ビジネスシーンで多用される「戦術」や「戦略」は軍事用語に由来する言葉です。戦術・戦略のいずれも、ビジネスの成功になくてはならないもの。本稿では、戦術と戦略の違いや関係性、戦略の立て方や身近な事例を通じ、戦術を用いてビジネスで成功する方法を考えてみましょう。
戦略とは
戦略とは、目標を達成するために進むべき方向性やとるべきアクションプランのことをいいます。
元々は軍事用語だった「戦略」も、近年では軍事的な意味合いを超え、目標や目的を達成するための策略・作戦のことを意味するビジネス用語となっています。「経営戦略」や「マーケティング戦略」などの言葉は、ビジネスシーンでよく耳にするでしょう。
戦術とは
戦術とは、戦略を実践するための具体的な手段のことです。
大まかな方向性や実現へのアクションを示した戦略は、戦術を立てることによって、チームがとるべき具体的な行動や手段、実際のオペレーションとして具体化されます。
戦略と戦術の違い
「目標を達成するためにとるべきアクションプラン」である戦略に対し、「そこに至るまでの個々のステップやアクション」が戦術です。
戦略と戦術は、いずれも目標を達成するための術策という意味で目的は一致していますが、その役割や活用場面は明確に異なります。しかし、目標を達成するためには、戦略と戦術のどちらも必要です
この2つの違いについて、詳しく掘り下げてみましょう。
例えば「サイトの閲覧数を増やし、製品の購入につなげる」という戦略を立てた場合、「どのように戦略を達成するか」が戦術にあたります。
この戦略の場合、マイクロコピーの見直し、購入ボタンの色や表示位置の変更、購入までの動線をシンプルにするなどが、戦術に当たるのです。
戦略と戦術の違いのわかりやすい事例
戦略と戦術の違いをより理解するために、実際のビジネスシーンを例にとって解説しましょう。
マーケティング部の事例
マーケティング部では、顧客・市場に対して自社の価値や強みを提供する方法を戦術として立案します。
戦略:アプリ会員を1.3倍にし、顧客獲得につなげる
戦術:アプリに登録した人にポイントを付与する、定期的にクーポンの配信をする、アプリ登録を促す広告を流す
人事部の事例
少子高齢化の影響で労働力人口が減少している昨今、人事部でも人材戦略が見直されるようになりました。
戦略:これまで応募の少なかった子育て層からの採用候補者を30%増やし、即戦力となる人材獲得につなげる
戦術:社内に託児所を設けて子育て層の応募を増やす、フレックスタイム制や在宅勤務制度を取り入れ柔軟な働き方を推奨する、社員・パート・業務委託など働き方の選択肢を増やす
ウェブ開発事業部の事例
日々さまざまな課題に向き合うウェブ開発事業部でも、多様な戦略と戦術が展開されています。
戦略:ページの読み込み速度を1秒短縮し、直帰率を下げる
戦術:サイト内の画像サイズを100KB以下にする、不要な外部ファイル不要の削除・圧縮をする、埋め込む効果計測タグを見直す、ページのリダイレクト回数を削減する
戦略を立て戦術に落とし込む際のポイント
目標達成には、戦略と戦術の双方が必要であることは前述した通りです。
戦略に対する戦術を策定するためには、まず組織の基本方針となる戦略を立案します。その後、戦術への落とし込みを行いましょう。ここでは、実際に戦術に落とし込む際に留意すべきポイントをひとつずつ解説します。
目標・目的を明確化する
戦略は明確に定められた目標・目的をもとに設定しましょう。達成すべき目標や目的は、戦略の軸になります。
例えば「新規顧客を増やす」という戦略では抽象的すぎて、精度が高く整合性のある戦術を策定するのは困難です。
明確な目標や目的があれば、「自社アプリを開発し、3年以内に新規顧客を1.5倍にする」など、具体的な戦略が立案できるはずです。すると、とるべきアクションも明確になり、的確な戦術に落とし込むことができるようになるのです。
目標達成の期限を設ける
目標達成のための戦略には、必ず適切な期限を設けます。
期限がない、もしくは異様に長い場合、モチベーションの維持が難しくなってしまいます。しかし、短すぎて現実味がない場合も、実現可能性の低さからモチベーションを下げかねません。
できるだけ短く、かつ的確な期限を決め、戦略に関わるメンバーの共通認識として持っておきましょう。
現状を正しく把握する
戦略を戦術に落とし込むためには、現状を正しく把握しておきましょう。
市場における自社の立ち位置や特徴、強み・弱みを分析し把握しておくことで、自社ならではの戦術が立てられます。それにより、リスクの少ない戦略や戦術を検討できるでしょう。
戦術を実施した際のシミュレーションをしておく
戦術に無理がないか、実現可能性はあるかを検討するためにも、事前にシミュレーションを行う必要があります。
リソースの使い方や費用対効果など、実際に戦術を実践しないとわからないことも多くありますが、事前のシミュレーションによって、乖離が少ないようにしておきましょう。
従業員からのアイデアを集める
戦略を立てるのは、主に経営者やプロジェクトリーダーであるケースがほとんどですが、実際に実行するのは従業員です。いざ従業員に展開すると、問題や矛盾、より良い戦術が見つかることも少なくありません。
戦略を立てて戦術に落とし込む時には、現場で手を動かす従業員からアイディアを集め、戦術に反映するようにしましょう。
フレームワークを活用する
戦略を戦術に落とし込む際には、フレームワークを活用して整理や分析を行うことが有効です。戦術を作成する際には、以下の4つのフレームワークがよく使われています。
SWOT分析
SWOT(スウォット)分析は、以下の4つの要素を用いて、企業や事業の内部要因(強み・弱み)と外部要因(機会と脅威)に分けて整理するフレームワークです。
