派閥が変わると仕事も変わる? ファッションブランド、セリーヌのデザイナー交代に見る、チームの権力や政治に流されない仕事へのヒント

魅力を感じていた商品や欲しかった物や憧れの存在が、あることを理由にふいに色あせて見えたり、違ったものに見えてきたという経験はありませんか? あるいは、職場で突然上司や社長が交代し、これまで積み上げてきたものががらっと変わって見えたということはないでしょうか?

10月始めに開催されていたパリコレクションにて、フランスを本拠地としLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ ヴィトン)の傘下にあるファッションブランド、セリーヌは、ディオールオム、サンローランなどで実績を残し、時代の寵児となったエディ・スリマンによる2019年春夏コレクションを発表しました。

スリマンは、クリエイティブディレクターだったフィービー・ファイロが2017年末に電撃退任した後をうけてのコレクションとなりました。ファイロがデザインしていたセリーヌは、「エフォートレス」とも言われるいわゆる「抜け感」のあるテイストが時代とマッチし、大人の女性層に絶好調の人気と販売実績を誇っていましたが、一転、スリマンは常にブラックを基調としたシャープでスリムなスタイルやロックテイスト、夜の街に似合うような退廃的ムードのデザインを得意とするデザイナー。

セリーヌは、デザイナーの交代劇により、突如としてスタイル提案にギャップを抱えることになりました。この記事では、このニュースをもとに、ビジネスでのチームにおける周囲に起こりうる変化についてどのように対処すべきなのか、変化に流されない仕事を訴求するためのヒントについて紹介していきます。

ブランドの世界観を理解したうえでの変化 VS 独自のスタイルを貫いた変化


クリエイティブディレクターであったフィービー ・ファイロは、以前もフランスのファッションブランド、クロエにおいて大きな成功を収めた直後、子供を持つ母として、また妻として、自分自身の生活基盤を整えるという目的でクロエを退任しています。今回のセリーヌにおける退任理由は彼女から語られておらず、現時点では不明ですが、やはり大きな成功をおさめて、アウトプットに尽くしたと判断を下し、静養に入るのではないかという見方が広がっています。

セリーヌでのファイロがデザインしてきた洋服、バッグなどからの世界観は、それまでのセリーヌのイメージを一新しました。子供服からブランドをスタートさせたセリーヌは、ファイロ以前は装飾的で上品なイメージでした。そのイメージを、ロゴから装飾を排しシンプルなフォントでリデザインし、フランス語独特のアクサンテギュをつけたものに変えました。そのロゴには、洗練されているが、シンプルなテイストを好む真の上質を知るラグジュアリーなフランスの女性たちを彷彿させられました。大人の女性たちへのセリーヌ訴求は絶大であり、今回のエディによるコレクションが発表になる前の春夏に、セリーヌのアイコン的存在のバッグなどは駆け込み消費とも言えるほどの爆発的人気を博しました。
参考 URL https://www.wwdjapan.com/664425

一方、新しく就任したエディ・スリマンは、ロックテイストの強い、カラーの強いデザインで有名な人物。どんなブランドのクリエイティブをしても、エディ色を一面にアピールしてきたデザイナーです。

デビッド・ボウイ、ポール・ウェラーといったハイセンスなイギリスのロックスターからから影響を受けたそのデザインスタイルは、その名のとおりファッションに音楽を感じさせるロックテイストあふれるものになっています。スリマンは、独自のスリムでシャープなスタイルを展開するうち、ファッション業界内にも熱狂的なファンをつくりました。かのシャネルやフェンディでファッション界の頂点にたつカール・ラガーフェルとを持ってして、スリマンのデザインしたディオール・オムのスーツを着たくなり、40キロものダイエットに成功したという逸話は、スリマンのスタイルの影響力の大きさを語るのにもっともふさわしいものです。

スリマンは、音楽や若さを取り込み、ファッションに昇華するスキルに長けている一方、そのテイストの一貫性から、どんなブランドでも自分の色に染めてしまうという面があります。セリーヌ就任以前に手がけていたフランスのファッションブランド、サンローランでもそのテイストでの展開を行っていたために、スリマン在籍時のサンローランと、今回のセリーヌのテイストが同じようなスタイルになったという指摘もありました。

ファイロの展開した抜け感のある上質の世界観と、打って変わってスリマンによる隙のないロックテイストの世界観。ひとつのブランドが、これほどにもドラスティックなテイストを変えて展開していく様は例を見ないものであったと感じさせられ、ファッション界でも様々な批判や論議が巻き起こっています。そしてその変化は、消費者たちにも影響を与えてきています。SNSでもてはやされてきたファイロのデザインしたセリーヌの定番ともなったトリオ、トラペーズといったバッグは、「セリーヌを持っている洗練されていて上質で高級なバッグを所有する自分」を表す一種の記号となり認知されてきたはずが、スリマンがデザイナーとなったところ変化が生まれつつあるようです。これまでセリーヌを嬉々として所有していたインスタグラムユーザーが、違うものを持ち始めてきているのです。そこには、ブランドの変化に戸惑い、ブランドのもつ記号の変換が完了するまで距離をおく人々が出始めてきているように感じます。

