昨今、マネジメントの手法として「1on1ミーティング」を導入する企業が増加していますが、この1on1ミーティングとは、どのようなものかをご存じでしょうか。
この記事では、1on1ミーティングの基本から注目されている理由、さらには進め方について解説します。実際に1on1ミーティングを取り入れた企業事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
1on1ミーティングと人事評価面談の違い
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行うミーティングのことを意味します。部下の成長を促すことやモチベーションを向上させるなど、部下が主役となる面談です。週に1回〜月に1回など、短いサイクルで且つ定期的に行うのが1on1ミーティングの特徴です。
1対1且つ定期的に行われる面談といえば、四半期に1回から1年に1回行われる人事評価面談を思い浮かべる方も多いでしょう。人事評価面談とは、目標達成率や勤務態度などについて話し、上司が部下の管理・評価をする面談です。
部下の成長育成を目的とした1on1ミーティングと、部下の管理・評価をする人事評価面談では、目的に大きな違いがあります。
1対1の面談でも、日常的な業務に関する打ち合わせや報告などは1on1ミーティングとは呼びません。あくまでも、上司が部下の育成を目的として行う1対1の面談を1on1ミーティングと呼びます。
1on1ミーティングが注目される理由
ヤフージャパンが導入したことをきっかけに、1on1ミーティングを採用する企業は続々と増えています。さまざまなマネジメント手法がある中で、なぜ1on1ミーティングが注目されているのでしょうか。
ここでは、1on1ミーティングが注目されている理由について紹介します。
従業員の生活環境の多様化・複雑化
1on1ミーティングが注目されている理由のひとつに、従業員が持つバックグラウンドの多様化、複雑化が挙げられます。男性の育児参加や女性の働き方の変化、ハラスメントに対する考え方など、現代社会のさまざまな問題によって、上司と部下の意思疎通が難しくなりつつあります。
さらに、リモートワークを取り入れる企業も増え、上司と部下との間で生まれるすれ違いやコミュニケーション不足が企業の問題となっているのです。この問題を解決し、上司と部下の信頼関係を構築するために、1on1ミーティングが注目されています。
経営環境や市場ニーズの変化のスピードが早くなってきている
テクノロジーの進化や情報伝達の高速化などにより、経営環境や市場ニーズが変化するスピードは早くなっています。また、企業のグローバル化によって環境は複雑化を増し、現代は将来の予測が困難な時代とも言えるでしょう。
このような状況下では、部下が上司の指示を待つのではなく、部下が自分で考えて行動することで、目まぐるしく変化する環境にもスピード感をもって対応できることが求められます。このような人材が必要とされていることも、企業が1on1ミーティングに注目している理由として挙げられるでしょう。
1on1ミーティングの目的
1on1ミーティングは、しっかりとした目的をもって行わなければ、ただの日常会話や雑談となってしまいます。では、どのような目的をもって実施すれば良いのでしょうか。
1on1ミーティングを有効活用するためにも、目的を確認しておきましょう。
部下の成長促進
1on1ミーティングは、部下の考えを言語化する場です。失敗した体験や経験した体験を改めて振り返る場にもなるでしょう。経験を振り返り、取り向くべき課題や解決すべき問題を明確にすることで、部下の成長を促せるようになります。
また、部下の悩みをしっかりと聞くことで、上司が適切なアドバイスをすることも可能です。そのアドバイスによって行動し、成功経験を得ることができれば、部下の仕事に対するモチベーションの向上にも繋がるでしょう。
部下のエンゲージメントの向上
近年、労働人口の減少や労働に求める条件の変化などから、人材の確保に苦戦する企業が増えています。優秀な社員に長く働いてもらうためには、部下のエンゲージメントを高めることが必要不可欠です。
1on1ミーティングは部下の成長育成のために行われます。上司が自分の話をしっかりと聞いてくれることは、部下にとっては心理的安全性の確保に繋がります。「会社や上司に信頼されている」と感じることができれば、部下のエンゲージメントは向上し、離職する可能性も低くなるでしょう。
マネジメント品質の向上
