ビジネスシーンにおいて、経営戦略や目標達成、従業員のモチベーション向上を目指すための目標管理手法は数多くあります。
Googleやメルカリといった有名企業が次々に導入していることで注目を集めている「OKR」も、目標管理手法のひとつです。
今回は、OKRとはどのような要素で成り立っているのかをはじめ、導入のメリットや具体的な導入事例を詳しく紹介します。
OKRとは?
OKRの導入を検討しているものの、「そもそもOKRとはどのようなものなのか?」と疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。OKRを導入する前に、まずはOKRの意味について正しく理解しておきましょう。
OKRとは、簡単に言うと企業における目標設定・管理方法のひとつです。「Objectives and Key Results」の略称であり、2つの要素で構成されています。
Objectiveとは
OKRのOとは「Objectives」のことで、組織が目指す「目標」を意味します。
個人目標などは具体的な数値を用いて設定するケースが多く見受けられますが、OKRで設定する目標は、シンプルでわかりやすいことが重要です。細かな数字で示す目標よりも、チームのモチベーションを高めたりチャレンジしたくなったりするような、魅力的な目標が好ましいでしょう。
1ヶ月から3ヶ月という短いスパンで目標達成を目指すこともOKRの特徴です。
Key Resultsとは
OKRのKRとは「Key Results」のことであり、「主要な成果」を意味します。Key Resultsは、目標に対する進捗度を図るための成果指標となるため、定量的に設定しなくてはなりません。
一般的には、1つのOに対して2〜5つ程度のKRを設定します。OKRでは、簡単に到達できる目標よりも、少し背伸びすれば達成できそうな目標(ストレッチ目標)が望ましいとされ、60〜70%の達成度で成功とみなされます。
「進捗率」とは
進捗率とは、作業がどの程度進捗しているかの度合いを数値化したものです。OKRにおける進捗率とは、達成度合いを指します。
OKRは、1つのOに対して複数のKRが付随する構造で成り立っています。KRの進捗率が悪い場合、Oの達成率も低くなるでしょう。進捗率を確認することで、改善策を考えたり軌道修正したりなど早期の対応が可能となり、結果的にOの達成度合いも高められます。
「自信度」とは
OKRでは、自信度を設定するケースがあります。自信度とは、KRを達成できるかどうかの自信を図る自己申告指標です。
たとえば、完全に達成できる内容を自信度10とするのであれば、実現不可能であると感じる内容であれば自信度は0です。
少し背伸びすれば達成できそうな目標を設定したKRと同様に、「頑張れば達成できるかも」と思える自信度5〜6程度を目安にするのが望ましいでしょう。
OKRとその他の人事評価に関する手法との違い
OKRと混同しやすい管理手法として、人事評価に使われる「MBO」や「KPI」が挙げられます。手法ごとに異なる意味合いがあるため、混同しないよう違いについて正しく理解しておきましょう。
OKRとMBOの違い
MBOとは、「Management by Objectives」を略した言葉です。日本語では「目標による管理」という意味があります。個人やチームごとに目標を設定し、その進捗度や達成度で業績の評価を決める、人事評価手法のひとつです。
MBOは、業績に基づく個人の評価と報酬の決定が主な目的です。OKRは組織全体のモチベーション向上が目的のため、OKRとMBOでは目的に大きな違いがあると言えるでしょう。
OKRとKPI管理の違い
KPIとは「Key Performance Indicator」を略した言葉で、「重要業績評価指数」という意味があります。
KPIは、最終目標に向かうプロセスを定量的な目標で確認し、進捗度合いや評価をするための中間指標です。KPIを設定し、管理することを「KPI管理」や「KPIマネジメント」と呼びます。
OKRとKPIの違いは、目指す目標達成率です。OKRは組織のモチベーションをあげるために達成率60〜70%で設定するのに対し、KPI管理は最終的な目標達成を実現するために用いるため、達成率は100%以上が理想とされています。
OKRの歴史・背景
OKRは、世界トップクラスの半導体メーカーであるIntel(インテル)の創業時、従業員の一人だったアンディ・グローヴ氏によって提唱されました。
2000年代初頭にはGoogleがOKRを導入し、急成長を遂げたことをきっかけに、TwitterやFacebook(現Meta)など、世界的なIT企業も次々にOKRを導入しはじめました。
世界中の多くの企業でOKRが広まった背景には、OKRによって組織全体が一丸となり、同じ課題に取り組める点にあります。
目まぐるしく変化する現代で生き抜くためには、現状維持ではなく、組織全体としての大きな成長が求められています。
しかし、組織全体の大きな飛躍は容易ではありません。そこで、チャレンジ精神を掻き立てるような野心的な目標を立て、組織全体で取り組む姿勢を促せるOKRの注目が高まりました。
OKRを導入するメリット
OKRは、日本でも多くの企業が関心を寄せている目標管理手法です。では、OKRを導入することで一体どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、OKRを導入するメリットについて紹介します。
団結力が高まる
企業の規模が大きくなり、従業員数が増えれば増えるほど、会社と個人の方向性にばらつきが生まれやすくなります。OKRは目標を組織全体で共有するため、会社と従業員の連帯感が生まれ、団結力を高めることが可能です。
社内のコミュニケーション活性化
OKRは共通の課題に取り組むため、役職や部門を分けることなく、フラットなコミュニケーションが取れるようになります。お互いの目標を共有しているため、サポートしたり意見を出したりなど、連携もスムーズになるでしょう。
従業員のエンゲージメント向上
OKRでは個人の目標と組織の目標が連動しているため、自分の役割や仕事が組織にどのような貢献をしているかを把握できます。組織への貢献を実感できることは、エンゲージメント向上につながり、仕事に対するモチベーションも高まるでしょう。
