事例紹介
2019.04.24

長谷工コーポレーションに見る、本業からの事業拡大の仕方

「マンションと言えば長谷工」。もはやスーパーゼネコンすら凌ぎ、マンション建設におけるありとあらゆるビジネスを手がけるゼネコンとしての地位を確立する長谷工コーポレーション。現在でこそ業界のトップランナーである同社が、バブル処理からどのように復活し、どんな戦略を用いて確たる地位を築いたか。その裏側をレポートします。

長谷工コーポレーションとは

長谷工コーポレーション(以下、長谷工)をご存知でしょうか。最近であれば「マンションのことなら長谷工」とキャッチーなフレーズとともにマンションの映像を流すテレビCMを見たことがある人も多いでしょう。

長谷工は、基本的にはゼネコンです。何も知らずテレビCMを見た人はマンションについて何らかの仕事を行なう企業という理解をするかもしれません。

しかし、本業を見れば例えば鹿島や大成、竹中工務店といったスーパーゼネコンと同じようなジャンルの仕事をしています。クライアントからの依頼に基づき、建築物を建設し、それによって利益を得ています。直近の決算でみれば連結ベースの売上高規模で約8000億円。経常利益は連結ベースで約840億円。売上高経常利益率は10%を超えています(連結ベース)。売上高が1兆円を超えると、スーパーゼネコンに区分されることを考えれば、もはや準大手ゼネコン(売上高3000億円規模)ではなく、準スーパーゼネコンと言ってよい優良企業となります。

かつて長谷工は瀕死の状態に陥った。そこからの復活を果たしている

もっとも長谷工は順風満帆で業績を伸ばしてきたわけではありません。1996年の決算期においては、連結ベースの売上高で5000億円であったものの、約1100億円にもおよぶ連結経常赤字を出していました。瀕死の状態だったのです。そうなった理由はひとえにバブルに踊らされたことが挙げられます。

不動産会社のように用地や保留床を買い込み、値下がりで含み損を抱えていました。また、これらの取得には金融機関からの借り入れが行なわれていたので、金利支払いが決算を圧迫。結果として大赤字を計上していたのです。

金融機関による債務の株式化(デッド・エクイティ・スワップ)という荒技でなんとか債務負担を減らし、身軽になってようやく再起を図れたという経緯があります。
(債務の株式化:有利子負債を優先配当株に転換し貸借対照表における有利子負債比率を圧縮。同時に自己資本比率を向上させる手法。応じた金融機関は企業が復活した際は、株式配当として利益を得ることができるうえ、株価上昇に伴う利益も得られるというもの。バブル処理の金融支援策として積極的に活用された)

事業再生と戦略にふれる前に、ゼネコンの事業・利益構造を把握する

長谷工の事業再生を追い、戦略選択の正しさについて触れる前に、ゼネコンの利益構造について説明しておきましょう。

簡単に言えば、クライアントから建築物の建設について受注をし、完成させて利益を得ます。しかし、これはもっとも簡略化した場合の図式と言えます。

ゼネコンはあくまで建設ではオーケストラの指揮者なのです。例えば基礎工事は基礎工事を専門に行なう事業者がいます。内装についても内装の専門事業者がいます。建築物のさまざまな部分について専門工事業者が存在するわけです。ゼネコンは全体としての建設を請け負った上で、下請け業者たるそれぞれの専門工事会社に工事を発注します。大きな建築物になればなるほど、これらの専門工事会社を監理し、期日に合わせて工事を完了させるのは難しくなります。

また、建物の種類によって専門工事会社も様変わりします。それゆえ、全体のマネジメント方法も変わってきます。高層オフィスビル、ダム、道路、マンション。建物の種類ごとにノウハウがあるわけです。したがって、ゼネコンでも得意・不得意が出てきます。

長谷工の得意分野はマンションです。マンション工事では、完成スケジュールにあわせて不動産会社が販売計画を立てるため、工期を守るのは絶対条件。加えて、建築途中にエンドユーザーである購入者からマンション室内についての仕様変更などが頻繁に入ってきます。したがって設計変更などへの対応力がもとめられます。このように、マンション建設は他の建物と違って、タイミングに応じた柔軟な対応力が求められるジャンルと言えるのです。

大型のマンションでは表向きにはスーパーゼネコンが建設しているということになっている案件でも主要部分は長谷工が請け負っているというケースもあると言われるほどです。それだけ長谷工のマンション建設におけるノウハウは確立していて、61万戸の建設実績があるのは伊達ではありません。

