人生には予測不可能がことが次々と起こります。世界の天才的な頭脳が集まっても10年前の金融危機リーマンショックに人類は備えることができず世界経済に大きな爪痕を残しました。東北地方の震災も未然に防ぐことも避けることもできず大きな被害を受けました。私が高校を卒業した時は大学にとりあえず入っておけば仕事には困らないと先生に指導されましたが、大学に入学した時は戦後最低の就職率の就職氷河期で新卒で就職できない学生が世間にあふれました。
このように人生には既存の価値観や過去の経験則では対応できない危機がレベルは違えど次々に起こりえます。昔、英語で無駄な努力のことを「ブラックスワン(黒い白鳥)を探すようなもの」という例えがありました。世界にはブラックスワンは存在しないことになっていました。
しかし17世紀にオーストラリアで黒い白鳥が発見されて以来、ブラックスワンは想定外の事前にほとんど予測できない起きた時の衝撃が大きい事象のことを指すようになりました。そんな世界の不確実なリスクに対応するために有効なのがバーベル戦略です。
予測不可能なブラックスワン
世の中にはどれだけ気をつけていても避けることができない想定外のリスクが起こりえます。金融危機、震災、テクノロジーによる社会の変化に起因する失業など事前にほとんど予測でないリスクに人間は晒されています。
元ヘッジファンドの金融デリバディブの専門家であるナシム・ニコラス・タレブは著書『ブラック・スワン』で不確実性は人間にコントロール不可能だと主張しました。そして数年後に金融危機リーマンショックが起きたことで、全米で150万部を超えるベストセラーになりました。
金融の世界では予測不可能な不確実性に晒されていますが、あなたの日々の生活にもブラックスワンが潜んでいます。
テールリスクとファットテール
ブラックスワンを理解するにはテールリスクとファットテールという言葉を知る必要があります。
- テールリスク:発生確率は低いが一度、起きると非常に大きな影響があるリスクのこと
- ファットテール:平均から極端に離れた事象の発生する確率が正規分布から予想される確率より高いこと
この図は典型的な正規分布の図です。平均値を中心とする左右対称の釣鐘型の分布でベルカーブと呼ばれます。Y軸には例えば株価の変動率など、X軸は起こり得る頻度です。
この正規の分布図では統計的に平均から大きく外れたことは、ほとんど起こりえません。この分布図では左右の端にいけばいくほど、ほとんど確率的には起こりえないはずです。この左右の端に分布しているリスクのことをテールリスクと呼びます。
しかし現実には、このテールリスクが想定される確率よりも頻繁に起こり得ます。テールリスクが想定以上に起こることをファットテールと呼びます。
現実世界は綺麗な統計の正規分布でおさまりません。あまり起こらないはずのテールリスクが頻繁に起こりえるのです。
世界最先端の頭脳が予測できなかったリーマンショック
外資系の投資銀行には世界中から優れた頭脳をもつエリート集団が集まっています。冷戦集結と
同時にNASAなどから多くの科学者がウォール街に流れ金融工学の基礎をつくってきたのです。
彼らはロケットサイエンティストと呼ばれ複雑な証券化商品やデリバディブ取引を金融市場にもたらしました。
しかし、そんな世界最先端の頭脳集団ですら高度な金融工学から生み出されたサブプライムローンの焦げつきや大手金融機関の破綻を事前に予測できずに多くの金融機関がダメージを負いました。
世界最先端の頭脳集団でも予測できないのがブラックスワンです。まして一般人がブラックスワンを事前に予測することは難しいのです。
危機を完全に予測することはできない
金融危機だけでもブラックスワンは次々に起きます。EUのギリシャ危機や英国の離脱、アメリカのトランプ大統領の当選など金融市場に大きく影響を与えるブラックスワンは毎年のように起きています。100年に1度の危機が頻繁に形を変えて起きているのです。
金融危機だけではなく身近な生活の中にもブラックスワンは潜んでいます。
レジ打ちの仕事がなくなる?