OKRの導入事例
OKRを導入することによって、どのような成果があげられるのでしょうか。
ここでは、実際にOKRを導入した企業の具体例を紹介します。OKRの導入に失敗しないためにも、具体的な導入事例を参考にしましょう。
GoogleのOKR導入事例
日本でも広く知られているGoogleは、シリコンバレーを代表する大企業です。2000年代初頭にいち早くOKRを導入し、現在でもメインのマネジメント手法としてOKRを活用しています。
Googleでは、Key Resultsの達成度合いに応じてスコアをつける「スコアリング」という手法を取り入れています。また、四半期ごとの企業全体ミーティングを開いてOKRを公開するなど、OKRを当たり前のように実施する環境づくりに注力した結果、世界のトップ企業へと成長しました。
▼Googleが行うOKRの詳細記事
Google re:Work – ガイド: OKRを設定する
メルカリのOKR導入事例
フリマアプリ「メルカリ」を運用している株式会社メルカリは、2015年にOKRを導入した日本の企業です。企業が成長した際に、会社と個人の間にズレが生じないよう、個人の視点を引き上げ、組織の結びつきを強化するためにOKRを導入しました。
メルカリでは、全体的なOKRの設定に従業員が参加し、トップダウンではなく、組織全体で意思決定することを重視しています。半年ごとにOKRを共有するだけでなく、OKRについて上司と部下が1on1ミーティングを行うなどの環境づくりにも注力しています。
ChatworkのOKR導入事例
クラウド型ビジネスチャットツール「Chatwork」を運用するChatwork株式会社は、2017年にOKRを導入しました。
ChatworkがOKRを導入したきっかけとなったのが、社員の急増です。組織が大きくなり、急激に従業員が増えたことで、「誰が何の仕事をしているかわからない」「会社の戦略が従業員に浸透していない」という状態に陥りました。そのような状態では、従業員の評価も行えないことから、評価制度のひとつとしてOKRを導入しています。
OKRを評価制度のひとつとしているものの、評価基準とは切り離しているのがChatworkの特徴です。OKRの達成率を重視するのではなく、OKRを通してどれだけチャレンジしたかを評価することで、社内のコミュニケーションツールとしても役立っているそうです。
OKRの作成時のポイント
OKRを導入することにより、企業としての成長が期待できますが、最大限の効果を発揮するためには、OKRを正しく作成することが重要です。
高い目標(ムーンショット)を設定する
OKRでは、自分が可能と考えるよりも高い目標(ムーンショット)を掲げることが重要です。Googleでは、OKRで設定する目標を「ストレッチゴール」と表現しています。
通常の目標は100%の達成率を目指しますが、OKRの作成時には60〜70%達成すれば成功とされる目標を設定しましょう。
OKRに関する情報を組織内に共有する
OKRを成功に導くためには、透明性を高めることが重要です。OKRを作成する際には、目標や進捗状況、レビューや結果など、OKRに関する情報はすべてオープンにし、組織内で共有しましょう。経営陣だけでなく、全従業員がアクセスできる状態にしておくことがポイントです。
OKRの透明性を高めることで、目標の達成や評価基準をしっかりと理解できるため、従業員のモチベーション向上も期待できます。
定期的にミーティングやフィードバックを行う
従業員一人ひとりが会社の目標に向かっている意識を持つために、OKRでは定期的なミーティングが欠かせません。
OKRのミーティングは、3ヶ月に1回といった長いスパンでなはなく、1週間に1回程度の短いスパン且つ30分程度と短い時間で行いましょう。このようなミーティングは「チェックインミーティング」と呼ばれています。
ミーティングでは、OKRの進捗状況を確認し、成果を報告し合った上でフィードバックを行います。高頻度でフィードバックを行い、変化に応じて柔軟に対応することも、OKRを成功に導くためのポイントと言えるでしょう。
OKRの作成時の注意点
企業と個人が一丸となって、同じ課題に取り組むために効果的なOKRですが、作成が不適切な場合は社内に混乱を招く恐れがあります。
ここでは、OKRの作成時に気をつけるべき注意点を紹介します。
OKRが高い目標となっているという説明をする
モチベーションを向上させるため、OKRの目標は高いレベルで設定し、達成率は60〜70%を目指します。とはいえ、ただ高い目標を掲げられただけでは、「努力しても達成できない」と諦めてしまい、従業員のモチベーションは低下する可能性もあるでしょう。
OKRでは、個人での実現は難しくてもチームでなら目標達成が目指せるような、あえて高い目標を設定していることを説明し、全従業員に周知しましょう。
ビジネス上の価値が低い目標にならないよう注意する
OKRを作成する際には、ビジネス上の価値も明確にすることが重要です。価値が低い目標の場合、たとえ達成したとしても従業員のモチベーション向上にはつながらず、組織にも大きな変化は生まれません。
組織の利益につながるような価値の高い目標を設定することで、その達成に向かって積極的に行動できるようになります。
目標に対する成果指標が不十分にならないよう注意する
OKRを構成する目標(Objectives)と成果指標(Key Results)は、バランスがとれた状態が理想です。目標設定ばかりを重視してしまい、成果指標を軽視しないように注意しましょう。
目標の達成率が思うように伸びない場合、成果指標の設定が不十分な可能性があります。目標に見合った成果指標を設定し、目標達成を目指しましょう。
まとめ
グローバル企業が導入しているOKRは、企業の成長や改革に大きく影響を与える目標管理手法です。日本国内でもOKRを導入する企業が増えつつありますが、「失敗するかもしれない」「導入しても意味がないのでは?」と、思う企業が多いのが現状です。
何のためにOKRを導入するのかを明確にし、組織全体の大きな成長を目指しましょう。