海外ドラマ「SUITS」は大都会・ニューヨークを舞台とした、スタイリッシュな弁護士物語として人気を博しました。放送中もに記録的な視聴率を出し、大ヒットした作品で、現在でもDVDや動画サイトで高いニーズがあります。
このドラマのおもしろさは、天才的な頭脳をもつマイク・ロス(パトリック・J・アダムス)と敏腕弁護士のハーヴィ・スペクター(ガブリエル・マクト)の掛け合いをはじめ、個性豊かな登場人物たちが発する名言の数々にあります。そうした名言から、われわれは生き方の流儀を学べるのではないかと考えています。今回は、その一部をご紹介します。
1. タフな生き方
関わった案件では絶対に負けたくない妥協知らずのハーヴィに、マイクは多くのことを教わります。
1-1 やり抜く精神
「状況を教えろ。感情移入せず、事実だけ言え。勝てばいいんだ。」
「どんなに攻められても、勝負がつくまでやり返せ」
これらは敏腕弁護士のハーヴィが、新米のマイクに発した言葉です。マイクは初めの頃、いろいろな法律問題に向き合い、依頼者に泣かれたり敵対者に脅されたりして頭を抱えることが多いものでした。そんなマイクにハーヴィはいつもドライでクールな助言しているのです。
たとえば、相手に銃を突き付けられたらどうするかと問われたとき、ハーヴィはこう答えました。「自分も銃を出すか、ハッタリをかませ。他に146通りある」。つまり「どんなときにでも選択肢があるんだ」と教えているのです。
それまで新米のマイクは困難にあうと、すぐに諦めて言い訳していました。しかし、ハーヴィによれば「勝者は言い訳などしない」。そして、「人生にはふたつのルールがある。ひとつは、決して諦めないこと。ふたつ目は、いつもルール1を忘れないこと」とも言っています。自分は必ず勝つと信じて、最後まで決して諦めないハーヴィ流の仕事術にマイクは徐々に影響され、タフになっていくのです。
1-2 冷静に判断し懸命に努力する
ハーヴィはいつも涼しげな顔をして、裁判でも楽々と勝っているように見えるますが、その背後で恐ろしいほどの努力をしています。「成功(Success)が仕事(Work)よりも先に来るのは、辞書の中だけだ」と言い放っています。人には見せないハードワークこそが、彼の強さの秘けつと言えるでしょう。
また、ハーヴィは冷静な分析をもとに着実な努力するところに特徴があり、「俺は夢など持たない。目標をもっているんだ」と口にしています。ぼんやりと夢を見てても意味がない、具体的かつ実現可能な目標をもって、確実に達成するからこそ、彼は圧倒的な成果を出し続けているのです。
さらに、ハーヴィは「戦わずして勝て」とマイクに命じることもあります。地上戦で泥仕合ばかりせず、全体を鳥瞰して、戦略的に有利な状況へと組み替えていくことが大切なのです。そのために「弁護士は服装で判断される」と断言し、「よいスーツを着て、第一印象を操作しろ」とマイクに助言しています。法廷で戦う前から、勝負はすでに始まっていることを知っているハーヴィならではの名言でしょう。
2. 正しさと優しさの狭間
一匹狼として仕事をしてきたハーヴィは、他人との衝突が絶えません。しかし、新米マイクが部下としてきたことで、心情に少しずつ変化が起こります。
2-1 倫理観と人間性
「他人がルールを破ったからって、自分が破ってもいいことにはならないんだ」とハーヴィは言います。高額の仕事のためなら「何でもあり」のアウトロー的雰囲気を持つハーヴィですが、実は彼の弁護士としての職業倫理はかなり高いものなのです。だからこそクライアントからも信用されていて、仕事仲間や法曹界からも一目置かれる存在であります。
仕事をする時でも「可能性にはかけない。人間性にかけるんだ」と言っています。どんなに有利な条件で有望な物件でも、賭けは外れることがあります。しかし、相手の人間性にかけることができれば、その結果に納得できる。そのため、AIがどんな優秀な答えを出してこようとも、命運をかけた勝負の時は、人間性にかける覚悟が必要になるのです。
2-2 オンリーワン
「誰でも俺の仕事はできるさ。でも、誰も俺になることはできないんだよ」。
なぜ誰もハーヴィにはなれないのか。それは彼が敏腕弁護士で圧倒的な結果を出すとともに、高い倫理観を持って信頼関係を築き、人間的な仕事をするところにあるのです。
ハーヴィは高額を支払うクライアントに対しても決してへりくだらず、ときには厳しい指摘をして反感を買うこともあります。しかし、それは大局的に見るとクライアントのためであり、企業の発展になるからこそ口にしているのです。
