新型コロナウイルス感染拡大以降、ICT技術の進歩も伴い、多くの企業でテレワークが普及しました。新たな働き方として定着している中で、コミュニケーションの取り方については課題を感じている企業も多いようです。
仕事を円滑に進めるにはコミュニケーションはとても重要な役割を持ちます。そこで今回は、テレワーク時のコミュニケーションを円滑にする方法や事例を紹介します。
テレワーク導入におけるコミュニケーションの課題
厚生労働省が2020年11月に発表した「第4回これからのテレワークでの働き方に関する検討会」の資料でも、48.4%がテレワークにおける課題としてコミュニケーションを挙げています。では実際にどのような点にコミュニケーションの課題があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
口頭での相談がしにくい
テレワークにおけるコミュニケーションでは、メールやチャットなどのテキストコミュニケーションが中心となります。そのため、文章にするのは難しいような、口頭でのちょっとした相談がしにくい傾向にあります。
オフィスで顔を合わせていれば、相手の様子を伺いながら相談の機会を得ることができていたものが、顔が見えないためタイミングをつかめなかったり、相談をもちかけることを躊躇してしまったりしがちです。
テレワーク時に口頭で相談をしようと思うと、電話やオンライン会議などを設定しなければならず、ハードルも高まります。
雑談がしにくい
オフィスに出勤していれば何気なく交わされる雑談も、テレワークではなかなか叶いません。テキストコミュニケーションは要件の伝達のみになることが多く、あえて雑談をする機会を設けなければ、始めることが難しいでしょう。
雑談は仕事をする手が止まるため不要に思う方もいるかもしれませんが、実は心理的な安定をもたらすともいわれています。上司と部下で雑談を交わすことにより信頼関係が構築され、些細なことでも相談しやすくなり、仕事に対するモチベーションや生産性が向上する効果もあります。
進捗管理が難しい
テレワークではメンバーの働く様子が見えないため、勤務状況や進捗を管理する難しさがあります。目の届くところにいれば、「順調に進んでいるか」「何か問題が発生していないか」などを様子から察することもできますが、テレワークでは個々の状況が見えません。
メールやチャットなどで問いかけをしても、すぐにリアクションがあるとは限らず、リアルタイムで進捗状況が把握できないこともあるでしょう。単に気づかないだけなのか、何か問題があって返事ができずにいるのかなど、状況把握の難しさがあります。
従業員の悩みや不安を把握しにくい
テレワークでは従業員が顔を合わせる機会が減るため、悩みを抱えているかどうかを把握しにくくなります。雑談などの会話の機会があると、従業員間の距離も近くなり、悩みを相談しやすい環境で早期に把握して解決することも可能です。
しかし、テレワークではお互いの状況が見えないため、従業員間で距離を感じることも多いようです。悩みや不安があっても、誰に相談したらよいかわからず一人で抱え込んでしまい、問題が大きくなってしまう可能性もあります。
テレワーク時のコミュニケーションを円滑にする方法
前述したような課題がある中で、テレワーク時のコミュニケーションを円滑にするにはどうしたらよいでしょうか。ここからは、テレワーク時のコミュニケーションを円滑にする方法を考えていきます。
業務状況を可視化する仕組みを作る
テレワークでお互いの進捗が見えづらい状況も、業務状況を可視化する仕組みを取り入れることで把握ができるようになります。
お互いのスケジュールをカレンダーで共有しチーム全体で把握すると共に、コミュニケーション手段としてグループチャットなどを導入すると、業務状況が可視化されます。カレンダーで相手の行動が可視化できると、問い合わせのタイミングもつかみやすくなるでしょう。
コミュニケーションツールの導入
テレワーク時のコミュニケーションを円滑に進めるために、コミュニケーションツールの導入は必須といっても過言ではありません。
コミュニケーションツールには、「ビジネスチャット」「Web会議システム」「グループウェア」「バーチャルオフィス」などの種類があります。メンバーのITリテラシーに則した方法を選択して、コミュニケーションの環境を作りましょう。ツールを組み合わせることで、更なる効果が期待できる場合もあります。
コミュニケーションツールを効果的に使用する運用ルールを作る
導入したコミュニケーションツールを効果的に運用するには、ルールの設定も大事です。
・ビジネスチャットはこまめにチェックする
・オン・オフの区別をつけるため、運用時間を決めておく
・緊急時には電話を使用する
・勤怠やスケジュールの入力方法を徹底する
など、細かいルールを定めて、コミュニケーションツールを最大限活かしましょう。
雑談の機会を設ける
前章で述べたように、雑談は心理的な不安をやわらげ、従業員間の信頼関係の構築において重要なコミュニケーションです。テレワーク時でも気軽に雑談ができるような環境を作ることで、雑談の機会が増します。
例えば、ビジネスチャットに「雑談」スペースを設定し、誰でも自由に投稿ができるようにしたり、Web会議システムを用いてランチタイムに雑談ができるようにしたりして、雑談に参加しやすい体制を作りましょう。
