GoogleやMicrosoftなど世界的な企業から、ヤフーやメルカリなどの日本を代表する企業までもが研修プログラムの一環として「マインドフルネス」を取り入れたことは、多くの注目を集めました。競争の激しい現代では、その波に乗り遅れないように、企業という船の乗組員である従業員のケアにも最新の注意を払っている表れであることを感じることができます。
従業員が心身ともに健康的に働けることを目指した取り組みとして注目を集めているマインドフルネスですが、最近は、その見方が少しずつ変化してきているようです。
マインドフルネスとは?
日本マインドフルネス学会では、マインドフルネスを以下のように定義しています。
「マインドフルネスとは、今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること。」
つまり、心を無にして今起きていることだけに集中するということです。リラックスして落ち着いている状態で、その時の考えや思いをありのままに認識することが目的です。
マインドフルネスの由来
「マインドフルネス」は、仏教の教えの1つにあたる「サンマ・サティ」(常に落ち着いた心の行動)から由来したものです。1979年に、禅を学んだアメリカ人分子生物学者ジョン・カバット・ジン氏が現代的にアレンジして、医療で用いられるようになったことが、私たちの知る「マインドフルネス」の始まりです。
そもそも、マインドフルネスが医療分野に取り入れられた理由としては、患者の慢性的な痛みやそこから生じたストレスなどを緩和するためです。実際に「マインドフルネスストレス低減法」「マインドフルネス認知療法」として、様々な研究がなされ、有効性があることが研究結果から明らかにされてきました。
マインドフルネスを行なう意義
ここで疑問の思うことは、1970年代から存在している「マインドフルネス」は、どうしていまになって多くの企業から注目を集めているのかということです。
その背景には、急速に変わる時代に遅れを取りたくないという企業の焦りがあります。 良いサービスや商品を生み出すため、従業員により効率よく生産性が上がるような働き方を求めます。その際に、従業員に生じるストレスの軽減や効率化を考える1つの手段として「マインドフルネス」は、いま企業から注目を集めているのです。
そして、「マインドフルネス」は医療やビジネスの場以外にも、スポーツなどの運動系や食事などの日常生活系にまで、取り入れられています。
マインドフルネスをする際に注意したい2つの要素
多くの企業が「マインドフルネス」に興味を示す理由を知ることができたと思いますが、マインドフルネスを行なう際に気を付けることが2つあります。
1. 判断を加えない
私たちは普段、自分がしている体験や経験に対して、好き嫌いなどの感想を持ちます。その結果、その気持ちの部分が行動として現れます。
身近に置き換えてみると、書類をまとめることが面倒くさいと感じて、ついつい他人に頼んでしまった経験がある人は多いのではないでしょうか?
マインドフルネスでは、判断材料になってしまう気持ちの部分と距離をとって、判断や評価をすることなく、いま行なわれている経験を受け入れることが強調されています。
2. 現在の瞬間を中心に置く
いまやっていることを過去や理想と対比させて、ネガティブになってしまったり、やり方を変えようとしたりすることをやめ、いまの状況をそのまま受け入れることが強調されています。
この2つの強調されていることを意識すると、以下のことを防ぐことができます。
- 気が散ってしまい、目の前のことに集中できない
- 自覚が無く、何気なくしているような習慣的なこと
マインドフルネスのメリット・デメリット
マインドフルネスは私たちにどのような効果を与えるのでしょうか。メリットとデメリットを見ていきましょう。
マインドフルネスのメリット
マインドフルネスを行なう上で、どのようなメリットを受け取ることができるのでしょうか?
- ストレス軽減
- 集中力の向上
- 記憶や判断力の向上
- 自分の気持ちをコントロールできる
- 対人関係のスムーズ化
まだまだ、メリットはあると思いますが、主に受け取ることができるメリットはこのようになっています。特に、日々忙しく過ごすビジネスマンにとっては理想的なメリットだと感じるのではないでしょうか?
