マネジメント
2018.06.12

熟練工/職人から学ぶナレッジマネジメント

新入社員と、彼らを受け入れる既存社員たち。
一緒に仕事をすることが使命である彼らは、初めのうち共通の経験がありません。お互いがどのような人物で、どのような仕事ぶりであるのかを少しずつ仕事を通して理解し合いながら、共通する経験や何かを得、仕事やコミュニケーションが回り始めます。
しかし、このように自然なかたちで仕事やコミュニケーションが運ばない職場も存在します。例えば、吸収された会社と、親会社が一緒になってしまった職場などは、それぞれがもとの会社のアイデンティティを守るかのように、合併前の仕事の仕方にこだわり、奇しくも同僚となってしまった社員の足を引っ張ったり、妨害したりしてしまう場合すらあります。
このような職場にならないために、社員がすべきことは一体どんなことでしょうか? ここでは、どんな職場でも必ず持つべきナレッジマネジメントについて、熟練工や職人達の働き方からヒントを探っていきます。

「人」を頼った知識の危険性


入社すると、ほとんどの会社では、研修などが用意されています。
研修を受けることによって、これから自分がしようとする仕事の概略や、仕事の方法を学ぶことができます。同時に、その仕事に邁進しようとする、覚悟も養われていきます。一般的な企業研修は、週単位で終わる会社、月単位教育を施す会社など、期間はさまざまです。

一方、ひとつの仕事や技術を習得するために、長い期間を要する熟練工や職人たちがいます。ジュエリー製作、カバン製作、旋盤工や料理人、伝統工芸など、さまざまなものを作る職人がいますが、彼らは、研修を経て仕事を始めるというよりは、まず弟子をとる親方、先生などにつき、彼らから多くを学んでいきます。料理人などは、まずツールを洗ったり、素材の皮むきなど下準備ばかりに何年も修行期間を費やし、一人前になるまでには10年以上かかるなどともよく聞きます。

筆者に革製品の製作業をしている友人がいますが、著名な会社に勤務する彼も、やはり一人前になるまでに10年単位で時間がかかると話をしていたのを思い出します。職人や熟練工になるためには、非常に長いスパンでの技術習得が当たり前のようになっているようです。しかも彼らの世界では、先輩や上司の背中や行動からすべての仕事を学ぶという方法がよく見られます。見よう見まねで技術を習得していくスタイルは、習得までの時間がかかることも問題のひとつですが、その技術習得のために教えをこう人物が一人だけの場合、その人物になにか問題が発生し、仕事ができなくなってしまったとき等は、技術習得の学びが中断したり、できなくなってしまう危険性があることが非常な大きな問題です。他にも、その熟練工や職人だけしかできないという仕事をしながら、弟子の育成をすることは、彼らの負担が増えてしまうというリスクもあります。

少子高齢化の日本社会においては、働き盛りの年代のビジネスパーソンは、子育てや介護など、仕事以外にも役割を求められ、時間を割く必要性がある人がたくさんいます。彼らを仕事だけに従属させようとする世の中では、多様性を維持できなくなってしまいます。そのようなことのないように、その「人」自体に頼った知識をそのままその人に内在化させたままにしないようにし、その「人」がいなくとも、その人の知識を共有できるツールが必要になってくるのです。特に、小さい会社などでは、少数精鋭で仕事をしてきた人材に知識が蓄積されていくわけですが、いざ業務拡大のために人員を増やしても、少数精鋭時代の人材の知識が新しく仲間になった人材に共有されなければ、会社の進歩は望めません。人が仕事を行なっていくなかで、それを自分の手柄のように自分の中だけに抱え込み、蓄積していくのではなく、知識を共有できるように、その会社にあったデータベース化等を構築していき、ナレッジマネジメントを進めていくべきであるということについて、ビジネスパーソンは理解を深めていくべきでしょう。

知っている? 暗黙知と形式知

仕事を教える側と教えられる側。彼らを隔てるものがあるとすれば、これまで働いてきて自然に身に付いた経験や、経験を増やすことで養われた勘のような知識でしょう。こういった、目に見えないが、仕事で役に立つ有効な知識は「暗黙知」と呼ばれているわけですが、この「暗黙知」の有無で、同僚を見下したり、マウンティングしたりすることは本来ならばあってはならないことです。職人や熟練工の技術習得の場合においては、親方や上司が入門したての若い衆を経験不足=「暗黙知」の不足ととらえ、まだ一人前でないと見なし、重要な仕事をさせない時代や、そんな場合もあったかもしれません。

