イニシアチブとは、ビジネスやスポーツなど、さまざまなシーンで使われる言葉です。「イニシアチブを握る」「イニシアチブをとる」というセリフを、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
イニシアチブは、これからのビジネスシーンで必要とされるスキルだと考えられています。
では、イニシアチブとはどんなスキルを指すのでしょうか。ビジネスシーンでの使い方や、仕事における活用の方法を解説します。
イニシアチブとは?
イニシアチブとは、「主導権」「主体性」という意味合いを持つ言葉です。「initiative」という英語を片仮名読みしており「イニシアティブ」と表されることもあります。積極的に物事を推し進めること、もしくは、そのためのスキルを指します。
イニシアチブの意味
「イニシアチブをとる」・「イニシアチブを握る」などの、ビジネスシーンでよく耳にする表現は、他者より先に動き出したり、優位に物事を進められる立場に立ったりすることを示し、イニシアチブをとれたか否かが、成功か失敗かに大きく影響します。
イニシアチブをとるスキルは、持って生まれた性格やこれまでに育まれた価値観によって形成されますが、後天的にも身に付けられると考えられています。
イニシアチブの類語
イニシアチブにはいくつかの類語が存在します。似た意味で使用されることも多いため、違いを理解しておきましょう。
リーダーシップ
リーダーシップはイニシアチブ同様に、チームや組織を率いるために必要な要素ですが、その意味合いは異なっています。
リーダーシップとは、「指導力」や「統率力」などの意味を持ち、「チームや組織をまとめ、目的の達成を導くためのスキル」のことを言います。目標達成に向けてメンバーのモチベーションを高めたり、ビジョンを示したりし、成果の最大化を目指します。
リーダーシップとイニシアチブ、両者は似た印象を持っているかもしれませんが、リーダーシップは「全体を動かすためのスキル」を意味します。「個人が動くためのスキル」であるイニシアチブとはニュアンスが異なるのです。
率先する
「率先」という言葉もイニシアチブに似た意味を持っています。率先とは、自らが先頭に立って行動することを指す言葉です。
自発的な行動を意味する言葉という点ではイニシアチブも同様ですが、「率先」は自らの行動する背中を他者に見せることで良い影響を与え、追随を目指す意味合いをもちます。自発的な行動そのものを意味するイニシアチブとは、やや意味合いが異なるのです。
【シーン別】イニシアチブの使い方
「イニシアチブ」はビジネスシーン以外でも使われることがよくありますが、シーンによって意味合いが変わります。混乱しないように、使い方の違いも覚えておきましょう。
ビジネス
ビジネスシーンで使われる「イニシアチブ」とは「先導」や「主導権」、「計画・構想」といった意味合いを持ちます。
例文1:イニシアチブをとる
「イニシアチブをとる」とは、目標達成のために自ら行動するという意味合いで使われます。
例文2:イニシアチブを発揮する
積極的に動くことを、ビジネスシーンでは「イニシアチブを発揮する」と言います。
例文3:業務改善イニシアチブを検討する
「○○イニシアチブ」という使い方をする時は、計画や構想、戦略という意味合いになります。
スポーツ
スポーツシーンにおける「イニシアチブ」は「優位に立つ」「優勢になる」という意味合いで使われます。
例文1:試合開始10分でイニシアチブを握れたことで優位に立った
有利に試合が進んでいる、勝っている状況なら「イニシアチブをとっている・握っている」と表現されます。反対に、不利な状況に立たされている、負けている状況なら、「イニシアチブをとられている・握られている」と表現します。
政治
「イニシアチブ」は政治のシーンでもよく使われています。政治における「イニシアチブ」も、主導権を握ることを意味します。そのほか、構想や国民発案を指す言葉としても使用されています。
例文1:都市型推進イニシアチブが発表された
ビジネスシーン同様に「○○イニシアチブ」と使われる時は、計画や構想を意味します。
例文2:イニシアチブの可決には過半数の賛成が必要
日本ではあまり馴染みがありませんが「国民発案」という意味合いでイニシアチブが使用されることもあります。国民発案とは、国民の発議権を認める制度のことで、市民が政治に参加する手段です。日本の国政では認められていないため、海外のニュースなどで耳にすることがあるでしょう。
