VUCAな世界で生き残るために必要なスキルとは? -世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか-経営における「アート」と「サイエンス」書評

長期にわたる不景気のため、いつからか日本は得体の知れない閉塞感に包まれています。景気の良い時代を知らない世代は、地に足の着いた悪く言えば小さくまとまった目標を持ち、大きなビジョンや夢を持つ型破りな人物になかなかお目にかかることはありません。逆にバブル経験のある世代はかつての華やかな狂想曲から抜け出せず、ますますそれぞれの世代のギャップや、自分と異なる世代に対しての不寛容さが深まっているように感じる昨今の日本。その日本に欠けているものとは一体なんなのでしょうか。この本、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか-経営における「アート」と「サイエンス」』を読めば、今の日本に足りないもの、私たちビジネスパーソンが鍛えるべきスキルについて目から鱗の瞠目すべきポイントを知ることができます。一冊の本から、日本全体に良い変化を生み出せる可能性すら感じさせる働く人すべてにお勧めしたい本です。この記事ではこの本の書評を紹介していきます。

VUCAな世界に気づくときが来た

私たちは今、様々な事柄との関係性によりものすごいスピードで絶えず変化していく世界経済状況のなかで、いかにビジネスを維持し、拡大していくべきなのか誰もが四苦八苦しています。AIの台頭、自動運転の車、SNSの隆盛、溢れる情報や動画…. 以前には想像すらしていなかった物事が突如として現れあっという間に社会に浸透し、それについていかなくてはならないことばかりです。どう行動していくべきなのかの規範になるものを探したくとも、それもかなわず、いたずらに上層部が掲げた目標やビジョン、予算をなんとか達成するために、懸命に努力を続けているビジネスパーソンも多いことでしょう。

「VUCA」という言葉をご存知でしょうか。VUCAとは、もとは米軍が使用していた軍用語で、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたビジネス用語です。2010年代から軍から一般社会に使用されるようになってきました。1990年代以前の戦争は、国と国との戦いであり、参謀本部が作戦を立案し、現場の部隊が作戦を実行していけば戦争の対応ができました。ビジネスも同様で、経営陣が経営戦略を立てて、現場が実行していくスタイルであり、軍隊もビジネスでも組織の形式はピラミッド型をとって対処可能であったのです。しかし、ご存知のとおりアルカイダが実行してきたテロ行為をアルカイダとアメリカとの戦争としてピラミッド型の作戦実行形態をとっても、アルカイダを壊滅することはできませんでした。アルカイダは国ではなく、様々な国から集まったものの集団であったからです。そのため従来型の方法では対処できなくなったという状況です。アルカイダと関係諸国との戦争のスタイルを呼ぶのにVUCAという言葉が生まれたという経緯があります。

ビジネスの現場においても、AIなどに見られるテクノロジーの進歩はスピードが早いため予測も難しく、世界経済の市場は不確実性や不透明性を増した状況であり、ビジネスの周辺の状況は非常に不安定となったため、VUCAが用いられるようになりました。
いつの間にか、私たちビジネスパーソンはVUCAな世界へと放り出され、これまでの経験やスキルも歯が立たない状況を迎えていたのです。

高度成長期から変化していない日本の状況


一方日本では、第二次世界大戦での敗戦により焦土になった苦い経験から立ち直ってアメリカのような豊かな国をめざすため、国民が一丸となって高度経済成長を遂げました。アメリカのようになるために、アメリカを模倣し、アメリカに勝つために、お得意の自己犠牲精神も相まって長時間労働により量産とコストカットしたものづくりを実現。バブル期に完全に日本は世界のナンバーワンに躍り出ます。しかしそこで、日本は悲劇に見舞われる事になります。日本は一位になり世界に勝つため、「24時間戦えますか」というほどに死ぬ気で働いてきました。

しかし、トップになってしまうと、次の目標を見失ってしまったのです。これから日本をどうしていくべきか、ビジョンをしめさず豊かさとは何かを見誤り、あらゆることも自家中毒のようになって消耗戦を続け、それはバブル崩壊後も解消されていないと感じます。日本にも、日本企業にもビジョンを描ける人物がいないのです。ビジョンと言っても、いたずらに数字を昨年対比で増やそうであるとか、アジアのトップを目指すというものが多く、その企業ならではの命題や人々を魅了する新しいビジョンを描くことのできる企業はごくわずかです。

