事例紹介
2018.09.13

追悼、さくらももこ氏のエッセイ『もものかんづめ』に見る仕事術

いまやサザエさんとならんで、忙しい週の終わりをほのぼのとしたものに着地させてくれる日曜日の定番番組、『ちびまる子ちゃん』。そんなちびまる子ちゃんを、少女漫画月刊誌『りぼん』での連載から読んでいた思い出のある40代の筆者にとって、作者のさくらももこ氏が乳がんにより53歳で死去、というニュースは大変ショックなものでした。
年を取り、いつのまにかコミックもテレビアニメも見ないようになっていましたが、さくら氏の死去から派生したニュースなどから、彼女のエッセイを思い出し、ふと読んでみることにしました。難しい言葉使いも少なく、文字量も決して多くはありませんが、その無駄のない文章に、ふと鋭さやユーモア、人にむける温かい眼差し、そして根底にある知的さなど、多くの発見がありました。この記事では、さくらももこ氏のエッセイ『もものかんづめ (集英社文庫)』から仕事へのヒントを探っていきたいと思います。

エッセイ『もものかんづめ』とは?

『ちびまる子ちゃん』のテレビアニメを見ると、ほのぼのとしつつも、客観性を持った冷静さでいつも周囲を観察している不思議な女の子のユーモアを感じます。そのまる子ちゃんは、他でもない作者のさくら氏はまる子ちゃんのようであったと言われます。そんなさくら氏は、漫画家であるとともに、エッセイストでもありました。多くのエッセイを世に送り出していますが、彼女のもつ独特な切り口のエッセイの初期3部作は、いずれもミリオンセラーを記録しています。その最初に発売されたエッセイが『もものかんづめ (集英社文庫)』です。何ともとぼけたタイトルが、読者に身構えさせずゆるりとした気持ちで本を読めそうだという印象を与えます。

このエッセイでは、さくら氏の日常の中で感じたことや、なぜか巻き起こる奇妙なでできごと等が、淡々とペーソスある文章で書かれていきます。
うら若き青春時代、なぜかなってしまったにっくき水虫との戦いの日々。短大時代にアルバイトしていた、存在意義のなさそうな健康食品売り場でのできごと。2ヶ月間だけOLをしていたときに体験した恐怖の新人歓迎会。うっかり購入してしまった怪しい学習枕。日常を書いただけなのに、小学生でもお年寄りでも、どんな年齢の読者もさくら氏の不思議なユーモアの渦に巻き込まれてしまいます。

記憶力の確かさ

まず一番このエッセイを読んで驚いたことは、さくら氏がエッセイを書いた年齢から10年以上前のことでも、詳細にわたって表現できるという、記憶力の確かさです。例えば、いつもばかばかしいくだらないものを買ってしまう、という章。さくら氏は17歳のときに購入した「睡眠学習枕」なるものについて書いていますが。その枕を、さくら氏が38,000円で購入して、買ったときの家族の批判的なコメント、それに対してのさくら氏の反論、どのように枕を使ったか、などが、仔細にわたり描かれます。筆者はそこに、不思議な観察力とともに、すぐれた記憶力のスキルを感じました。筆者の経験から言えば、時と場合にもよりますが、仕事でも、プライベートでも、以前のことを思い出すときには自分が感じたことや、周囲の情景など、かなりざっくりとした記憶で思い出すことが多いです。

しかし、さくら氏は一見地味な日常を事細かに思い出して表現し、しかもそこにユーモアという味付けを施すというスキルを発揮するのです。そんなところに国民的作品を生んだにふさわしい力量を感じます。記憶力は、ビジネスでも大いに役立つスキルです。近年、ビジネスにおいては、ナレッジマネジメントの観点からも言えるように、仕事にまつわる情報は周囲と共有できるよう会社専用のデータとして保存し、頭の中には余計な情報がなくすっきりとさせて、判断力や仕事のペースアップをさせることが望ましいという考え方が主流になっているように感じます。しかし一方で、全ての仕事の情報を逐一ナレッジマネジメントのデータベースから確認するというのも、手間取るときもある可能性も否定できません。そして、自分の記憶とデータベース化された情報との整合性を確認して仕事を進めることが必要なこともあるでしょう。この記事を読んでいるあなたも、平凡な日常を、こと細かく記憶できるか。そしてそこから教訓や学びを感じ取れるか、意識してみてはいかがでしょうか。

くだらなさを楽しむ勇気と好奇心

前出の睡眠学習枕とは、英単語など、脳に記憶させたいことを録音しておいて、枕から録音音声を流して、寝ているときに記憶を定着させようとした枕のようです。そして録音するために自分自身で英単語を吹き込まなくてはならなかったようです。録音された自分の声がだらだらしており、しかも父ヒロシがいたずらに入れたドリフターズの往年のギャグも一緒に録音されてしまったために実際使用した睡眠時にはうまく寝られず、不気味な音声が聞こえてくると姉からも文句を言われてしまい、その枕は一日使用しただけでお蔵入りとなったそうです。はっきりいって、どうして買ってしまったのか、くだらないといえばくだらない代物であるのに、それを使ってみようと思うさくら氏の勇気のような気持ちと、純粋な好奇心をこのエッセイから感じました。