復活のために行なったこと(1) 本体機能の強化

さて、そんな長谷工がバブル処理から復活を遂げた過程において行なったことについて触れていきましょう。

まず行なったこと。それは本体機能の強化です。より具体的には、強みであるマンション建設における必要な能力に磨きをかけたのです。

なかでもマンション建設での受注を増やすために「用地情報の収集力」を鍛えたことが大きかったと言えます。マンションは戸建住宅に比べればはるかに大きな土地が必要になります。そして、土地がなければ不動産会社はマンション開発を行なうことができません。マンション開発ができなければ、長谷工がマンション建設を受注することができません。長谷工は用地情報を集め、それを不動産会社に共有することで「マンション開発が決定した際は、建設は我々に」と言う仕組みを作り上げたのです。

用地情報は、街の地主さんだけからの情報だけではなく、企業所有の用地(例えば工場や社宅売却などによる用地)など幅広く取得。しかも単に用地情報を取得するだけではなく、その用地であればどのような規模のマンションがどんな形で建設可能化かまでをシュミレーションして共有します。不動産会社は、情報をもとに採算が取れるかを判断すればよいだけですから事業化におけるコストダウン効果は大きくなります。この点は非常に大きなメリットです。

さらに長谷工はマンション開発において、不動産会社が頭を悩ませる部分への対応力があることでも知られています。それは建設途中における周辺住民対応です。

想像してみてください。あなたの住んでいる家やマンションのすぐ近くで大型のマンションが建設されることになった場合を。日照が制限されるのではないだろうか。緑が少なくなってしまうのではないだろうか。街並みが変わってしまうのではないだろうか。騒音がするのではないか。心配事は尽きないはずです。一歩間違えばこうした周辺住民の心配事はクレームになり、場合によっては訴訟問題に発展します。こういったクレームを未然に防ぐために、丁寧に説明してまわり、建設に対する理解を得る作業が必要不可欠なのです。長谷工はこういった近隣対応についてしっかりと対応を行なうことで知られています。

こうした安心感が不動産会社にとっては工事発注におけるメリットになります。

このようにマンション建設のクオリティだけではなく、工事に入る前の段階、工事の途中における心配事の軽減など、マンション建設にまつわるすべてのことでレベルアップを図っているのです。

復活のために行なったこと(2) 周辺機能の強化

次に復活のために行なったことは周辺機能の強化です。より具体的にはマンションの「建設関連以外でマンションに関わる機能の強化」を行なうことに注力しました。

といっても、さきに触れたように不動産の直接取得には進出していません。さすがにバブル処理でこりたという側面があるようです。

(注:グループ会社に総合地所、ジョイントプロパティなどいわゆる不動産会社があるものの、資産を自社保有するという意味合いでの不動産会社は実質的にない状態。むしろ、長谷工が手がけた物件が賃貸市場に出る場合に、当該賃貸物件を仲介するなど不動産流通の側面が強い形態になっています)

長谷工が着目したのは、これまで同社が建設してきたマンションです。いわゆるストックの活用。マンションは建設後、大規模修繕と言って定期的に改修を行ないます。例えば外壁のやりかえ、あるいは防水層の改修。場合によっては機械式駐車場の更新など設備関連にも着手します。これまで60万戸を超すストックを有する長谷工にとって、こうした物件から生じる改修ニーズは宝の山です。しかも、自社で施工した案件ですから建設当時の設計図面や注意点などを把握しています。改修についてもやりやすい環境があるわけです。こうしたニーズに応えるためにグループ会社を整備し、他社に改修ニーズが流出しないように囲い込みの実施を手がけていきました。

また、既存の物件活用だけではなく、新築物件についての周辺機能も強化しています。マンションは入居者に対してさまざまなサービスを提供する場合があります。例を挙げれば、ブロードバンドの環境を提供したり、マンション住民が利用できる商店を併設させたりといったように。こうしたニーズに応えるべく、さまざまなサービス提供の企画化がすすんでいます。電力の提供などもその一例といえるジャンルでしょう。

もっとも、こうした分野は利益確保ということにおいては道半ばの状態です。それは決算でもあらわれています。長谷工単体で稼ぐ経常利益が、直近の決算期では720億円であるのに対して、本体以外のグループ企業で稼ぐ金額が120億円。やはり主たる事業はマンション建設という状況は変わりません。

もっとも、この比率は悲観すべき内容ではありません。というのも、他のゼネコンでみればこうしたストック活用や周辺機能の強化は苦手ジャンルになります。ゼネコン業界において、長谷工だけに許された成長分野と言っても過言ではありません。

このように、マンション建設を主にしつつ、合理的な範囲での周辺事業へ進出をしているのです。あくまで自社の強みが発揮できる範囲において。

まとめ

ゼネコンといえば不況下においては銀行から厳しい目を向けられる「不良債権」という印象がありました。
それは、自社の強みからは外れた無理スジの事業拡大を行ってきたがゆえの結果です。そういった業界にあって、自社の強みを発揮できるジャンルを再認識し、合理的な範囲で周辺事業を強化する。そのバランス感覚は他業界においても参考になる要素があるのではないでしょうか。

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