悩み多き現代の私たち。仕事にプライベートに、考えることは尽きません。時にはスランプに陥ることも。そんな時に有効とされるアイディアの生まれやすい環境と、その原理をさぐってみました。これでスランプも怖くない!?
昔から言われていた「三上」
出典:https://kotobank.jp/word/%E4%B8%89%E4%B8%8A-513767
中国・北宋時代の欧陽脩いわく、馬上(ばじょう)、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)の3つを合わせた三上(さんじょう)は、文章を練る(考え事をする)時に最も都合が良いとされる場所です。
馬上は馬に乗っている時。移動中です。馬にまたがり、山々を移動することで新たなアイディアが生まれたのでしょう。馬での移動は車や新幹線のようなスピードはなく、整備されていない野山を越えねばならないため、数日かけて移動することもしばしば。馬の振動に揺られている時間は、瞑想のような状態だったのではと考えられます。
枕上は枕の上。眠る前や目覚めた後を指します。室町時代後期の武将である太田道灌が、夢のお告げで江戸城を建てたという歴史の逸話にもあるように、国内外問わず昔の人は夢のお告げをきっかけとし、物事を進めていたという話が数多く存在します。それらの中のいくつかは枕上で生まれたアイディアである可能性がありますね。
厠上はトイレの中。具体的な様子が浮かび辛いのですが、部屋の仕切りが少なくパーソナルスペースも少なかった当時、無防備にひとりきりになれる空間がトイレだったのではないかと考えられます。また、トイレはすっきりできる空間であるということも、三上のひとつとされる由縁と考えられます。
はるか昔の悩める人々が三上で閃いたアイディアが、歴史上の偉業になったのかもしれないと考えると、なんともロマンがありますね。では現代の悩める私たちは、どんな環境であればアイディアが生まれやすいのでしょう。
困った時に思い出してほしいアイデアの「4B」
馬に乗る機会がほとんどない現代の私たちが考え事をする時には、「4B」を思い出してください。アイデアの4Bとは、現代版の三上として、Bathroom・Bus・Bed・Barを指しています。2018年に出版された、精神科医で作家の樺沢紫苑氏の著書「学びを結果に変えるアウトプット大全」の中でも「創造性の4つのB」と紹介されています。この本は、Amazonビジネス実用カテゴリー1位にもランクインしたアイディア本のベストセラーです。近年、SNSなどでこの4つのBがコンスタントに拡散されるきっかけになったと考えられます。
また、2019年にはアイデアファンドの代表取締役、大川内直子さんの「4B」を紹介したツイートが5.1万件のいいね、そして1.7万ものリツイートされたことをきっかけに、「4つのB」は再び話題となりました。
- Bathroom (入浴中、トイレ)
- Bus (移動中)
- Bed (寝室、睡眠中)
- Bar (お酒を飲んでいるとき)
この「4B」がどうして現代の三上、アイディアが生まれやすい場所とされているのか、検証してみることにしました。
1. Bathroom(バスルーム)
和訳によってはトイレも意味しますが、今回はお風呂を指します。良いアイディアを生み出すためには、心地良いと感じる40度くらいのお湯にゆったりとつかるといいでしょう。体が温まると血行が良くなり、脳が元気に働きます。また、お腹(腸)が温まると幸せを感じるホルモンであるセロトニンが分泌されるため、思考がポジティブになります。
また、私たち哺乳類には「潜水反応」という作用があります。潜水反応は、水に触れると心拍数が10〜25パーセント程度下がり、ゆったりとした呼吸になります。心拍数が下がるとどのような状態になるかというと、ヨガで呼吸を整える時や、深呼吸をした時をイメージしてみてください。心拍数が下がるとリラックスし、気分が落ち着くことがわかりますね。
お風呂で水に触れることでこの潜水反応が作用し、リラックスした頭には良いアイディアが浮かぶと考えられます。
また、アロマオイルを数滴垂らしたアロマバスにすると、さらに相乗効果が望めるかもしれません。プラスアルファのおすすめアイテムとして、もっとお風呂を快適にするバスソルトや楽に入浴できるバスピローがあると、日常のルーティーンの入浴とはまた違った時間となることでしょう。
2. Bus(バス)
馬上の現代版、バスは広く移動中を意味します。不特定多数が乗るバスや電車は人間観察にはもってこいの環境。絶えず行き来する人の流れやふと耳に入る会話、移動とともに流れる景色からヒントを得ることも少なくないのでは。
特に人間の脳は無意識に必要な情報を取捨選択し情報を取り入れていると、理化学研究所の研究でも明らかにされています。考え事をしながら外に出れば、意識しなくともヒントや答えとなる情報を拾うことが出来るため、人とともに多くの情報が行き交うBus(移動中)はアイディアの生まれやすい環境とされています。
