事例紹介
2018.08.27

「インクレディブル・ファミリー」にみるピクサー映画の時代へのアピール能力とは?

日本では2018年の8月1日から公開となっている「インクレディブル・ファミリー」(原題:Incredibles 2)。この映画は、2004年公開の『Mr.インクレディブル』の続編です。夏休み中公開にぴったりの、子供から大人までが楽しめるこのアニメーション映画は、アニメーション映画のなかでも確実にヒット作品を生み続けるピクサー・アニメーション・スタジオ製作によるもの。ピクサーの長編映画としては『リメンバー・ミー』に次いで『トイ・ストーリー』から数えること20作目という節目にふさわしい作品に仕上がっており、先に公開の始まったアメリカでは、公開3日間の興行収入が1億8000万ドルを突破し、アニメーション映画としては歴代1位のオープニングを記録しています。
日本でも公開から大評判のこの映画、子供だけでなく大人にも訴えかけるこの映画について、この記事では紹介していきます。

あらすじ

第77回アカデミー長編アニメ映画賞を受賞したディズニー/ピクサーの大ヒット作である「Mr.インクレディブル」から14年ぶりとなるこの「インクレディブル・ファミリー」。
前作のシンドロームとの戦いから3ヶ月後。法律でヒーロー活動を禁じられながらも、人々を救うために、街を攻撃するアンダーマイナーと戦うインクレディブル・ファミリーことパー一家。街の危機を救うために起きてしまった破壊状況から、警察に事情聴取されてしまいます。

そんな中、イラスティガールことヘレン・パーに、スーパーヒーローの大ファンで、再びヒーローを世の中に認めさせようと試みる通信会社を経営するウィンストン・ディヴァーと、彼の妹であるイヴリン・ディヴァーから、ヒーローの復活をかけた任務の依頼が届きます。その任務とは、ヒーローが活躍する姿を世の中に見せ、ヒーロー活動が再び法律で認められるようになることを目指すという目的でした。任務を請け負ったヘレンが任務を遂行している間、彼女の夫であり伝説のヒーロでもあるMr.インクレディブルことボブ・パーは、三人の子供の世話や家事に悪戦苦闘。そして、そんな家族の前に、新たに立ちはだかる敵とは?

家事と育児を仕事と並列に考えられるか

ピクサーは、一つの映画を作るまでに、脚本を練りに練ってから仕上げていくと言われます。そのため、前作の「Mr.インクレディブル」から14年という年月が経っているにもかかわらず、斬新で目の離せない魅力的なエンターテイメントと同時に時代への問題提起を表現していきます。このシリーズの監督はブラッド・バード。彼は、何度も仕事先を変わるなどしながら、ようやく映画監督という職業へと進んできた苦労人です。その姿は、スーパーヒーローの姿を隠して生きるバー一家の、抑圧された普段の生活から一転、スーパーな力を発揮する場面を手に入れると生き生きとし、力を存分に発揮しようと努力する姿と重なるようです。

バード監督は男性ですが、世界の危機と家事や育児を同様に重要なものであると理解している表現者であるようです。この映画のキャッチコピーのとおり、「家事!育児!世界の危機!」。まだまだ日本においては、仕事と家庭やプライベートを別々に分けて考えている人も多いかも知れません。しかし、実際問題仕事もプライベートも同じ人物が関わっているのにもかかわらず、それらをきっちりと分けてしまうと、仕事の忙しさの極限の時、プライベートで問題が起きたとき、限界やジレンマを抱えてしまう恐れがあります。仕事でも、プライベートであっても、様々なシチュエーションで、それぞれ問題点を共有しておけば、何か起こったときにも対応がしやすくなります。

実際、この作品でも、ヒーローを復活させるため、ヘレンがデフテック社のウィンストン・ディヴァーと、彼の妹であるイヴリン・ディヴァーからヒーロー活動を持ちかけられたときのこと。ボブはヘレンに、家族のことを任せても大丈夫なのか?と言われてしまいます。それだけ、ヘレンがいないと家族のことがまわらない。ボブは家族のことがわかっていないのではないかとヘレンが感じていることがうすうす分かる雰囲気を醸し出します。超人的な能力を持つ、このスーパーヒーロー一家でさえも、それぞれの状況を深く理解して補い合うということはなかなか難しいことであることがわかります。家族としての問題点を、仕事のことだからといって分けて考えるのではなく、どんなことでも共有して補え合える関係は理想的です。

