リモート勤務の普及によって、多くの企業で業務のオンライン化が急速に進んでいるものの、それに対するマネジメントが追いついていないという話を耳にします。
業務のオンライン化はパフォーマンスを向上させるといわれていますが、そのパフォーマンス向上にはマネジメントが大きく影響します。
これまでと変わらないパフォーマンスを維持するには、どのようなマネジメントが必要とされるのでしょうか?
オンライン化が加速する新時代のマネジメントの在り方について考えてみました。
複雑化するマネジメント
オンライン化社会で求められるマネジメントの役割は、どこで仕事をしていても変わらない成果や能力を発揮できる環境を作り出すことです。
これまで、仕事は時間をベースにし管理されていることがほとんどでした。ところがリモート勤務の普及と共に、オンライン化が進むにつれ、時間ではなく成果による管理が求められるようになりました。
そのため、これまでやってきたマネジメントを元のままオンラインに切り替えるだけでは、満足なマネジメントはできません。
ランチタイムや飲み会によるフォローもさることながら、場を共有し仕事状況が見てわかるというだけで、言葉を持たずとも成り立っていたマネジメントが存在していたのです。
ところが、オンラインのマネジメントではそれが成立しません。
新時代のマネジメントでは、対面とオンライン、それぞれに対するマネジメントの距離感を改めて構築する必要があります。
一段と複雑になるマネジメントについて、詳しく紐解いてみましょう。
信頼関係はオンライン化と共に変化する
これまでのマネジメントでは成り立っていたものの、オンライン時代のマネジメントでは通用しないものとは一体なんでしょう。
互いにいつでも目の届くマイクロマネジメントは今後通用しなくなります。
自然な形で「背中を見せる」ことができないため、求められるのは意図的に手の内を見せ合うような関係性です。
オンラインでのマネジメントにおいては、信頼関係を新たに組み立てる気持ちが必要といっても過言ではありません。
その上で、パフォーマンスを加速させるために大切にしたい3つのマネジメントを紹介します。
【タイムマネジメント】社員を信じることは言うまでもない
オンラインのマネジメントを成立させるのは信用です。信用なしには成り立たないといってもいいでしょう。
オフィスでのマネジメントからオンラインのマネジメントに切り替わった直後は「「サボる人も出てくるのでは? 」と、考えたかもしれません。
しかしながら、オフィスにいてもサボる人はサボっていたと思いませんか? そして、もちろん、サボった人が達成できる成果はサボった分を差し引いた成果でしかありませんし、逆に多少サボっているように見受けられても、求められる以上の成果を出していれば目をつぶっていたのではないでしょうか。
まず、その面に関してはさほど変わっていないと考えていいでしょう。
環境が与える影響を案じて、社員の監視体制を整えることばかりに注力しては、オンラインのマネジメントは神経がすり減るだけ。まず、「社員は仕事をしている」ということは疑いません。
サボらないように監視しよう。サボらないようにルール化しよう。という考えがあれば、それは早急に手放しましょう。
マネジメントをする側が本当に大切にして欲しいのは、サボっていることよりも、自分の目の届かないところで働きすぎていないかに気を配ることです。
オンオフの切り替えがうまくできなくなったり、あと少しと思って夜中まで仕事をしてしまったりといった無理は目に見えません。そのため、体調を崩したりメンタルを病んだりする危険性を持ち合わせていることを知っておくべきです。
働いているか? ではなく、働きすぎていないか? にアンテナを立てましょう。そうすれば、無理をさせてしまうことで起こるパフォーマンス低下を防ぐことができます。
【タスクマネジメント】求める成果は具体的に提示
オンラインでのマネジメントは、一方通行になっていないかをこれまで以上に意識しましょう。
チャットツールなどを使い一斉に発信してもそれは一方通行で、全てが伝わっているとは限りません。対面で伝えた時と同じように伝わるとも限りません。
オンラインのコミュニケーションでは、受け取り方の相違による差が出やすく、すれ違いが起こりがち。
自分の感覚値で伝えたものに対し、それがしっかり伝わったかまで意識を傾けるよう心がけましょう。
