誰も教えてくれないエンタープライズ系システムのWebデザイン

私は月末になると、いつもイライラします。

毎月20日ごろ、請求書の作成にクラウドサービスを利用しているのですが、いつも請求書を印刷してから記入漏れに気づきます。そのクラウドサービスのデザインはいかにも今風なのに、なぜ利用者にとって使いにくいUI(ユーザーインターフェイス)になるのでしょうか。

そんな疑問からWebデザインについて調べてみると、大きな発見がありました。
基幹システム開発などを手掛けるSIerが現場で当たり前のこととして学ぶ画面設計に関する情報が、どこにも載っていないのです。

そこで今回は、エンタープライズ系システムのWebデザインの大前提・基本原則をお教えします。

本記事が、Web業界でエンタープライズ系システムを開発している「SI(システムインテグレーション)業界を知らないプロダクトマネージャー・Webディレクター」の参考になれば幸いです。

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1.エンタープライズと普通のWebの違い

本記事では、「エンタープライズ」を「コンシューマ」と区別する意味で用います。

IT業界におけるエンタープライズは、会話の文脈によって主に2つの意味を指すため注意が必要です。ここでは、下記の(a)の用語定義とします。

(a) 「本やピザなどのネット注文サイト」「ホテルの予約サイト」といった、個人が利用する「コンシューマ」系のサービスと区別するために、法人向けの意味で用いられます。
(b) 大企業に向けたサービスであるほか、銀行、鉄道など社会インフラを担うシステムのことを指している場合です。中小零細企業といった「スモールビジネス」向けと区別する意味で用いられます。

エンタープライズ(法人向け)と普通(コンシューマ・個人向け)のWebの違いにおいて、Webデザインへの影響を考えたときに重要な前提のひとつは、「操作している人が、操作の結果によって価値を直接的には享受しないこと」ではないでしょうか。

たとえば、コンシューマ系Webサービスであるピザのネット注文サイトでは、利用者はピザを自らのお金で注文・購入して、届いたピザを自分で食べることができます。

一方、たとえばエンタープライズ系Webサービスである事務用品購入サイトでは、操作している人(以下、担当者)のお金で事務用品を買うわけではなく、事務用品を担当者本人だけが使うために買うわけでもありません。担当者は、上司の承認・指示に従って操作しています。操作の結果によって得られる価値は、担当者本人ではなく担当者の上司や担当者が属している組織全体が享受します。

つまり、エンタープライズ系Webサービスを利用する人にとって優先度の高い価値とは、「期日までに間違いなく実施できること」です(そのサービスによって、最終的に得られる価値よりも)。

請求書を作成するWebサービスでも、同じことがいえます。紙に印刷した請求書でお腹を満たすことはできませんが、取引先に依頼された期日までに1つも間違いのない請求書を作ることで業務が進み、後日お金を受け取ることができるのです。

2.Webサービスの歴史

かつて、スマートフォンどころかパソコンすら一般家庭に普及していない時代がありました。ソフトウェアといえば、事業会社がシステム開発ベンダーに依頼して作るものでした。操作するソフトウェアをパソコンにインストールする必要があったため、複数の業務担当者が同じソフトウェアを操作する場合は、すべてのパソコンにインストールする作業が必要でした。

やがて、パソコンや携帯端末が一般家庭に普及し、インターネット環境が十分に整備されると、コンシューマ系Webサービスが次々と生まれていきました。

当時システム開発をしていたのは、インストール型のソフトウェアを開発していた人たちですから、コンシューマ向けとしてはそぐわない、一般消費者には使いにくいUIが多かったように記憶しています。

Webデザインの重要性が語られるようになったのは、そのころからです。同時に、インストール型のエンタープライズ向けソフトウェアを開発していた人たちが作ったコンシューマ向けサービスのUIデザインは、「古い」と評されることとなります。

近年、AWS(アマゾンウェブサービス)などの登場によって、Webサービスは資金のないスタートアップ企業でも容易に作れるようになり、コンシューマ向けにとどまらず、エンタープライズ向けのWebサービスも多く提供されるようになりました。

SI業界の特権であったシステム開発は、Webサービスだけ独立してWeb業界となったのです。このとき、エンタープライズ系システムの開発で必要な知識は、Web業界に引き継がれませんでした。