新しいヒーロー観の誕生

ゴムのように伸び縮みさせることのできる身体の持ち主、ヘレンことイラスティガールが、スーパーヒーロー活動で目覚ましい活躍を遂げ、社会的にも評判になり、華々しく様々な媒体に取り上げられる一方、車を持ち上げたり、猛スピードの電車を止められるなど、驚異的な怪力と強靭な肉体、超人的なパワーの持ち主である夫のボブは、家のなかで三人の子供の世話、育児に頭を悩ませます。長女のバイオレットは14歳。自らの周りに紫色のエネルギーバリアを張って身を守ったり、バリアをぶつけて攻撃も可能。また、自らを透明化することもできるパワーの持ち主ですが、お年頃の14歳。恋のあまり自信を失い、思春期ならではの悩みを抱えています。

長男のダッシュは10歳。時速300km以上の超音速で走ることができるスピードを誇り、その速さはビデオでも捉えられず、水上も走れるほど。普段は算数の苦手な小学生。ボブにいつも問題の解き方を聞いてきて、ボブの頭を悩ませます。

次男のジャックは赤ちゃん。前作の終盤からパワーが覚醒。目からレーザー光線、全身を炎に包む、怒ると怪物の様な姿に変身、分身術、空中浮遊、異次元移動、巨大化など、17種類のスーパーパワーの持ち主ですが、そのパワーを任務中のヘレンに心配かけまいと、ボブは知らせません。そのパワーがいつどのように発揮、炸裂するかわからず、ボブは戸惑い、対処に疲れ果ててしまいます。

このように三者三様の問題や特徴があり、育児にスーパーヒーロー活動以上に全身全霊をかけて対処しようと努力するボブですが、よかれと思った行動が裏目にでたり、思うようにいきません。しかし、ボブは映画でバイオレットに、問題へ、ひとつひとつ対処していくしかないのだ!という考えを話します。そのセリフは、日本語の吹き替え版で三浦友和さんが演じ、非常に説得力がありました。また、スーパーヒーローも人で、普通の人たちのように日常に様々なことに悩み、戸惑う姿が描かれることも印象的です。そしてスーパーヒーローであるボブに「父親」としての役割を担わせ、妻の仕事に理解を示し家事や育児に忙殺させるという設定に、前作から14年という年月の間において、世界でジェンダー観の大きな変化があったことを感じさせられる映画でもあります。

大人へのアピールも忘れないピクサー

前作のMr.インクレディブルから14年ぶりに公開されたこのインクレディブル・ファミリーは、14年の間、世界で起こったジェンダー観の変化や、夫婦、家庭、様々な環境の変化を丁寧にすくいとり、前作とのギャップを感じさせずに現代にマッチさせるという高度なストーリーを作り上げています。それはまさに、ピクサーの面目躍如たるものです。また、アニメ映画という、一見子供むけのこの映画において、大人が楽しめるポイントを多く設定しているところも興味深いです。実写のヒーロー映画などと比べてもその上を行くレベルではないかと感じさせる視覚的に圧倒されるに映像の連続は、目が離せず、アクション描写も素晴らしいものでした。そして驚くのは、最後のエンドロールの長さ。ピクサー映画はいつもエンドロールに流れる人の名前の羅列に驚かされますが、今回もやはり長いものでした。しかも、それらが007仕立ての本格的な音楽にのって流れ、独特な臨場感がありました。この作品に携わった制作者たちは、この映画に自信と愛を持っていることを、このエンドロールにかぶせるにはあまりに大げさすぎるほどの豪華な音楽から感じさせられました。

エンドロールを終わりまで見ないで映画観から立ち去ってしまうという方も、最後までその聞き応えのある音楽を体験してみてほしいと思います。

まとめ

ジャック・ジャックのもつ、赤ちゃん特有のユーモラスさも周囲の子供たちに大受けでした。子供から大人まで楽しめるこのインクレディブル・ファミリー。お子さんがいる方も、そうでないかたも、ぜひこの映画をみて、新しいヒーロー像やピクサー映画のストーリーテリング能力を堪能してみてください。

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