ビジネスシーンにおける振り返りとは、これまでの行動を思い返し、改善点を見つけ出すことです。今後に向けた課題を洗い出し、成長を促す大切な機会でもあります。
しかし、「どうやって振り返りをすればいいのかわからない」という方もいるでしょう。
本稿では、振り返りを行うための代表的なフレームワークを紹介するとともに、振り返りの目的やタイミングについても解説します。
振り返りに活用できる代表的なフレームワーク5選
振り返りに活用できるフレームワークは多数あり、どれを使用すべきか迷う方も多いでしょう。
ここでは、振り返りに活用できる代表的なフレームワークを5つ紹介します。
KPT(A)
KPT(A)とは、システムの開発現場でよく使われている振り返りのフレームワーク「KPT」に、アクションを意味する「A」を追加したものです。
・Keep=これからも続けるべきこと
・Problem=抱えている課題
・Try=改善すべきこと
・Action=行動すべきこと
元となっているKPTは、シンプルで汎用性が高いことから、さまざまな企業で用いられているフレームワークです。しかし、KPTで振り返りを実施しているにもかかわらず、成果が出ないケースも珍しくありません。
その要因として挙げられるのが、「Try」の未実施です。改善すべきことが行動に落とし込めていない場合、何から手をつけて良いのかがわからず、「Try」は一向に消化されないままです。
そこで、Tryを具体的な行動に移すために「Action」が追加されたのです。
KPT(A)では、チームメンバーがそれぞれ「Keep」と「Problem」を洗い出し、それらを全員で共有したうえで、今後の「Try」と「Action」を考えていくという流れが一般的です。
具体的な行動にまで落とし込むことで、「Try」の未実施を防ぐことができ、次の振り返りに活かすことも可能となります。
YWT
YWTとは、日本能率協会コンサルティングが開発した、日本発の振り返りフレームワークです。
・Y(やったこと)=実行したこと
・W(わかったこと)=学んだこと
・T(つぎにやること)=次に行動すること
YWTでは、自分の経験を「何をやったか」「何がわかったか」「次に何をするか」の順に、時系列で振り返ります。
YWTの最大の特徴は、業務を軸として振り返りを行うのではなく、人を軸とした振り返りを行うフレームワークであるということです。自律的な人の成長を目的で使われることが多く、小規模なチームや個人の振り返りに適しています。
YWTは、KPT(A)と類似する箇所もありますが、重点を置く場所はそれぞれ異なります。
KPT(A)は、問題点を洗い出し、どう改善していくかに重きを置いたフレームワークです。一方、YWTは自分の経験から学びを落とし込み、自己成長を促すことに重きを置いたフレームワークです。
どちらが優れているというのではなく、振り返りの目的によって使い分けることが大切といえるでしょう。
Star fish
Star fishとは、英語でヒトデを意味する言葉であり、プロジェクトを5つの観点で振り返るフレームワークです。
Keep Doing:すでに実践して効果があることがわかっていて、今後も継続すること
More of:すでに実践しており、今後さらに注力していくこと
Less of:実践しているがあまり効果が得られないこと
Stop Doing:メリットがなく、辞めるべきこと
Start Doing:次回から実践したい新しいこと
Star fishとKPT(A)は、本質的に同じフレームワークですが、KPT(A)よりもStar fishの方が、より細分化をして振り返りを行うことが特徴です。具体的には、KPT(A)の「Problem」を、Star fishでは「Less of」と「Stop Doing」の2つに分けて考え、具体的なアクションへとつなげます。
進め方についても、他のフレームワークと異なる点があります。Star fishでは、すべての項目について個人で書き出し、全員で共有したのちに、最も重要な課題を投票で決めて議論します。すべての項目に対して均等に時間を割り振って議論するのではなく、最も大きい課題から改善を目指すのです。
World Cafe
World Cafeとは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で議論を進めるフレームワークです。堅苦しい雰囲気の振り返りよりも、意見やアイデアが出しやすいメリットがあります。
World Cafeは、参加メンバーを4〜5名程度の少人数グループに分けることからはじめます。100名以上が参加する大規模なプロジェクトでも、少人数グループで対話する環境を作ることで、自分の意見が言いやすく、相手の意見も聞きやすくなるのです。
第1ラウンド目では、各グループごとに話し合いたい議題を選び、振り返りを行います。