日々の仕事を通して貯めこんでしまった疲れやストレスから、非効率になってしまったり、思考が働かなかったりする時にやってみるといいかもしれません。
マインドフルネスのデメリットと対処法
何事にも、良い面だけではなく、悪い面もつきものです。マインドフルネスのデメリットとしては、
- 禅病
- 瞑想に依存してしまう
- 不安を感じる
などが挙げられます。
禅病
禅病とは副作用のことで、幻聴が聞こえたり、頭痛や吐き気をもよおすなどの症状が出てしまうことがあるそうです。身体が緊張した状態(交感神経)から、急にリラックス状態(副交感神経)に切り替わった時に起こることが多く、慣れるまでは短時間だけ行なうなど、少しずつ慣らしていくことが予防につながります。
瞑想に依存する
瞑想に依存してしまうと、自分の心に閉じこもってしまい、反対にストレスを感じてしまったり、うつ病などの病気を悪化させてしまうことがあるようです。
リフレッシュ感覚で程よく行ない、やらなければいけないなどに目的化になることなく、瞑想に頼り過ぎることも避けるようにしましょう。
不安感がつのる
瞑想は、自分の身体と向き合うことです。自分が感じている不安な部分を深く掘ろうとしてしまうと、その不安は無くなるどころか、肥大していきます。
判断を加えず、その瞬間の現在をただ観るだけを心掛けましょう。
5種類のマインドフルネス
ここからは、代表的な5種類のマインドフルネスのやり方についてご説明します。
※本記事では、マインドフルネスと瞑想を同義として扱っています。
- 呼吸瞑想
- 歩く瞑想
- 食べる瞑想
- 慈悲の瞑想
- ボディスキャン瞑想
1. 呼吸瞑想
呼吸瞑想は意識を自分の呼吸に向けるというものです。
呼吸をする際に、どこから空気が入ってきて、どのように抜けていくのか、そして、肺の伸縮を感じて、気づきを得ることを目的にしています。
<やり方>
浅めに椅子に腰掛け、背筋を伸ばして、ゆっくり息を吸って、息を止めることなくゆっくりはき切ります。はじめは3~5分、慣れてきたら10~20分行なうことが推奨されています。
2. 歩く瞑想
この瞑想では、体の動きに意識を向けて、気づきを得ます。体の動きに意識を向けられるようになると、体が動いている実感を得ることができます。重心を感じることができたり、注意散漫な状態から集中できるようになったりします。
<やり方>
体の力を抜き、リラックスした状態で地面に立った自分の足の感覚に注意を向けます。ゆっくりと歩きながら、足の動き、その感覚を意識して、5分~10分程行なうことから始めてみましょう。
3. 食べる瞑想
目の前にある食べ物に意識を向け、普段の食べ方では分からなかった気づきを得ます。
例えば、色や形、感触、匂いなど、五感で感じられることから気づきを得ます。普段は早食いだということに気づく人もいれば、あまり味わって食べてなかったという気づきを得る人もいます。
<やり方>
食べる前の観察が終わったら、口に持っていくまでの動きに意識を向けて、そのあと口に入れます。急いで食べるのではなく、味わうようにゆっくりと噛み、飲み込んだ後の体の変化に注意を向けます。
4. 慈悲の瞑想
自分や自分以外の幸せを願う慈悲の瞑想では、「生きとし生けるものが幸せでありますように」という考えを大切にします。
良好な人間関係を築くことが期待でき、自尊心や幸福感、他人を想う気持ちを整えることができるといいます。
<やり方>
リラックスして落ち着くことができる場所で、「~が幸せでありますように」と心の中で繰り返します。この時に、自分の幸せや親、友人などの幸せを願います。
5. ボディスキャン瞑想
この瞑想は、体と対話して筋肉のこわばりや知らずに感じている緊張感に気づくことができます。
夜、なかなか寝付けない人や起きても体の疲労感が抜けない人などが、日々の疲れに気づき、回復を促してくれるような効果が期待できます。
<やり方>
まず、仰向けに寝ます。呼吸を整えながら、部位に意識を集中させます。
例えば、足。
足のつま先に意識を集中させて、じんわりつま先が温かくなるような意識をします。吸い込んだ空気を、つま先に届けるイメージをしながら、不快な感覚があるのであれば、それを吐き出して、循環している感覚を持ちます。これを各部位で行ないます。
マインドフルネスに黄色信号!?
現在、マインドフルネスの市場規模はどんどん拡がり、瞑想アプリを展開する企業が巨額の資金を調達するなどビジネスとしても活発的になりつつあります。ですがその一方で、本来あるべき姿とは少しずつ変わってきているという指摘もあります。
ロナルド・パーサー氏によると、「マインドフルネスは企業が利益を得るためのツールになっている」と言います。
マインドフルネスは、個人が健康的な身体を手に入れ、健全に生きられるようにあるものですが、現代では企業が業績を少しでも伸ばすための手段として取り入れられています。そのため、パーサー氏は「ストレスに強い身体になって、会社に貢献できる」従業員作りの研修プログラムになっていると警鐘を鳴らしています。
確かに、企業がマインドフルネスを研修プログラムに取り入れる理由として、「仕事の効率を上げるため」「社内の生産性向上のため」などが挙げられています。
また、パーサー氏は利益追求のために「個人の限界(ストレスに耐える)が押し広げられていること」が、現代のマインドフルネスの一番の問題点であると述べています。
ストレスとうまく付き合うことができるようになると、従業員は企業からさらに追い込まれ、いまの労働環境が悪化することが起こり得ることも十分に考えられるかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 今回は、「マインドフルネス」についてご紹介しました。「マインドフルネス」の歴史的な背景から、その実践方法、なぜ今マインドフルネスが注目されているのかまで、皆様のマインドフルネスに対する理解の一助となれれば幸いです。