イニシアチブをとるための方法・ポイント
イニシアチブの使い方をシーンごとに紹介しましたが、ここからはビジネスにおけるイニシアチブについて理解を深めていきましょう。
ビジネスシーンでは、会議や交渉する際、積極的にイニシアチブをとることが求められています。イニシアチブをとるための方法やポイントを解説します。
意思決定を意識する
イニシアチブをとるには、意思決定を意識する必要があります。意思を伝えずにいると、優位に話を進められず、結果として他者の意思に追従することになってしまいます。
イニシアチブをとるためには、「なんとなく」持った意思では通用しません。メリット・デメリットの比較やデータを分析し、確固たる意思を持つようにしましょう。
意思決定力はすぐに身につくものではありません。日頃から、自分で決める習慣をつけたり、客観的な根拠や多角的な視点、高い視座から物事を判断する習慣を持つようにしましょう。
ゴールを明確にする
「なぜやるか?」「どういう状態にするか?」などのゴールを明確にすることも、イニシアチブをとるために重要です。ゴールとして掲げるものは、社会や会社のための崇高な目標である必要はありません。「評価をあげる」「成績1位になって表彰される」なども、ゴールのひとつになるでしょう。
ゴールが明確になると、取り組む意味も明確になり、イニシアチブをとりやすくなります。
自分の意見を積極的に伝える
自分の意見を積極的に伝えることも、イニシアチブをとるには有効です。自分の意見を曖昧にせず、主張することで発言力が確立され、イニシアチブがとりやすくなります。
意見を伝える時は、根拠やメリットなどを具体的なデータとともに説明し、より確実なものにします。また、自分の意思に迷いがあっても、臆さず積極的に伝えましょう。意思を口にすることでフィードバックを受けて改善でき、結果としてイニシアチブ獲得につながる場合もあります。
自分の意見に自信があることを理解してもらうことが大切なので、態度や伝え方に注意しましょう。
非言語メッセージを意識する
非言語メッセージとは、声のトーンや話すスピード、ボディランゲージや表情、視線のことを指します。これらはとても大切なもので、イニシアチブをとるためには忘れてはいけないことと言えるでしょう。
どんなに筋の通った意見でも、暗い表情で下を向いて話していたら、内容が心に残ることはおろか、イニシアチブをとられることに不安を覚えるはずです。相手の心を動かすことを意識し、非言語メッセージを活用しましょう。
あえて聞き手にまわる
ここまでは、自身の意見を持ち、主張することが大切だとお伝えしましたが、あえて聞き手側にまわることも時には必要です。
実は、その場をコントロールしやすいのは聞き手側だと言われています。特に一対一での会話や交渉の場では、相手の話に耳を傾けて相槌を打ったり質問をしたりして、自然な流れでイニシアチブをとりましょう。
周囲の人を味方につける
イニシアチブをとるには、周囲の人を味方につけましょう。会議や交渉の場で自分の意見に賛成してくれそうな人、同じ意見を持っていそうな人を探し、事前に根回しをしておきます。
味方がいると、話しやすい雰囲気が生まれるはずです。また、意見を後押ししてくれるため、イニシアチブをとりやすくなるでしょう。
新しい提案を行う
イニシアチブをとるには、新しい提案や課題解決のアイデアを出すことも大切です。問題や課題を明確にし、その解決策を考え、求められるリソースの特定・確保を行うことで、新しい提案が可能になります。
的確な提案を積極的に出すことが、イニシアチブをとることにつながります。
リスクマネジメントを忘れず行う
忘れてはならないのが、リスクマネジメントです。リスクを特定し、発生要因や影響度、発生確率などを正確に把握しておきましょう。
その上で、リスクを回避、もしくは軽減するための対策を策定します。
予想される疑問への回答を事前に準備しておく
会議や交渉の場で問われそうな疑問点を予想し、的確な回答を用意することで、イニシアチブをとりやすくなります。
回答を考える際は、独りよがりなものにならないよう、関係者と十分協議する必要があります。
【マネージャー向け】イニシアチブを発揮させるマネジメントのポイント
マネジメントする立場の人においては、メンバーがイニシアチブを発揮できるようなマネジメントが求められます。具体的にどのような行動をとる必要があるか、みていきましょう。
自己決定権を尊重する
