ビジネスシーンにおいて頻繁に使用される「フィードバック」が本稿のテーマです。フィードバックは正しく行われてこそ、効果を発揮します。
ここではフィードバックがなぜ必要とされるのか、フィードバックという言葉の意味や手法をはじめ、効果的な方法やおさえておきたいポイントについて解説します。
フィードバックとは?
フィードバックとはそもそも何を意味するのでしょう? 最初に、フィードバックについて理解を深めていきましょう。
ビジネスシーンにおけるフィードバックの意味
ビジネスシーンで使用される「フィードバック」には、相手の作業や行動に対する評価を伝え、改善を促すという意味があります。
企業や組織においては、評価面談や1on1ミーティング、プロジェクトや施策の振り返りなどを行う際に、フィードバックを用いることが多くあります。
作業や行動を適切に評価したり客観的な視点でアドバイスしたりすることで、人材育成や組織の見直し、人事評価につながります。
フィードバックを構成する要素とは
効果的をあげるフィードバックには、欠かせない3つの要素があります。
- フィードアップ
フィードバックの目標の設定や確認を行います。
- フィードバック
目標の達成を目指し、経過の振り返りや評価を行います。また、現在の立ち位置を理解させ、目標を達成するために必要な情報を与えます。
- フィードフォワード
これまでの工程を振り返り、次に取るべき打ち手を考えます。目標から逆算して今何をすべきかを考え、最も効果が期待できる解決策を選択し、実際の計画に落とし込みます。
「フィードバック」とコーチングの違い
「コーチング」はフィードバック同様、人材育成の場面で用いられる手法ですが、フィードバックとは全く異なるものです。
フィードバックは事実に対する結果を伝えるのに対し、コーチングは目標達成に向けてコミュニケーションを重ね、自己成長を促す手法のことをいいます。傾聴を用いたコミュニケーションで相手の話をよく聴き、問いかけによって相手がまだ気づいていない本質的な答えを導き出すことを目指します。
企業や組織で行うコーチングでは、指示や指摘することはせず、部下自身が問題点や選択肢に気づいて、自主的に行動できるよう促します。
どちらも手法は異なるものの、「目標達成に向けた人材育成」という共通の目的を持っているのです。
「フィードバック」とマネジメントの違い
「マネジメント」は、企業や組織が目標の達成を目指して行う管理手法のすべてを指した言葉です。フィードバックとマネジメントは性質や範囲が異なりますが、人材を育成するという目的は共通しています。
相手に結果や評価、アドバイスを伝えるフィードバックは、マネジメント方法のひとつであるといえます。
「フィードバック」の目的や効果とは
企業や組織ではフィードバックを積極的に取り入れていますが、何を目的とし、どんな効果を得るために実施するのでしょう。
効果的なフィードバックを行うためには、目標や効果を見失わないことが重要です。フィードバックの目的や期待できる効果を、4つのポイントに分けて説明します。
目標達成
フィードバックは単なる評価にとどまらず、組織やチームの目標達成や個の成長を促すことを目的としています。
行動が成果や成長に結びついているかを定期的に振り返ることで、チームメンバーが適切な行動を取れるように軌道修正でき、組織全体の生産性や効率アップが期待できます。
人材育成
自らの問題や成長に対する糸口を気づかせることも、フィードバックの目的です。フィードバックによって定期的に振り返りを行う習慣が身につけば、生産性や効率をあげる対策を考えられる自立的な人材が育ちます。
モチベーションアップ
フィードバックを通じて適切な評価を伝えることは、自己肯定感のアップにつながります。さらに、日頃の行動が認識されているという実感を生み、仕事へのモチベーションを高めます。
良い評価に限らず、フィードバックによって成長のきっかけがつかめれば、今後の作業に対する前向きな姿勢が生まれるでしょう。
パフォーマンスの向上
フィードバックによって作業の見直しや軌道修正ができれば、その結果パフォーマンスがアップします。
フィードバックを続け、自分の作業や行動がどのように企業や組織に影響を与えているかを理解できるようになると、生産性や効率を考え主体的な行動が取れるようになります。同時に、生産性や効率が悪い作業を避けることができるでしょう。
「フィードバック」の種類
フィードバックは、受ける側のスキルや立場によって内容やレベルを変えて行います。そのためには、相対するフィードバックである、「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」を理解する必要があります。
ポジティブフィードバック
まず、最初に説明するのは「ポジティブフィードバック」です。肯定的で前向きな表現を用いて、フィードバックを受ける側の作業や行動を評価します。
ポジティブフィードバックはいわゆる「褒めて伸ばすマネジメント」で、受ける側の承認欲求を満たし、自己肯定感や業務への意欲を高める効果があります。
しかしポジティブフィードバックばかりでは現状で満足してしまい、成長の機会を奪ってしまう恐れがあります。そこで用いられるのが「ネガティブフィードバック」です。
ネガティブフィードバック
「ネガティブフィードバック」は、フィードバックを受ける側の作業や行動に対して、問題点を指摘するような表現を用いて行います。
耳が痛い内容であるものの、作業や行動をあえて否定することで、ハングリー精神を刺激し、可能性や潜在能力を引き出します。しかし否定を含む要素は、伝え方や受け取り方によっては批判や拒絶と取られ、やる気を損なうこともあるため、細心の注意が必要です。
ネガティブフィードバックを取り入れるには、受ける側の性格や立場を考慮し、対象者を絞るようにしましょう。また、否定的な言葉も受け入れて、次の行動につながるような言葉選びが求められます。
フィードバックの具体的な方法・フレームワークとは?
