2019年12月、フィンランドの首相として現職で世界最年少の女性が就任し、同時に新内閣が誕生したことが話題になっています。
わずか人口550万人のフィンランド共和国。この国の教育が注目を浴びたのは、国際的な学習到達度調査PISAが始まった2000年の評価結果において、ほぼすべてにおいてトップであったからです。
では、なぜこんなにも少ない人口の国の教育が世界一であるのでしょうか。それは小国家が国際社会で渡り合っていくためには、人的資源を第一に考え、国民全体の教育水準を高めることが重要という考えが根底にあるからです。
フィンランドの教育の目的は、自分で考える力や問題解決能力、想像力、理解力、適応力を養うこと。また、教育を通じて、自尊心や自己肯定感、自己決定力を身につけていくことだと言われています。
今、世界は先が見えず、答えのない時代にああると言われています。今までのようなただの暗記を良しとする風潮や、モノごとを「正しい」「間違っている」だけで判断する観念的な教育では、これからの時代を生きて行くことは難しいと言われているのです。
一方、2018年のPISAにおける日本人の読解力が、前回8位から15位へ後退したと発表されました。文章や資料などから情報を理解したり評価したりする「考える力」に、課題があると指摘されています。数学的&科学的リテラシーは抜きんでて高いので、この読解力の低さが際立ちます。
これからの未来に求められていることは、言語や数量、情報スキルの基礎力をベースに、問題解決や発見力、創造力、批判的思考力を強化する思考力、さらには自律的活動力や社会参画力、持続可能な未来への責任力を強化する実践力の3つの構造から成る「21世紀型能力」だと国立教育政策研究所からも提案されています。
今回は、過去何度もPISAの評価結果1位を獲得したフィンランドの教育と何が違うのか、合わせてこれからの時代に必要とされる教育や生きていく術について考えてみたいと思います。
今回はフィンランドの教育から、これからの時代に必要とされる教育や生きていく術について考えてみたいと思います。
暗記や暗算学習ではなく、学習したことの理解度が大切
フィンランドで、自分で考える力や問題解決能力や想像力、理解力を養うための勉強法として、ライティングがあげられます。
母語のフィンランド語はもちろんのこと、小学2年からは英語、その後に公用語のスウェーデン語の習得がはじまり、中学までには3ヶ国語を身に付けることになります。そのあとは身につけた言語を使ったライティングを行います。
この目的は、ただ単に文法や単語を覚えるだけではなく、身近な生活の中で使われる言葉や自分の考えを通じて言語を身に付けることにあります。
例えば中学では、スウェーデン語でエネルギー問題についてのエッセイを書く授業があります。語学だけではなく、エネルギーに関する知識や普段の生活の中での疑問点なども含めて書くのです。
また、私自身がフィンランドに移住してすぐに始まったフィンランド語の学習で、こんなエピソードがあります。
所有格が15格もあり、難解な言語と言われているフィンランド語は覚えることが多く、つい暗記に集中しがちです。語学学校でも定期的にテストが行われますが、ある時「過去5年間の出来事を現在形、過去形、過去分詞形を使って80語以上のエッセイを書きなさい」という問題が出題されました。
ただし、このテストを受ける生徒にひとつだけ許可されたものがありました。「試験範囲の文法や単語を5cm四方の両面紙に書いて持ち込んでよい」というものです。
日本の教育を受けた私にとって、「これはカンペ(カンニングペーパー)ではないか?」と疑えるものでした。念のために自分の教育過程も交えて先生に尋ねてみると「日本では暗記することが大切のようですが、フィンランドでは『覚える』というのは単純に『記憶』するだけで、それは『勉強』や『学習』『教育』とは言えません。フィンランド語を学び、それを実際に使ってみてどれだけ理解しているかをみるのが、語学テストの目的です。自身が身につけたものを、実際の社会の中で使ってみることが大切ですからね」という答えが返ってきました。
まさにフィンランド教育を実感した瞬間でした。その答えに納得したので、早速カンペの準備に取り掛かりました。自分が理解できていない部分を5cm四方の紙にまとめていくなかで、課題が明確になり、おかげでエッセイを無事に書くことができました。