ほかにも、2ヶ月だけ短大卒業後に新入社員として、事務職のOLを経験したさくら氏が、就職先の営業課が行った花見大会に参加したときのこと。貴重な休みの土曜日の午後を会社の花見にさくことはしのびなかったのに、新人として場所取り、荷物運び、そして芸の披露など、しっかりとつとめあげます。はっきり言ってさくら氏も辛くばかばかしいと述べているこの花見への参加ですが、ここでもくだらなさを楽しんでいる、そしてそこでの同僚達の悲喜こもごもを観察し、面白おかしく表現することに昇華していることがわかります。私たち日本人は、意外とさくら氏のように、仕方なく何かに参加して、それをばかにしつつも楽しんでしまうという性に逆らえないのかもしれません。そんな氏の姿勢に、読者はカタルシスを感じさせられるのではないでしょうか。

近年の無駄を嫌う風潮や経費削減という観点からみても、会社での過剰なイベントなどは少なくなってきていますが、ビジネスの場でも、どうしようもなくくだらないことや、しなくてはならないが、やりたくない事に参加させられることもあるでしょう。そんなときに、自分を含め、その人となりの真の姿を垣間見ることができるときがあります。どんなに嫌なことでも、やってみたらこの先どうなるか、という好奇心を持って、楽しんで挑戦してみることで貴重な気づきを得られるかもしれません。

初志貫徹力

さくら氏はOLをやめたその年の1984年、漫画家としてデビューし、その後も34年にわたり活躍しました。2014年に行われていたイベント、「さくらももこデビュー30周年記念原作まつり」において、さくら氏はこのように述べています。「30年間、良いことも大変なこともいっぱいありましたが、私は作家としてとても幸せな月日を送らせていただいています。感謝にたえません。」

参考URL: http://www.sakuraproduction.jp

この言葉は、心から好きで自分を捧げられる仕事に就いて、充実した仕事の実績を残してきたからこそ言える、本物の言葉でしょう。そのような仕事に就ける人は本当に幸せです。好きな仕事に就くということには、嬉しさや幸せと同時に、厳しさやつらいことも沢山あるでしょう。特に漫画家というクリエイティブな仕事は、自分で全てを生み出さなくてはならず、しかも締め切りに追われる仕事です。自分を律し、多くの責任を負い、自分の限界を常に超え続けなくてはならないプレッシャーに日々さらされるという、非常にタフな仕事であると推測されます。

漫画家というひとつの仕事を愛し、デビューから亡くなるまでひとつのことを続けられた精神力と初志貫徹力に頭が下がる思いです。仕事に一貫性を持ち、実績を残し続けることは、ビジネスパーソンにとっても重要なことです。もし、転職を数多く行っていても、その業務内容に一貫性があり、前職での経験をいかして他の職場に就いていることがアピールできるのであれば、プラスな評価を得ることができます。逆に、転職を繰り返している際の業務内容に一貫性がなく、経験を生かしているとはいえない転職しかできていないとすれば、以前の仕事はスキルアップにつながっていないことが露呈してしまいます。自分の仕事に一貫性を持てば、以前の経験と今の仕事のシナジーが生まれ、大きな働きをすることにつなげられることを意識していたいものです。

批判やマイナスな発言を行うときにはユーモアを忘れずに

このエッセイ『もものかんづめ (集英社文庫)』において、一番注目され議論や批判があった章とは、さくら氏が同居していた祖父が亡くなったときのものでしょう。氏は、自分の祖父を、「ろくでもないジジィ」「ズルくてイジワルで怠け者で、嫁イビリはするし、母も姉も私も散々な目に遭った」とバッサリと切り捨てています。いまでこそ親のことを毒親など称し、子にとって有害な親について言及することが比較的タブーではなくなりつつありますが、このエッセイ発売当初の1991年は、いまほど肉親についてこのような思いを口にできる人はいなかったのではないでしょうか。

しかし、さくら氏ははっきりと、自分の主張を行なっています。父親と母親、姉は好きだったが、祖父は嫌いで、祖母もあまり好きではなかったとはっきりと記しているのです。どんな立場でも自分の意見に自信を持ち、主張できる勇気には、いまも目を見張る思いです。しかし、さくら氏の主張には、常に独特ユーモアもまた存在しているのです。そのため、毒について述べても、人にひどく嫌な気持ちを与えずに、どうにもできない哀しみとペーソスを感じさせることに成功しています。
もし、ビジネス上においても、嫌なことや害悪に対峙しなくてはならないときがきたら、それに悲壮感や自己愛とで独りよがりに対峙するのではなく、ユーモアを忘れずに対応すれば、周囲の理解も得やすくなるのではないでしょうか。

まとめ

もものかんづめ (集英社文庫)』のように、一見ビジネスと離れているようなエッセイや文章でも、仕事へのヒントに役立つ考え方を見つけることができます。みなさんも、ジャンルや作者に拘らず、現在の自分の琴線にふれた作品を読んで、世界を広げてみましょう。そして、この記事で紹介したさくら氏のエッセイに見られるスキルについても意識して読んでみてはいかがでしょうか。

プロジェクト管理の悩みに効くサプリ

現代の複雑化したビジネスの世界であなたのプロジェクトを成功に導くためには、高いレベルでプロジェクトを管理していかなければなりません。
そのために必要になるプロジェクト管理のための方法論とツールについて学んでいきましょう。

詳細を確認する

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

同じタグのついた記事

同じカテゴリの記事