キャリア形成の専門家。キャリアコンサルタント
みなさんは、自分のキャリア形成に迷ってしまった時にどうしますか。家族や友人、時にはキャリア関連の本を見て、答えを探そうとするのではないでしょうか。どれも間違いではありませんが、こういう時に頼りになるのが「キャリアコンサルタント」です。
国家資格を持ったキャリアのプロ
「〇〇コンサルタント」という名前を持つ専門家が数々いる中、キャリアコンサルタントは、キャリアについてカウンセリングやアドバイスのできる、国が認めた専門家です。キャリアとは、経歴や経験を指し、広い意味で「働き方」を指しています。
キャリアに迷った時、キャリアコンサルタントは私たちの人生にどのように関わることができるのでしょうか。せっかく相談をするなら信用は欠かせません。キャリアコンサルタントはどのような仕事をしているのか、信頼できるキャリアコンサルタントはどのように探すのか、実際にどのようなコンサルティングを受けることができるのか、一つひとつクリアにしたいと思います。
キャリアコンサルタントは信用できるか
キャリアコンサルタントの資格は国家資格としての歴は短く、2016年4月に職業能力開発促進法に規定され、国家資格として認められました。それまでは国家検定や厚生労働大臣の認可を受けているものの、民間資格のひとつでした。
キャリアコンサルタントになるために、ほとんどの人は専門の学校に通ったり通信教育を利用したりし、主に厚生労働大臣認可の「キャリアコンサルタント養成講座」のカリキュラム勉強をするのだそうです。その後、国家試験に合格した人が晴れてキャリアコンサルタントと名乗って仕事ができるようになります。
その資格取得の難易度は高いといわれており、合格率は35%程度。学科試験のほかカウンセリングの実技試験もあるので、現場で必要とされる実技スキルとしてのカウンセリング理論や接し方、信頼関係の築き方やキャリアへのアプローチなど、たくさんの実技を交えて学んでいきます。そして、実技を通し、同時にコミュニケーションスキルも磨いていきます。また、資格を取得した後も、5年ごとに更新する必要があるため、常に学び続ける資格でもあります。
そのほかに、人事管理の基本的知識としての労務管理や労働についての法律、倫理基準もカリキュラムに組み込まれています。労働市場や職業情報、就職活動の基礎、キャリアに関するプログラムの提供方法も学んでいるので、様々なニーズに答えられるようになるのです。
政府はキャリアコンサルタントを国家資格として認めたのち、さらに2024年末までにキャリアコンサルタントを10万人に増やすことを計画しているのです。そうまでしてキャリア形成の専門家を育てようとしているのには、どのような背景があるのでしょうか。
キャリアコンサルタントが必要とされる理由
絶対的な安心感を持っていた終身雇用や年功序列の仕組みは、もはや過去のものとなりつつある近年、雇用における環境は大きく変わり始めています。
最近では、働く女性が増えたことで労働人口も増加し、それに伴い働き方に悩む人が増えていることも事実です。また、「ワークライフバランス」という言葉が市民権を得るようになり、仕事だけでなく、家庭や趣味といったプライベートも尊重する働き方を模索する人も多くいます。働き方改革が進み、自分の求める働き方を追い求める人が増えた結果、働き方やその価値観は多様化しています。さらには、高齢化が進み、老後2000万円問題などをきっかけにセカンドキャリアを考え出す人も多くいます。
そんな変わりゆく時代を生きる中、キャリアについて専門知識を持ってカウンセリングやアドバイスのできる専門家が必要不可欠だと考えられたのです。
キャリアコンサルタントに相談したい!と思ったら
Web検索をすると様々なキャリアコンサルタントの情報にヒットしますが、「無料カウンセリング」と謳っているものの中には、企業と提携し転職の斡旋を目的としているものや、無資格のカウンセラーがコンサルティングを行なっていることもあるので、注意が必要です。
キャリアに悩み、相談をしたいと考えた時、キャリアコンサルタントとの接点を持つにはどうしたらいいのでしょう。キャリアコンサルタントは、企業やハローワーク、教育機関、若者自立支援機関など、様々な分野で活躍をしています。その中でも、企業におけるキャリア相談の現状を見てみましょう。