このように中学でのエッセイの授業や外国人向けの語学学校においても、自分の考えを書かせることが、学習の第一歩となるのです。
また、小学校における算数の四則計算では、初期段階では暗算で行うものの、高学年や中学以降では、その計算式を使ってどう解くかが焦点となるため、電卓を使えます。
たとえば、日本の小学校が導入しているような、2桁の足し算・引き算を2分以内で済ませられるよう、速度を測ることはありません。
四則計算は「実際の社会で使うためのもの」であり、実生活において計算速度を問われるような場面は、ほとんどないという考えに基づいた教育が行われています。
学びを通じて将来を考えるきっかけづくり
小学6年生ごろからは、自分の興味や関心を広げたり深めたりする目的で、選択授業がはじまります。ここでも「テストの点数が高く、良い成績を取るものではなく、自分が好きなことを見つけたり、一生涯学び続けるようなものを見つけたり、その過程を経て自分の得意なこと・好きなことを職業につながげること」を学習の目的としています。
選択授業の内容は、パソコン・プログラミング、料理、森林学習(自然環境の中に身をおいて生きる力や術を育む)などがあります。
また2010年より、小学6年生以降を対象とした生徒が実生活における労働や経済、社会のしくみについて学ぶ「Yrityskylä(通称:Me & My city)」が実施されています。これはヘルシンキの技術博物館にミニチュア社会をつくり、そこで生徒が労働者および消費者(納税者)として活動を行う体験学習です。
1日職業体験として、自分が働いてみたい企業の社員として働きます。働いた分の対価を給料としてもらい、その給料から税金を支払い、残ったお金で消費をするというのが一連の流れです。
このMe & My cityには地元企業が協賛していて、有名企業で1日インターンをできるので、身近で親しみやすい学習方法だと言えます。
自分はどんなことをしたいのか、どんな職業に興味があるのかを考えて擬似的に体験することで、「自己決定力」や将来について考えるきっかけをつくることができます。
小学6年生は主に基本的な社会活動を学びますが、9年生になると(日本の中学3年生ぐらい)、国際市場を相手に自分の会社を経営して、1年間利益を得ることを目的にしたプログラムに参加します。
ここでは、営業利益を出すためにどのようなチームづくりや戦略が必要なのかなどの企業感覚を学んでいきます。また、実際のビジネスにおける他国との取引なども擬似体験でき、実際にアメリカなどと英語を使った取引体験が可能です。
こうした擬似体験を通じて「なぜ語学が必要なのか?」「四則計算がこういう場面で必要だ」「実際にはこんなアイデアが必要なのでは?」などと気づくようになり、普段の学びが実社会とつながることを理解できます。また、企業感覚を身につけた生徒が、将来自分の会社を経営したり、何か新しいことを生み出したりするきっかけにもつながるのです。
まとめ
このようにフィンランドの教育は、授業だけではなく、実社会における体験も含めて学ぶことができ、また理解することが大切とされています。その体験を通じて、学びの探求を深めたり、時には失敗したりする子供への「受容力」が、教師や親御さんなどの大人に求められています。
今までのような点数だけの評価では、複雑な社会の問題や課題を解決する力は身につきません。他の生徒と比較して良い点をとる、良い点を取れば成績がよく偏差値も高くなる。すると良い大学に入学でき、良い会社に入社できる。でもそれは、本当に良い教育といえるのでしょうか? そして生きていく上で本当に大切なことなのでしょうか?
この記事を読まれている方も、TOEICなどで高得点を取ることや、資格に合格することが目的になっていませんか? 何かを学ぶときには、何に使うのか、社会の中でどう実践するのかを考えていますか?
周りと比較して良い点数をとること、また暗記や記憶を重視した学習方法から、自分は学んだことから社会で何ができるのか? ということを想像したり、問題の解決につながるように、常に考えて取り組むように学びに対する根本的な考え方を変えていく必要があります。
あなたが今取り組んでいる学びは「学びの理由」が明確になっていますか?
もし明確でないのであれば、学びの本質である「学ぶ理由」をもう一度自分自身に問い直してみてはいかがでしょうか。
参考:Yrityskylä(通称:Me & My city)