突然ですが、あなたの職場には「優秀な人がたくさん集まっている」と思いますか? または、「仕事のできる人にタスクが偏り、優秀な社員ほど転職して辞めていきやすい」といった不安を抱えてはいませんか?
職場に優秀な人が集まらない、または辞めていく原因の多くは、「職場のシステムや働き方に魅力を感じないこと」にあると考えられます。日本企業の職場は長時間労働・年功序列制の色が根強く、海外と比べると社員の満足度の高い環境だとは言い難い部分があります。
本記事では、海外の企業が打ち出している「優秀な人材を惹きつけるための戦略」を3つご紹介していきます。
日本と海外の職場事情
みなさんは、日本と海外での働き方はどのように違うのかご存知でしょうか?
転職が当たり前の海外
「キャリアアップ」と聞いて、皆さんはどのような方法・手段を思いつくでしょうか。
日本では、社内で昇進したり、異動や転勤で様々な経験を積むことでキャリアを積めると考える人が多いと思います。
しかし、海外でのキャリアアップの主な手段は「転職」です。アメリカなどの欧米圏では、給与を上げるには転職が必須であるという考え方が一般的です。また企業側も、優秀な人材が足りないと考えている場合、現社員を育成するのではなく「外部から調達する」方を選びます。
これらの理由から、海外企業では「優秀な人を社内にとどまらせる」ことが必要不可欠であり、そのためにさまざまな施策が採られています。
日本の職場も欧米化している!?
日本でも、終身雇用・大企業安定神話が崩壊しつつあり、近い将来には転職が当たり前の時代が到来すると予測されています。また独立・副業のハードルが下がったことによるフリーランス人口の増加、クラウドITサービスの普及によるリモートワークの普及も予測されています。
実際、日本でもフリーランス人口は増えてきており、2018年度の調査では5.8人に1人がフリーランスの仕事をしています。また、「広義のフリーランスの推計経済規模が初の20兆円を超え、日本の総給与支払額の10%を占める」と報告されています(出典:2018年度版_フリーランス実態調査(Lancers))。
※2019年度の数値は、2018年度と大きく変わらない結果となりました(出典:
2019年度版 フリーランス実態調査(Lancers))。
こういった背景から、今後は優秀な人材がフリーランスとして独立、または好待遇の企業に転職する可能性が高まっていくと考えられます。
また少子化から労働力不足が迫り、就職活動は現在学生に有利な「売り手市場」となっています。このような状況から、現在企業側にとって、採用プロセスは「購入プロセス」ではなく「販売プロセス」となりつつあります。
すなわち、企業が優秀な人材を採用または引き留めるためには、積極的にそこで働きたいと思えるような職場環境を供給することが必要なのです。
優秀な人材を集めるための3つの戦略
ここからは、海外で優秀な人材を引き寄せる職場が採用している、3つの戦略をご紹介したいと思います。本記事でピックアップするのは
- 多様性・公平性の高い職場を作る
- 若い社員にも裁量を与える
- 働き方の自由度を高める
こちらの3つです。早速見ていきましょう。
1. 多様性・公平性の高い職場を作る
まず一つ目の戦略は、「社内の多様性を高めること」です。
ここでいう「多様性」とは、「排他的でない状態」、つまり多様な人材を認め、社員の平等性を担保することです。具体的には、国籍・人種・性別・性的指向・身体的能力などといった“個人の属性”を、採用や昇給に関与させないことなどが挙げられます。
また、「多様性の尊重」とは、上記のような個人の属性で偏見・差別をしないことだけではありません。一人ひとりの考え方や視点・バックグラウンドを尊重し、多種多様な意見を許容する、という意味も含まれます。例えば、採用基準として「社風に合っているかどうか」よりも「現企業に足りない視点を持っているか」を重要視することなども当てはまります。
<海外事例> 平均労働時間が短いオランダ
実際の海外での事例を見てみましょう。IMD世界人材ランキングトップ5入りを果たしているオランダでは、職場やチーム内での平等主義が徹底されています。オランダの企業には日本の年功序列性のような階層がなく、勤続年数に関わらず全員が同じ待遇・扱いを受けます。チームの中でもディレクターなどの責任者となる役職は存在しますが、あくまで「グループの一員」であるという認識を全員が持っています。
また会議に関しては「さまざまな可能性の選択肢を話し合い、合意形成・決断をする場」という認識があり、参加者全員が積極的に意見を出すことを求められます。そのためオランダでは、会議に出席するメンバー全員に、前もってリサーチ等の準備を済ませておくことが求められます。日本のような、決して「“偉い人”の発言を書き写す場」ではないのです。
「多様性の高さ」が職場に与える影響は?