また、感覚値の差を埋めるためにも、丁寧に提示するといいでしょう。具体的な数字を用いることも効果的な方法です。
- いつまでに・なにを・なんのために・どの程度・どうやって、といった明確な表現を用いて共有する。
- 相手が理解できる言葉を使う。特に普段自分が使い慣れている用語では伝わらず、なんとなくの感覚で受け取られる恐れがある。
- 何を期待されているのかは、具体的に言葉にする。誰もがわかるよう具体的な行動イメージを伝える。
- ビジョンや目標、背景を共有する。
など、より詳しく伝えることで、オンラインのやりとりでも明確に物事を伝えることができるようになります。
意図していたものと異なる作業をしてしまうことこそ、パフォーマンスを下げる原因になり、時間のロスにつながります。
また、目の前の業務に集中していると、業務の方向性を見失い、求める成果から離れていくことも考えられます。軌道修正をかけるためにも、「自分たちが何を目指しているのか」を今まで以上に言葉にして共有しましょう。
この人ならわかってくれるはずという信頼もあるかもしれませんが、伝わらなかった時の無駄を考えるなら、相手を選ばず具体的に伝えた方が確実な成果を望む事ができます。
【モチベーションマネジメント】1対1で話のできる時間
マネジメントがオンライン化するにあたり、苦労するのは様子を見られないということ。オフィスであれば、顔色が悪い・元気がないなど目で見てわかる社員の変化も、業務のオンライン化により察することが難しくなります。
また、社員のコンディションの把握や偶発的な会話が欠けることにより、パフォーマンスの低下が起きてしまいます。
マネジメントすべき社員と、状況や感情を共有し合えていますか? 仕事だけではなく気持ちを知るというのも重要です。
相手の状況を確認しておくと、アドバイスやサポートの精度が上がります。
そして、忘れがちなのが自分の状況や気持ちの共有です。自分のことを知らせることで、相手も動きやすくなります。
オンラインのやりとりは、普段以上に接点が少なくなってしまいます。そのため成果が見えづらく、仕事へのフィードバックや達成感を得る機会の激減によるパフォーマンス低下が起こります。
これらを補うべく、1対1で話のできる時間は意識的に確保しましょう。オンライン化により発生する物理的な距離と比例し、精神的な距離ができないようにします。
これまでの関係性を引きずり、必要があれば声をかけてくれるはずという受け身でいることだけは避けてください。
若手社員のマネジメント
では、さらに細かなマネジメントとして、対若手社員へのマネジメントを考えてみましょう。ここでの若手社員とは、新入社員やまだ社会人経験の少ない社員と定義します。
先輩社員がつきっきりで手取り足取り教えることができないのであれば、どのようなことに留意すればいいでしょう。
オンラインでのアメとムチの使い方
オンラインでのアメとムチの使い方は、非常に苦戦します。特にムチ。
オンラインのマネジメントでは、ムチをふるったらふるいっぱなし、そのまま若手社員のモチベーションを低下させてしまうことが起こり得ます。
これまでは多少厳しくムチをふるったとしても、オフィスにいる以上、物理的に見守ることができ、必要に応じたフォローができます。
しかし、オンラインではそうはいきません。
オンラインのマネジメントでは、ムチのあとにアメを出すまでを一連の流れとして扱います。そうすることで若手社員は鬱々とした時間を過ごさずに、気持ちを切り替えて仕事に取り組むことができるでしょう。
コミュニケーションコストはできるだけ低く
どんなにチャットツールやオンライン会議ツールが整ったとしても、オンラインになった途端にコミュニケーションコストは高くなります。
オンライン化により、ちょっと席を立てば話のできる環境が失われ、キャッチボールのようなオンタイムの会話ができるチャンスも減ってしまいます。
仕事を覚えている最中の若手社員をマネジメントするには、コミュニケーションコストを極力低くする必要があります。
まるでオフィスにいるように気軽に相談できる関係性の構築やシステムの整備は、若手社員のマネジメントに必要不可欠です。
また、コミュニケーションコストを下げることで、失敗や問題に対する解決速度を上げ、物理的な距離の中の安心感が生まれます。
そのためにも、忙しそう、話しかけにくい、と思わせることなく、若手社員の「ちょっといいですか? 」をいつでも受け取ることのできる環境を作っておきましょう。
