チームをけん引するリーダーにとって、欠かせないスキル「コーチング」。コーチングにおける問題として、多くを占めるのが人間関係の悩みです。
私自身も、人間関係で悩むことはよくあります。人間関係の悩みは、誰しも抱えているものではないでしょうか。特に職場では、一緒に働く人を自分で選ぶ立場にない限り、上司や同僚、部下を選ぶことはできないので、苦手な人ともうまくやっていかなくてはならない難しさがあります。
人間関係の悩み解決のために使えるコミュニケーションスキルとして、「ポジション・チェンジ」というものがあります。この考え方はビジネスの場面だけでなく、あらゆる人間関係において応用できるものです。
今回は、NLPという心理学から開発された手法「ポジション・チェンジ」について解説します。
相手や第3者の立場の視点で「気づき」を得る「ポジション・チェンジ」
ポジション・チェンジとは、もともとはNLP(Neuro Linguistic Programing=神経言語プログラミング)という心理学から開発された手法です。悩みの種である人間関係について、以下の3つの視点から見つめ直すというものです。
- 自分のポジション
- 相手のポジション
- そのどちらでもない第3者のポジション
これら3つすべての視点をかわるがわる体験し、まさに「相手の立場になって物事を考える」ということを、ポジティブに実践するテクニックです。
ポジション・チェンジをコーチングに応用することで、人間関係の悩みの解決にとても役立ちます。
ポジションチェンジの具体的な方法
ポジションチェンジを具体的に進めるにあたっては、いすを用います。
まずは、いすをセッティングすることから始めましょう。自分と相手1人だけの人間関係の悩みなら、いすを2つ用意して並べます。その際に、自分と相手がどのような位置関係かをイメージしながら、配置するのが重要です。
お互いにまっすぐ向き合っているのか。自分は相手をまっすぐ見ているのに、相手はあなたではなく、まったく別の方向を見ているかもしれません。もしくは、相手があなたをまっすぐ見ているのに、あなたは相手のほうを向かずに違う方向を見ているなど、色々なパターンが想定されます。
感覚でかまわないので、自分の頭の中で相手との関係性がどうなっているかを、いすの微妙な角度や距離で調整し、しっくりくるまで配置を考えてみてください。
まずは自分のいすで自分の意見をアウトプット
いすがしっくりくるところに配置できたら、まずは自分のいすに座ります。そして、あなたの相手に対する感情を表に出し、普段相手に対して思っていることを相手のいすに向かっていってみましょう。
リードしてくれるコーチがおらず1人で行う場合には、録音や録画などの方法で記録するとよいでしょう。
もし、何も相手に話したくない場合は、自分がこのいすに座っているとどんな感情がわき起こってくるかをよく感じ、その感情を言葉で表現してみてください。
自分が相手に対していいたいことをすべて言葉にできた、あるいは、相手への感情が出し切れたと感じられたら、自分のいすをいったん離れます。
ここで、飲み物を飲んだり伸びをしたりして、リフレッシュするといいでしょう。
自分の意見のみを聞く第3者の視点で想像をめぐらせる
少しリフレッシュできたら、今度は2つのいすのちょうど中間に立ち、第3者の視点に立ってみましょう。このとき、自分の気持ちと体は自分のいすに残しておくようにイメージするのがポイントです。
もしここで、自分の気持ちを抑えられずに第3者になりきれない場合は、もう一度自分のいすに座り直し、相手に向かって気持ちを出し切れるまで再度行ってみましょう。すべてを出し切っていれば、第3者の視点に入りやすくなると思います。
そして、自分の意見だけを思い出しながら、2人の関係を客観的にとらえます。
気持ちのすべてを言葉にする自分とそれを黙って聞いている相手、その両方を冷静に観察している第3者という立場に入り込んで、相手の気持ちを想像したり、言動に対する疑問を問いかけたりしてシミュレーションしてみましょう。
イメージしにくければ、記録した音声や動画を実際に流すのもおすすめです。2人の名前を呼んで問いかけてみるのもいいでしょう。
自分と相手、2人の関係をあくまで冷静かつ客観的に見つめる第3者になりきって、イメージをふくらませてみましょう。
相手のいすで相手の立場に入り込む
再度いったんリフレッシュしてから、次は相手の視点となるもう一方のいすに座ります。
このとき、できるだけ相手のいつもの姿勢や雰囲気をまねして、相手になりきって座ってみましょう。そして、自分が相手に向かっていっていたことや、思っていたことを感じてみます。
コーチがおらず1人で行う場合は、記録した音声や動画を流しながらシミュレーションしてみるといいでしょう。
ひととおり聞いたら、相手になりきったあなたが感じたことや、反論したいことなどを自分のいすに向かっていいましょう。一度第3者の視点に立っているので、少しは相手の気持ちが想像できているのではないでしょうか。
ここでも、相手の視点で、自分の意見を客観的に聞きながら思ったことやいいたいことを出し切れるまで十分時間をとります。
相手の立場になりきり想像をめぐらせることで、予想すらできなかった気づきを得られたり、相手の言動の真の意味を理解できたりすることもあります。
このとき、録音や録画ができる機器をもう1台用意し、両方の意見を記録しておけたら次のシミュレーションに役立つと思われます。
すべてアウトプットできたらいったん相手のいすを離れ、またリフレッシュをしましょう。
再度両方の意見を第3者の立場で冷静に聞きアドバイス
自分と相手、両方のいすに座ってお互いの言い分がそろったら、再度第3者のポジションからいすを俯瞰して見てみます。
自分と相手を客観的に見るとどんなふうに見えるか、感じるかをアウトプットします。
たとえば「実は自分も相手も、心の奥底で思っていることは一緒なのではないか」とか、「お互い小さなことでいがみあっていて、ばかばかしく感じないか」など、些細なことでもいいので思ったこと、感じたことを言葉にしましょう。
そして、両方の気持ちに想像をめぐらせ、この関係をよくするにはどうすればいいか、冷静な第3者の立場でアドバイスしてみましょう。
このようにして、それぞれの視点を具体的に考える機会はあまりないと思います。それぞれの立場に入り込みイメージをふくらませると、そこから問題解決や改善のヒントが見つかるはずです。
おわりに
普段は自分の立場からしかとらえられない人間関係も、ポジション・チェンジのテクニックによって相手の立場に立ったり、第3者の視点で俯瞰したりすることができます。また、チームの人間関係に悩んでいる場合は、いすを増やせば大人数の人間関係を扱うことも可能です。
どれほど穏便な人間関係を築いてきた人でも、相手と意見が食い違えば自分本位な考えになりがちです。自分の意見こそが正しいと感じれば感じるほど、その渦に入り込んでしまい、相手の気持ちを想像することは難しくなります。
つまり、ポジションチェンジの意義は、視点を変えてそれぞれの気持ちを本気で想像することによって、麻痺していた自分の感覚に変化を与えることにあります。相手に共感する能力を養い、お互いの食い違いを埋めるための建設的な解決策や改善策を冷静に見出すためのテクニックなのです。
ビジネスにおいてもプライベートにおいても役立つ、コミュニケーションスキルの最たるものだといえるかもしれません。
人間関係に悩んでいるならぜひ一度、試してみてはいかがでしょうか。