「アート思考」はビジネスに役立つのか?ロジカル思考やデザイン思考との比較、身につける方法を解説する

近頃、「アート思考」という言葉を聞く機会が増えていると思いませんか? アート思考とは、アーティストの考え方をビジネスに活用することで、成果を出すための考え方です。ロジカル思考やデジタル思考との違い、アート思考を身につける方法などについて、まとめました。

「アート思考」をロジカル思考とデザイン思考と比較して理解する

ここでは、「アート思考」をロジカル思考とデザイン思考と比較して、整理します。以下の図1の構造を念頭におきつつ、考えましょう。

図1:アート思考の位置づけ

ロジカル思考」と「デザイン思考」の基本的な説明

まずは、ロジカル思考とデザイン思考について、簡単に説明します。

ロジカル思考とは、他者(顧客)の視点に立って顕在化した課題を、論理的かつ定量的に考えることで、解決に導く思考です。MECEやロジックツリー、三段論法などのフレームワークをよく用いることが特徴です。ロジカル思考については、ご存じの方も多いと思います。

デザイン思考とは、他者(顧客)と頻繁にコミュニケーションをとることで、潜在的な課題を見つけて、それを解決するための道筋を明らかにする思考です。

例えば、エンジニアの世界では、最終的なアウトプット(完成品)を顧客に納品する前に、試作品(プロトタイプ、モック)を素早く作って、顧客に見せることがよくあります。これは、こまめに方向性のすり合わせをすることで、手戻りを防ぐ狙いがあり、アジャイル開発と呼ばれています。デザイン思考に基づいた開発手法であるといえます。

「アート思考」の議論を整理して全体像を示す

ここから本題のアート思考について解説します。

アート思考には、すでに有識者によるさまざまな定義がありますが、複雑でわかりにくいものが多いです。したがって、ここではそれらをまとめて整理した上で、筆者の考えを加えながら、アート思考について考えを深めます。

まずは、以下の図2をご覧下さい。

図2:アート思考の全体像

筆者は、「アート思考」は自己を起点(思索)として潜在的な課題を見つけて(発見)、その課題を自由な形式で表現する(提示)することで、他者がそれに意味を見出して(解釈)、アクションを起こす(解決)ことで、結果的に世の中の課題を解決に導くための思考だと考えています。

これを聞くと、ビジネスにアート思考を応用できる気がしてきませんか? 次章では、アート思考をビジネスシーンで活用する可能性について言及します。

「アート思考」を身につけるとビジネスでどのように役立つのか

ビジネスにとって大事なことは事業の利益を増やすことです。利益を増やすためには、「①売上を増やす」あるいは「②費用を削減する」必要があります。アート思考は、「②費用を削減する」ことよりも「①売上を増やす」ことを目的にする場合が多いと考えられます。では、具体的にどのように売上を増やすのか? ここでは、3つのケースを説明します。

将来的な顧客ニーズを予感して市場を作る

アーティストは、しばしば時代を先読みするような作品を生み出します。それは、彼ら自身が自己と深く向き合い、にじみ出てきたものであり、想像力の賜物です。これらは決して、他者を起点にするロジカル思考やデザイン思考から生まれることはありません。

アート思考では、他者ではなく自己を起点にすることによって、予測が難しい将来的な顧客ニーズを予感して、新しい市場を作る発想が可能です。つまり、市場シェアを奪い合うゲームから、市場そのものを創造するゲームに、土俵を変更することができるのです。

新しい製品・サービスでイノベーションを生む

Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズは、顧客は自分たちが求める製品・サービスがわかっておらず、目の前に出されてはじめて、ニーズを見つけられると考えていました。そのため、自己起点でiPodやiPhone、マッキントッシュなどのさまざまな破壊的イノベーションともいうべき、革新的な製品を世の中に残しました。

スティーブ・ジョブズは、「禅」に通じていたことでも知られています。禅は、自分自身に対する深い内省を通じて、新たな洞察を得ることができる方法です。また彼は、革新的な製品に付随するAppStoreやiTunesなどにおいて、さまざまなアプリケーションやコラボレーションが生まれて、社会にとって意味のあるイノベーションが生まれる土壌も作り出しています。

上記を考えると、スティーブ・ジョブズは「アート思考」に基づいてイノベーションを世界中に起こしてきたことがわかります。アート思考は、イノベーションが求められている日本のビジネスにおいて、もっと理解されるべきものだといえるでしょう。

今までにないCXをゼロベースで設計する

アート思考は、「体験」を大切にする考え方です。体験は、CX(Custmer Experience)と言い換えることができるでしょう。近年、CXはビジネスにおいて非常に重要視されている要素です。なぜなら、購買への導線として、口コミやレビューの重要性が指摘されており、これらを促進するのが、顧客の購買行動を包括的に意味するCXという概念だからです。

CXを向上させるためには、既存の方法に縛られずにゼロベースで、新しい体験を考え出す必要があります。アート思考は、自己起点であるが故に、先入観を排除して、今までにないアイディアを思いつくことを可能にします。これは、他者起点であるロジカル思考とデザイン思考では、なかなか実現することができません。

どうやって「アート思考」を身につければいいのか

ここでは、アート思考を身につける方法を解説します。個人的には、現代アートを教材にして少しずつアート思考のコツを身につけていくのが、一番自然だと考えています。さらに、著名な経営者の多くは、現代アートに通じているため、教養としても現代アートを鑑賞することは、将来的な自己投資になるでしょう。基本的には、これから述べる3つのことを頭に入れておくと、役に立つと思います。

1. 現代アートへの解釈に正解はないことを知る

現代アートには、正しい解釈があると思っている方もいると思います。しかし、それは誤解です。実際のところ、ある作品に対して解釈の余地が多いほど、その作品は良いものであるという意見もあるくらいです。例えば、マルセル・デュシャンの「泉」(1917年)という作品は、男性用小便器にサインがされているだけです。しかし、現代アートの起源ともいわれていて、さまざまな解釈が存在します。

2. 現代アートに触れて解釈することを繰り返す

現代アートに触れて、自分なりの解釈をすることはとても大切です。現代アートが敬遠される理由に、理解のしがたさがよくあげられますが、それはむしろ自由に解釈する余地があることを意味しています。現代アートに対する解釈を繰り返していくうちに、作品に込められたストーリーを感じることができます。

3. 現代アートへの解釈を議論・発信する

現代アートに対する解釈は、他者と共有することでより深い洞察へと進化していきます。そのため、現代アートに興味がある友人・知人がいたら、一緒に美術館やギャラリーに足を運び、鑑賞後にお互いの考えを議論しましょう。また、ソーシャルメディアを通じて自分の解釈を発信することで、理解を深めることができると思います。

まとめ:「アート思考」は特効薬ではなく起爆剤である

「アート思考はビジネスに役立たない」という意見をよく見かけます。確かに、ロジカル思考やデザイン思考とは異なり、アート思考は、ビジネスに即効性のある考え方ではありません。しかし本文でも述べたように、これからのビジネスに、アート思考が果たす役割は大きいと考えています。アート思考は、一朝一夕で身につくものではありませんが、新しく趣味をはじめるつもりで、現代アート鑑賞に出かけてみては、いかがでしょうか。

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