また、業務に対しどれくらいの時間をかけるか、どのように進めるか、どんなことでサポートが必要となる可能性があるかを想定してもらいます。
その上で「○時までに○割できていなければ連絡して」といった、「ヘルプを出す目安」を伝えておくと、よりコミュニケーションが取りやすくなるでしょう。
スピード感のあるマネジメントが叶えば、心理的な距離を縮め、気軽に話しかけることのできる関係性を作り出すことができます。
若手社員から教えてもらう姿勢
若手社員はマネジメントをする社員に負担をかけていると負い目を感じ、必要以上に恐縮してしまうかもしれません。
ですが、マネジメントする側も若手社員から学ぶことがあります。
例えば、デジタルネイティブの若手社員は、自分よりもオンラインの知識があるというケースは珍しくありません。
もし若手社員の得意分野で教えて欲しい事があれば、頼ることに遠慮は不要です。
また、自分のマネジメントに対するフィードバックを定期的にもらい、より良い関係性を一緒に作っているという実感を持たせます。
相手の時間を奪うことにも思えますが、頼られることは悪いことではありません。
若手社員にとっても「頼る」ということのハードルが下がり、ベクトルが双方に伸びる関係性を築きやすくなるでしょう。
ベテラン社員のマネジメント
若手社員に対し、ベテラン社員には異なるマネジメントをする必要があります。
ここではベテラン社員とは、仕事にも慣れバリバリと働いている社員と定義します。決して、オンライン化に置いていかれる古い体質の社員ではないのであしからず。
経験値を尊重、プライドは守る
ベテラン社員には、これまで積み上げてきた実績やプライドがあります。
そのため、オンラインでも対面でも、任せて頼るマネジメントが必要とされるでしょう。
タスクや時間のセルフマネジメントに口は出さず、必要に応じて選択肢を示すに留めておきます。
プロセスよりも結果を重視
ベテラン社員に対して、逐一様子をうかがうようなマイクロマネジメントは不要です。
オンライン化したからといって、対若手社員のような手厚いフォローは、ベテラン社員には行わず、場所や時間の自由も尊重します。
仕事に対するコストパフォーマンスをあげることができ、タスクや時間のマネジメントも自分で行う事のできるベテラン社員だからこそ、プロセスよりも結果を重視するマネジメントが成り立ちます。
いずれにせよ、普段以上にマネジメントコストを必要とするオンラインにおいて、ベテラン社員に対してはマネジメントコストをかけない仕組み作りが求められるでしょう。
人の手によるマネジメントを極力減らし、マネジメントのできるオンラインツールに任せてはいかがでしょうか。
オンライン化により起こった不活性人材のあぶり出し
業務のオンライン化によって、社内における不活性人材のあぶり出しが起こっていることにお気づきでしょうか。
会社に出勤さえすればいい、言われたことをこなすだけ、そして成果へのプロセスを作り出せない人は、オンライン化により更に厳しい立ち位置に置かれるでしょう。
だからといって、不活性人材を見て見ぬふりができないため、すくい上げるべくマネジメントも必要とされています。
まずは孤独にさせないように併走体制を作ることをおすすめします。
その上で、若手社員とベテラン社員のマネジメントを掛け合わせながら、個々に何ができないのか、どのようなことで不便を感じているのか、これからどうしたいかなど、丁寧なフォローを要します。
不活性人材は残念ながらパフォーマンスを下げてしまうため、改善に向けて長い目で辛抱強く向き合うことが必要とされます。
働き方革命やコロナ禍という大きなターニングポイントである現在、不活性人材の活性化は大きな課題といえるでしょう。力の見せ所です。
まとめ
マネジメントを怠ると、社員のワンマンプレイや極端な二極化など、カードを裏返すようにオンライン化は危ういものに変わってしまいます。
より多様化するマネジメントに順応せねばならず、一層責任はあるものの、同時にやりがいを感じられることでしょう。
これから先の働き方を変えるきっかけとなる出来事が次々起こる近年、チーム力や人間力をあげる大きなチャンスでもあります。つまり、管理職だけでなく、社員一人ひとりが自分のマネジメントをする時代なのです。
マネジメントをする力を持ち合わせているかどうかが、今後の会社経営の大きな鍵を握っています。