小売業は世界中で無視できない大きな雇用を生み出しています。キャッシャー、日本でいうレジ打ちの業務に就いている人も身近に多くいるのではないでしょうか。しかしテクノロジーの進歩によってレジ打ちの仕事が必要のないオペレーションを多くの小売店が導入するようになってきました。
例えばEコマースの大手アマゾンはAmazonGoという無人コンビニをアメリカではじめました。
事前に登録したスマホアプリがあれば無人店舗から品物を持って出ていくだけで精算が完了してしまうのです。中国でもキャッシュレス化が進み無人コンビニが急速に普及しつつあります。
完全な無人店舗でなくともウォルマートが運営する会員制倉庫型スーパーのサムズクラブでは、無人レジ「スキャンアンドゴー」が導入されました。人件費の削減やキャッシュレス化で急速にレジ打ちの仕事が減りつつあります。
Eコマース企業が在庫をほとんど持たないショールーム型の実店舗を展開する動きがありますがレジを使わずに展示してある商品を、その場でEコマース経由で注文するという買い方もアメリカでは拡大しつつあります。日本にも似たような試みが見られるようになってきました。
10年前、20年前には考えらませんでしたがレジ打ちの仕事は完全になくならないまでも、かなり減っていく未来が予想されます。もちろんレジ打ち以外の接客に集中できるようになるなどのメリットも現場にはあるため小売業従事者にとって必ずしも悪いことではありません。しかしレジをただ打つだけの仕事が急速に減りつつあります。
小売業の従事者の影に仕事がなくなるブラックスワンが潜んでいるかもしれません。
人間のトレーダーが消えた
2000年アメリカの投資銀行大手のゴールドマン・サックスには約600名のトレーダーが在籍していました。しかし現在では片手で数えられるほどしかいなくなってしまいました。人間のトレーダーが行っていたかつての取引作業はAIの台頭によって自動取引プログラムにとってかわられました。現在の市場のプレイヤーの中心は機械とAIです。超高速のアルゴリズムトレードが幅をきかせています。人間の反応速度では現在の高性能なAIやアルゴリズムによるトレーディングに追いつくことは簡単ではありません。
約20年前にタイムスリップして外資系金融のトレーダーが人工知能に仕事をとって代わられることを誰かに伝えてもSFのような話で信じてもらえないのではないでしょうか。
テクノロジーの進歩とブラックスワン
現代社会ではテクノロジーが世界を変えるスピードが加速しています。そのため過去の常識では考えられないようなことも起こります。証券会社のトレーダーやレジ打ちの仕事がなくなる未来を90年代に予測できていた人はどれだけいたのでしょうか。
職業選択でもテクノロジーの進歩がリスクになることも十分にありえます。ある日、突然に自動運転が急速に普及しタクシードライバーの仕事が減ってしまうことも考えられます。
東南アジアでは配車アプリGrabTaxiが近年、急速に普及しました。GrabTaxiのスマホアプリから行きたい目的地を設定するとGrabTaxiに登録しているドライバーがやってきて目的地まで連れていってくれます。GrabTaxiの決済はクレジットカードによる前払い決済が主流でサービスを受けた後はドライバーと乗車客が相互評価をします。この機能によって東南アジアで問題になっていたタクシーのぼったくりやトラブルの不安なく観光客は現地を移動できるようになりました。
一方でGrabTaxiに登録していないドライバーは客を奪われました。これまで悪質なぼったくりで生計を立てていたドライバーは淘汰の対象となったのです。
テクノロジーの変化があらゆるところで仕事のあり方も変えてしまいます。自分の就いている仕事がなくなる未来もブラックスワンとして潜んでいるのです。
予測不可能な危機に対応するバーベル戦略
会社員をしていて一生安泰と思っていても会社が倒産したり思わぬ形でリストラされるかもしれません。また自分の専門の職域そのものがテクノロジーの進化によってなくなってしまう可能性も
あります。身近な日常生活にもブラックスワンは潜んでいるのです。
不確実性に晒される現代社会を生き抜くための知恵がバーベル戦略です。金融市場のブラックスワンに見事に対応したタレブはバーベル戦略をとってリーマンショックを乗り切りました。
