、相手がアドバイス通りに実行するかしないかによって、解決策の見え方が違います。
相手「○○○といった課題があるのですが、あなたならどうしますか?」
私「こういう状況なら×××のようにすると思います」
◇パターン1(相手がアドバイス通りに×××を実行しなかった場合)
相手「自分なりに考えて、こういう風に試してみたのですがうまくいきません。特にここが…」
私「なぜそうした?」
相手「なぜと言われても、そのほうが適していると思ったからとしか…」
◇パターン2(相手がアドバイス通りに×××を実行した場合)
相手「アドバイスの通りに×××のように試してみたのですがうまくいきません。特にここが…」
私「この部分は△△△がよさそうだね。ここについては私がやっておくよ」
私自身もあまり気にしていませんでしたが、私は「愚直にやってみる」「そのまま試してみる」ということをかなり重視していることを知りました。人を思い通りに動かしたいという欲求が強いのかなとも思ったのですが、「再現性」を重要視している点が大きいように思います。
というのも、そのまま再現してもらわないと、何が問題かわからないからです。パターン1では、結局何が悪かったのかがわかりづらいですが、パターン2ではすぐに問題点を把握し解決策を見出せる傾向があります。
つまり私は、それが正解か否かにかかわらず私のアドバイスを一旦実行してもらったほうが、問題点が浮き彫りになり解決策を見つけやすいのです。
私はゲームが好きなので、わかりやすくスーパーマリオブラザーズでたとえてみることにします。
参照:https://www.nintendo.co.jp/character/mario/characters/index.html(c) Nintendo
プレイごとに面が進み、終盤に近づくほど難易度は上がっていきますが、マップや登場する敵の種類やタイミングは何度やっても同じです。ミスをしても、そのときの場面を覚えていれば、そのときの行動を反省して次には前に進むことができます。
逆に、プレイするごとにマップの形が変わったり、敵が現れるタイミングが異なったりしていたらどうでしょうか。そのとき何が問題だったかは覚える必要はなく、解決策は反射神経を高めるくらいしかなさそうです。
仕事でも同じです。秀才(再現性)タイプにとって、メンバーがそのときどきの気分でやり方を変えてしまうと、問題点や解決策がいつまでも見えてこないと感じるのではないでしょうか。
つまり、秀才タイプが解決策を見出すためには、アドバイスを一旦そのまま受け入れて実行してもらうことが早道であるという部分が確かにあるということなのです。
まとめ
職場で何かにチャレンジしようとするとき、「誰かが動いてくれない/動いてしまう」「自分にこんな力があったらいいのに」といった、自分では変えようのないものに着目しがちですよね。
目の前の悩みをクリアするために必要な第一歩は、「自分の才能」と「プロジェクトメンバーやステークホルダーの才能」を知ることです。
この本によって、私は「自分の考えが適当でなかった場合」も、「相手が自分のアドバイスをそのまま実行してくれる」ことによって解決策を見つけやすくなったり、次回に活かせたりするのだと実感できました。
この本を読みながら、ぜひ「天才」「秀才」「凡人」を、あなたの周囲の人にあてはめてみてください。個々の才能、仕事に対するスタイルや志向性といったものがわかれば、おのずと解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか。