今まで、フリーランスとして生き残るのは、一つの分野に通じたスペシャリスト(専門家)であるという考え方が根強くありました。
しかし近年は、実業家エミリー・ワプニックのTEDトークで一躍有名になった「マルチ・ポテンシャライト」という多彩な分野を横断する働き方が注目を集めています。
ただ正直なところ、どちらが優れているかを判断することはできないでしょう。しかし、両者の特徴や違いをよく知ることで、フリーランスの長期的な生存戦略を考えるヒントになるはずです。
フリーランスとして生き残る3つの条件
ここでは、フリーランスとして生き残る3つの条件を解説します。説明に入る前に、ひとつ衝撃的なデータをお見せします。次のチャートをご覧ください。
このチャートを見ればわかるように個人事業主つまりフリーランスの生存率は、
- 3年後に「約1/3」
- 5年後に「約1/4」
- 10年後に「約1/10」
であることがわかります。
要するに10年後もフリーランスとして生き残っているのは、10人に1人しかいないのです。非常に厳しい世界ですね。この事実を踏まえた上で、フリーランスとして生き残る条件を考えていきます。
条件①:顧客の期待を上回る成果を出し続ける
フリーランスとして生き残る条件の1つ目は、「顧客の期待を上回る成果を出し続ける」ことです。
フリーランスになりたての時は、仕事があるだけでありがたく、全力を尽くして顧客の期待を上回るように努力するでしょう。しかし、やがて安定して仕事がもらえるようになってくると、初心を忘れて努力を怠ってしまいがちです。
したがって、年数を重ねても常に顧客の期待を上回る成果をあげるために尽力しましょう。
条件②:広いネットワークを築き上げる
フリーランスとして生き残る条件の2つ目は、「広いネットワークを築き上げる」ことです。ここでいうネットワークには、顧客と仲間の2者が含まれます。
まず、よくいわれることですが、仕事をもらう顧客の数はできるだけ増やし、リスクを分散させることが大事です。これによって、ひとつの顧客からの仕事が切れたとしても、他の顧客から仕事をもらいつつ、新しく営業をかけるゆとりが生まれます。
次に、フリーランスの仲間を増やすことをオススメします。実は、フリーランスの仕事は、自分から営業をするよりも、人からの紹介によるものが多いです。ですので、お互いに仕事の案件を紹介し合えるような仲間を増やすことが、とても大切です。
条件③;受注制作以外の収入源を確保する
フリーランスとして生き残る条件の3つ目は、「受注制作以外の収入源を確保する」ことです。
どうしても受注制作は、顧客の都合に左右されるリスクが大きいです。このリスクをヘッジするためには、自分主体の収入源があるといいです。具体的には、個人ブログの広告収入や電子書籍出版の印税などが挙げられます。
スペシャリスト(専門家)として生き残る道
ここでは、フリーランスがスペシャリスト(専門家)として生き残る道を「強み」と「弱み」を分析しながら、考察します。
スペシャリストは、ある分野における専門的な知識や経験を付加価値として、顧客の課題を解決する役割を担います。
スペシャリスト(専門家)の3つの強み
ここでは、スペシャリストの強みを3つ考えてみましょう。
① 選択と集中による競争優位性
スペシャリストは、特定の分野の知識を、時間をかけて学習・経験(選択と集中)するため、希少人材になりやすく、競争優位性があります。
② キャリアが安定しやすい
スペシャリストは、自分が顧客に提供できる付加価値の証明となる経歴/実績がどんどん蓄積されていき、それをテコにして新しい仕事を受注しやすくなるため、キャリアが安定しやすくなります。
③ 自分の仕事に誇りを持ちやすい
スペシャリストは、特定の仕事を長い間、続けていくため、自分の仕事をアイデンティティと結びつけ、誇りを持ちやすくなる傾向があります。
スペシャリスト(専門家)3つの弱み
ここでは、スペシャリストの弱みを3つ挙げます。
① 市場が縮小・消滅するリスク
スペシャリストは、「選択と集中」により顧客に付加価値を提供すると前述しました。しかし、破壊的イノベーションなどにより、ターゲット市場が縮小・消滅した場合、競争優位性が一気になくなるリスクがあります。
② 新しいことに挑戦しづらい心理
スペシャリストは、特定の分野に長い間コミットします。すると、そこが自分にとっての安全圏(コンフォートゾーン)となり、新しいことに心理的に挑戦しづらくなります。
③ 変化に対する柔軟性が低い
スペシャリストは、自分流の仕事のやり方は知っていても、それが時代遅れになったりするなどして変化を求められても、柔軟に対応することに困難があります。これは、前述した仕事に対する誇りの高さの弊害でもあります。
スペシャリスト(専門家)として生き残るためには?
スペシャリスト(専門家)として生き残るためには、繰り返し言いますが「選択と集中」が大事です。自分の適性に合った特定の分野をターゲットにし、その分野に自分のリソースをすべて注ぎます。
しかし「選択と集中」の弊害ともいうべき、スペシャリストの弱みを克服しなくてはなりません。したがって、変化に対して常に柔軟であり、新しいことを学び続けることに貪欲である必要があります。この姿勢がないと、自分の市場価値が下がり続け、フリーランスとして生き残ることは難しいでしょう。
マルチ・ポテンシャライトとして生き残る道
マルチ・ポテンシャライトは、複数の分野を行ったり来たりしながら、キャリアを築き上げる働き方です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
「大人になったら何になりたい?」きっと多くの方が子供時代に聞かれたことでしょう。しかし、今回取り上げる『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』(PHP研究所 刊)の著者であるエミリー・ワプニック氏[…]
ここでは、スペシャリストと同じように「強み」と「弱み」を分析して、マルチ・ポテンシャライトとして生き残る道を模索します。
マルチ・ポテンシャライトの3つの強み
ここでは、マルチ・ポテンシャライトの3つの強みを挙げます。
① 業界をまたがる広いネットワークを持っている
1つ目のマルチ・ポテンシャライトの強みは、「業界をまたがる広いネットワークを持っている」ことです。
これは、マルチ・ポテンシャライトが多彩なキャリアを特徴としていることを考えれば、よくわかるでしょう。このネットワークを生かして、新しいプロジェクトを立ち上げることもできますし、目先の課題を異分野コラボレーションにより、解決することも可能になります。
② クリエイティビティ(創造性)が高い
2つ目のマルチ・ポテンシャライトの強みは、「クリエイティビティ(創造性)が高い」ことです。
マルチ・ポテンシャライトは、さまざまな環境で仕事を経験してきたことから、視野が広いです。したがって、ある課題に対して、人と違う視点から解決策を思いつく傾向があります。
③ 変化に対して柔軟に対応できる
3つ目のマルチ・ポテンシャライトの強みは、「変化に対して柔軟に対応できる」ことです。
なぜなら、多彩なキャリアを持つがゆえに、思考が柔軟だからです。よって特に、変化の激しい市場においてより力を発揮することができるでしょう。
マルチ・ポテンシャライトの3つの弱み
ここでは、マルチ・ポテンシャライトの3つの弱みを考えます。
① 専門性で勝負することが難しい
1つ目のマルチ・ポテンシャライトの弱みは、「専門性で勝負することが難しい」ことです。
ご存知の方も多いと思いますが、マルコム・グラッドウェル氏の「1万時間の法則」というものがあります。簡単に説明すると、ある分野で天才になるためには、総練習量が1万時間必要だという説です。ただしこの説は、練習の「質」を無視しているため、批判されています。しかし、天才あるいは一流になる変数の一つに「時間」が大きく相関していることは事実だといえるでしょう。
マルチ・ポテンシャライトは、多分野を経験するため、ひとつの分野にかける時間が相対的に少なくなりがちです。そのため、「時間」が必要になることが多い専門性の習得は、弱みになります。
② ルーチンワークでは実力を発揮できない
2つ目のマルチ・ポテンシャライトの弱みは、「ルーチンワークでは実力を発揮できない」ことです。これは、前述したマルチ・ポテンシャライトの3つの強みを考えればすぐにわかります。マルチ・ポテンシャライトは、一定の自由(裁量)が与えられた場面に力を発揮しやすいです。
③ 自分のアイデンティティを築きにくい
3つ目のマルチ・ポテンシャライトの弱みは、「自分のアイデンティティを築きにくい」ことです。仕事を頻繁に変えるマルチ・ポテンシャライトは、自分のことを「飽きっぽい」とネガティブに捉えることがあります。すると、自分のアイデンティティを見失ってしまいがちです。
マルチ・ポテンシャライトとして生き残るためには?
マルチ・ポテンシャライトとして生き残れるかどうかは、働く環境に大きく左右されます。したがって、前述したマルチ・ポテンシャライトの「強み」が発揮でき、決して「弱み」が出てしまうような仕事を選んではいけません。とはいえ、加速度的に変化し続ける昨今の世界では、マルチ・ポテンシャライトが必要とされる場面は増加していくと推測できます。
まとめ:「スペシャリスト(専門家)」or マルチ・ポテンシャライト?
本記事では、フリーランスで生き残るのは「スペシャリスト(専門家)」か「マルチ・ポテンシャライト」かをテーマに、両者の強みや弱みを分析しました。冒頭でも触れた通り、双方に優劣はありません。ただし、みなさんがどちらのキャリアに向いているかは、考えてみてください。そのためのヒントはきっと記事の中に見つかるはずです。みなさんが10年後もフリーランスとして生き残っていることをお祈りしています。