イニシアチブを発揮させるために意識したいのが、主体性や自己決定感です。マネジメントをする立場の人がなんでも指示してしまうと、主体性は育ちません。
指示待ち、他者からの決定待ちをする人材になってしまい、自ら目標が設定できない、課題を見つけられない、リスクヘッジをしないなど、自発的に動けなくなってしまうでしょう。
メンバーのイニシアチブをとるスキルを引き出すには、メンバー各々が決定権を持つ環境をつくることが大切です。目標設定や課題解決のための施策など、小さなことからで構いません。マネージャーは、メンバーの意見や提案を受け入れて、応援する姿勢を持って仕事を任せるようにしましょう。
情報や方針を共有する
正しい判断をするためには、正しい情報を持っている必要があります。情報がない中で的確な判断を行うことは至難の業といえます。
メンバーにイニシアチブを発揮させるには、会社やチームの方針や目標、ビジョンなどの情報を随時共有する必要があります。それによって共通した的確な判断軸を持てるため、イニシアチブがとれるようになるでしょう。
成功体験を積ませる
イニシアチブをとるスキルを高めるためには、成功体験を積ませることが大切です。
成功体験は些細なもので構いません。小さな課題をクリアした、目標を達成するための方法が的確だった、など、目標設定やフィードバックで生み出せる成功体験から始めてみましょう。
万が一失敗してしまったとしても、成長や強み、今後の期待値などにフォーカスした承認やフィードバックを与えれば、自己効力感の向上につながるでしょう。
イニシアチブと「GRIT」の関係
近年のビジネスシーンでは、「GRIT」というスキルに注目が集まっています。GRITにおける4つのスキルのひとつにイニシアチブが含まれているのです。
GRITとは?
GRITとは、「やり抜く力」を意味します。アメリカのペンシルべニア大学教授で心理学者のアンジェラ・リー・ダックワース氏が提唱した概念で、彼の著書「GRIT やり抜く力」は、2017年の年間ベストセラーランキング ビジネス部門で4位になったベストセラーです。
アンジェラ・リー・ダックワース氏によると「優れた成果を出す人には『後天的に伸ばすことができる情熱や粘り強さ』がある」のだそう。つまり、生まれ持ったスキルや資質ではなく、情熱・粘り強さから生まれるやり抜く力(GRIT)こそが、成功につながるのです。
GRITにおけるイニシアチブの意味とは?
GRITとは、下記の4つの要素で構成されています。
- Guts:困難に立ち向かう力
- Resilience:失敗しても諦めずに継続する力
- Initiative:自ら目標を見据える力
- Tenacity:最後までやり遂げる力
この中の「自ら目標を見据える力」がGRITにおけるイニシアチブにあたります。
大切なのは、他者から与えられた目標ではなく、自分で設定した目標を見据えるということです。
他者から与えられた目標の場合、「言われたから頑張る」という気持ちで、我慢して耐え忍ぶ力が作用します。モチベーションは下がり、仕事の質も低下する恐れがあるでしょう。
一方、自分で設定した目標であれば、主体性を持って目標達成を目指せるはずです。新たな課題や困難が立ちはだかっても、諦めずにやり抜く力が発揮されるでしょう。ここで重要なのが「意思決定」や「意味づけ」です。このように、自分事にとらえてやり抜くのがイニシアチブなのです。
GRITにおけるイニシアチブの重要性
ではなぜGRITにおけるイニシアチブが重要か、という話。近年では、新型コロナウイルス感染症やウクライナ侵攻の影響を受けたり、DX化が進んだりし、企業に求められることや置かれている環境が大きく変化しています。ここ数年は特に、難題を乗り越えねばならないことが多くあったのではないでしょうか。
さらに、近年の働く環境の変化によって、トップダウンで組織を動かすよりも、メンバー一人ひとりが自発的に動くことが求められています。
ビジネスのスピードが増している昨今、早急な課題解決や変化への順応をし続けるには、自発的に課題を見つけて、解決するための計画を立て、実行する力(やり抜く力)が必要なのです。
まとめ
イニシアチブをとる力は、ビジネスシーンにおいて、今後より一層必要とされるはずです。また、イニシアチブをとって業務を進める人材は、良い成果をあげるだけでなく周囲に良い影響を与えます。
自身の成果はもちろんのこと、良いチームを作るためにも、イニシアチブを意識して業務に向き合っていきましょう。