プラスアルファのおすすめは、モノレールや水上バスなど移動手段としては馴染みのない乗り物や、特急電車の展望席を予約してみることです。ワクワクするような特別感や新鮮さは感性を育て、より創造力がアップするかもしれません。
ただし、自分で車を運転している時は要注意! 考え事よりも安全に気を配りましょう。無心になって考え事がしたい時は、バスや電車のような公共交通機関や誰かに運転を頼める環境にしてくださいね。
参考:https://www.riken.jp/press/2011/20111208/
3. Bed(ベッド)
枕上と同じ、ベッドの上です。眠る前や目覚めた時のうつろなタイミングはアイディアの生まれやすい時間とされています。それは潜在意識と顕在意識、2つの意識が関係しています。
普段私たちが考えたり悩んだりしているのは脳のたった10パーセント程度の顕在意識です。脳の残り90パーセントを占める潜在意識に委ねてしまおうというのがBedです。人間は眠っている時間に潜在意識で物事を考えると言われています。普段使えていない領域から、知らず知らずのうちに必要な情報を脳の引き出しから集めることができるので、とにかく眠ることが有効とされるのです。
以前話題になったアニメーション映画には、人間の頭の中に住む喜び・悲しみ・怒り・苛立ち・恐れの5つの感情が擬人化され、頭の中で指令を出すと人間の行動に反映されるという物語がありました。この5人があれこれと繰り広げている頭の中が潜在意識であり、自分では制御できないことも、この5人にまるっと任せてしまうことができるのがBedなのです。
また、寝ている時間は副交感神経が優位になるため、頭も体もリラックスした状態に切り替わります。交感神経が優位なままでは緊張状態が続きます。どんなに行き詰まっていても、交感神経をOFFにする時間を作らないとアイディアは生まれてきません。
Bedのおすすめは好みの硬さの枕や毛布はもちろん、これを着たら休み! と気分の切り替えができるルームウェアです。着ていて跡がつくような靴下などはリンパの流れを止めてしまうので、全身でゆったりできるものをチョイスしましょう。
4. Bar
最後は北宋時代にはなかったであろうバーです。キーになるのはお酒。そして人とのおしゃべりです。Busと同様に外部からの情報を拾える環境であることはもちろん、最近ではアルコールブレストといって、アルコールを飲みながら意見やアイディアを出し合う会議が注目されています。ほろ酔いの状態は普段考えつかないアイディアが浮かんたり、言いにくいことが言えたりするため、行き詰まった時にはアルコールの力も有効なのです。ただし飲みすぎには注意してくださいね。
またBarでしか出会えない人やマスターとの会話の中にもヒントが隠されています。無責任に意見する第三者だからこそ、自分が無意識にブレーキをかけているようなアイディアもフランクに口に出すことが出来るという気軽さがあります。その柔軟な発想がヒントになることもしばしば。そんな出会いのあるBarはアイディアの生まれやすい環境といえるでしょう。
Barのプラスアルファのおすすめはハッピーな音楽です。気持ちが明るくなるような音楽を聴いた人は、その他の種類の音楽を聴いた人に比べ、創造力が大幅にアップしたと、アメリカの科学誌、プロスワン(PLOS ONE)でも紹介されています。ポジティブな音楽の流れる居心地の良いバーを見つけておきましょう。
4Bで何をして過ごすか
4Bそれぞれの環境におけるアイディアが出やすいとされる理由を挙げましたが、難しいことは考えず、ただその環境でボーッと過ごしてみましょう。脳科学者の茂木健一郎氏も著書の中で、考えることをやめ、ただ無心になってボーッと脳を休ませることが重要だといっています。
脳を休ませると言っても、その時間は何も考えていないように見えて、実は必要不可欠な働きをしているのでご安心を。ただボーッと過ごしてしまうと後悔しがちですが、自分にとっては必要な時間なのです。
アイディアの生まれやすい場所はどんなところなのか
三上に加えて4つのBを紹介しましたが、アイディアが生まれやすい場所はこれだけではありません。SNSなどを通じて、この4Bの拡散が広まる中、5つ目のBが加わっているパターンがあります。Balcony(バルコニー)やBookstore(本屋)、Beach(海岸)などそれぞれのBではありますが、ここで紹介した4Bの検証を元に考えてみると、アイディアの生まれやすい場所とは、すなわち、リラックスできる場所や働く場所から少し距離を置くことで気持ちの切り替えができる場所だということがわかりました。
今、行き詰まっているのなら、一度手を止めて外に目を向けてみませんか? アイディアの生まれやすい場所は、思っている以上に自分のそばにあるのです。