今の日本企業に足りないものとは

そこでこの本の筆者山口周氏は、長らく企業のコンサルティングを行う業界での経験から、今の日本に足りないものを明快にこの本で記しています。それは、企業トップにおける「アート」の必要性です。山口氏の言う「アート」というのは、アート作品を批評できる絵心やスキルのようなものではなく、物事を判断したり、ビジョンを表現できたりする方向性の持ち方、のようなもので、仕事をするうえでの「美意識」とでも説明できるスキルのことを指しています。

山口氏は、日本はじめ多くの国の企業では、「クラフト」と「サイエンス」に仕事が偏重し、「アート」の必要性が理解されていないと説いています。「クラフト」とは、社歴の長い経験者が持っている前例を知っているというスキル、「サイエンス」とは、仕事における数字を指しています。コンサルタントファームのマッキンゼーのコンサルティング方式は、経営に「サイエンス」を持ち込み企業への事業拡大の道筋を作ることで近年成功をおさめてきたといえると記されています。しかし、それも同様のことを他の多くの企業に行なえば、企業拡大への正解の判例がどんどん増えてしまい、結果として企業の優位性が失われ、企業が本来めざすべきである独自性もなくなってしまうというジレンマが発生してしまうことになるのです。その点、企業運営に「アート」を組み込む事ができれば、明確で独自のビジョンを描き、「クラフト」「サイエンス」がアートを支えて三位一体のバランスをキープ出来れば、独自性も保たれ、企業の拡大にもつなげることができることになります。

これについての説明は様々な好例を記す事ができます。アップルの創始者であるスティーブ・ジョブズとジョン・スカリー、本田自動車工業の本田 宗一郎と藤沢武夫、ソニーの井深 大と盛田昭夫など、人々を熱狂させられるような斬新なビジョンを掲げる事のできる経営者には、経験や数字裏付けをとりながら彼らを力強く支える人物がいて、大きな仕事をやり遂げる力となったとも言えるのです。

「アート」の力を考える


もしあなたに「アート」への苦手意識があっても問題はありません。アート的側面が必要になったときに、アートを行える人材に権限委譲を行なうという方法を取ることができます。ユニクロにおける佐藤可士和氏、無印良品における深澤直人氏など、企業がクリエイティブディレクターにそれらを外注していることがいい例です。この2社の世界での成功は、企業活動における「アート」に対しての重要性への理解から成された結果であるともいえます。

そして、山口氏の主張するアートの意味とは、「真・善・美」を内在したものであるとも言えます。このVUCAな世界において「真・善・美」を考え判断を下した事柄は、結果的に正しい判断になりうる可能性が高くなるのです。感覚的に美的判断を行うというと、非常に懐疑的な立場をとりたくなる人も多いとは思いますが、ある一方で、知的エリートが行う仕事や主張に対して、物足りなさや納得のいかない気持ちになったことはないでしょうか?そのうまく説明できなかった違和感は、彼らの「アート」のなさに立脚していたのだと、この本を読んだあとに気づく事ができます。

これまで、日本企業にないがしろにされてきた「アート」による判断は、時代を超えてもゆるがないような深い感覚を根本に持っているため、現代社会の表面的な変化や動向に左右されない強固な判断基準を生み出すことができるのです。従って、ビジネスパーソンは、すばやく正しい判断を行うスキルを向上させるためにも、積極的に美意識を鍛えるべきであると山口氏は主張しています。

まとめ

この本を読み、現代のVUCAな世界の波を乗り越え、新しく豊かな未来を切り開くために、美意識をみがくことが問題解決の糸口につながるということにしごく納得しました。シンプルな表紙のこの新書から、これほどにも示唆や教訓が得られるとは思ってもいませんでした。現代は、人々が行う消費行動があらわす意味にも変化が産まれている時代です。世界全体が、基本的消費活動を実現し、最終的には自己実現のための消費活動をしているという誰もが体験したことのない経済活動の世界に済んでいます。消費することで自分を表現しようという人々のなかで、どう生きていくべきなのか、どう美意識を磨いていくべきなのか、すべての働く人にこの本を読んでみることをお勧めしたいと思います。

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