正社員を雇用する事業所のうち、正社員に対してキャリアコンサルティングを行なう仕組みを導入している事業所は44.0%で前年の38.1%に比べても、近年では増加傾向にあるといえます。それでも50%に満たないため、後の章で紹介する国の制度によるサポートがあるのです。
(平成30年 厚生労働省「能力開発基本調査」より)
社内の人事が兼任している場合
同調査によると、キャリアコンサルティングを行なう仕組みを導入している事業所のうち、「事業所で相談を受けているのはキャリアコンサルタントであるか」との問いに「そうである」と回答したのは、わずか8.3%でした。
「そうではない」そのほかの事業所では、誰が相談を受けているのかというと、人事担当者がその役割を兼任しているケースが多いのだそう。この場合、専門の研修は受けているとしても、キャリアコンサルタントの資格は問われていません。
社内の人事担当が兼任しているメリットは、必要に応じてすぐに相談ができることです。また、社内の内情に通じているので、より具体的な相談をすることもできます。
ですが、デメリットとして、社内の人間だからこそ本音をいいにくいケースもあります。また、その相談内容を社内で共有される心配もあるでしょう。
キャリアコンサルティングを行なう仕組みを導入している事業所のうち、キャリアコンサルティングを行なう目的は、正社員、正社員以外ともに「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」が最も多く、次いで「労働者の自己啓発を促すため」「労働者の希望等を踏まえ、人事管理制度を的確に運用するため」という結果を確認できました。調査結果の通り、社内で人事が担当している場合、その会社内で能力を発揮できるようにすることが目的となっています。
外部のキャリアコンサルタントと提携している
社内でも有資格者が客観的な立場を持って相談を行っているケースはあります。このようなケースでは、内部の人間ではなく、外部のキャリアコンサルタントと提携しているので、企業にとっては依頼費がかかるというデメリットがあります。しかし、従業員にとってはより客観的な目線での相談ができるというメリットがあります。
キャリアコンサルタントには守秘義務が課せられているため、相談者と話した内容を漏らすこともありませんし、逆に社内に向けていいたいことがあれば名前を伏せて伝えてもらうことができます。まれにキャリアコンサルタントはスパイのように思われることもありますが、決してそうではないのです。
キャリア形成をサポートする国の体制
企業が従業員のキャリア形成のために、キャリアコンサルタントのカウンセリングが受けられる機会を設け、それを支援する制度をセルフキャリアドック制度といいます。働き方に迷うタイミングで受けるキャリアコンサルティングやキャリア研修は、まるで健康診断のように私たちの意識を整え、モチベーションアップに繋がります。
この制度は企業にとっても、人材の定着や能力開発、目標の明確化など、プラスに働きます。
セルフキャリアドック制度が始まった初期のころは、導入に対する助成金があったのですが、2020年現在では助成金の制度は終了しています。ですが、厚生労働省は現在でも、セルフキャリアドック制度普及のための支援を続けています。
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
キャリアコンサルタントに実際に依頼をしてみた
前章で、正社員に対してキャリアコンサルティングを行なう仕組みを導入している事業所は50%に満たないことに触れましたが、その理由として「労働者からの希望がない」が一番多く挙がっています。キャリア形成を推進する政府と現場の労働者間で意識のズレがあることが、必要とする人に届いていない原因なのではないかと推測できます。
「希望がないのはその詳細を知らないから」という仮説をたて、実際にキャリアコンサルタントに依頼をしてみました。
どんな悩みを相談したらいい?