テレワークのコミュニケーションの改善事例6選
テレワーク時のコミュニケーションについて、課題を感じている企業は多くあります。改善に取り組み成功した事例を参考にすると、自社に役立つヒントが見えてくるかもしれません。ここでは改善事例を6つ紹介します。
エン・ジャパン株式会社
まずは、バーチャルオフィスを開設し、リモートワークながら会社に出社をしているような環境を作り出したエン・ジャパン株式会社です。
バーチャルオフィスの中は、部署ごとのスペース、雑談などができる共有スペース、業務に集中できるスペースなど区分けがしてあり、社員は状況に合わせて席を移動します。
バーチャルオフィス内で朝礼や夕礼を行うことで進捗状況が把握できたり、同じバーチャル空間にいることで質問がしやすくなるなどの効果があり、テレワークにおけるコミュニケーションの課題解決につながっています。テレワークでは難しい新人教育でも、声かけなどで先輩後輩の関係作りを行うなど、役立っているようです。
▶︎参考:「エン・ジャパンがオフィスを半分解約、「バーチャル本社」が生まれた理由」
楽天コミュニケーションズ
楽天グループの中で通信事業を行っている楽天コミュニケーションズでは、企業向けに「テレワーク導入支援プログラム」の提供を行うなど、オンラインツールの活用には慣れている企業です。
テレワークでのコミュニケーションの質を向上させるために、いくつかの工夫をしています。
例えば、オンライン会議では必ず映像をオンにすることを義務付けて、オンライン上で顔を合わせられるようにし、様子の変化に気付きやすくしたり、1on1ミーティングを積極的に取り入れて悩みを相談しやすい環境を作ったりしています。
また、オンとオフの区別をつけるため、複数のオンラインツールを使い分けるなど、細かい点へ配慮して、円滑なコミュニケーションを目指しています。
▶︎参考:「テレワーク下のコミュニケーションは対話機会の確保と工夫が大切 ~楽天コミュニケーションズ事例~」
パーソルホールディングス株式会社
総合人材サービスを展開するパーソルホールディングス株式会社では、さまざまな社内コミュニケーション活動を行っています。
なかでもWebコンテンツ「パーソルかるた」は、テレワークで不足しがちなコミュニケーションを活性化させるのに一役買っています。グループ会社36社について、事業内容などをかるたで解説し、社風などを楽しみながら理解できます。
その他、社内報「ツナぐ」を紙からe-book版へリニューアルするなど、独自のコミュニケーション活動で社内コミュニケーションを活性化させています。
▶︎参考:パーソルグループ、社内コミュニケーションを活性化するWebコンテンツ「パーソルかるた」をオープン
note株式会社
各自がコンテンツを発表できる場を提供しているnote株式会社では、テレワークでのコミュニケーションを活性化させようと、さまざまな取り組みを社員メンバーから発信しています。
例えば「シャッフルランチ」や「雑談タイム」など、社員が参加しやすい取り組みで、部署を超えて交流の機会を作り出し、社員から好評を得ているようです。
新入社員が馴染めるように、オンライン社員総会で自己紹介の場を与えるなど、会えなくてもお互いを知れる機会を積極的に提供し、コミュニケーションが取りやすくなるように導いています。
▶︎参考:「テレワークのコミュニケーション不足に「シャッフルランチ」のススメ」
「全社員リモートワークの中で入社した経験から思う、新入社員受け入れのコツ」
グリー株式会社
「インターネットを通じて、世界をより良くする」というミッションを掲げているグリー株式会社では、テレワークを推進する中で、コミュニケーションの一環として「オンライン飲み会」の補助制度を行っています。
テレワークでのチームビルディングを目的に、ランチやオンライン飲み会の費用を、1人月3000円までを補助するものです。テレワークではコミュニケーション不足に陥る課題がありますが、テレワークだからこそコミュニケーションが活発になる土壌を作ろうという思いから生まれた施策のようです。
▶︎参考:「グリー、テレワーク推進で「オンライン飲み会」の補助制度をスタート 1人月3000円まで」
株式会社お金の家庭教師
全社員がテレワーク勤務、採用もオンラインで行っている株式会社お金の家庭教師では、テレワークを円滑に進めるためのさまざまな施策を導入しています。テレワーク特有の働き方に特化した研修や1on1ミーティングなどを行い、リモートリテラシーの強化につなげています。
コミュニケーションにおいても、社内報の発行、オンラインランチ会、サークルの形成などさまざまな取り組みを導入した結果、社員からは「意思の疎通で困ったことがない」という声が聞かれ、社員の満足度が高い企業です。
▶︎参考:厚生労働省「株式会社お金の家庭教師」
まとめ
働き方改革などにより多様な働き方が選択できる現代において、テレワークは選択肢としてなくてはならないものになりつつあります。テレワークで課題となるコミュニケーションについては、工夫次第で円滑に進められるようになることがおわかりいただけたと思います。
成功事例などを参考に、コミュニケーションを円滑に進められるような方策を積極的に取り入れて、テレワークのメリットを存分に活かした企業運営を実践しましょう。