では、なぜ多様性の高い職場は優秀な人を惹きつけるのでしょうか?
一つめに、リモートワークやフリーランス制度が普及しつつある今日では、若い世代(ミレニアル世代)を中心に「オフィスに通うのであれば、自宅で作業する以上のものが欲しい」と考えている人が増えてきているためです。
現代においてオフィスはただの作業場所ではなく、チームのコラボレーションを高める場や学びの場として機能することが期待されているのです。
多様な人材が集まり、意見交換が活発に行なわれる環境であればあるほど、若手社員でも自分のアイデアを言いやすくなり、学べることも多くなります。その結果、チームへの帰属意識が高まると同時に、その会社に通うメリットを実感しやすくなるでしょう。
また、意見交換の活性化はイノベーションを生む環境づくりにおいて重要な役割を果たします。アメリカの実業家・ジェームズ・W・ヤングがかつて“アイデアは既存の要素の新しい組み合わせである”という名言を残したように、さまざまな知識を掛け合わせることによってイノベーティブな商品やサービスは生まれていきます。つまり、より多くの視点を取り入れるほど、新しい意見は生まれやすくなるのです。
実際のところ、先ほど会議が日本より活発であると紹介したオランダは、「世界イノベーション指数 2018年版」で2位にランクインしています。(参照:https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_gii_2018-intro5.pdf)
2. 若い社員にも裁量を与える
2つ目の戦略は、「若い社員にも裁量を与えること」です。
「裁量」というと抽象的ですが、狭義では「権限のある・責任のある役職を持たせること」、広義では「自律的で自主的な方法で仕事を考え、仕事や意思決定をコントロールできること」といえます。その職場で成長できるか、学べるものが多いかどうかが職場を選ぶ指標になり、優秀な人材を集めることにつながるのです。
<海外事例>「キャリアアップの機会」の有無が転職を左右する
しかしながら、特に安定を求める大手企業などでは、若手社員にリーダーなどの責任のある役職を与えることはリスクが高いと感じるかもしれません。現在の日系企業では、若手社員の意見がそのまま採用されることは多くないといえます。
しかし転職が普及している海外では、「権限が与えられないこと」は職場を去る大きな理由となり得ます。SNSサービス「Linked in」が世界全体の転職経験者を対象に調査したデータによると、「職場を離れた理由」「今の職場を選んだ理由」ともに成長できる機会の有無が大きく関わっていることがわかりました。
- 前の職場を離れた理由 1位:成長できる機会がなかったこと(45%)
- 今の職場を選んだ理由 1位:キャリアアップ・機会の獲得(59%)
(出典:Linked in 2015年度の調査)
このように、海外では給料よりも「裁量や権限を与えられる環境か」「その職場で成長できるか」のほうが職場を選ぶ強い基準になるのです。
若い社員にもチャンスを与えることのさまざまなメリット
裁量の大きな仕事を任せることは、社員の離職率を減らす以外にも様々なメリットをもたらします。
まず、大きな仕事を与えることはその社員を信頼している証拠だと捉えられやすいので、自信やモチベーション、仕事に対する満足度を高めます。
さらに、これは若手社員の育成だけでなくイノベーションを生み出すのにも効果的だと考えられます。権限の与えられていない社員は、上司の指示によってしか動くことができず、上から言われた業務を疑わずそのまま遂行します。一方、社員一人一人に責任を持たせると、どのような行動をとるべきか自分の頭で考えて動くので、より良い方法や新しいアイデアを生み出しやすくなります。つまり、自分の視点で物事を見つめなおし、ゼロベースで考えやすくなるということです。
後者のほうが社員自身の成長にもつながるのに加え、創造性を高め革新的なアイデアが生まれやすいのは言うまでもないでしょう。
リスクとどのように向き合うか?