ハーヴィは、ときに敵対者を脅したり、ハッタリをかましたりすることもあるが、それでも法や職業倫理を犯さぬようにギリギリの選択をしています。検事時代にも、自分に不利になる証拠でさえもすべて公開し、正々堂々とフェアプレーしようとするのです。そうした屈折しながらも実直な性格が、弁護士ハーヴィの魅力といえます。
2-3 優しさ
「君にひどいことが起こることは決してない。僕は決してしないよ。だからそんなふうに怖がらなくていいんだよ」。
ハーヴィは、プライベートで女性と付き合う場合、プレイボーイのように遊ぶ一方で、結婚を前提とするステディな相手とは、上記のような台詞を言って誠実に付き合おうとします。もともと彼は母親が不倫して、父親を捨てて出て行ったことにトラウマがあるため、秘書のドナを含めた女性との付き合い方には難があるのです。
裁判や交渉事では卓越した弁舌をふるうハーヴィですが、じつは繊細で傷つきやすい一面も持っています。実際に心の傷が多い彼は、パニック障害で呼吸困難を起こして死にかけたこともありました。
それでもカウンセリングを受けながら、彼は人生の流儀を見つめ直し、寛容さや優しさも身につけていくのです。このような過程で、ハーヴィが人間的に成熟していく姿も、ドラマに深みを加えています。
3. それぞれの生き方
「SUITS/スーツ」に登場する人物は、みな個性的で、中には複雑なバックグラウンドを持っている人もいます。
3-1 マイクの流儀
「大企業を相手に集団訴訟をする事務所に誘われた。もう選びたくない。これが僕なんだ。ずっとそうだった。時が来たんだ。行かなきゃ……」。シーズン7でマイクはこう口にしてハーヴィのもとから去っていきます。
SUITSは実のところ、マイクの成長物語が軸となっていました。最初、マイクはやけっぱちなフリーターでしたが、ハーヴィに鍛えられ、天才的な記憶力や思考力を駆使しながら優秀な弁護士になっていくのです。
当初のマイクは「クライアントに対して親身になるのは当然だろう」「困っている人を助けるのが弁護士だ」と正論を唱えていました。しかし、ハーヴィを尊敬し、マネしていくなかで、権謀術数が得意になり、巨額の報酬を追求するようになるのです。
もともとマイクは幼少時に交通事故で両親を失い、悪徳弁護士のせいで十分な損害賠償金を受け取れなかったため、ハーヴィのような弁護士は反面教師的存在でした。しかし、ハーヴィに鍛えられたからこそ、マイクは大企業を相手に集団訴訟する、庶民派弁護士になることができたのです。ここにマイクの生き方の流儀が示されているといえます。
3-2 ルイスの流儀
このドラマになくてはならない名脇役が、ルイス・リット(リック・ホフマン)です。シーズンの途中ではルイスが主役かと思わせるほど、ねちっこくストレートな性格を見せつけるシーンが多いのです。
「うちは給料がいいし、昇進のチャンスもあるが、その分、結果を求めるぞ」と言ってアソシエイトを脅して鍛えています。
彼はハーバードのロースクールを修了したエリート弁護士で、冷徹なまでに部下を管理しようとするため、お堅いイメージがあります。しかし、少し間が抜けていて、オペラや猫が好きところなどお茶目なところがある、憎めないキャラクターです。コップにも記された「リットするぞ(Lit up!)」という台詞にはゾッとしますが、これは彼の生き方の流儀を示す言葉でもあるのです。
3-3 それぞれの流儀
優秀なアソシエイトであるレイチェル・ゼインの名言は、新米のマイクに「調査は芸術であり、科学よ」と教えるところでしょう。たしかに膨大な資料や文献のなかから役立つ事実や判例を見つけ出し、論理的に組み立てる作業は見事で、もはや芸術の域に達しているようにも思えます。
所長のジェシカ・ピアソンの名言としては、ハーヴィを叱る際に口にした「あなたは約束を破って私に堂々と嘘をついた。許して欲しいなら必ず勝ちなさい」という言葉をあげられるでしょう。ビジネスの場で誠実さ、または勝利を求めるジェシカの執念には何度も圧倒されました。さすがはハーヴィの上司です。
まとめ
SUITSはクールでスタイリッシュな弁護士物語ですが、そこで織りなされる人間ドラマは、ときにシビアで、ハートフルで、心を揺さぶるものがあります。ハーヴィとマイクの対話を中心に、軽妙に発せられる名言の数々は、仕事の流儀から、人間の深層心理、そして成功や成長の在り方も示してくれます。こうした名言から、私たちはさまざまな生き方の流儀を学べるのではないでしょうか。