「転職をしたいがうまくいかない、タイミングが掴めない。」
「今の仕事にやりがいが見出せないが、他に何をしていいのかわからない。」
「将来に向けた目標を立てたい。」
「キャリアに自信を持ち、もっとキャリアアップする方法を探している。」
「スキルの生かし方がわからない。」
「履歴書の効果的な書き方が知りたい。面接が不安。」
このような働き方の悩み、共感できるものはありましたか? これらは誰しもが持つであろう仕事の悩みです。こんな働き方の悩みならなんでも相談できるのがキャリアコンサルタントです。総合病院のような存在ですね。
探し方
キャリアコンサルタントは、組織に所属し活動する人もいれば、フリーランスとして活動をしている人もいます。いざキャリアコンサルタントを探すべく、web検索をしたところ、転職専門のエージェントに登録することでキャリアコンサルタントに依頼ができるようなシステムが多く見受けられました。その他に、キャリコンサーチやキャリコンバンクなどの紹介サービスを利用するのもいいでしょう。
でも有名なキャリアコンサルタントだからといって、その人が自分にとって意義のあるコンサルティングをしてくれるとは限りません。相談者との相性や得意とする分野などはそれぞれなので、「地域・キャリアコンサル」で検索をし、キャリアコンサルタントのブログや口コミを事前にリサーチし、選ぶのもいいでしょう。
また、依頼をするにあたり、初回無料で相談ができたり、地域のイベントで相談窓口をかまえていたりするので、気軽に問い合わせをしてみましょう。
コンサルティングの流れ
依頼するキャリアコンサルタントが決まったら、面談の日程を決めます。コンサルタントの事務所に行くこともあれば、カフェやホテルのラウンジ、静かなところを好む場合、貸し会議室などを利用することもできます。
1度の面談で悩みがクリアになることもあれば、次回へ持ち越すこともありますので、予算は事前に相談して進め方を調整してもらいましょう。面談を最小限にし、やるべきことを宿題として持ち帰り、電話やメールでのサポートをするなど、予算にあった提案をしてもらえます。なかには、必要に応じて医療機関や法律の専門家と協力体勢をとり、サポートをするケースもあります。
相談することのメリット
キャリアコンサルタントという立場はあくまで第三者であるため、常に客観的な立ち位置で話をきいてもらえます。そのため、自分では持ち合わせない視点での気付きや知識を得ることができます。ですが、キャリアコンサルタントは決めつけることをしません。相談者の本当の気持ちを引き出すプロなので、様々なしがらみで表に出せずにいた本来の意志を探り出すことで、相談者は自己理解が深まるのです。
さらに、キャリアコンサルタントはリアルな現場の情報を持っています。自分では調べられないような情報をキャリアコンサルタントから得ることができるでしょう。
また考えすぎて情報過多になっている頭の中の断捨離作業も、自分ではなかなかできないこと。気持ちをキャッチした感情の整理や行動の道筋作りをし、気付きを与えてくれるのです。
実際にキャリアコンサルティングを受けた人を対象に「キャリアコンサルティングを行なった効果」という調査をしたところ、「労働者の仕事への意欲が高まって、自己啓発する労働者が増えた」などのポジティブな感想が挙がっています。この結果から、キャリアコンサルタントの力を借りて、自分のキャリアを形成していくことに価値を見出す人は多く、キャリアコンサルタントがより身近な存在になると更なるキャリアアップに繋がるのではないかと考えました。
相談する時の心得
せっかくキャリアコンサルタントに相談するなら、実りのある時間にしたいと思うはずです。そのためにも、コンサルティングを受ける時は素直になることです。そして自分のスキルや経歴は正直に。ありのままを打ち明け、信頼関係を築くことができれば、そのコンサルティングは有効なものとなり、これからの指針が見つかるのではないでしょうか。
まとめ
体調が悪くなったら病院にいくように、キャリアにつまずいたときに頼りたいのがキャリアコンサルタントです。ですが、その存在を知らない人や活用するに至っていない人が多いことがいまの状況です。多様化する働き方に柔軟に対応する必要のある近年、誰かに頼ってみることも大切なのではないでしょうか。
<出典>