金融危機に対応するためのバーベル戦略
バーベル戦略とはハイリスク・ハイリターンの資産とローリスク・ローリターンの資産など対照的な資産を組み合わせる手法です。『ブラックスワン』の著者タレブはポートフォリオの85%〜90%を安全性の高い資産に投資し、残りの10%〜15%をリスクの高い投機的な資産に投資しました。
タレブは10%〜15%をオプションの買いにあてていました。簡単に言えばブラックスワンが起きなければ損をしてしまう取引なのですが、万一、ブラックスワンが起きた場合は巨額の利益を出せるポジションをとっていたのです。
ブラックスワンを予測するのではなく、ブラックスワンが起こることを前提とした投資戦略をとっていたのがタレブがリーマンショックで利益をあげることができた要因です。
バーベル戦略は不確実性を予測するのではなく不確実性が起きることを前提とした投資手法なのです。
人生の危機にも応用できるバーベル戦略
バーベル戦略の考え方は個人投資家にも応用できる考え方ですが実は人生の不確実性にも対応できるとタレブは主張しています。
金融取引におけるバーベル戦略では資産の大部分を安定資産に充てる代わりに10%〜15%をリスクの高い逆張りの投機的な資産に投資することでブラックスワンが起きた時でも利益をあげるという投資法でした。
この資産を自分のやっている仕事に変えてみてください。つまり金融資本ではなく人的資本(働いてお金をえる自分自身のこと)でバーベル戦略を応用すれば人生にも応用できるのです。
例えば普段は安定した会社員をしながらも自分の時間を少しだけ成功するかどうか分からない違う仕事に費やすのです。例えば営業職のサラリーマンが休日に畑違いのプログラミングをしたり、スーパーのレジを打つ店員がYoutubeをはじめてみたりするのも良いでしょう。
ちなみに有名Youtuberとして有名なヒカキン氏はもともとスーパーの店員をしながらYoutuberとしての活動を行い続け結果的にYoutuberとして大成功しました。これも一種の人生のバーベル戦略の成功例といえるのではないでしょうか。
人手不足による日本の働き方改革では副業やパラレルワークが推奨される流れです。自分のメインの仕事や会社だけに依存せずに副業をしやすい時代になりました。テクノロジーや社会の変化で自分のメインの仕事がなくなることを前提にした人生戦略をとるのはブラックスワンが潜む現代社会では合理的な選択です。自分の時間の1割〜2割を自分の専門性とは関係のない副業や遊び・趣味に意識的に当てることが、実は結果的にバーベル戦略をとっているのと同じことになります。
金融資本と人的資本を合わせて考えるバーベル戦略
お金を稼ぐ方法は投資で稼ぐ方法と働いて稼ぐ方法の2種類あります。自分が若い20代〜30代のサラリーマンで日本円でお金を持っている場合、残りの金融資本を日本のマイホームのローンにあててしまうと日本円や日本経済に依存しすぎることになります。
そこで日本の想定外のリスクに対応できるバーベル戦略では金融資本を海外資産にあててみるのも一つの方法です。
例えば日本の公務員ならば投資は日本株や日本の不動産ではなくアメリカ株のGoogleやAmazonなどの自分の仕事から遠い業種の銘柄がおすすめです。バーベル戦略では質の違うものを組み合わせることでリスクヘッジをします。なので金融資本・人的資本をトータルで考えた場合は貯金を貯めている最中の若い層こそ金融資本では海外資産などの自分の仕事から遠いものを買う方が分散効果が期待できます。
まとめ
人生には事前に予測できず起きた時の衝撃も大きい事象ブラックスワンが潜んでいます。ブラックスワンは統計学的には起こりづらいリスクのはずですが変化の激しい現代社会では想定以上に起こってしまいます。ブラックスワンは事前に予測することも難しいため、あえて予測はせずに対応するという考え方が大切です。
バーベル戦略では金融ならば大部分の資産を安定した資産に投資する代わりに10%〜15%ほど、リスクが高いブラックスワンが起きた時に大きな利益を得ることができる投機的なポジションをとります。
人生でもバーベル戦略は応用可能です。自分の本業以外にも自分の時間の1割〜2割程度を本業とは関係があまりない副業や趣味にあてれば良いのです。不確実性の高い現代社会だからこそバーベル戦略を人生に応用してブラックスワンから身を守りましょう。