・Strength:強み
・Weakness:弱み
・Opportunity:機会
・Threat:脅威
事業の改善点や磨くべきポイント、新規事業の将来的なリスクなどを見つけることができます。
また、具体的な戦術を策定する時には、強み×機会、弱み×脅威など、4つの要素を掛け合わせる「クロスSWOT分析」が行われることが多いでしょう。
3C分析
3C分析とは、自社のリソースや強み、外部環境や競合などのマーケティング環境を分析する際に用いられるフレームワークです。
以下の3つの視点から外部環境を把握し、自社の強み・弱みを分析することで、自社の優位性を築くための戦略を導き出します。
・Customer:市場や顧客
・Competitor:競合他社
・Company:自社
新規事業や事業展開の戦略を立てる際に使われることが多いでしょう。
STP分析
STP分析は、以下の3つの指標を使って市場や顧客の反応や優位性、リスクなどを多角的に分析し、戦略を立てるフレームワークです。
・Segmentation:市場の細分化
・Targeting:ターゲットとする市場の選定
・Positioning:自社の立ち位置の明確化
市場の把握やユーザー層の細分化を行い、参入すべき市場を決定し、競合他社との位置関係や優位性を明確にできます。
マーケティングミックス
マーケティングミックスは、「4P」とも呼ばれるフレームワークのことです。顧客に購買意欲を喚起させるための手法を分析できます。
・Product:製品
・Price:価格
・Place:流通チャネル
・Promotion:プロモーション
4つのPを組み合わせることで、競合他社との差別化を行い最適なマーケティング戦略を考えることができるのです。
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企業事例から学ぶ戦略・戦術のポイント
日本のビジネスシーンでも、製品や企業の特性を活かした戦略や戦術を用いて事業を成功に導いたケースがたくさんあります。より戦略や戦術が立てやすくなるように、身近な企業の事例を5つ挙げてみましょう。
ユニクロ
今や誰もが1枚は持っているというアパレル大手の『ユニクロ』が、世界の市場でシェアを獲得するために実践した戦略が「コストリーダーシップ戦略」です。コストリーダーシップ戦略とは、コストや価格の安さによって市場で優位に立つ戦略のことを指します。
ユニクロでは、商品の企画や生産、物流、販売までを一貫して自社だけで行う「SPA」と呼ばれる戦術を用いて、競合他社よりも低コストでの生産を可能としています。
この戦略によって、ユニクロは世界的企業に成長したといっても過言ではないでしょう。
サイゼリヤ
『サイゼリヤ』もユニクロ同様、「コストリーダーシップ戦略」によって、創業以来ずっと低価格で商品を提供し続け、「コストパフォーマンスの良いレストラン」という絶対的な地位を築き上げました。
サイゼリアでは、原材料の原価を抑えるために自社農場を保有し、食材を確保しています。またそれにとどまらず、農場で収穫した食材は徹底した温度管理の元、流通できるコールドチェーンシステムを構築し、品質の低下を防いでいます。
この戦術によって、価格が変動しがちな野菜を低コストで手に入れ、かつ品質を落とすことなく各店舗に供給することができるのです。
ローソン
お馴染みのコンビニチェーン『ローソン』では「差別化戦略」を掲げています。差別化戦略とは、競合との差別化を実現し競争に勝つことを目指す戦略です。
競合にはない自社だけの強みを活かし、顧客に製品を提供します。
ローソンでは、国産の原料にこだわることや、合成保存料を使用しないこと、健康に留意した商品のラインナップを充実させることを具体的な戦術として打ち出し、他社との差別化を図りました。
その結果「健康志向」というイメージを消費者に与えることに成功。ブランド化やイメージアップを実現しました。
任天堂
ゲームメーカーの『任天堂』も「差別化戦略」を実践し、競合となる企業とは異なる商品開発を行いました。
任天堂は、競合がいない、もしくは少ない新たな市場を生み出す商品を開発・製造する「ブルー・オーシャン戦略」で、他社との差別化を図っています。
携帯用ゲーム機 Nintendo Switchを例にとると、
・携帯用ゲームでありながら従来の据置タイプのゲーム機のようにテレビに映して遊べる
・ゲーム画面を複数名にシェアして遊べる
・家の外に持ち出してゲームができる
という3つの楽しみ方があります。
発売当時、これはとても珍しいことで、任天堂は携帯ゲーム機だけでは取り込めなかった顧客層への普及に成功したのです。
しまむら
低価格の衣料を扱うチェーン店である『しまむら』は、特定の市場においてコスト的優位を生み出す「コスト集中戦略」によって成功をおさめています。
仕入れルートの確保や海外での生産管理、物流センターにおける業務効率化、パート社員の比率を増加させるなど、徹底したシステム化や効率化を行い、経営コストを大幅に削減することに成功しました。
「コスト集中戦略」のおかげて、しまむらは2020年には国内売上高業界第2位まで上り詰めました
まとめ
戦略を立てても、具体的な戦術を立てないことには、目標の達成までの道筋がわからず、効率的に進めることは困難です。また、具体的な戦術のみを決めて、中長期的な戦略を立てずにいると、戦術の一貫性が欠ける恐れがあるでしょう。
戦略と戦術は、目標を達成するための羅針盤や地図といっても過言ではありません。戦略と戦術を立てておくことで、目標達成に向けた確実な歩みを進められるでしょう。