1on1ミーティングの主役は部下です。しかし、1on1ミーティングで得られるものは部下の成長促進やモチベーション向上だけではありません。定期的に行う1on1ミーティングは、上司自身が部下との関わり方を振り返り、気づきを得る機会でもあります。
部下と上司がしっかりと向き合える1on1ミーティングは、部下の成長促進やエンゲージメントを高めるだけでなく、上司のマネジメント品質の向上を促す期待もできるでしょう。
1on1ミーティングの進め方
1on1ミーティングの意味は理解したものの、いざ1on1ミーティングを行うとなると、どのように進めれば良いのかがわからないという方も多いでしょう。1on1ミーティングを実践する前に、抑えておくべき進め方のポイントを確認しておくと安心です。
1on1ミーティングの目的を伝える
1on1ミーティングを行う際には、「何のためなのか」「なぜ行うのか」という目的を、上司と部下で共有しておくことが大切です。目的がない1on1ミーティングは単なる雑談となってしまい、部下にとって「めんどくさい」「時間の無駄」といったネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。
1on1ミーティングは、上司だけでなく部下も前向きに向き合うことが大切です。「部下の成長のために行うもの」という目的を、必ず共有するようにしましょう。
スケジュール設定
1on1ミーティングは、週に1回〜月に1回程度の短いサイクルで、尚且つ継続的に行うことが大切です。コミュニケーションを習慣化することで、お互いの距離を縮め、迅速に相談や意見を述べる環境を自然と生み出すことができます。
1on1ミーティングは「毎週水曜日13時〜」というように、あらかじめ日程を決めておきましょう。一定の日程を決めておくことで、その都度スケジュールを合わせる手間を軽減できます。上司と部下ともに業務の忙しい曜日や時間帯を避け、無理のないスケジュールを設定しましょう。
話すテーマを決めておく
1on1ミーティングの失敗例として、「何を話していいかがわからず、時間だけが過ぎてしまった」「話題を詰め込み過ぎて、雑談になってしまった」などが挙げられます。1on1ミーティングを意義あるものにするためには、何を話すのかテーマを決めておくことが大切です。
話すテーマとして代表的な4つのテーマを紹介します。
プライベートについて
週末の出来事の話や趣味の話など、プライベートに関わる話をすることは、上司と部下の信頼関係を築くことに繋がります。部下の緊張をほぐすためにも、1on1ミーティングのはじめに話すテーマとしてもおすすめです。
部下の仕事の状況確認・報告
1on1ミーティングでは、部下の仕事の現状を確認することが大切です。仕事の進捗状況や困っている問題はないかなどを聞き出します。問題がある場合は、どのような解決策があるかを話し合いましょう。場合によっては上司から適切なアドバイスをすることで、部下の成長を促すことができます。
職場の環境について
部下が抱えている悩みは、仕事に関することだけとは限りません。職場の環境について悩みを抱えているケースもあるため、職場の様子やトラブルはないかなども確認しましょう。
上司が把握できていない、職場の問題やトラブルは意外と多いものです。問題やトラブルは早めに把握しておくことで、大きな問題になる前に対処できます。
部下の中長期的なキャリア
1on1ミーティングでは、現在のことだけでなく、部下の中期的または長期的なキャリアについても話し合いましょう。これから身につけたいスキルや積みたいキャリアなどを聞き、アドバイスをすることで部下の長期的な育成が図れます。
質問を決めておく
効果的な1on1ミーティングを実施するために、質問も決めておくと良いでしょう。ここでは、部下にしたい質問の方針を3つ紹介します。
部下の成長促進となる質問
部下の成長を促すためには、課題や問題をいかに克服するかという点が大切です。「現在の仕事の進捗状況はどうか」「困っている問題はないか」など、部下の現況を確認し、適切なアドバイスや後押しができるような質問をしましょう。
定期的に行う1on1ミーティングの利点を生かし、前回から改善したことや行動の変化を追うのも良いでしょう。
上司と部下の信頼関係を築く質問
1on1ミーティングでは、上司と部下がなんでも話し合える関係性であることが理想的です。
「現在の職場や仕事に対して感じていることは何か」「職場や仕事に対して提案したいことはないか」など、普段話せないようなことも質問するとよいでしょう。考えや意見を本音で話すことで、お互いの信頼関係が築かれていきます。
部下のモチベーションを高める質問