しかしながら、経験のない若手社員に裁量の大きな仕事を任せることは大きなリスクとなりうるため、保守的な傾向の強い企業ほど避けやすいと考えられます。確かに、それまで成功していた方法を変えることで損益が出てしまう場合もあり得るので、避けられるのは当然のこととも言えます。
しかし、挑戦がなければより大きな成功を成し遂げることはあり得ません。万が一失敗したときにどのような対応をとるか、事前にリスクマネジメントの施策を考えておくことで、リスクに対応できるのではないでしょうか。変化の激しい時代の中で、リスクばかりに目を向けるのではなく、行動しない・変化させないことのデメリットや成功によるメリットに目を向けることも必要だと言えるでしょう。
3. 働き方の自由度を高める
3つめの戦略は、「柔軟性の高い働き方を積極的に導入すること」です。これは、「社員の立場に立って働きやすい環境を提供すること」とも言い換えられます。分かりやすい例では、育児や出産など様々な事情があって通勤が難しい人のために在宅勤務やフレックスタイム制を導入することなどが考えられます。また、長時間労働と残業を推奨しない雰囲気づくりや、休憩を取りやすい環境の提供なども挙げられるでしょう。
<海外事例>福祉国家スウェーデン
北欧の福祉国家スウェーデンでは、社員のワークライフバランスを保証するような取り組みが積極的に導入されています。例えば、スウェーデンの法定労働時間は1日8時間と認められており、週の残業時間は10時間までと厳しく定められています。
さらに、8歳未満の子供を持つ従業員の場合、毎週の労働時間を25%削減することができる権利を持ちます。またスウェーデンは年間休暇取得日数が長いことでも特徴的で、年間25日の休暇を取得する権利が法律で定められています。
また、近年、世界的に多くの企業で制度化しつつあるのが、「社員に対する健康サポート」です。長時間座って作業することは、心拍数を遅らせ脳に栄養素を運ぶ血流が滞らせる点で、健康にも仕事にも悪影響を及ぼします。こうした理由から、比較的大きな企業では、作業・会議・ブレスト・交流・休憩などのように活動ごとにスペースを設け、従業員がその時使いたいワークスペースを自由に選んで作業でき、オフィス内での移動を促す施策も取り入れられています。
他にも、隙間時間に軽い運動ができるようなランニングマシーンやトレーニンググッズの設置や、果物など健康に良い食品の支給などを行なっている企業もあります。また、日光の入るオフィスを選んだり空気清浄機・加湿器を設置することなども、社員が気持ちよく働ける環境を整備し、健康をサポートすることにつながります。
このように、日本古来の「長時間働く=頑張っている」という価値観ではなく、「どれだけ短い時間で高い成果を上げられるか」を重要視して無駄な時間を削減することも、社員の満足度向上につながるでしょう。日本で導入できる施策としては、ITツールの利用など、デジタル化を進めることが考えられます。近年ではインターネットを利用したビデオ会議やチャット・タスク管理アプリ、そしてSaas(Software-as-a-service)などが積極的に導入されています。このようなビジネス用ITツールの導入は、育児・出産などの理由で働きたくても働けない環境にある人の在宅勤務を助ける働きもします。
社員の満足度を高めるためには?
企業の制度として働きやすい環境を提供することは、特に社員の退職率を減らすうえで非常に効果的です。転職が一般化し、ワークライフバランスが尊重される現代においては、給料だけでなく働く環境や福利厚生も会社を選ぶ大きな指針になりえるからです。
特に長時間労働が健康に悪影響を及ぼすことは言うまでもなく、ヨーロッパでは残業は「就業時間内に仕事の終わらず、効率が悪かった結果」とみなされることも少なくありません。日本でも働き方改革に伴い残業が禁止されてきていますが、ただ禁止するだけでなく仕事そのものの進め方を見直し、「残業が必要ない状況にすること」が大切です。
主に、企業側に求められていることは以下の3つです。
- 業務自体を減らすこと(例:印刷や報告書の作成などカットできる時間の削減)
- 時間を削減すること(例:ビデオ会議の活用)
- 徹底したタスク・スケジュール管理(例:タスク管理アプリやガントチャートの導入)
また、働き方に制限を与えない場合、満足度だけでなく生産性も向上するというデータが出ています。Harbard Business Reviewの調査によると、働き方に制限を与えないほうが生産性向上と満足度向上の両方につながると報告されています。
まとめ
ここまで、海外企業が優秀な人材を引き寄せるために行っている3つの戦略をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。
ここでは、3つの戦略をおさらいしてみようと思います。
1つ目の戦略「多様性を尊重する」では、ミレニアル世代の考え方から、活発な意見交換が行われ多様な意見を尊重する場が好まれることがわかりました。次に、2つ目の「若手社員に裁量を与える」戦略は、若い社員に主体的に仕事に関わらせることで、革新的なアイデアが生みやすくする効果をもたらします。最後に、3つ目の「柔軟な働き方を導入する」戦略によって社員の満足度を上げることで、仕事の効率化も図れることができます。
このような海外で行なわれているような人材を引き寄せる戦略が、これからの日本で積極的に導入されていくことになるでしょう。