第2ラウンド目では、グループのメンバーを入れ替え、1ラウンド目と同様に議論を行います。その際、グループには進行役となる人だけが残り、残りのメンバーは他のグループに移動します。ここで話し合う議題は、1ラウンド目と同じです。
第3ラウンド目では、最初のグループに戻り、それぞれが移動先で得た気付きや情報を共有しながら、さらなる意見やアイデアを出し合います。
第3ラウンドが終わったあとは、参加者全体での話し合いの場を作り、各グループで出た意見やアイデアを共有します。
このように、短時間で多くのメンバーと情報共有ができることも、World Cafeの特徴といえるでしょう。
Timeline
Timelineとは、プロジェクトのメンバー全員の行動を、時系列に並べるフレームワークです。
たとえば、長期のプロジェクトを月単位で振り返りを行っている場合、いざ振り返りを行う頃にはトラブルやミスを忘れてしまっていることもあるでしょう。議論すべき重要なトラブルが埋もれてしまった状態では、改善することは難しく、今後また同じトラブルが発生する可能性もあります。
そこで、時系列に並べるTimelineが役立つのです。時系列に沿って振り返りを行うことで、出来事を可視化でき、過去のトラブルやミスの見落としを防ぐことができます。
同様のタスクをこなすメンバーが複数人いる場合は、Timelineで振り返りを行うことで、それぞれの業務の進行具合にどのような違いがあるのかを比較できます。その結果、効率の良い業務方法を見つけ出すことができ、次回のプロジェクトの効率化を図ることにもつながるでしょう。
振り返りの目的
振り返りを行う最大の目的は、良かった点や課題点を可視化し、次の行動につなげることです。
振り返りを行わなかった場合、最終的な結果だけが残ります。たとえプロジェクトで良い結果が残せたとしても、成功した理由がわからなければ、次のプロジェクトで再現することは難しいでしょう。
悪い結果が残った場合も、振り返りを行わなければ失敗した理由がわかりません。次のプロジェクトでも同じ失敗を繰り返してしまい、再び悪い結果が出る可能性が高まるでしょう。
振り返りを行うのと行わないのとでは、経験から得られる学びや成長に大きな差が生まれます。
振り返りでは、結果だけでなく、結果までの過程を客観的に捉えます。課題点を見つけ、改善策を実行することによって、次の機会にさらに良い結果を導き出せるようになるのです。
振り返りのタイミング
振り返りを行うタイミングに決まりはありませんが、短いスパンで定期的に行うことをおすすめします。
月末や仕事をひとつやり遂げたときなど、区切りのいいタイミングで実践すれば、振り返りも行いやすいでしょう。
長期に及ぶプロジェクトの場合は、プロジェクトの終了時だけでなく、プロジェクト進行途中にも振り返りを行いましょう。課題点やミスを早期発見することで、期日内に改善や軌道修正が可能となり、以後のプロジェクト進行や結果にも大きく影響を与えます。
短いスパンでの振り返りは、記憶が新しく、細かなことを覚えている段階で出来事を書き出せることもメリットです。より具体的な振り返りを行うことで、得られる学びや成長の質も向上します。
振り返りを行う際のポイント
振り返りを効果的なものにするためにも、振り返りを行う際のポイントについて確認しておきましょう。
未来に焦点を当てる
振り返りを行っていると、「あのときこうしていればよかった」「なぜあんなことをしてしまったのだろう」など、過去の行動を後悔してしまうものです。しかし、後悔する気持ちだけでは次の行動につなげることはできません。
過去に焦点を当てるのではなく、未来に焦点を当て、次の行動へとつなげるようにしましょう。
振り返りの方法を事前に決めておく
チームで振り返りを行う場合、どのような方法で振り返りを行うかを事前に決めておきましょう。チーム内で振り返りの方法がバラバラでは、改善点をまとめることが難しくなります。
どのフレームワークを活用するかなど、チームで振り返りの方法を統一し、チーム全体での効率的な課題改善を目指しましょう。
個人の批判や非難はしない
振り返りを行っていると、メンバーのミスやスキル不足に目がいくこともあるでしょう。しかし、振り返りは個人を批判したり非難したりする場ではありません。
メンバーのスキル不足が問題だったとしても、個人を責めるのではなく、「チームとして人員配置は適切だったか」「サポート体制は整っていたのか」など、課題や問題はチーム全体のものと捉え、改善に向けた振り返りを行うようにしましょう。
まとめ
振り返りは、単なる反省ではなく、経験を次回の行動へとつなげるためのものです。うまく取り入れることで、業務効率を改善したり自己成長を促したりすることができます。
振り返りの目的やポイントを正しく理解し、KPT(A)やVWTといったフレームワークを積極的に活用しながら、次なる目標達成につながる振り返りを行いましょう。