3.「タスクベースUIデザイン」を正しく理解しよう

Web業界に引き継がれなかった知識のひとつに、「タスクベースUIデザイン」があります。

タスクベースUIデザインとは、最近話題になっているデザイン手法「オブジェクトベースUIデザイン(以下、OOUI〈オブジェクト指向ユーザーインターフェース〉)」の対となる概念として生まれました。

まずは、OOUIについて簡単に説明します。

IT業界にいる人であれば、オブジェクト指向プログラミングという言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。処理の順番に着目するのではなく、システムで扱う名詞(オブジェクト)に着目してそれに対する動作を定義し、その動作(動詞の名前がついた関数)を呼びだすかたちで設計します。OOUIは、このようなオブジェクト指向の考え方をデザインに反映したものです。

たとえば、ピザのネット注文サイトを考えてみます。お腹が空いている人は、まずピザを選ぶでしょう。その後は何を操作しますか。トッピングを選ぶでしょうか、サイドメニューを選ぶでしょうか、それとも、もう1つ別のピザを選び始めるでしょうか。ひと通り選んでから、ピザを自宅に届けてもらうために住所を書きたいと思うでしょう。

OOUIでは、操作の順番は利用者に委ねられています。オブジェクト指向などというまでもなく、自然の流れと感じていただけるのではないでしょうか。

それでは、OOUIの対となるタスクベースUIデザインではどのようになるか考えてみます。タスクベースUIデザインでは、オブジェクトではなくタスクの順番に着目してWebページがデザインされます。

たとえば、ピザの注文サイトで表現すると次のようになります。

  1. まずは住所を選んでください
  2. 次にピザのサイズを選んでください
  3. ピザの種類を商品番号で入力してください
  4. 最後にサイドメニューを商品番号で入力してください。

この説明だけでは、タスクベースUIデザインにデメリットしかないように感じるかもしれません。しかし、ここでエンタープライズにおける利用者にとっての価値の違いが効いてきます。

エンタープライズにおいて、多くの場合は利用者に対して操作内容の指示が他者からあるため、何を注文するかはすでに決まっています。加えて、指示に従って操作する人が操作内容の意味を理解しているとは限りません。上記1から4の順番がいつも正しいとは限りませんが、利用者によってはOOUIよりタスクベースUIのほうが迷わずに済むということがあります。

タスクベースUIデザインとは、エンタープライズ向けのシステムしか開発したことのなかった人たちが作ったサービスの「古い」UIではなく、Webサービスの想定利用ユーザーに合わせてOOUIと使い分けるべきものなのです。

4.プロダクトを正しくコントロールするには

プロダクトマネージャー・Webディレクターは、システム開発の要件・設計をコントロールし、プロダクトの方向性を決定します。

エンタープライズ/コンシューマの区別は、Webデザインにおいて重要な意味をもちます。タスクベースUIデザイン/OOUIのどちらを使うべきかについての、わかりやすい基準になります。ただし、ゼロイチで考えるのではなく、想定しているユーザーや操作時のシチュエーションによって、バランスをみた設計が必要です。

経験上、Webデザイナーはコンシューマ向けのデザインに偏っていることがほとんどです。OOUIはWebデザイナーにとって「銀の弾丸」といわれたりしますが、過度な期待は禁物です。

Webサービスのデザインは、Webデザイナーに任せきりにするだけでは不十分であり、プロダクトマネージャー・Webディレクター自身が積極的に旗振りをして、WebサービスのUXを高めていくことが大切です。

正しく旗を振るために、ペルソナやユーザーストーリーなどのテクニックを使うと効果的です。Webデザイナーは作成の手助けをすることができますが、意思決定するのはほかならぬプロダクトマネージャー・Webディレクター自身です。

5.まとめ

エンタープライズ系システムのWebデザインでは、Webサービスの利用者の価値がどこにあるのか、コンシューマ系以上に気を配るべきです。

Webデザイナーは、基本的なデザインスキルやトレンドの理解、デザインツール(Figmaなど)を使うスキルを身につけています。Webサイトの開発に欠かせない存在ですが、Webデザイナーだけの力でWebサービスのUX(ユーザーエクスペリエンス)が良くなるわけではありません。

タスクベースUIデザイン/OOUIの使い分けには、プロダクトマネージャー・Webディレクターの主導が欠かせません。利用者にとって使いやすいWebデザインを作るために、多角的な視点を取り入れつつ、勇気をもってプロダクトの方向性を決定していきましょう。

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