周辺の変化に流される VS 流されない

商品や、そのもの自体は変化していないにもかかわらず、それを取り巻く周辺の環境が変わったために、その商品の価値が変化していくという構図は、これまでも沢山ありました。

美容と健康によいとされ、海外セレブが愛用という情報と相まって爆発的に流行していたココナッツオイル。オイル自体はおいしく体にもよいものかもしれませんが、非常に流行していた時期と、現在の落ち着いた商品の流通のなかとで比較すると、まるでちがったものに感じさせられるのではないでしょうか。この例は、流行という大衆の移り気な変化によっておこったものですが、このように、モノ自体に変化はないのに、周辺の環境のためにそのモノ自体や存在自体に変化ができるという例は、ビジネスにおきかえて考えてみても同様な状況があると考えられます。ある企業が急遽合併することになり、会社の派閥が複雑化。もとの所属企業から、自然と派閥ができてしまい、争いに巻き込まれて、業務進行に齟齬や支障が出てしまったり、もし正当な仕事をすすめることができて評価されしかるべき業績も、所属の派閥しだいで変わってくるといったようなことは、本来であればあってはならないことですが、既視感のある例ではないでしょうか。

ドラスティックな変化に対峙したとき人はどう行動するか

現在は、VUCAな時代と言われます。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、1990年代に、これまで対国という方式でたてられていた戦略から、国をまたがるテロ組織を相手にする戦略へと変化が必要になったときに、使用される言葉となり、いつしかビジネス上でも使用されるようになりました。

テクノロジーの進歩によって、様々な変化が生まれ、同時にスピードが必要であるのに、前例がないために問題解決が難しく、常に対処療法的な場当たりな解決法でしか対応できず、いつしか大きな問題に発展していってしまうケースが多くなってきています。

そのような時代の流れにおいて、変化があることを前提として考え、自分がチームの一員としてどのように仕事を進めていくべきなのかを見極めなくてはいけない時を迎えています。そんなときに、セリーヌのディレクターだったファイロのように、これまであった企業の遺産を理解し、それをいかしつつ、新しい理想像を提示していくという仕事の進め方で評価を得ていくのか、それともスリマンのように、自分らしい仕事を貫いて、どこの会社でも、どの分野にいっても変わらない、一定の評価を得るようにするのか、2人のデザイナーの姿を知る事で、業務の進め方やとるべき態度について参考にできるのではないでしょうか。

変化の大局を知る


ドラスティックな変化が起こったときに、どのような態度でその変化に対峙していくのかは、これからのVUCAな時代を切り開いていくビジネスパーソンにとって重要なポイントなのではないでしょうか。

変化を理解せず批判的に拒絶するだけではなく、なぜビジネスにおいてそのような変化が必要になったのか、自分は変化と向き合ったときに、どのように受け止め、咀嚼していけばよいのかを考え、大局を理解する必要性があると考えるべきではないでしょうか。

例えば、今回のセリーヌにおけるデザイナー、エディ・スリマンへの交代劇は、ブランドとしてはドラスティックなスタイルの変化をとげ、これまでのセリーヌのファンを失望させたという面もありました。しかし一方で、フィービー・ファイロの路線を続けていれば、大人の女性たちへの訴求が中心であったため、必然的にブランドの売り上げもその層からの消費に限定されてしまうことになります。そして、現在の世界で広がっているLGBT (「Lesbianレズビアン・女性同性愛者、「Gay」ゲイ・男性同性愛者、「Bisexual」バイセクシュアル・両性愛者、「Transgender」トランスジェンダー・出生診断時の性と自認する性の不一致層 )への企業としてどのような理解と態度を持つのか、そして若者への訴求がファッションの世界においても非常に重要視されていますが、ファイロのセリーヌでは、その層への訴求はあいまいなものであったとうに感じられます。

一方、スリマンカラー満載の今回のセリーヌ2019年春夏コレクションは、これまでのセリーヌスタイルの踏襲という面には欠けていたものの、若者への訴求、ジェンダーレスなアピールには成功しているという面から考えると、限られた層への訴求ではなく、大きなカテゴリへのアピールに成功しているという結果をもたらしており、ブランドの売り上げを上げるために、今回のデザイナー交代に関してのLVMHのビジネス上の算段は成功したといえるのかもしれません。

画像引用:https://www.hedislimane.com/diary/より

まとめ

ビジネスの世界において、誰にでも大きな変化を迎えるときがあることでしょう。そのときに、周囲に流されずに大局を見極めて、自分のすべき仕事を行なうことができる人材が、このVUCAな時代をサバイブし、世界を変えていく人材になりうるのではないでしょうか。

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