現在起きていることだけに注目するだけでは、部下のモチベーションを高めることは難しいでしょう。
「今後磨きたいスキルはなにか」「どのようなキャリアプランを描いているか」など、これから先のことも話題にしましょう。自分が進みたい方向性を明確にすることは、仕事に対するモチベーションを高めることに繋がります。
記録をとる
1on1ミーティングが上手くいったとはいえ、上司がその内容を忘れてしまっては信頼関係を築くことはできません。どのような内容を話したかがわかるよう、必ず記録をとるようにしましょう。
1on1ミーティングでは、話したいことや困っていることなどをメモできる、定型化した記録シートがあると便利です。「話したいこと」「困っていること」など、いくつかの定型項目を設けておくことで、1on1ミーティングがスムーズに行えると同時に、記録として残すことが可能です。
定型化した記録シートを元に1on1ミーティングを進めれば、途中で話すネタが尽きてしまう事態も避けられるでしょう。
記録シートはメモするだけでなく、後で振り返ることも大切です。前回の1on1ミーティングはどうだったかを振り返ることで、適切なフィードバックができ、部下の変化にも気付きやすくなるでしょう。
1on1ミーティングは定期的に行うため、蓄積する記録シートの量も多くなります。部下の成長を把握するためにも、月単位や年単位で整理しておくことが大切です。
1on1ミーティングの導入事例3選
1on1ミーティングについて目的や進め方を解説しましたが、実際に導入した実例が気になる方も多いでしょう。
ここでは、1on1ミーティングを導入した企業の事例をご紹介します。導入のイメージを持つことで、1on1ミーティングをより有効的に活用しましょう。
ヤフージャパン
「ヤフージャパン」は、ポータルサイトや広告事業、イーコマース事業などを展開する会社です。2012年に人材戦略のひとつとして1on1ミーティングを導入しました。日本で1on1ミーティングが広まるきっかけとなった企業でもあります。
ヤフージャパンで実施している1on1ミーティングは、「週に1度30分間、場所を確保し、部下の話を聞く」という、とてもシンプルなものです。経験学習というスキームの導入、社員の才能と情熱を解き放つこと、この2つをベースに1on1ミーティングを行っています。
導入当初は、社員の反発もありましたが、外部の専門家を入れ、カリキュラムをヤフージャパンにあうものにすることで浸透を図りました。管理職が行う1on1ミーティングのスキルやフォーマットにも磨きをかけるなど、組織一丸となって取り組むことで徐々に文化として浸透させることに成功しています。
▶︎ヤフージャパンが行う1on1ミーティングの詳細はこちら
電通デジタル
「電通デジタル」は、2016年に電通グループにおけるデジタルマーケティング専門会社として設立された会社です。2016年の設立から1on1ミーティングを導入しています。
当時200名程いた従業員に対して、1on1ミーティングを一気に実施したため、当初は混乱したものの、試行錯誤をするうちに人事戦略として定着しました。
デジタルマーケティング専門会社らしく、SlackやZoomなどのオンライン会議ツールを積極的に活用した1on1ミーティングを実施しています。
楽天グループ株式会社
「楽天グループ株式会社」は、Eコマースやトラベルなど、インターネット関連サービスを中心に展開する企業です。「勝てる人材、勝てるチーム」を作るためのBack to Basics Projectの一環として、2017年に1on1ミーティングが導入されました。
楽天グループ株式会社が実施する1on1ミーティングの目的は、「定期的なフィードバックによる成長支援」と「相互理解・相互信頼の形成」です。多様なバックグラウンドを持つ従業員が、その能力を最大限に発揮できる環境を作るために1on1ミーティングが行われています。
管理職向けの1on1研修や従業員向けのE-learningなどを通し、1on1ミーティング文化を促進してきました。今後は中長期のキャリア・人材育成支援の場として、より1on1ミーティングを活用できるような仕組みを目指しています。
▶︎楽天グループ株式会社が行う1on1ミーティングの詳細はこちら
まとめ
1on1ミーティングは、部下の成長やモチベーション向上のために行う、有効的なマネジメント手法のひとつです。上司と部下の信頼関係を築けることや上司のマネジメント品質の向上にも繋がることも、多くの企業が1on1ミーティングを導入している理由でもあります。
1on1ミーティングを実施する際には明確な目的を持ち、効果的に活用しましょう。