より効果的にフィードバックを行うには、フレームワークの使用をおすすめします。ここでは代表的な5つのフレームワークを挙げてみました。
FEED型
フィードバックの最も基本的なフレームワークが「FEED型」と呼ばれるフレームワークです。
Fact(事実の確認・認識合わせ)→Example(その行動を例として指摘する意図)→Effect(その行動による影響)→Different(代替案や改善策の提案)の順に説明する手法です。
事実から次回の改善策までを一連の流れで伝えられるのが特徴で、相手の行動に変化を促しやすい伝え方といわれています。
SBI型
Situation(状況)・Behavior(行動)・Impact(影響)の頭文字をとって「SBI型」と呼ばれるフレームワークでは、フィードバックを「状況→行動→影響」の手順で行うと、対象者に理解されやすいフィードバックになると考えられています。
Situation(状況)やBehavior(行動)では、主観的な意見は含めず客観的に。Impact(影響)では、他者にどのような影響を与えたのかという視点を持ってフィードバックを行います。それによって気づきを与えることができます。
KPT型
「KPT型」はエンジニアの開発現場で1週間の振り返りによく使われるフレームワークです。Keep(これからも続けるべきこと)→Problem(抱えている課題)→Try(改善すべきこと)の順で伝えます。
企業や組織で用いられるKPT型のフィードバックは、上司と部下がコミュニケーションを取りながら進めていくことが多く、その過程を通じて自発的な行動改善が促されているのです。
サンドイッチ型
ポジティブなフィードバックの間に、ネガティブなフィードバックを挟む手法を「サンドイッチ型」と呼びます。「評価する→改善点の指摘→評価する」という流れでフィードバックを行うことで、受ける側のモチベーション低下のようなマイナスの効果を最小限に抑えられるとされています。
実践しやすくシンプルな構造のサンドイッチ型は、フィードバックをする側の技術を要さないことも特徴です。
ペンドルトンルール
心理学者のペンドルトンによって開発された「ペンドルトンルール」は、一方的に評価や改善点を伝えるだけではなく、受ける側の内省を引き出して、主体的に次の行動を考えるように導く手法です。
密なコミュニケーションの中、問いかけを使用して自ら改善点に気づけるように導くことで、フィードバックを受ける側の主体性を最大限に引き出すことが特徴です。
フィードバックを効果的に行うためのコツ・ポイントとは?
効果を実感できるフィードバックを行うには、いくつかのコツやポイントがあります。本稿の最後に、どんなフレームワークにも共通する「フィードバックを効果的に行うためのコツ・ポイント」をまとめてみました。
具体的に伝える
フィードバックでは、具体的な行動に対し具体的な言及をすることが大切です。具体的に伝えることで、次の行動が明確になります。
しかし、フィードバック対象者の行動や行動を理解できていない中、具体的なフィードバックを与えても見当違いになってしまい、悪くすると信頼関係を損ないかねません。具体的に伝えるためには、フィードバック対象者を丁寧に観察する必要があります。
目標に紐付ける
定めた目標に紐付けることも効果的なフィードバックには必要です。目標が定まらないままやみくもに伝えても、良い効果を生み出すことはできません。
フィードバックを行う際は、目標の設定を欠かさずに行いましょう。
タイムリーに実施する
作業をしてから時間が経つほど、互いに記憶があいまいになり、フィードバックの効果が薄くなってしまいます。作業や行動に対する結果や成果が出た後、まだ熱量のあるうちに速やかに行いましょう。
人にではなく行動に対して行う
フィードバックを行う際に忘れてはならないのが、「人にではなく行動に対して行う」ことです。スキルや人格の適性を評価・指摘することではなく、その行動によってどのような結果になったのかという視点を持ってフィードバックを行います。
実現可能なものにする
フィードバックを効果的なものにするためには、現実的ですぐに行動可能な打ち手をフィードバックする必要があります。
実現が困難なフィードバックではあまり意味がないばかりか、受ける側のモチベーションを低下させるリスクまでも伴います。
主体的な行動を促す言葉を考える
フィードバックを通じ主体的な行動を引き出すためにも、できる限り前向きな言葉を使用して伝えるといいでしょう。不平不満と取られるような、否定的な表現は避けることをおすすめします。また、一方的ではないか、一貫性はあるか、理論的であるかといった点にも気を配ります。
フィードバックは、受ける側を正し、思い通りに動かすことが目的ではありません。あくまで自主的な行動を取るためのサポートであることを覚えておきましょう。
シチュエーション・態度に気をつける
フィードバックを行う際は、フィードバックの内容が建設的であるかを常に考え、シチュエーションやタイミング、態度には十分に配慮します。
評価や改善点を伝えることはとてもセンシティブで、フィードバックを受ける側は、意図しない解釈をすることがあります。意欲を高めようと何気なく発した言葉がネガティブな感情を引き出してしまうことや、過剰に褒めたことで逆に不快感を与えることもあるのです。
日頃から信頼関係を築いておく
フィードバックを行う側は、日頃から受ける側との間に信頼関係を築いておかねばなりません。
フィードバックの効果は、受け取り方次第でプラスにもマイナスにもなる可能性があります。信頼関係のある間柄ではポジティブなアドバイスとして受け取られても、信頼関係のない間柄では感情的に受け取られてしまうリスクがあるでしょう。
客観性を大事にする
相手にとって耳の痛い指摘を行う時や、思わず熱くなってしまいそうな時でも、客観的に事実を伝えねばなりません。主観は取り除き、フィードバックをする側の視点で比較や判断をしないように注意をしましょう。
まとめ
普段、気軽に交わされるフィードバックですが、実は奥が深く、人や企業の成長になくてはならないものであるということがわかりました。正しくフィードバックを実施すれば、企業や組織の発展に大きく役立つ可能性があります。
フィードバックを行う側は、「人を育てる」ということを常に意識し、将来につながるようなフィードバックを行うことが求められているのです。