しかし、働き手がどんどん減っていき、貴重になっていくこの時代において、経験不足を理由に働かせないというのでは、いずれ仕事が立ち行かなくなってしまいます。「暗黙知」の不足を補い、どんな人材が仕事をしても、まずまずの結果を出せるようになるための共有できる知識である「形式知」を理解し、構築していきましょう。「形式知」とは、暗黙知をテキスト化、データ化などして、知識として周囲に共有できるようにした知識です。そして、その形式知をただ単に構築するのではなく、いかに職場において通底させて、活用できるようにするのかが、組織にとっての大事な鍵になっていきます。

話せばわかる? 一個人が暗黙知を形式知に変換してくれるようにするには?

一流の職人や熟練工の人たちが、自分自身で身につけたスキルや知識を、形式知に変換して、周囲の同僚たちに共有させることについて抵抗を覚えるものでしょうか? もしかして、彼らが親方たちの背中から死ぬ思いでやっと学んで身につけた技術を、いとも簡単に誰にでもわかりやすくできるようにすることを嫌がる人もいるかもしれません。自分が味わった苦労と引き換えに身につけた知識です。そのような抵抗も理解できますが、彼らが過ごしてきたこれまでと、これからの時代のスピードはかなり違うことを理解しなければなりません。

今やAIがさまざまな仕事を人間に変わって行なう世の中、家庭にもAIスピーカーなども進出し、誰もができる仕事はロボットが行なうように変化していきます。時代の変化に柔軟に対応できる能力こそ、これからの時代をサバイブしていくために必要な能力の一つに他なりません。人に宿ったまま有効活用されていない知識を、いまこそ形式知に変換し、共有させていくべき重要なタイミングなのです。

アーカイブの重要性を知る

筆者は以前フランスの手帳メーカーに勤務していました。フランス本社に見学に行ったときのこと。手帳のカバーの生産については、縫製や名入れなど、かなり職人的な作業を要するものも多かったですが、かなり前の年代の手帳のカバーなど細かいものが、時系列で整然とファイリングされていることに圧倒されました。そのころはまだEVERNOTEなどもない時代でしたので、ファイリングもデジタル化されたものではなく、手帳やカバーの現物や指示書のようなものなど、すべて、フォルダーにファイリングされていました。フランスではハンギングフォルダーのようなファイリングシステムが主流で、以前からのものが分類され、保存されており、何かを探すときも非常にわかりやすいことこのうえなく、まさに「ナレッジマネジメント」を見たという経験です。

そこから感じたことは、物事は、時系列で、整理されていない限り、知識になり得ない、という当たり前の事実です。時系列がばらばら、または整理が悪く、あるものとないものがある、というのでは知識として有効活用することは難しいことでしょう。幸い、現在は断捨離やライフオーガナイザーなど、あらゆる物事を整理しようという考え方の人が増えてきています。仕事の知識も、整理して、ナレッジマネジメントを徹底させましょう。ただし、気をつけなくてはならないことは、いらないものをどんどん捨ててしまうことです。何かを残しておかないと、まるで、何も無かったかのように思われてしまうときもあります。知識を構築するときに、取捨選択を確実に行なうようにしてください。

整理整頓でゆとりを産む

整理整頓された空間というのは、気持ちがよく、リラックスできるものです。
仕事でも、会社やデスクの整理整頓だけでなく、ナレッジマネジメントを行なって知識の整理と共有をはかれば、どんな人材でもある一定のレベルで仕事ができるようになります。そうすれば、それまで一人で仕事をしてきた熟練工や職人も、他の人と仕事を共有し、時間のゆとりを持つことができるようになることでしょう。
暗黙知を形式知としてナレッジマネジメントをはかるには、かなりの時間や手間がかかるかもしれません。しかしそれをうまく運用できるようになれば、日々の業務の効率化とゆとりある毎日につなぐことが可能になるのです。ぜひみなさんも、身の回りから、ナレッジマネジメントについて考えてみてください。

 

効果的なマネジメントの処方箋

組織の潜在能力を引き出してビジネスを成功に導くためには、タスクや時間、そして人に対して、適切なマネジメント(管理)を実践することが必要不可欠です。
しっかりとした方法論に則って、効果的なマネジメントを実現させましょう。

詳細を確認する

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

同じタグのついた記事

同じカテゴリの記事